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第2章 勇者活動という名の雑用
第23話 余興
しおりを挟む「ちょっとお手洗いに行ってきます」
「ん、早く帰ってきてね」
口にサラダを詰めたお嬢様に一言残して、音が鳴った方へ行く。どうやらこの城内では鳴ってなかったらしく、玄関から出て少し城の周りを歩こうとしたが、案外早く見つかった。
「……そいつは誰ですか?」
「…どうやら昨日の襲撃の為に情報を奴らにリークしていたらしい」
剣を払って血を振り払い、血まみれの人だったものに冷たい目を向けながら言うカレナさん。どんなに酒を飲んでもこういう時は一気に抜けるタイプらしいな。
それにしても、こいつはメイドだったのか。最も、血がギリギリ付いてないところにメイド服が見えただけで本当はたまたま今日来てただけかもしれないが、今はメイドだったという事が分かっただけで良い方だろう。
何せ、他の全身はかなり斬り刻まれて男か女かも分からなかったのだから、メイドだと分かっただけで女という事が分かって良かっただろう。
「…どうして分かったんですか?この方が裏切り者だと」
「……彼女は左利きだったんだ。なのに、今日料理を配っていた時は右手だった」
カレナさんは悔しそうに歯を食いしばり、血まみれの裏切り者を見る。恐らく、俺があいつらを指導し始めてからこいつが本物と入れ替わったんだろう。全ては昨日の日のために。
そして、本物の方はもう死んでいると見て間違いない。こういう誰かに成り代わって潜入というパターンは、成りかわる人の皮を剥いで完璧な変装をするか、あらかたの口調や性格を知り尽くしてから逃げられたり、また失敗した時に自分の事を言われる事を避ける為に口封じするのが一番確実だ。
残念だが、知らず知らずのうちに俺の同業者が殺されていたみたいだ。こればっかりは他人事とは思えない。だけど、俺には何も出来ない。例え、多くのスキルを持っていたとしても………。
「あ、おかえり。少し長かったね……あれ?カレナさんと途中で会ったの?」
「軽く手合わせをしてもらってましたので」
あの遺体を門番をしていた騎士の人に押し付けた後、カレナさんと部屋に戻るとお嬢様が口の端にケチャップを付けながら、パンプキンスープを飲んでいたので、ハンカチを素早く作り出し、ケッチャプを拭ってから席に着く。
カレナさんは国王に何やら耳打ちしている。十中八九あの裏切り者の事だろう。いや、潜入者だな。裏切り者は成り済まされた彼女に失礼だ。
「…ふーん。ま、いいけど」
お嬢様は少し拗ねたような感じで食事を再開した。少し不思議に思いつつも、視線を目の前の料理に戻す。あと少しで昼頃だが、こんなに飲んだり食べたりして良いのだろうか?
そんな事を思っていると、急に国王が立ち上がった。その顔は完全に出来上がっていて、酔う前の威厳ある顔つきとは程遠いとまでは言わないが、そこそこ離れてしまっている。
「よーし!これより別れの腕試しをしてやろう!皆の者、付いて来い!!」
国王が勝手に部屋を出ていき、一瞬戸惑ったが、諦めたような顔をしたカレナさんを見て、渋々お嬢様と俺、巧と梶木は部屋を出た。
寝ている悠や戦う気の無いくるみと間宮は残ったのだが、正直言って俺も残りたかった。けど、行かなかったらそれはそれでなんか言われそうだったからな。
そんな事を考えている間に城を出て、カレナさんと訓練していた場所に着くと、ノリノリでストレッチをしている国王がいた。その隣には鞘が付いた剣を両手の上に乗せて待機しているお姫様がいて、その近くには騎士の人たちが待機している。
「よーし、誰からでもかかってこんかい!」
お姫様から剣を取り、鞘を投げ捨てて構える国王。それを見た巧と梶木が前に出る。巧は騎士の人から受け取った剣を構え、梶木は手に火花を散らせながら、国王を見る。
「国王様!あんたはいつも上から目線で気にくわないんだよ!」
もろ本音が出ている巧の上段からの斬り込みを正面から受けた国王。剣がぶつかり合う音が辺りに響く。
力が拮抗しているのに横槍を入れたのは梶木で、右手から6発の小さめの火球を連続で国王めがけて撃った。
「この俺を舐めるなよ!!」
国王は火球に左手をかざすと、火球がみるみる小さくなっていき、終いには消えてしまった。それを連続で来た火球一つ一つにやっている。あれは一体……
「あれはディラス様が持つスキル、魔法衰弱です」
俺とお嬢様の隣に来たカレナさんが国王から目を離さず言う。
「自身が障害となる魔法と認識した魔法を徐々に衰弱させていくスキルで、魔法が弱かったりしたら消す事も出来ます」
「私や梶木くんには厄介なスキルですね」とお嬢様は少し嫌そうに国王を見る。確かに、厄介なスキルではある。けど、国王が障害と認識する前に素早く魔法を撃ち込んだらいけそうだけどな。
「おらっ、おらっ、おらっ!勇者だというのにこの程度かよ!」
いつの間にか国王が巧に何度も剣を振るっている。しかも、乱雑で力任せな振るい方だ。あの程度なら対処出来るだろうが、それは巧には厳しいだろう。
あの振るい方はスタミナ消費や疲れが出やすいが、その分、相手にプレッシャーをかけたり、一度受け損ねたら、一気に重い一撃を何度も振るう事が出来る。ハイリスクハイリターンというところか。
「くっ!しゃらくせぇ!!」
巧が半ば強引に剣を押し退け、バックステップをして距離を取った。息は上がっているし、あの冷や汗をかいている様子からしてあまり良い状態じゃないんだろう。
「俺を無視すんじゃねぇ!!」
さっきから様々な魔法を国王に撃ち込んでいる梶木だが、ことごとく無力化されている。あの調子だと魔力が尽きるのは時間の問題だな。
「梶木…さんでしたっけ?あの人は朱音さんとは違った方面の魔法使いで、朱音さんより魔力が多いんですが、朱音さんのように高度な魔法には適していないんですよ。どちらも必要で、どちらも並外れた魔法使いではあるのですが、あの人はどっちかと言うと、掃討戦に向いているものですので……」
カレナさんが言いにくそうに言った。確かにあいつが魔力切れになっているところは見ていないし、お嬢様みたいな大規模な魔法を使っているところも見た事がない。つまり、お嬢様は強い敵、あいつは弱い敵に強いってことだろ。
「……どうします?参加しますか?」
「…うーん、一回私だけでやってみてもいい?」
お嬢様に聞いてみると、まさかの乗り気だった。お嬢様がやる気を出しているのに俺が何か言うのは筋違いだよな?
「分かりました。いざという時は割り込みますので、思う存分やってください」
お嬢様は「ありがと」と笑って言った後、国王のところへ走っていった。俺はスキルの特定転移をいつでも使えるように、お嬢様を凝視する。……どうかお気をつけて。
「国王様!次は私が相手です!!」
私が巧くんのところへ追い討ちしようとしていた国王様に声をかけると、国王様は嬉しそうに私を見た後、私に剣を構えた。
「カレナに俺のスキルの事を聞いたんだろう!?その上で来るとは、どんな策があるんだぁ!?」
国王様は中々の速度で私に駆け込んで来ている。その顔は国王のものとは思えず、ただの戦闘狂に見える。そんな国王様の目を覚まさせないと。
「凍って、"フリーズロック"」
私が創作した魔法は、国王様が気がつく事も無く、国王様を巨大な氷の中に閉じ込めた………。
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