職業通りの世界

ヒロ

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第2章 勇者活動という名の雑用

第38話 面倒が増えた

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 早く!早くしないと!こいつの頭に手を付け、スキル精神治癒を発動すると、少し体をビクつかせた後に徐々に目のハイライトを取り戻していく。

「入るよ~」

 ヤバイ!ヤバイ!早く戻って来いよ!いくら拷問とはいえ、やり過ぎた事は謝るから!だから、早く戻って来いぃ!!

「……あ、ぁあ。アレは夢……だったの?」
「そうだ!あんたに自白させる為の夢だ。だから、今から来るお嬢様には酷い夢を見せた事は黙っててくれないか!?」

 目覚めたばかりのこいつの耳元で、小さな声で頼み込む。もちろん、酷い事をした奴の事を聞くとは思えない。何かしら脅す必要があるか?

「もし、黙っていたらあんたの仲間もあんたも無事に帰してやる。だが、黙っててくれないなら俺は腹いせに何をするか分からーー」
「黙ります!黙りますからっ!!」

 涙目で今度は女が頼みこんで来た。頼みこんで来た奴に頼み込むというよく分からない状態だが、これで大丈夫だろう。

「お嬢様!入って来て構いませんよ?」
「な~んだ、居るなら早く答えてよっ」

 少し俺の事を疑っている感じで入って来たお嬢様に、苦笑いを浮かべながらチラッと女を見ると、女は小さく頷いた。

「いくら襲って来たとはいえ………これは無いと思うけど…」
「お嬢様が嫌になるのは理解できますがお嬢様の身の安全を確たるものにするためです」

 お嬢様は女を解放するように目で訴えてくるが、正体も目的も知れていない状態で解放する訳にはいかない。
 無理だと諦めたお嬢様は、今度は近づいて話しかけている。

「ねぇ、何で私たちを襲ったの?」
「……………」

 当然黙秘。お嬢様はなんと目を瞑って知らん顔をしている女の首を掴んだ。突然の事に女は驚きを隠せないでいる。

「私は勇者って言うらしいんだけど、勇者って悪者は殺さないといけないのかな?」

 平生の口調と全く同じなのに、言っている事はお嬢様から出たとは思えない事。そのギャップに女は涙目になっている。

「…冗談だけど、もし私を殺しに来たら殺し返す気はあるよ」

 お嬢様はそれだけ言って手を離し、テントから出て行った。

 お嬢様らしからぬ発言だったが、この世界ではそれくらいの気持ちが必要とお嬢様は考えたんだろう。現にお嬢様の気づかないところでこいつらが来た訳だしな。

「……で、教えてくれるのか?お前たちの正体と目的を?」
「…正体は下っ端としか言えません。けど、目的は言えます」

 もうこれ以上怖い思いをしたくないとでも言っているかのような、弱々しい顔で女は言う。

「目的は勇者全員の暗殺及び、成りすまして騎士団長の殺害です」

 俺たち全員の暗殺とカレナさんを殺害するのがこいつら……、いや、こいつらとまだ他の暗殺者たちの目的か。
 俺たちの暗殺は国の戦力を削る事と成りすまして近づく事で、こいつらの組織の真の目的はカレナさんの殺害。あのメイドに成りすました奴もこいつらと同じ連中か。

「約束通り、お前たちを解放するが、暗殺の道から手を引け」
「え?それは……」
「組織が許さないって訳なら国王に匿ってもらえ。自分たちの正体ややってきた事を自白してな。もちろん、その場で死刑を執行されるかもしれないが……、組織から完全に隠れて生活するよりは生きる望みはあるんじゃないか?」

 俺の提案に答えずにいるという事は認めているって見て良いだろう。理解しているんだろう、どの道死ぬ可能性の方が高いと。……今更ここで放ったらお嬢様に嫌われるかもしれないからという事で。

「ほらっ」

 女を解放してから、1発の銃の弾を渡す。それを受け取って何かも分からない様子だという事はこの世界では知られていないって事か。なら、余計に効果があるな。

「それを素性を言った後に国王か王女に見せて『執事さんに更生する意思はあると認めてもらいました』と言え。それなら、余程大罪人じゃない限り、殺されはしないはずだ」

 自分でも何でこんな事をしているのか分からないが、俺にも他の奴に優しくするという気持ちが芽生えたと思えば、成長している気がして悪くは無いと思える。

「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうござーー」
「いいから、さっさと付いて来い。お前の仲間にはお前から説得しろよ」

 ありがとうありがとうとうるさい女を連れて、テントを出て別のテントに入る。
 テントを見渡す女を無視して壁を蹴り壊す。すると、腑抜けた声が聞こえた。夜目を使うのも面倒くさいので辺りをさっきのテントと同じように、ランタン型の魔道具で照らす。もちろん、俺が作ったものだ。

「ふっ、ふん。全然大した事はーーメサ!?」
「元気そうなら良かった…」

 メサはメサのツインテール版の女に抱き着く。…2人並ぶと双子みたいだな。まあ、胸の差はあるが。

「………お礼は言わない「メイカ?」ありがとうございます。私どもはあなた方のお命を狙ったというのに」

 メイカとメサは2人並んで頭を下げた。メイカは生意気な事を言いかけていたが、メサの一言で黙った。どうやら力関係はメサの方が上らしい。

「で、どうするんだ?」
「はい、え~と執事さんの…「陸人だ」…リクトさんの言う通り、王都《グレイア》に向おうと思うのですが……」
「ここからはまだ近いんですけど、安全に着くとは思えないので…」

 あ~、言おうとしている事が分かってしまった。聞きたくない、聞いてしまった時点で叶えるという可能性が生まれてしまうーー

「私たちを《グレイア》まで送って欲しいんです!」
「そんなの無理に決まってーー」
「いいよ」

 断ろうとしていたのに、横にお嬢様が来て返事をした。しかも、許可するという、ダメな方の答えを。

「お嬢様!王都というのは自分たちが居た城があるところですよ!?今更引き返すなんてーー」
「だったら、任務が終わって一緒に帰ればいいじゃない」

 お嬢様は至極当然のように言う。そんな主に食料的に余裕の無い状態であっさりと認められる訳がーー

「陸人なら分かるでしょ?行き場も帰る場所も無い人の気持ちは」

 俺は反論出来なかった。ここで反論してしまえば、俺は過去にお嬢様に助けられた行為自体を否定する事になるからだ。
 それに、断ったら、困った人を見返りなく助けるお嬢様のお嬢様らしさを殺す事になる。それだけは……、お嬢様に助けられた俺がしてはいけない事だ。たとえ、死ぬ事になったとしても。

「…分かりました。任務自体に参加させないという条件付きなら」
「別に参加しないよね?」
「「もちろんです!!」」

 2人とも首を激しく振った。まあ、それなら大丈夫だろう。向こうの森に着いたら馬車の番でもさせておけば関わる事は無いだろう。

「あと、スキルを教えろ。一応こっちはリスクを背負う訳だから少しでも対応しやすくするためにな」
「あ、はい!」

 メサの方が答えて、紙を渡すと2人とも書き出した。数十秒で書き終え、スキルの一覧が書かれた紙を受け取る。
 お嬢様が俺の事をジト目で見ているが、無視して目を通した………。


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 中途半端なところで終わってしまい、申し訳ありません。
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