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第2章 勇者活動という名の雑用
第37話 もっと寝かしてほしい
しおりを挟む「道が開けましたが、もう一度使いましょう」
お嬢様の体勢をゆっくりと戻して、お嬢様には馬車内に戻ってもらい、また槍を作り出して遠くに投げ、また転移した。
「陸人のスキルって本当に便利なの多いね」
「お褒めいただき、光栄です」
振り返る事なく馬を走らせる。背後からは歓声や拍手が聞こえるが、そんなのに構っていたら時間が足りない。
「次の街までどのくらい?」
「5日かかります」
《トレナス》に着くまで4日かかったのに、今度は5日で1日しか変わらないが少し気が滅入ったのか、お嬢様は馬車内に引っ込んでしまった。
「また射撃をやりますか?」
「うーん、出来れば他の事やりた~い!」
この様子からして射撃は完全に飽きたようだな。となると、他の遊びを考えないとな。……全く思いつかないな。
「お嬢様は何かしたい事はありますか?」
「え?うーん、何だろ~?」
お嬢様も特にやりたい事は無いらしいな。今日はまだ大丈夫だろうが、明日からは「ひまひま」とうるさくなりそうだし、早めに考えてないと。
「今のは一体何だったんだ?」
「あれって、勇者様じゃなかったか?」
「ああ!黒髪も見えたし、あの馬車も勇者様が乗ってたやつだった!」
何やら騒がしい門の周辺。俺はギルド長という事もあって、到着が遅れてしまったのだが、今日一日中は対処しないといけないであろう《ブリキアント》の群れがいつの間にか消えている。
そんな事は俺以外出来るはずも無い。いや、俺だと効率は悪くなるからもっと時間がかかってしまうか。
だが、それをした奴は周りの奴の会話から聞いている限り、あの2人らしい。あいつらから滲み出ていた魔力の質や量からただ者では無いと思っていたが、まさかここまでとは。やはり、勇者というものは並外れた力を持っているのが普通らしい。
「なに喋っている。早く門を平常通りに使えるようにしておけ」
「「「「「「「「「はい!!!」」」」」」」」」
冒険者たちに指示してから懐からギルドカードを取り出す。そこにはSという文字が大きく記されている。
俺はSランク冒険者の末席だから分かるのだが、他のSランク冒険者たちは普通じゃない連中だ。あいつらのこれからの旅……いや任務に立ち塞がらないといいんだがな………。
「もう寝ましょうか」
特に何も起きず、夜が来た。夕飯も終えてお嬢様は馬車の中に向かう。
お嬢様は馬車の中、俺は近くにテントを張って寝ている。最初はお嬢様に何度も馬車の中に入るように言われたが、見張りも兼ねていると言って無理やり話を切り上げたので今は何も言って来ない。
今まで通り、何も起こる事なく寝れると思っていた。だが、生き物が寝静まり、夜行性の奴が静かに行動する音しか聞こえない夜中に、微かに金属同士が擦れ合う音が聞こえた。つまり、何者かが近づいて来ているという事だ。
全く、こちとらあんまり寝てないのに馬車を操っていたんだぞ。もっと寝かしてほしいものだ。
ゆっくりと寝袋から出て、隠密のスキルを使う。その次に空間把握を使って敵の位置を探ると、俺たちの馬車の近くにある多くの茂みの中の俺たちに近い方に2人忍んでいる事が分かった。
幸いな事にお嬢様のところに来る前に俺がいるテントを通らないといけない位置関係なので、迎え撃つ事が出来そうだ。
無限収納から刀を取り出して右手に持ち、気配も限界まで抑える。
ゆっくりと音を立てないように歩いているが、俺には草と擦れる音や僅かな足音まで聞こえる。
そして、遂に俺のテントの出入り口の近くまで来たので、俺はテントから飛び出し、近くに居た方の頭を地面に叩きつける。
「うっ!?」「えっ!?何でバレたの!?」
もう1人の方へと走り込み、足を刈って浮いたところにさっきの奴と同じように地面に叩きつける。
……この一連から妙に軽い体重、そして呻き声や驚いた声から嫌な予感はしたが、こいつら女か?
「痛いっ!離してよ!!」
「寝込みを襲おうとした奴を離すかよ」
最後に叩きつけた女の肩を右足で押さえて立てないようにし、最初の方は麻痺毒を塗ってある針を叩きつけた時に刺しておいたので問題無い。
「さぁて、何で俺たちを襲ったか。聞かせてもらおうか?」
「……ふん!もう1人居るのは分かってるんだからっ!乱暴したら怒られるあなたに何が出来るの!?」
どうやらお嬢様の事も知っているらしい。いよいよこいつらが何者なのか聞き出す必要があるな。
「お前何にも分かってねぇな。何も体に苦痛を与えるだけが拷問じゃねぇ。紅葉さんに教わった精神の壊し方を試すか、新しいスキルを創って試すか、悩むなー」
「ヒッ!う、嘘……よね?」
「どうだかな?取り敢えず、痺れとけ」
暗闇で顔は見えないが、怯えていそうな女に毒針を刺して立ち上がって空間把握を使う。……お嬢様は寝返りをうった程度で起きてないな。
「あ、そうだ。2つともすれば良いんだ」
執事たる者、夜に目を利かせるべきで、執事たる者、幻覚を使って相手を制すべき。
スキル
・夜目 (執事たる者、夜でも問題無く行動出来ておく)
・幻覚魔法適正 (執事たる者、幻覚魔法ぐらい扱えるべき)
を獲得しました。
夜目はスキルだったが、幻覚は幻覚魔法があるらしいな。まあ、このスキルのお陰でその魔法も分かったから別に良いか。
「さぁて、長……思ったよりは長くない夜が始まるな」
俺は正方形のテントと長方形のテントを作り出して組み立てる。毒のおかげで声も出せない襲撃者たちは、何やら音が聞こえている中でどんな顔をしているんだろうな………。
「ふぁ~あ、よく寝た……」
「おはようございます。もうお食事は出来ていますので、用意を終えたら召し上がってください」
「うん……。あれ?こんなテントあった?」
お嬢様が眠そうに目を擦りながら、指差したのは真っ黒な正方形と長方形のテント。昨日か今日の夜に立てた俺のテントだ。
「あれには昨日襲って来た奴が居ます。今はちょっと情報を聞き出そうとしているところです」
朝で頭が上手く働いていないからか、「ふーん」とだけ言ってお嬢様は行った。今のうちに済ませよう。
まず、最初に叩きつけた女がいる正方形のテントに入る。そこにはイスに体を締め付けられ、口からヨダレを垂らしている気品も無い女が居る。
茶色の髪は短く、ハイライトの消えた灰色の目には赤い魔法陣のようなものが浮かび上がっている。黒装束に身を包み、中々大きな胸がある、一般的に美人に位置する女は完全に見る影も無い。
この女には目の前でひたすら家族を殺される夢を見させている。一応、自分たちの正体と目的を答えたら解けるようにはしたが、無駄に強情だったので答える前に精神が崩壊してしまったらしい。後で精神を治す魔法なりスキルなり使わないとな。
次にもう1人の女がいる長方形のテントに入る。ここはテントの中にもう一つ部屋があって、入ってすぐ扉と中を覗けるマジックミラーがあり、そこから中を覗くと身を縮こまらせている女が居る。
このテントでは、真っ暗な空間に一定時間で水滴の音が鳴るようにしている。紅葉さんから教わったのだが、これは時間がかかるタイプのやり方だったらしいな。
すぐに切り上げ、正方形のテントに入り、スキルを創る。
執事たる者、メンタルケアもしっかり出来るべき。
スキル
・精神治癒 (執事たる者、仕える者の精神を癒せるようにすべき)
を獲得しました。
「ねぇ?入って良い?」
スキルを獲得した途端に、お嬢様の声が聞こえた。マズイ!お嬢様にこんなのを見られたら怒られるどころじゃない!早くこいつの精神を治さないと!!
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訂正しましたが、《トレナス》の事を次の街である《センコーン》と書いてしまいました!混乱させてしまった方には申し訳ありません!!
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