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第2章 勇者活動という名の雑用
第46話 不可解な遭遇
しおりを挟む「……言っている意味が分からないんですけど」
「文字通り、俺の娘をこのクソみたいな街から連れ出してほしいですよ」
主人は本気で言っているみたいで、全く引こうともしない。
お嬢様に視線を送ると、困ったような表情になっている。お嬢様も今回ばかりは連れて行く気にはなれないみたいだ。
確かに、これから任務に行こうというのに、ただの子供を連れて行くなんてあり得ない。
「すみませんが、自分たちは任務先へと向かっている最中でして」
「そ、そうでしたか……。すみません、困らせてしまって」
悲壮感が漂い、主人が立ち去ろうとした時、お嬢様が余計な事を言った。
「私たちの任務が終わったら迎えに行きます!」
……はい?お嬢様、何言ってんの?
「……!ありがとうございます!!」
主人は大層喜び、お嬢様の手を両手で握って拝むように跪いて泣き始めた。
お嬢様は俺と視線が合うと、「やっちゃった♪」とでも言っているようにテヘペロの形で返した。
結局、お嬢様が約束を交わしてしまったので帰りにここに寄って娘さんを連れて行かないといけないという、面倒な事態になった状態で夜を越した………。
翌朝、宿からの豪華な朝食を摂っていつも通りに買い出しをし、馬を預けた馬小屋へと行くと、そこには30人ほどのゴロツキが待ち伏せしていた。
「……お嬢様、素早く片付けて来ます」
「よろしく~」
お嬢様の許可も得て、スキル威圧視を使いながら男たちへと向かって行く。威圧視でどっかへ行ってくれたらすぐに済むと思っていたが、誰も影響を受けていない。それどころか、俺にヨダレを垂らしてまるで捕食者のような目でーー
「「「「「「「「「ぐるがぁぉ!!」」」」」」」」」
というか、こいつらゾンビじゃね?
「おいおい!お嬢様~!!」
「ん~?何~?」
流石に俺も30人ものゾンビを一掃出来る技も魔法も無いので、お嬢様の下へと走る。ゾンビどもは映画とかの鈍くて遅い足取りなんかでは無く、普通に生きている時のような速度で走ってくる。その様子は飢えた猛獣のようだ。
「お嬢様!《ブリキアント》を一掃した魔法を!」
「え~?分かった」
まだ眠そうなお嬢様は、仕方ないように手を突き出した。その手からチカチカと火花が散り始めている。
「いっくよ~」
「どうぞ!!」
俺は身体強化魔法を使って思いっきり飛び、お嬢様の背後に着地する。
それに気付いたのかは知らないが、お嬢様は俺が居なくなった瞬間に魔法を発動した。
「"フレアバースト"~」
気迫の無い声とは裏腹に、凄まじい炎がゾンビたちに襲いかかり、片っ端から灰にしていく。ものの数秒で30ものゾンビは全て灰になった。
「…何なんだったんだ?というか、この世界にはゾンビは実在すんのかよ」
朝から全力ダッシュをさせられた事に腹が立ってそれ以上考える事はしなかった。
「……ふぁ~あ、眠い」
日当たりも良く、鳥たちも元気にさえずりをしているのが聞こえる。だが、今は馬車で移動中なので、日向ぼっこも出来ないし、外で走り回る事も出来ない。ただただ眠気が促進させられるだけだ。
後ろのカーテンを捲って馬車の中を見ると、お嬢様を始め、メサとメイカもこの圧倒的な眠気に負けて寝てしまっている。
今日は絶好の昼寝日和。だが、明日には次の街《グノハ》に着くように馬を走らせないといけない。寝ている場合ではないのだ。
……寝ている場合では無いのに、やけに眠気が来る。それも、耐え難いほどの深いものが。
……もしかして、催眠ガスでも発生しているのかと考えついた頃には意識はもう消えかかっていた………。
「ーー人!」
誰かが何かを叫んでいる。静かにしてほしい、まだ眠いんだが。
「陸人!!」
はっきりと聞こえたお嬢様の声で、俺は飛び起きる。すぐさま辺りを見渡すと、どこかの森の中に居るみたいで、森の木々やキツネやサルのような動物がちょくちょく見える。
「良かった、みんな無事で」
お嬢様は安心したように息を吐く。メサとメイカももう起きていたようで、俺を心配そうに見ている。
そんな事よりも、馬車を操縦している時に居眠りをこくなんて、執事として失格だ。
「お嬢様!申し訳ありません!!自分が睡魔などに負けて寝てしまった所為でこんなところに!」
きっと馬車が転倒してこの森に吹き飛ばされたんだろう。運良くお嬢様に怪我は無かったようだが、もし、大きな怪我をされていたとしたら!俺はーー
「陸人!これは陸人の所為なんかじゃないよ!この森がおかしいんだよ」
お嬢様が俺を励ますために言ってくれているのだろうが、その心だけでーーあれ?
顔を少し上げて気づいたのだが、少し歩けば着くところに馬車がある。しかも、特に外傷も無く、馬も気持ち良さそうに寝ている。一体どう言う事だ?
「目が覚めたようだな」
頭上からの声に、すぐさま立ち上がってお嬢様を隠すように中腰になり、声のした方を向くと木の枝に左腕がまるで植物の根のようになっている女性が立っていた。
明るめの緑色の髪をへそ辺りまで伸ばし、右手には木製の弓を持って茶色の目には警戒心が映し出されている。
「歓迎はしないが、わさわざ遠い地から来た事には敬意を表する。真っ当な志しを持つ異界の戦士よ」
「だが、この森に無断で立ち入ろうとしたのは万死に値する。よってこの場で大地の養分となれ!」
最初は話の通じそうな奴だと思ったが、すぐさま右手に持った弓を構えて、左腕を装填して、左腕の一部を飛ばして来た。
「お嬢様!自分から離れないように!!」
「う、うん!」
「メサとメイカもこっちへ来い!」
「は、はい!」「いきなりなんて常識無いんじゃない!?」
お嬢様たちが俺の背後へ回ったのを確認して、無限収納から刀を取り出して矢(?)を刀に滑らせて減速させて、左手で掴む。
近くで見るも、普通の木の根にしか見えないが、これがさっきまであの女の腕にあったと思うとゾッとする。
「…ふっ、これだから異界の戦士は狩りやすい」
「は?何がーー」
女の言っている意味が分からず、頭のおかしい奴だと思っていた矢先、左手に持っていた根が増長して俺の首元へと絡まり始めた。
「ちっ!何だこれっ!?」
「一番劣っている人族は所詮、異界の住人でも人族に変わりない。数のいない人族など私一人でーー」
「"フリーズ"」「冷たっ!」
木の根をどうやって解こうと思っていたところ、お嬢様が凍らせてくれたので、冷たいながらも砕いて解く。
それを見ていた女はお嬢様に対して、恨みのこもった目を向けている。
「…やはり居たか。魔法を使える人族が」
「いつまで上から目線をしてんだよ!」
お嬢様に失礼な視線ばかり送る女めがけて刀を投げつける。多少は驚いていたが、木の枝から飛び降りて俺たちの前に着地した。
地面に降りてしまえばこちらのもので、瞬時に近付いて腹に回し蹴りをぶち込み、吹き飛ばす。
「カハッ!……おのれ、人族が……」
巨大な木にぶつかって女が気を失った時の一瞬、森が風でざわめいた。それがまるで、森が驚いたように感じた………。
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