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第2章 勇者活動という名の雑用
第45話 治安の悪い街
しおりを挟む「いただきまーす!」
「い、いただきます…」「いただきます?」
勢い良く食べ出すお嬢様と、ゆっくりと食べ始めるメサ、いただきますという意味が分からず、首を傾げた後に食べ始めるメイカ。
今回作ったのはトマトリゾットだ。初めて食べるメサとメイカも美味しそうに食べているのは作った甲斐があるというものだ。
まだ夕方なのだが、聞いたところによるとお嬢様たちは昼飯を食べていないらしいので、早めの夕食として作った。俺もちょうど腹が減っていたところだ。
「次の街にはいつ着くの?」
「明日の昼前くらいには着く予定です」
次の街である《グノリア》には特に何もなさそうだし、その次の《グノハ》の方が気になる。
何でも、植人族がいる街だと。《カタハの森》の情報が聞き出せるかもしれない。
「ご馳走さまでした!メイカ、オセロやろう?」
「ごちそうさまでした?…今回こそ勝つからねっ」
お嬢様とメイカは意気揚々とオセロに興じ始めた。メサは俺の隣で食器を洗う手伝いをしている。
食器は毎回作り出すのも面倒なので、魔道具作成で作り出した流し台を使って毎回洗うようにした。メサも初めは驚いていたが、今では普通に使っている。
いつも通り、俺が食器を洗っているところにメサが手伝うという構図なのに、メサはやけに暗い表情になっている。少し気になっていたところに、メサが重い口を開いて聞いて来た。
「リクトさんが昨日出会った暗殺者って…」
「お前の仲間じゃない、『闇夜の暗殺者』とかいう連中だ」
『闇夜の暗殺者』という単語を聞いた途端、食器を手放して放心状態になったので、横から食器をキャッチして食器洗いを続行する。
いつまで続くかと思っていたが、案外早く戻り、俺の肩を掴んで向かい合うようにした。そして、ジッと俺の体を見つめる。
「……ケガは無いんですか?」
「ああ。カスリもしてないけど、なかなか面倒な相手だった」
メサは俺が言い終えるかどうかというところで、いきなり涙をこぼし始めた。俺が何故泣いたのか分からず、首を傾げているとメサが涙声ながらも教えてくれた。
『闇夜の暗殺者』は最強の暗殺集団で、金さえ貰えれば一夜にして標的を必ず仕留めるらしい。
だが、彼らには謎のルールがあるらしく、金を貰えても金を返して標的を殺さない場合もあるらしい。そのルールは未だに謎だという。
そして、金を受け取った場合は先程も言ったとおり、標的を必ず仕留めるらしい。
そんな暗殺集団から生き残った俺はどうなるんだろうか?もう一度殺しに来るんだろうか?まあ、今度は返り討ちにしてやる。影魔法の特徴も掴めたしな。
「良かったっ……!リクトさんが無事で…!」
終いには抱きついて泣きだした。俺に恩があると思っているのだろうが、本当はお嬢様がお前たちを助けたんだからな?
「………メサ、何してるの?」
俺がため息をついたのと同時に、お嬢様の低い声が聞こえ、メサと俺は固まる。いや、俺は何もしてないし、大丈夫だろう。
「自分は何もしてませんよ?」
「あ、酷いです!リクトさんを心配したのに!!」
すぐさま売った事にメサは腹を立て、今度はポコポコ叩いてくる。全然痛くないし、このまま無視を決め込もうとした時、お嬢様が咳払いをした。
その音でメサはまたしても固まり、油を注していない機械のような重い動作でゆっくりとお嬢様を見る。
「…メサ、仲が良いのはいい事だけど、あんまり陸人を困らせないでね?」
「は、はい…」
お嬢様はそれだけ言うと、メイカのところへ戻っていった。
どうにも気まずい雰囲気と静寂だけが残って………。
「どうぞお入りください!」
証明書を見せて仰々しいが、通してもらい中に入ると、そこには何とも言えない街並みが広がっていた。
建物は廃れているものがあったり、道に座り込んでいる人や、喧嘩をしている人など、とても良い街とは言えない有様だった。
「……今までの街と比べるとなかなか…」
お嬢様もあまりの差に言葉を濁している。それに、道に座り込んでいる人が気になってきているみたいだ。
お嬢様が座り込んでいる人に声をかける前に注意をしようとしたところで、馬車の前に5人の男が立ち塞がった。
「旅人か行商人か知らねぇが、荷物と身ぐるみ、女を置いていってもらおうか!」
中央に立っていた男が何やら生意気な事を言ったので、お嬢様に戦闘の許可を願うと、「やり過ぎない程度なら」と許可をもらえた。
「メサとメイカはここで待っとけ。すぐに片付けるから」
「はい、手加減を忘れずに!」「武器無いぐらいが良いんじゃない?」
2人は俺の心配なんて全くせず、相手の心配をしている。まあ、こんな相手に負けるとは思えないのは俺も同感だが。
操縦席から飛び降り男たちの前に立つと、少し驚いたが、すぐに俺を睨んでくる。中央の男に至っては何やらニヤついている。
「女たちに良いところを見せたいんだろうが、少し調子に乗り過ぎなんじゃーー」
「うるせぇよ」
つばをいっぱい飛ばしながらこっちに近づいてきたので、腹をヤクザキックの形で蹴り、蹴り飛ばす。男は地面を少し滑って意識を失った。弱っ。
「まだやるか?」
「「「「すみませんでした!!」」」」
てっきり、仇討ちでもするのかと思っていたが、すぐさま気を失った男を連れて足早に去ってしまった。腑抜けにもほどがあるな。
「何なんだろうね、この街って」
お嬢様がこぼした独り言は、俺たちの気持ちを代弁していた………。
「そりゃそうさ、この街では芯の強い奴なんて誰一人としていない」
そこそこ高かったが、街で一番綺麗な宿で暇そうにしていた宿の主人にこの街について聞くと、主人は失笑しながら酒を飲んだ。
「この街には冒険者ギルドもねぇし、門番も隙あらばやってくる馬車から金品を奪おうとする盗賊落ち、挙句の果てにはAランク冒険者の中でも黒い噂しか聞かねえダルトが居座っちまったからな」
主人はやってられないとでも言いたげに酒を呷る。
思っていた以上にこの街は治安が悪いらしい。
「ねぇ、陸人。そのダルトって人をーー」
「すみませんが、今は意味が無いと思います」
お嬢様が考えている事は大体分かる。俺にダルトを倒させてこの街の治安を良くさせたいんだろうが……
「この街に優れた行政人が来ないと意味が無いんですよ。ダルトという人を倒しても、すぐにダルトに変わる人が出てきます」
お嬢様は納得してないようだが、理解はしたようで、それ以上何も言ってこなくなった。
任務が終わったら、国王に進言したらお嬢様も納得するか。
「…お客様は勇者様何ですよね?」
「正確にはお嬢様のみですが」
主人はなかなか言い出せないのか、酒の入ったコップを握りしめて黙り込んでしまっていたが、酒を勢い良く呷って覚悟を決めたように言った。
「娘をこの街から連れ出してもらえますか?」
「「「「………はい?」」」」
主人から出た言葉に俺だけでなく、お嬢様たちも思わず聞き返した………。
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