職業通りの世界

ヒロ

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第4章 帰り道が騒がしい

第58話 愛する者

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「………つまり、陸人はあなたたちのどうでも良い争いに付き合ってこうなったと?」
「…そうなるな」

 本当にどうでも良い、こんな街の事なんてどうでも良い。陸人だってどうでも良かった筈なのに、この街の正常性を確かめるために首を突っ込んだに違いない。
 だって、あの陸人が暇つぶしとかでやるとは思えない。自惚れになるかも知れないけど、きっと私がいるこの街が危険なのかどうかを確かめておきたかったんだろう。……陸人はそういう人だ。

「別に責めはしないけど………陸人がこうなった原因である『闇夜の暗殺者ナイトウォーカー』の事を教えて?少しでも反省しているなら」
「……それを知るという行為が既に危険だと分からないか?」

 そんなの理解しているに決まってる。けど、陸人がよく分からない組織に狙われているなら、その組織の情報はもっておいた方が良い。
 情報は力。あればあるほど良いし、時には魔法よりも強い力を持つのは、きっとこの世界でも変わらないはず。

 私が引かない事を悟ったのか、諦めるようにして教えてくれた。

「まず、『闇夜の暗殺者ナイトウォーカー』と言う連中は金で雇われる暗殺者集団。どんな厳戒態勢を敷いても、影を移動し、影に潜み、影から現れるという影魔法では意味が無い」

 影魔法。聞いた感じでは分からなかったけど、説明を聞いて理解した。つまり、影を別空間にしてそこに入り込めるのが影魔法なんだろう。……職業が魔法使いだから魔法についての推測はしやすいのかもしれない。

 スキル

・職業適性 ー魔法に関する全ての能力が向上する

 を獲得しました。

 初めてスキルを獲得したけど、今はそんな事より『闇夜の暗殺者ナイトウォーカー』の方が気になる。

「だが、稀に殺さない事がある。殺されなかった奴らにこれといった共通点は無いが、そいつら曰く、『闇夜が許した…』と言って立ち去るらしい。まあ、そこの執事とそいつらを除いたら全員殺されているがな」

 頭のおかしい人たちだという事は分かったけど、ただの暗殺集団では無さそう。

「それにしても、4つあると言われている精鋭部隊のうちの1つを一人で全滅させるとは……恐れ入ったよ」
「精鋭部隊を、陸人が?」
「ああ、圧倒的な連携をとって確実に標的を仕留めてきたらしい10人で構成された部隊をそいつが」

 男の人があごで陸人を指した。それと同じくらいのタイミングで陸人を見る。
 陸人は特に悪夢を見ている訳でも、良い夢を見ている訳でもなくてただ目を瞑って寝ていた。寝息も静かで、穏やかすぎる睡眠。陸人らしいなぁ。寝顔は相変わらず可愛いけど。

 精鋭部隊を倒したという事には大して驚かない。だって、向こうでも自衛隊の精鋭部隊どころか、複数の師団相手でも2丁の拳銃で立ち回っていたんだもん。今更驚くことでも無いなぁ。

「「………………!」」

 最も、メサちゃんとメイカちゃんはかなり驚き、カトラちゃんとリーナちゃんは訳も分からず首を傾げているけど。

「俺が知ってるのはこんなもんだ」
「他の精鋭部隊は?」
「……それは言えねぇ。知ってたところで、出くわした時には殺されるのがオチだ。残りは……本当に化け物なんだ、1人の部隊が2つに2人の部隊が1つなんだが……部隊と言うより軍レベルの…………あっ」

 この人は案外バカなようで、普通に教えてくれた。当の本人は床に頭を打ち付けて自分を責めているけど。
 この情報は陸人にしっかり伝えておかないと。男の人は殺されるとか言ってるけど、陸人の本領は1対1だから一番の難所をもう過ぎたと思える。
 一応カレナさんにも情報交換はしといた方が良いかな。

「……すまねぇな。あんたらの身を危ぶめる事をしでかして」
「別に何とも思ってないけどそれよりも、一つ頼まれて。私は陸人が危険な目に遭うようなら、迷い無く人を殺せる。それをあなたからこの街の馬鹿な人たちに教えてほしい」

 部屋に設けられた窓の外に目をやると、普通に歩いていたり、話し込んでいる人たちの中に何やら目を鋭くして宿屋を見ている人たちがいる。
 多分、陸人を殺し損ねたから隙を伺ってという魂胆らしいけど…偽装がまるで成っていない。向こうでお父さんやお母さんを殺そうとしていた人たちの方がもっと上手かった。

「……ああ、分かった。それにしても、勇者はこういった事には疎い連中が多いと聞くが、あんたは違うんだな」
「生まれた環境が違うだけだよ」

 特に気の利いた返事も無く、男の人は出て行った。それにしても、あの人は結局何者だったんだろう?







「……あんたらか、ガエンの敵討ちをしようとしているのは」
「…知ってんのか、ならちょうど良い。ガエン様が亡くなられたのは極秘に隠されている事だ。それを知っているお前は今ここで消さなくてはならない」

 街のどこにでもある道中でも剣を抜こうとしている奴らを置いて人目のつかない場所へと向かう。こいつらも察したようで、黙って付いてくる。
 門番に八百屋のおっちゃん、若くして武器屋を開いた店主。どいつも普段とは打って変わった、人を殺す奴の目をしている。

 ……いつからこの街はこんな状態になったんだ?笑顔が満ち、表も裏も無い、真実の言葉のみが飛び交う街だった。街へと来る人はみんなこの街を美しいと言ってくれた。そんな街を汚そうとする奴は現れる事は普通なのかもしれないが、前までは全て未然に防げていた。

 そう、俺たちが表と裏からこの街を守ろうと誓ったあの日までは。

 何が間違っていたのだろう。全て、全てはこの街のためにと思って動いていた。大好きなこの街のために。

 意味の無い自問自答をしていた間に人目のつかない場所に着いた。着いた途端に襲いかかって来る男たち。
 ……ああ、本当にどうしてこんな街に………。

「ガハッ!貴様っ……!」

 で男たちを斬りつけた。男たちは膝を折って倒れる。……こんな血が流れる事なんて無かったのにな。

 意識が逸れたせいで、右腕にかけていた幻覚魔法が解けた。何十年も見ないようにしていた年季の入ったが現れる。
 根は刀のように鋭く形作り、男たちの血を僅かに吸っている。

 過去につけられた呼び名が思い起こされて胸糞が悪くなる。
 『人斬りイグザ』というもう人々に忘れ去られたほど昔につけられた呼び名が俺を縛り付けるように脳裏に浮かび続ける。

 10年ほど前に俺を正しい道へと導いてくれた彼女がふと、執事を抱き締める女と重なった。

 街のために悪に染まる覚悟を持った彼女と、執事を護るために手を汚す覚悟を持った女と。

『君のその力、この街に使ってくれないかな?』

 俺よりも弱い女性からの呼びかけ。普通なら断るだろうが、俺は手を取った。
 職業が人斬りだと分かったその日から、義務的に人を殺し続けなくてはならない自分を受け入れてくれる人をずっと探し求めていた。

 30年の乾きを潤してくれた彼女が守りたいこの街を守り、彼女を闇夜の暗殺者ナイトウォーカー』をを少しずつでも殺していくのが俺の使命であり、俺の存在意義だ。

 彼らを巻き込んだ俺は罪深いか?なあ、マヤミ………。


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 イグザは植人族?それとも人族?
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