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第2章 勇者活動という名の雑用
第24話 勇者の告白
しおりを挟む「……興が冷めた、戻るぞ」
お嬢様の作り出した氷から救出された国王は、それはもう大層不機嫌な様子で城内へと戻っていった。
それを見てからというものの、お嬢様は気まずそうな顔をしながらも、俺の背中を掴んで離れない。可愛すぎだろ!
「お嬢様、そんなに気を落とさないでください。あれは国王様の酒の勢いで起こったもので、それを止められたお嬢様は大変素晴らしい事をしたかと」
「…そんな事を言ってくれるのは陸人だけだよ。……周りの人は違う」
お嬢様の言う通り、周りの騎士の人たちは国王を凍らせた魔法使いとして少し恨みのこもった目で見ているか、まるで化け物でも見たように警戒、もしくは怯えているか、……自分より優れているのを見て嫉妬の目で見ているかのどちらかで、お嬢様を褒めようともしない。
……お前ら、そんな目でお嬢様を見るんじゃねぇ。
スキル
・威圧視 (執事たる者、視線で威圧させて場を制すべき)
を獲得しました。
俺が怒りのこもった目で騎士たちを見ると、新しいスキルを獲得し、それが早速発動したのか、騎士たちは俺を見つめたまま動かなくなった。まるで、俺に心底恐怖して動けなくなったように。
「陸人さん、そこまでにしていただけますか?」
視界に銀色に輝く髪が割り込んできた。視野が狭くなっていたらしく、まばたきをするとカレナさんが俺に背を向けて立っていた。
ここはカレナさんに免じてここまでにしておこう。
「…お嬢様、戻りましょう。まだパーティは始まったばかりなのですから」
「……うん」
お嬢様がまだ背中から離れないので、お嬢様の歩調に合わせて歩く。背中越しにカレナさんが少し声を荒げながら指示をする声が聞こえた………。
部屋に帰って来ると、メイドたちが空いた食器類を片したのか机がある程度綺麗になって、余裕が出来ていた。
国王とお姫様、そしていつの間にか巧と梶木も戻ってきていた。国王は浴びるように酒を飲み、その横で俺たちに申し訳なさそうに頭を下げるお姫様。無言で酒を飲む巧と梶木、そしてそれらを訳も分からず見て首を傾げている間宮とくるみ。こんな中にお嬢様を残すのは気が引けるが……
「お嬢様、自分はこれから追加の料理を作ってきます。仕込みは軽くですがやっておいたので、そこまで時間はかからないと思いますが、少々席を外させてもらいます」
「…あ、うん。よろしくね」
お嬢様は悲しげに、でも笑った。俺に迷惑をかけないように、俺に心配をかけないように、笑った。
俺はお嬢様の耳元に顔を寄せた。照れたように顔を赤くするお嬢様にスキル、意思疎通を使っても良いとだけ伝えて、顔を離した。
お嬢様は顔を少し下げて、顔を赤くしたまま「ありがと」と言ったのが聞こえたので、腰を折って頭を下げた後、調理室へと向かうために扉へと向かった………。
「それは高温で短い時間で熱して!」
「そこ!煮込みすぎ!形が崩れる!」
「おい!下味をしっかり付けたのか?付けてから焼けっ!!」
調理室に俺の声が通り、その度にコックの一人が返事をする。そんな事を何回も続き、少し喉が痛くなる。だが、お嬢様に最高の料理を提供するためなら、安い代償だ。
『……今の聞こえたよ?』
え……、どれですか?
『安い代償がどうのこうのって』
……忘れてください。執事たる者、影での務めをあまり口外しないようにしているので。
『…善処するっ』
お出しするコンソメスープの味見をする。うん、お嬢様と会話しながら作る料理は普段より格段に良い出来だ。これからも会話しながらやろうかと思ったが、それはお嬢様に負担がかかる。却下だな。
「よし、これを運んでくれ!」
「了解です!」
メイドの人に鍋を預け、次の料理へと取り掛かる。次は天ぷらだったな。衣と油の準備をしないと。
『…あ、高野くんが起きた』
あ、悠が起きたんですね。
『うん、ワインを下げてもらうように言ってる』
悠がまさかお酒で寝るとは思いませんでしたからね。
『速攻で寝たもんねー。あ、高野くんが話しかけて来たから切るね』
……分かりました。
ピコンという電子音が鳴り、お嬢様の声が聞こえなくなった。…まあ、仕方ないよな。さっさと全部作って戻らないと。
「おい!そこは弱火だろ!!」
コックに声を荒げながら思ったのは、早く戻るのは無理っぽい。
明日からこの城を離れる。カレナさんという存在を失い、たった4人で見知らぬ土地で、何をするかは分からないがそれなりに危険を伴うであろう任務をこなさないといけない。
そんな不安は確かにある。だが、それよりも陸人と朱音さんから離れるという事が少し、嬉しいというか、ホッとした。
もし、陸人たちが一緒に来ていたら、きっと僕がやるより先にこなしてしまい、僕が成長出来なくなる。それは駄目だ、僕はもっと強くならないといけない、誰よりも強く……
「それにしても、いきなりだよねー。任務なんてものをやらせるなんて」
朱音さんが僕にボヤく。今は食事室から出て、玄関からテラスに来た。一応食事室の隣まで続いているけど、食事室からは行けないという事で、わざわざ玄関を経由して来た。
その手間に見合う、風でなびく髪を押さえる可憐な朱音さんを見れて良かったと思う。
「そうだね。でも、国王様も僕たちがここでいつまでも足踏みしているのが良くないと思ったからじゃないかな」
「そうかな~」と朱音さんは苦笑いを浮かべながら、手にしたワインを軽く口に含む。朱音さんはさっきから何度も飲んでいるのに、酔わない。僕もそれくらいお酒に強かったら良かったのに、と思ってしまう。
「朱音さんたちは2人なんだよね?2人だけなんて、不安に感じたりしない?」
「全然平気だよ」
僕の問いに、朱音さんは即答だった。その顔は不安なんて微塵も感じていないと物語っているように、晴れやかだ。
それほどまでに陸人を信頼しているのか。一体何がここまで信じさせる事が出来るのだろう。家族だからか?執事だからか?彼が強いからか?自分が強いからか?
「……僕には分からないな」
「え?」
僕の呟きが聞こえてなかったようで、僕の顔を見つめる朱音さん。その整った顔、つぶらな瞳、プルっと潤っている唇、全てが僕の理想だ。
「ねぇ、朱音さん」
僕は朱音さんを正面から見つめ返す。朱音さんは何を言われるのか分からないような、普段と変わらない顔で僕を見つめ返す。
……ここで廃れば男じゃない、ここではっきりしよう。
「僕と一緒に行かないか?」
「え?何で?」
僕の提案を素で返す朱音さん。今の言葉がどういった意味を持つのかも分かっていないような顔で、僕の返答を待っている。
なら、分かりやすく伝えないと。
「僕はあなたが好きです。僕の傍から離れないでください」
「……へ?」
朱音さんは一瞬固まった後、急激に顔を赤くして僕から距離を取った。手に持ったワインが激しく揺れて、テラスに何度も溢れたのも気づかずに。
僕はそんな朱音さんにゆっくりと近づき、未だ僕から離れようとする朱音さんの腕を取って、言った。
「返答を聞かせてください、今すぐに」
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