空のない世界(裏)

石田氏

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7章 終わりなき世界

01

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 悲鳴が響きわたる街中に、『空のない世界』からやって来た黒のドラゴンはその悲鳴を消し去るかのように吠えた。
「あれは・・・・なに?」
さくらはヘリの中で、その光景を見ていた。
「!?」
すると、『空のない世界』から光があらわれ、消える。よく見るとそれは複数の人影。
「真紀ちゃん!?それに、山吹さんに……あれは金色の少女!?どうなってるの・・・・とにかく、ヘリをあそこに」
「無理です。あの場所はドラゴンに近すぎます」
「でも、そしたら」




「いやあぁぁぁぁぁーーーーー」
落ちていく山吹は、遠くにある地面を見て、声をあげた。
「全く、こんなことでうるさいこと」
平然とする金髪の少女は、うるさくて耳を塞いでいた。
「何で平然としてられるわけ!?」
「ふきちゃん、大丈夫だよ」
「真紀ちゃん・・・何か策でもあるの」
「ないけど?」
「やっぱりーー!!」
「でも、このまま落ちたら君らは潰れて御陀仏だな」
「レム!あんたは何か策でもあるっていうの」
「私はテレポを使えばいいからねぇ~」
「そうだったー。真紀ちゃん!何か能力でなんとかしてぇー」
そう言われ、真紀は考える。
「助言するなら、君らが無事に着陸したとして、あのドラゴンをどうするつもりだい?」
確かにあのドラゴンは自分達のすぐ近くにいる。すぐにまきぞいをくらう可能性がある。
「どうせなら、君もあいつと同じ姿になればいいんじゃないのか?」
真紀は、はっとひらめく。レムが何を言いたいのか理解したのだ。
「真紀ちゃん?」
「では、私はおさらばさせていただくよ。もし、また会える時があるなら、次はあなたと一戦交えたいところだね」
「レム!あんた、やっぱり」
しかし、山吹が言い終わる前にレムはテレポートで消えてしまった。
「あっ!あいつ、行きやがった!!」
「ふきちゃん、私にしっかり捕まって」
「真紀ちゃん、何しようとするの?」
「私もあいつになる」
「へ?」

「  変身と変心の偉業・炎神  」

真紀は赤い光に包まれ、徐々にその姿を変えていった。

グオオォォォォーーー!!

「何がおきてるの?あれは真紀ちゃん!?」
ヘリから見ていたさくらの目にうつる視界は、黒いドラゴンと赤いドラゴンが睨みあう光景だった。





「真紀ちゃん!」
山吹はドラゴンになった真紀の首後ろ辺りにしがみついていた。

グオオォォォーーーー!

グオオォォォーーーー!

二人のドラゴンは互いに威嚇し、大きく息を吸い込む。

炎ーーーーー!

黒ーーーーー!

二つの吐き出された色は、二人の間でぶつかり混ざり合う!
 しかし、色は黒が増していき、炎を塗り潰していく。
「真紀ちゃん、このままじゃやられちゃう!」
徐々に迫る黒。色の中でも一番強く、全ての色を呑み込もうとする勢いで迫ってきた。
「真紀ちゃん!!」
山吹の声をあげるのと同時に炎は黒にのみ込まれこちらにやって来た!

「きゃあぁぁぁーーーーーー!」

黒にのみ込まれた二人はそのまま黒の咆哮を受け続けた。




「真紀ちゃん!山吹さん!」
のみ込まれた二人を見て、思わず身を外に乗り出すさくらに、周りの軍人がとめる。
「さくらさん、危ないです!」
「早く、早く二人を救助に!」
「いえ、無理です。あの黒いドラゴンが近くにいる以上、こちらから近くことはできません」
「どうしてよ!」
分かっている。自分にはどうしようもないことを。しかし、世界の為に戦おうとしている二人が、果てしない黒の世界にのみ込まれたのを前に、救助が出来ないことに、さくらは唇を噛む。



                              +  +  +


「うっ・・・・ここは?」
黒の世界に一人、真紀はいた。
「確か、あの黒いドラゴンと戦って・・・」
思い出した。確か、あの黒いのにのみ込まれたんだった。
「じゃあ、ここは……そうだ!ふきちゃんは!?」
あの時一緒だったはず!
 しかし、周りを見渡しても黒一色しかなかった。
「ふきちゃん、ふきちゃんどこなの。いたら返事して」

・・・・・・

声ははかなくも真紀の、自身の声以外何もしなかった。

「ふきちゃん・・・・・・お願い、返事して・・・・よ」
真紀は、山吹を巻き込んでしまったことに、涙を流していた。
「うっ・・・・うぅ・・お願い・・ふきちゃん、返事して!」

・・・・・・

「ああああああぁぁぁぁーーー!!」

泣き叫び倒れ崩れた。

「ああああああ」

その時、

「ああああああぁぁ、ぁぁ……っ?」

真紀を照らす眩しい光があらわれた。


真紀

真紀、しっかりするのです

あなたの友人は無事です

ですから、今の状況を打開する方法を考えるのです


「でも・・・・」


あなたには見えますか

黒に染まる空でもなく、

滅亡の空『空のない世界』でもなく、

美しく映る青い空を


「青い空・・・・」


それがあなた達の世界ではないんですか

あなたは、その世界を守ろうと戦っているのでしょ

誰に従われたわけでもなく、あなた自身の意思で

なら、戦いなさい

泣いても立ち上がりなさい

負けそうになっても、

泣き崩れそうになっても、

くじけそうになっても、

譲れないものがあるなら、その為に戦いなさい

例え、神がなんと言おうが

世界の輪回転だの理屈なんて考えず、

あなたの守りたいものが世界にあるのなら、

戦って勝ちなさい


「はい」


光は徐々に黒を消し去る。



真紀。

あなたは、どの色にもなれる存在です

黒に怯えず戦うのです



虹色の光を放つ世界構築の少女はそう言いきると、全ての黒を輝く世界に塗り替えた。


「ふきちゃん!」
「真紀ちゃん!?」
なんとすぐそばにいた二人は互いに驚き合った。
「どこにいたの?」
「それはこっちのセリフよ。視界は真っ黒で何も見えなかったからねぇ。
 ん?それより、真紀ちゃん泣いてたの?」
はっと、真紀は涙をぬぐう。
「いや、ちょっと眠たくなって・・・」
「あくびじゃないでしょ。どうせ真紀のことだから、真っ暗で怖くて泣いてたんでしょ」
「なっ!違うし」
「え~、どうかな~?」
「もうっ!それよりふきちゃん」
「うん」
「アイツをどうにかしよう」
真紀の視界は、未だ健在な黒いドラゴンがいた。

グオオォォォーーー!!

「真紀ちゃん、どうするの?」
「もう一度、変身する」
「もう一度って・・さっきと同じ結果になるのがオチだよ」
「今度は考えがある」
「今度は大丈夫なんだよね」
「うん」
「分かった、信用してる。私はどうすればいい?」
「ここで見守ってて欲しい」
「・・・・分かったよ。でも、無茶だけはしないでよ」
「うん、分かった」
真紀はそのまま黒のドラゴンの出前のところまで近いた。

グルルルルルルーー

山吹は真紀の背後で見守った。

「変身と変心の偉業・炎神  」

真紀の周りで赤く輝く光。
「ん?」
山吹はいつもよりその光が強いことは理解できた。しかし、その割に色が薄かった。まるで透けるように薄い。

グオオォォォーーー!

大きく姿を変えた真紀があらわれた。
 再び、二匹のドラゴンがこの地で、しかも短時間でまた睨み合う。

グオオォォォォーーー!!

グオオォォォォーーー!!

二匹は走り出し、そしてぶつかり衝突した。激しい衝撃波で、近くに転がる車が吹き飛ばされる。
「うっ」
山吹は吹き飛ばされないよう、衝撃波を念力でつくった壁でなんとか防いだ。
 その後も二匹のドラゴンはぶつかり合う。

グオオォォ!!

真紀のドラゴンは、爪で黒のドラゴンの顔に傷をつける。
 黒のドラゴンはそれに怒り、尻尾を相手の横腹にぶつけた。

グッ!

あまりの激痛に膝をついたドラゴンは、更に上からのっかかろうと両手で頭を抑えつける。しかし、中腰から相手の懐に直進し、反撃を与える。

グアアァァァーー!!

黒はそのまま後ろに倒れこみ、その衝撃で道路を割る。
 真紀は急いで相手に近く。なるだけ、体勢をたて直す時間をなくそうとしているのだ。
 真紀は相手の顔面を踏み潰す。片足何キロになるか分からない衝撃に、黒は暴れる。しかし、暴れながらその足をどかそうとするが中々うまくいかないでいた。暴れれば暴れる程、真紀は強く踏み込んだ。そのたびに、道路を陥没させながらも、更に地面深くまで頭を潜らされていた。

グオオォォォーー!

「!」
黒のドラゴンは息を深く吸い込み、あのブレスを放った!
「真紀ちゃん!」
黒はブレスの勢いをかり、真紀の足ごと上へとあげて、地面から顔を離す。
 真紀はバランスを崩しながらも素早く体勢を立て直す。それと同時に黒も同様に立て直した。
 再び、二匹は睨み合う。
 そして、両者は息を吸い込むと、少し合間を開けてから

炎ーーーー!

黒ーーーー! 

両者のブレスがぶつかり合った。しかし、先程同様に真紀のブレスは黒におされていた。
「真紀ちゃん!このままじゃ」
黒は炎を飲み込み、真紀を襲う。
「真紀ちゃん!!」
黒にのみ込まれた真紀は、そのまま黒い世界にのみ込まれていく。
「真紀ちゃん!?・・えっ?」
しかし、のみ込まれたと思われた真紀は、そのまま黒を逆に吸いこんでいく。
「まさか・・・・黒すらも自分の中に取り入れようとしてるの!?」
黒は、そのまま真紀に取り込まれ、真紀は赤と黒の交互のしましま模様のドラゴンへと変化した。

グオオオオオオォォォォォォォォォォーー!!

真紀は再び息を吸い込み、今度は先程の倍以上の赤と黒の混じったブレスを放った。


ーーーーーーーーーー!!!


のみ込まれた黒は何も言えずに、その光の中へと姿を消した。
「やったの!?」
黒のドラゴンは既に消え、黒い光が宙に向かって消えていった。

グオオォォォーーー!

「どうしたの?」
突然吠える真紀に、山吹は疑問を投げかけた。しかし、それも直ぐに分かった。

ケケケケケケケケケケケケ

あのピエロの笑い声である。
 山吹はすぐにピエロを探すように辺りを見渡すと、先程黒がいた場所に、ピエロの首だけが転がっているのを見つけた。

ケケケケケケケケ

ドンッ!

「ま、真紀ちゃん・・・・」
真紀は首だけになったピエロを踏み潰した。

キャーーーーーーー

悲鳴と共に、真紀の足の裏の隙間から黒い影が動いてるのが分かったが、それも直ぐに消えてなくなった。
「終わった・・の?」
山吹は空を見上げた。すると、『空のない世界』は徐々に消えていき、青い空だけが残った。
「真紀ちゃん、やったよ!私達、勝ったんだよ」
赤い光と共に、真紀は姿を戻す。
「うー、疲れた~」
「真紀ちゃん!」
「うっ、苦しい」
山吹はあまりの嬉しさに真紀を強く抱き締めた。


おめでとう



「その声は!?」
虹色と共に空からあらわれたのは、世界構築の少女だった。


よくやりました。あの『嘆き姫』と黒の少女をよく倒しましたね

しかし、世界の滅びは変わりません

御存知の通り、世界にも寿命はあります。それを回避することは出来ません

ただ、人類には選択肢がありました

一つは、今の世界を寿命がくる前に滅ぼし再生させ、新たな世界をつくること

もう一つは、この世界を最後に、人類の生きる世界を終わりとすることです

ここでの選択肢に人類に利点はありませんでした。しかし、自らの滅びを早め新たな世界、別世代に託すか、自分たちを終わりの時にするかという重要な選択肢だったことに変わりはありません

なぜ利点のない人間に神は選択肢を与えたのかは、実際にこの世界で生きてきたからだとのこと。しかし、普通に選択肢を投げかけた場合、人間は決まって自分達を選択するでしょう

ですから、神は試練を与えたのです。『嘆き姫』は確かに若くして命を亡くした少女の怨によるものですが、そのよりしろのピエロの人形は、神の手で作られた物なんです

つまり、神殺しの神を神自身の手で作ったということです。おかしな話しですね

ですが、事情を知った東のような者がいれば、それでも生きることを放棄せず、生きることを選択し、あがらうことを決めた者。それらがぶつかり合い、今この場で決着がつきました

神はどちらでも良かった。このまま世界の寿命を迎えるか、輪回転の法則に従い世界を作り替えるか。それを人間に押し付け選択させたという訳です

つまり、神は凄くいい加減なんですよ。血液型で言えばO型でしょうかね。しかし、私は選択を人類に託したことには賞賛してます

この結果を尊重し、神は世界を作り替えず、人類の生きる今の世界を最後にすることに決めました

さて、役目を無くした私はこのまま消えることになります


「えっ!?」
「消えるんですか!?」


はい。つまり、私が消えることで色なしの少女、つまり能力は消えます。これで通常に戻る訳です

勿論、その後も人類にとって苦労は出てくるでしょう。しかし、神が与えた試練を乗り越えたあなた方なら、どんな苦労も越えられるでしょう

そろそろ時間もきたようです


「あの、質問いいですか?」
「真紀ちゃん?」


はい、何でしょう?


「もしかして、今の世界の前に既に世界は何回も作り替えてきたんですか?」


はい。421回です。勿論、人類とは少し違いますが同じく頭脳を持った知的生命体にも同じく選択をし、次の世代に託したわけです


「つまり、私達がこうしているのも・・・・」


確かにその通りです。彼らが次世代に託さなければ、人類は存在しなかったでしょう。しかし、悔いることがあってもその選択に間違いはありません。恐らく、彼らも選択した後に悔いたのかもしれません。ならばこそ、人類は生きなければならないのかもしれません


「ありがとうございます」


いえ、構いませんよ。それではもうすぐお別れですね。最後に一つだけ


死神には気をつけて

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