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第2章 勇者活動という名の雑用
第32話 テンプレほどめんどくさい
しおりを挟む多分、これはテンプレで異世界ならではの事だろう。だが、今はただただ邪魔にしか感じない。さっさと退かして…いや、馬車を置けるところだけ聞くか。
「お嬢様、少しお待ちを」
「うん、手加減してあげてね?」
俺は頷いて、操縦席から飛び降りる。この騒ぎを聞きつけて人もぞろぞろと集まってきた。さっさと終わらせないとな。
「あんたらに聞きたいのは馬車を停める場所だ。さっさと答えて失せろ」
「あぁ!?テメェ舐めてんのか!?」
男の1人である、茶色の髪に白髪が少し混じっているおっさんのような男が腰に2本の湾曲した剣、曲刀という類いの剣を引き抜いて俺に近づいてくる。それを見て、他の男は俺が斬られる未来でも想像して笑っている。周りの人たちは怖がったり、楽しんでいるのか止めようとしない。
「テメェは地べたにでも寝転んでいろ!!」
ーガギィン!
男が剣を振り下ろしたのと同時に無限収納から刀を取り出し、剣先を斬り飛ばす。吹き飛んだ剣先をただ見ている男の腹に1発パンチを入れる。あっさりと倒れこむ男と飛んだ剣先が地面に落ちるのはほぼ同時だった。
「なっ!?こんなあっさりとBランク冒険者であるガマトが…」
「おい」
後ずさっている男を睨みつける。それだけで足をガクガクと震わせている男にもう一度同じ質問をした?
「馬車を停められる場所はどこだ?」
「まさかこっち側の門にあったなんてね…」
お嬢様が驚くのも無理は無い。何せ、一つ隣の門側から入ったらすぐに馬車も停められる馬小屋があったなんて。凄い数の住宅で全く見えなかったから余計に灯台下暗しという感じがする。
「いらっしゃい、何泊だい?」
「一泊二日です」
「なら、金貨2枚だな」
店のスキンヘッドのおっちゃんに金貨2枚を渡して馬を預けた。金貨2枚がどれくらいの相場か分からないが、まだまだ袋には金貨があるから大丈夫だろ。
「お嬢様、今日はどうされますか?買い出しは最悪明日でも行えますが」
「……うーん、なら観光していい?」
「もちろんです」と返して、取り敢えず冒険者ギルドのある方へと歩き出す。あの冒険者ギルドに入るつもりは無いが、この街はあそこを中心として放射線状に店とかがあるみたいだしな。
「どういった所に行きたいですか?」
「うーん、この街にしか無いものとか街の人がオススメする所に行きたいなー」
お嬢様の行きたい所を聞くなら、街の人の方が良さそうだな。…あの人にでも聞いてみるか。
「少しあの方に話を聞いてきます」
「うん、よろしくね~」
お嬢様から離れて、馬小屋と同じ道沿いにあったカフェらしき所でランチをしているご婦人に話しかける。
「お食事中申し訳ございません、街の事を何も知らない自分にこの街の良い場所を教えてもらいたいのですが」
「あら~、中々良い頃合いの男じゃない~。いいわよ、手取り足取り何でも、教えてあげる♪」
化粧が濃くて、手には様々な宝石、赤紫色のドレスを着たご婦人は完全に俺を性的な対象として見ているが、こんなのを気にしていたら、とっくに屋敷でのパーティで貞操をクソみたいなババアどもに奪われていただろう。こんなご婦人以上の奴なんて山ほど見た俺からすれば、まだ可愛いものだ。
「では、この街の名物と観光名所、評判の良くて宿代が安い宿屋を教えてもらえますか?」
「まず~、名物は日持ちのする煎餅ね。栄養が取れて冒険者たちが愛用しているわ。そして~、名所は何と言っても中央のあの冒険者ギルドね。あの中には魔物の剥製やらがある博物館があるから見ていて損は無いわ。宿屋は……北東側の道にある《グットネス》ね、安くて料理が美味しいて評判よ」
意外と真面目に答えてくれて驚いた。大概自分の事を言いやがる奴がいるからな。このご婦人は婦人らしい良識はあるのだろうが、節度があればな……。
「ありがとうございました。では、これで」
「え~?ここで一緒にーー」
ここからがこっちのターンとでも言いたげに俺の手を掴もうとしたご婦人の手を躱し、証明書を見せる。
ご婦人は何かで成功したタイプだと予想した通り、書類を読むのは速く、顔を青ざめてきたので、俺は素早く証明書を畳んでその場から逃げ出した。武力で解決しても良かったが、お嬢様から何か言われそうだったからな。こっちの方がまだ騒ぎが起こらないだろう。
そんな事を思っていた時期も俺にはあった。
「ねぇねぇ!あなた達が勇者様って本当!?」
「騎士団長様にはあったのか!?ティアラ王女には!?」
「勇者様って、こことは違う世界から来たんだろ!?教えてくれよ!違う世界の事!!」
「勇者様って、歴代の人たちも黒髪と黒目だったんだが、そっちの世界では髪色はみんな統一されているのか?」
「勇者様可愛い……」
「おいっ!可愛いって言った奴出て来い!どうせいかがわしい目でお嬢様を見てるんだろ!!出て来い!その目ぶち抜いてやるっ!!」
「陸人!急にキレすぎ!!」
俺たちを囲んで付いてくる人たちの中にお嬢様の事を可愛いって言った奴がいたから右手に無限収納から取り出した銃を持って周りの奴に照準を向けていたら、お嬢様に足を踏まれた。横を見ると、お嬢様がソッポを向いている。
「お嬢様!男というものは何をするか分からないんですよ!ちょっと目が合っただけで勘違いする奴も居るんです!もし、そいつがお嬢様を手に入れようと襲ってきたら!?俺が居ない時に襲われたら体格差で………いえ、何でもありません」
体格差で思わず口が止まってしまった俺を目線だけで殺せるんじゃないかというくらいお嬢様が睨んでいる。しかも、口は笑っているのがまた怖い。
「おい!何だこの連中は!?さっさと散れ!!」
進行方面で聞いたことのある声が聞こえた。確か、ギルドに見惚れていた時に絡んできた冒険者の……
「お嬢様、少し失礼します」
「え!?ちょっ!!」
戸惑うお嬢様をお姫様抱っこの形で抱き上げ、足に身体強化魔法をかけて、体勢を低くして跳び上がる為の力を溜める。
「意外と人が多いな!?そんなにもあんな奴に興味があんのかこいつらは!」
どうやら、完全に俺たちが居るのが分かって来ている。これはさっさと離脱するか。
「お嬢様、歯を食いしばって舌を噛まないようにしてください」
「う、うん」
お嬢様が歯を食いしばったのを確認して、見えている服屋の屋根まで一気に飛び乗る。それを見た街の人たちや迫って来ていた冒険者が声をあげるのが聞こえたが、今はさっさと目立たない所に行かなくては。
執事たる者、姿くらい自由に隠せれるべき。
スキル
・隠密 (執事たる者、誰にも悟られる事なく諸事をこなせ)
を獲得しました。
姿を隠せる系のスキルを創り、屋根を走る。斜めに進むように屋根を飛び乗り、走り、いい感じの建物の間の隙間を発見したので、そこに飛び入る。そして、すぐさまスキルを使った。俺とお嬢様が僅かに半透明に見える。スキルがしっかり発動している証拠だな。
「すみません、まさか証明書を見せたらああなるとは…」
「私も勇者がこんなにも注目を集めるとは思わなかったよ」
お嬢様は短時間で疲れた様子だ。それにまだ昼ご飯を食べていない。お嬢様の為にもここはーー
「お嬢様、変装しましょう」
俺の提案を聞いたお嬢様は、何故か嬉しそうに頷いた………。
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