53 / 104
第3章 植人族ってハイスペック
第52話 任務完了
しおりを挟む「そろそろ日が沈むな。おい、台所はどこだ?」
「そんなもの、ある訳が無いだろう。私たちは食事を必要としない。すべて日の光で必要なエネルギーを摂っているのだからな」
無事にツリーハウスに着き、カミラに台所の在りかを聞くと、光合成が出来るので無いと言われた。
確かに、光合成が出来るなら台所はおろか、食事が必要無いだろうしな。おおかた、曇りの日だけ木の実でも食べているのだろう。
ここで台所を出して床にヒビが入ったら怒られるだろうし、どうするか。
因みに俺とカミラはお嬢様たちが楽しそうにしているリビングの隅で話していた。そりゃ、お嬢様が楽しそうにしているのに夕飯の事が耳に入ったらいけないしな。
「まあ、ちょうどいいか。今日は刺身にしよう」
無限収納から氷漬けの魚を6匹取り出す。
このリビングにはお嬢様たちが遊んでいるソファーと背の低いテーブルがあり、その後ろにはダイニングのような6人がけの机と椅子がある。
調理は机でするしか無いので、道具作成で作り出したブルーシートをひく。
刺身なので鱗を取り、内臓を取り出して頭を切り落とし、身を切っていく。お嬢様は魚より肉派なのだが、魚も時には食べておかないとな。
最終的にサーモンのようなもの、マグロのようなものでも中トロのようなもの、鯛のようなもの、鰹のようなもの、ブリのようなもの、ハマチのような刺身が出来た。
中トロとかは本来、マグロの部位のようなものなのだが、この魚は全体が中トロになっていた。やっぱり、少しズレているところはあるみたいだ。
片付けと盛り付けを終え、お嬢様たちを呼ぶ。
「お嬢様!お刺身が出来ました。メサとメイカも来い」
自分でも態度の違いは分かるが、仕方ないだろう。執事だもん。
お嬢様は何とも言えない表情だが、あれは肉の方が良かったという顔だな。
メサたちは刺身は知っているらしく、特に驚く事なく席に着く。刺身の文化は普通にあるらしい。ま、当たり前か。
そして、醤油を付けて食べたんだが……日本で食べていたものよりは癖が少しある感じだったが、美味しいものは美味しいので、意外と満足出来た。
食事も終え、風呂も無いので後は寝るだけなのだが、カミラとリーナがお嬢様と一緒に寝る権利をめぐって喧嘩し、結局机とかを排除してみんなでリビングで寝る事になった。
俺はそんなところに居られる筈もないので、みんなが寝静まった時間を狙ってリビングを出て、玄関の扉を開けて何も無い、登ってから歩いて玄関に向かう為の足場同然の床に腰を下ろす。
寝袋も無限収納から取り出し、ここで寝れるようにする。風は少し冷たいが、大して問題じゃないな。
「……隣良いか?」
「もう座ってるだろ」
気配や足音で気付いていたが、カミラが族長らしさ全開で俺の隣に腰を下ろした。昼間の様子とは似ても似つかない様子で、気配も強者のものになっている。
「我々植人族は1年で体は成人となり、寿命は100年ある。性別はあって無いようなものだが、見た目は女性に限られ、性殖器は根によって自在に変えられる」
突然植人族について語り出した。特に止める必要も無いので、そのまま聞いておく。
それで分かったのは、全ての植人族はある一部を除いて体の一部が根になって生まれ、2つ以上あるものは族長の器とされ、年齢関係無く族長の地位に就く。
木や木材があれば根の部分は修復可能で、光合成により曇りや雨の日以外は食事を必要としない。
魔法も使え、身体能力は人族より上で、基本的な戦闘は根を使う。弱点は火属性魔法ぐらいだが、岩石族以外は実質魔法に対して耐性が無いので弱点と言えるかは微妙だ。
そして、植人族は森を信仰し、森に生き、森に死ぬ種族。異端者以外は生涯森から出る事は無いと言う。森はここだけで無く、他にも森は当然あり、そこに植人族は居るらしいが、族長は宝剣を持っているカミラただ一人らしい。
「ーーとこんなものだ。何か質問は?」
「いや、説明が上手かったから理解出来た。それにしても、何故急に話したんだ?」
カミラはそっぽを向き、認めたくないような様子で言った。
「お前はもし、私たち植人族を良く知っていたら初戦で負ける事なく、勝っていたのではないか?」
「……否定はしないが、それは憶測に過ぎない。実際にそういった事態になってないからな」
そうだ。もし、俺がこの話をこの森に来る前に聞いていたら、戦いを有利に進められただろう。だが、現実となっていない以上、憶測でしかない。憶測よりも、結果が全てなのが『地球』とは違う、この世界だ。
「私たちは閉鎖的なので、岩石族は魔法に耐性があるのと獣人族は並外れた身体能力という事しか知らない。これから先、情報を出来るだけ集めろ。死にたく無かったならな」
「もっとも、閉鎖的な我々が言えた事ではないが」と自虐をこぼして帰った。
カミラの言った事は事実で、俺には情報が無い。城へ帰ったらカレナさんに一度話を聞いた方が良いかもな。
パンにバターを塗っただけの手抜きの朝食になってしまい、お嬢様に申し訳なさすぎてツリーハウスから飛び降りるのを止められ、お嬢様を抱えて安全に降り、この森を出る時が来た。
と言っても、《グノハ》はまだこの森だが、集落(?)を出る事には変わりない。付いて来るリーナはともかく、残るカミラはかなり嫌らしく、
「ここで暮らす気は無いですか?何不自由ない暮らしを約束しますよ?」
「いや、それは結構かな…」
お嬢様も火も起こしにくいこの森で暮らす気にはなれないらしく、ほば即答で断った。
「なら、何か困った事や協力してほしい事があれば言ってください!力になりますので!」
「じゃあ、その時はよろしくね」
勇者であるお嬢様と族長であるカミラが握手をした。立場的には同等なのだが、力関係ではお嬢様の方が上という謎の構図になっている。
「……陸人よ。お前は強いが、異界の戦士である事に違いは無い。先代族長が気にしていた奴と同じ末路になるなよ」
「……?ああ」
先代族長が気にしていたのは、先代勇者か?そいつと同じ末路は魔王に負ける事か?俺は勇者じゃないんだが、まあ良いか。
「じゃあね!時間が出来たら遊びに行くよっ!!」
お嬢様は手を振りながら後ろ歩きをしているが、付いて来ている。見えなくなるまで手を振るつもりらしい。
「リクトさん、これから《グレアノス》へ行くんですよね」
「ん?ああ、そうだが」
この森ではほとんど喋っていなかったメサが話しかけてきた。声を潜めている事からあんまり他の奴に聞かれたくないのか?
「《グレアノス》に着くまでに私の組織から襲撃が来るかもしれません。その時は……」
「分かってる、お嬢様がお前たちを守りたいと思っている限り守ってやる」
「そうじゃなくて……」
メサは一度メイカへと視線を向けた。向けられたメイカはその視線に気付いていないらしく、最後にこの光景を刻むべく辺りを見渡している。
メサはメイカから俺に視線を戻して言いにくそうに言った。
「私の仲間にも、もしかしたら嫌々やっている人がいるかもしれないので助けてもらえませんか?」
メサは自分の言っている事を理解している。理解していながら、言ったのだ。
俺はメサとメイカだから、信じた。他の奴らはもしかしたら嘘や偽りの表情が上手い奴がいるかも知れない。なのに……、
「お嬢様が許可したらな」
俺はメサの願いをその場で無下にする事が出来なかった………。
============================================
陸人がどんどん正常な人らしさを出してきましたね。
0
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる
初
ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。
レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。
これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる