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第4章 帰り道が騒がしい
第60話 2人の暗殺者の本音
しおりを挟む「くっそ!離せぇ!いきなり殴りかかりやがってぇ!少しは礼儀というものを知らないのか!?」
うるさく喚くこいつはグラミノとかいう、メサたちの上司らしき男だ。まあ、縄に縛られて頬は殴られた痕があって痛々しいが。
「彼は職業が傀儡子なので、人を操るスキルを持っているんです。格下にしか使えない制限付きの代わりに意識を無くして操る事が可能です」
メサの解説を聞きながらグラミノを見る。……うん、鍛えても無いし、この状況で魔法を使おうとしない事から魔法もあんまり強くないな。はっきり言って、メサたちよりは強くても、リーナより弱いな。
「お前たちは何だ?何を目的にしている?」
メサには聞けなかった事を聞いてみる。こいつからなら聞いてもメサとメイカが消される事は無いと思うからな。
「……はっ、そんなの言う訳がーーぐぼぉっ!」
生意気にも黙ろうとしたので腹を強めに蹴る。縛られながらも腹を隠すようにうずくまるグラミノの頭を踏みつける。
「お前に黙秘権なんかある訳がーーイテッ」
「ちょっと!暴力はダメでしょっ!!」
さらに追撃を加えようとした俺の頭をかなり強めに殴ったお嬢様に叱られる。……お嬢様も今俺に暴力振るったよね?
未だ頭を踏みつけていたせいで、お嬢様に睨まれてしまったので、足を退かして少し下がる。
「すみません、うちの者が失礼しちゃって…」
「ぐぅぅ、本当にあいつは容赦無いなっ!……おっ、あんたの体で礼をしてくれるならーー」
お嬢様の温情を踏みにじるような発言に殺意が芽生え、今からでも殺してやろうかと思っていた時、目の前に大きな炎がいきなり現れた。
人一人は入れそうなほど大きな炎はお嬢様の手のひらの上、つまりお嬢様の魔法によって発生した炎で、それをグラミノに徐々に近づけて行っている。
「やめ、やめっ!熱っ!俺が悪かったっ!もう調子に乗らないからっ!アツっ!その炎を消してくれぇぇっ!!」
後ろにいるのでお嬢様の顔も見えないが、大きな炎で見えないグラミノの顔は容易に想像出来た。
グラミノの必死の懇願によって、炎は消え、予想通りの涙と唾液で気持ち悪くなったグラミノの顔が見えた。
「ねぇ、あなたの正体も目的もどうでも良いからみんなを元に戻して?」
「そ、それをしたら俺は降伏したのも同然なんじゃーー」
「あれ?降伏してないの?」
有無を言わせない、炎という目に見える圧。先程と同じ大きさでありながら、両手から出しているので2個になった炎を目の前にして、グラミノは………
「…降伏しています。解除もします。知っている事全て吐きますから命だけは……」
初対面の時とはえらく変わった低姿勢な態度になり、頭を地面につくところまで下げた。
それを見たお嬢様は炎を消し、俺に気持ちの良い、すっきりとした感じの笑みを浮かべて親指を立てた。
確かに凄いけど、暴力はダメで脅しは良いの?
「メサぁぁぁ~」
「うわっ、そんなに泣かないでよ~」
「メイカ!生きてたかっ!!」
「当たり前でしょ!」
「2人とも任務に失敗して敵に捕まったなんて聞いたから心配したんだよ~!!」
グラミノのスキルから解放された仲間たちと再会し、喜びを分かち合っている微笑ましい空間の近くに、全て洗いざらい吐いた事によって、組織に顔向け出来なくなって凹んでいる男が悲しんでいる空間がある。……凄い場違い感があるな。
グラミノから聞きだした話によると、メサたちは城に襲ってきた『ジャティゴ』という大きな盗賊団の暗殺部隊に所属しているらしい。
その部隊の目的こそが、勇者の暗殺とカレナさんの抹殺。それを達成する事で他の組織と一気に国を落とすのが盗賊団の最終目的らしい。
グラミノはその暗殺部隊の責任者らしく、最高責任者では無いのでトップでは無いが、2番目に力を持っている地位にいるらしい。こんな雑魚のくせに。
「……で、どうしますか。こいつ」
「殺したらダメだけど、連れて行くのもね~」
殺したら手っ取り早いのに、お嬢様はそれをしたくないので殺す事が出来ない。
なら、ここに放置するか。でも、仲間が解放したりとか、知らない奴が解放しちゃって被害を受けるかもしれないしな。
「ちょっと!そこの人たちっ!!」
グラミノの処遇をどうしようかと悩んでいた時、メサとメイカに止められながらもメサの仲間たちは俺たちに高圧的に近付いてきた。
「グラミノ様の傀儡縛りから解放してくれたのは礼を言います。けど、メサとメイカは私たちの仲間なんです。ですから、否応でも連れて行きますっ」
「ああ、どうぞ」
「「あっさりっ!!」」
引き取り先が見つかったので引き取りを承認したら、メサとメイカに驚かれてしまった。え、だってわざわざ《グレアノス》に連れて行かなくてよくなったんだから、認めるのは普通じゃね?
「あんたらがそいつらを真っ当な仕事に就かせてやるんだろ?なら、不満も心配する事もねぇよ」
「そ、それは……」
「ん?どうした?まさかとは思うが……メサたちにまた暗殺者を一緒にやろうなんて言わないよな?」
言葉に詰まったところに、現実的にあり得そうな事を聞くと、図星だったようで、一気に高圧的な態度から弱々しいへなへななものになった。
俺はそいつらに近づきながら言葉を続ける。
「そいつらは俺が責任を持って、真っ当では無いかもしれないが少なくとも人の役に立つ仕事に就かせようと思っていたんだが……、あんたらが俺よりも良い仕事をそいつらにさせてやると思えるほど自信満々……いやデカイ態度で言ってきたんだから、それこそ騎士とか守衛、またまた役人でもしてくれんだろ?」
「……そ、そんなのできーー」
「あ?なんて?」
弱々しく、か細い声で何か言ったのでもう一度言うように言う。小さすぎて聞き取れなかったが、それはもう凄い職業に就かせるて言ったんだろうなー。
だが、そんな非現実な期待を裏切り、現実的で予想通りの回答が来た。
「……そんなの出来ない…です。私たちですら…そんな職業じゃない…のに」
もはや泣きそうな声でボソリと言った言葉はそれはもう、予想通りすぎて笑いがこみ上げて来そうなほどだった。
情けないこいつらに対しての笑いを押し殺し、高圧的に言う。
「なら、連れて行くなんて言うなよ。自分たちすら救えてない奴らが他の奴を救えるわけが無いだろ?」
ついには顔をうつむかせて黙り込むだけの、弱気な情けない集団と化したところから、遠ざけるためにメサとメイカの手を取り、引っ張る。
こいつらを連れて行くと決めたのはお嬢様だが、一緒に過ごした時間があるせいか、もう他人事とは思えない。俺は俺の意思でこいつらを送り届け、国王と交渉する。
だが、メサとメイカは俺の手を振りほどいた。そして、俺に向き合い、涙をうっすらと溜めながら言った。
「私だって、自分を救えてないっ!」
「ただリクトさんに救われただけなんですっ!」
もう歯止めが効かないのか、メイカとメサは交互に口を開く。
「自分も救えてない人は他の人を救ってはダメなの!?」
「余裕が無いのは分かってますっ!でもっ!職業が暗殺者だというだけで暗殺者になる事を止める人が居ないこの世界が悪いって思いませんかっ!!?」
メサとメイカは思った事を吐き出したようで、息を荒くして涙を少しずつ地面に落とす。それを聞いていた情けない連中も胸を打たれたのか、涙を浮かべたりしている。
「……そう、その言葉を待っていたんだ。よく気づいたな、この世界の異常さに」
「「え?」」
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