27 / 104
第2章 勇者活動という名の雑用
第26話 執事の憤り
しおりを挟む特定転移を使い、視界が一転した先に映ったのは、お嬢様に詰め寄っている悠だった。
「……っ!悠!何やってんだ!!」
俺は転移の影響で少し浮いていたので、着地するまで待ち、地面に足が付いた瞬間、手前側にお嬢様が居るので、勢い良く飛び上がって悠の背後に着地する。
「……まさか本当に来るなんて…」
悠は俺を見て諦めたように両手を上げた。一体どういうつもりだ?
「取り敢えず、悠がお嬢様に手を出しかけたのは間違いないみたいだな」
「……まあ、そうだね」
「よし、殺す」と言うのと同時に右手には刀、左手には岩を砕く時に使われるドリルを作り出す。
スキル
・魔道具作成 (執事たる者、魔道具くらい用意すべき)
・魔道具適正 (執事たる者、魔道具の扱いくらいこなせるべき)
を獲得しました。
どうやら、作り出したドリルが魔力で回転するので、魔道具の分類に入るらしく、魔道具関係のスキルが2つ手に入った。
ちょうど良い、スキルを悠で試させてもらおうか。
「あ、僕降参してるんだけど」
「知るか、取り敢えず死ね」
「取り敢えずで殺されたくないな…」
何故か冷静で、客観視している悠。それになんか清々しい感じがする。そもそも、お嬢様が少し顔を赤らめて座り込んでしまっている。どういうことだ?
もう一度特定転移を使い、今度はお嬢様のすぐそばに転移する。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「え……あ、うん。大丈夫…です……」
お嬢様の顔をしっかり見るために屈んで覗き込むようにお嬢様を見ながら聞くと、お嬢様はなお一層顔を赤くして、何故か執事の俺に対して敬語。普通じゃない。
「悠、お前は一体何をやったんだ?」
「…別に、僕は撃沈して、朱音さんは自覚しちゃっただけだよ」
悠はそれだけ言って、俺の隣を通ってテラスと城が繋がっている扉を開けて行ってしまった。何故か俺は悠に対して怒りがあったのに、よく分からない事を言われてその怒りが鎮火してしまった。
「お嬢様、悠に一体何を言われたのですか?」
「え……あの、その……告白されました…」
「はい?」
今、お嬢様の口からは告白という言葉が出たように聞こえた。嘘だと信じたいが、この恥ずかしがっている様子からして本当らしい。
「……お嬢様はなんて答えたのですか?」
「…普通に断ったよ」
お嬢様は至って普通のように言ったが、少し眉をひくつかせていた。お嬢様が何か隠し事をする時に出る癖だ。
お嬢様が俺に隠し事をするのは悲しいが、お嬢様だってもう大人の階段を登っているんだ。隠し事の一つや二つ、有って当然だ。
「…そうですか、なら良いんです。悠は確かに良い奴ですが、お嬢様とは釣り合いませんので」
俺は取り敢えず納得したように装い、お嬢様に手を差し出す。お嬢様は俺の手を取り、俺が引っ張って立たせる。
そしてお嬢様に怪我が無いか全身をくまなく見ていく。お嬢様は毎回こうやって全身を見られるのを恥ずかしがる。そんなに恥ずかしがらなくても、お嬢様は綺麗なんだけどな。
「………怪我は無いようですね、では戻りましょう。既に次の料理を運び終えてますので」
「あ、いきなり呼んだのに間に合ったの?」
「ええ、運び終えてーー」
俺は口が止まってしまう。お嬢様と会う前にあったお姫様とかレナさんに言われた事や言った事を思い出したからだ。これはお嬢様に言う訳にはいかない。
こんな不甲斐ない事を言ったら、お嬢様に落胆されてしまう。それは仕方ない事なのかもしれない、向こうなら言っていたかもしれない。けど、ここでは俺以外にお嬢様を護れる執事が居るとは思えない。せめて向こうに戻ってから言おう。
「……?どうしたの陸人?」
「いえ、1つ作り忘れていたものがありました」
俺が急に黙り込んだのを不審がったお嬢様に、適当な言い訳をすると、お嬢様は「陸人が忘れるなんて珍しい~」と楽しそうに笑った。
「自分でも忘れる事はあるので……、では少し失礼します」
「うん、先に戻ってるね~」
俺とお嬢様は玄関の広場で別れた。早足で調理室へと向かっている中、頭に浮かぶのはお嬢様の事とお姫様によって暴かれた俺の闇。
「執事が嫉妬なんて……な」
俺は胸に込み上げてきていた1人の男への嫉妬を押し殺し、駆け足で調理室へと向かった。
「……はぁ、変じゃなかったかな~」
私は足を過剰気味に上げて、ゆっくりとみんなが居る部屋へと歩く。未だ火照る頬がまだ私が落ち着いていない事を示しているようで、余計に思い出してしまう。
「返答を聞かせてください、今すぐに」
そう言って徐々に詰め寄ってくる高野くんの前では、私は後退りをする事しか出来なかった。そして、遂に高野くんが私へと手を伸ばした時、私は自然に声を出していた。
「私は高野くんの事はそこまで好きじゃないです!」
「………それは僕に何か落ち度があったという事かな?」
「それとも好きな人でも居るのかい?」と聞かれて、私は思わず顔を伏せてしまった。きっと、その時の私の顔や耳は赤くなっていたと思う。だって、凄く顔が熱かったし。
「…陸人」
陸人という名前を聞いた途端、私はついつい反応して肩をビクつかせてしまった。それを見た高野くんは伸ばしたまま、私の前で止まっていた手を下ろして、少し声を低くした。
「そんなにもみんな陸人が好きなのか?陸人は確かに強いし、料理も出来るけど、執事だ。僕や朱音さんと違う。それに顔だって僕の方がーー」
「そんな事で陸人と比較しないで」
私は思わず顔を上げて高野くんに強気の声で言った。どうしても耐えきれなかったから。あんなにも努力をしているところを簡単に済ませて、持って生まれたものと比較するなんて、まるでクズの奴らみたいだったから。
『私の資産はこんなにもあるんだよ?』
『僕の息子は僕に似てイケメンでね…』
『俺の力を持ってすれば何不自由しないぞ』
『ここだけの話、有名な政治家とパイプがあってね…』
努力して地位を上げた人たちはみんな私には優しく、まるで親戚の子と接するように話しかけてくれるのに、野心がある人や親から引き継いだだけの人たちはみんな、私の事なんて見ずに私の後ろにあるお父さんとお母さんの資産や地位、権力を狙っていた。
今の高野くんの目は、彼らほどじゃなくてもそれになりえるかもしれない目をしている。そんなの、悲しい。だから……
「私と陸人は繋がっているの、私が呼べば陸人はいつでも駆けつけてくれるんだから」
「…朱音さんは陸人にぞっこんなのか…。なら、既成事実をーー」
高野くんが最低な事を言ったので、私はすぐさま意思疎通を使った。
ーピコン
陸人!お願い助けてぇ!!
『すぐさま駆けつけます』
怒りのこもったような頼りになる声が聞こえ、次の瞬間、背後に風が吹き荒れた。
振り返ると、そこには高野くんを見て怒っている陸人が居た。何をしたのかは分からないけど、陸人が駆けつけてくれた。あんなにも必死な様子で。
「……あ~あ、陸人も朱音さんにぞっこんとはね」
「…え?」
小さな声で言われた事に気付いた瞬間、私の戸惑う声を簡単にかき消すほどの陸人の怒声が辺りに響いた………。
============================================
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる
初
ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。
レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。
これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる