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《第3幕》13章 終わらない戦場
03
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「今日から配属になった真紀です」
「おい、嘘だろ。こんな偶然……」
アッシュは口をおさえて、驚きを隠した。
「上官の命令で、一度共にしているから早く馴染むだろうとのことだ」
「そりゃあ、そうかも知れないが」
「私は誰が来ようと構わない」
エラは銃の整備をしながら言った。
「今更メンバーの自己紹介はいらんな。じゃあ早速、任務の話だ」
アイザが任務と口にした瞬間、皆の背筋が自然と伸びた。
「第5拠点が崩落してから、アンノウンの動きを我々は調査してきたが、奴らはこちらではなく、他の拠点に向かったとされる。本来、第5拠点の近くと言えばここになるはずだが、奴らの動きが最近よめなくなってきている。
現在、奴らは第5拠点から一番遠い第3拠点へ向かっていることが、第2拠点の調査隊によって判明された」
「第3拠点!?それって、俺達にとっても遠いだろ」
「だが、拠点は既に残り3つしかないんだ。我々は第3拠点の救援を行う。ただし、行くのは我々の隊だけだ」
「俺達だけでか!?」
「さすがの俺でも、それは無理だと言わざるおえないぞ、アイザ」
「アッシュ、コリンズ、お前らの言う事は確かだ。だが、多くの隊が出ればここは手薄になってしまう。それに、これは上官からの命令だ。これは、決定事項なんだ」
とは言え、無茶であることは確かだった。
「上層部は本当に第3拠点を救援する気はあるのか?」
「アッシュ、滅多なこと言うな」
しかし、アッシュの疑問は一理あった。
すると、今度はルビーが口を出した。
「ねぇ、アイザ。これ、上層部の決定ではないわね。上層部は最初から救援はよこさないつもりでいた。でも、あなたが救援の必要を訴え、自分達隊だけでも行かせて下さいとか言ったんじゃない?」
「本当ですか、リーダー」
アイザは腕をくみ少し黙ったあと、ため息をつきなぎら「そうだ」と頷きながら言った。
それには皆驚いた。
「理由はある。赤だ。第2調査隊の連絡によるとアンノウンの群れの中に赤いアンノウンがいたそうだ」
「赤!?」
真紀以外の皆がその瞬間、驚いた。そして、エラだけ眼帯に手を当てた。
「赤って?」
真紀は一人ついていけなかった為、隣にいた雫に聞いてみた。
「赤は、アンノウンの体の色。基本、真紀が最初に会ったアンノウンと同じく白だけど、たまに進化を遂げて他のアンノウンとは違う体型になるの」
「それが大型アンノウンだ」
雫の言ったことにアイザは付け足した。
「大型アンノウンって?」
「大型アンノウンは突然変異みたいなものだ。そして、俺達にとっては仇でもある。エラの片目を奪い、仲間を殺した奴さ」
「真紀が来る前の話だよ」
真紀はこれ以上聞かないでおいた。ただ、分かったのはアンノウンの中でも強い奴がアイザ達の仲間を襲い、その仇が久しぶりに見つかった。それだけで充分、アイザが仲間に相談しないで勝手に判断した理由が分かる。
「だけど、アイザ。真紀には関係ないことよ。あなたの勝手な判断で決めることではないわ」
「真紀はもう無関係じゃない。俺達の仲間になったんだ。過去の仲間を知らないだけで仲間外れにするつもりはない」
「そうじゃない。アイザ、知っているでしょ。あのアンノウンだけ、桁外れに強かったことを。ただの復讐だけでは奴は倒せない」
「なら、仇のアイツをほっとくのか」
「そうじゃない。何で感情ばかりで行動するの。冷静に考えて行動するのよ。もう、これ以上仲間を失いたくないの」
「そんなことぐらい分からないと思ったのか。分かっているさ。だが、これを逃せば今度いつ会える?俺達はずっと奴を探してきた。態勢を立て直し、その時が来るのを。それが今だ。前は〈戦艦〉だったが、今回は違う。〈陸潜艦〉がある。奴に気付かれないまま奴の懐まで近くことが出来る」
「確かにそうよ。前とは戦力が違う。でも、真紀にとっては実践は初めてよ。それなのにアンノウンの群れの中にいるアイツをめがけて突っ込むつもり?」
「真紀は初めてじゃない。真紀は既にあの時経験している。それに、個人で戦う訳じゃない。チームで戦うんだ。真紀の分、俺らがカバーすればいい」
アイザの必死な訴えに、しかしルビーは首を横に振った。
「ダメよ。あれを実践として考えるなんて正気じゃないわね。アイザ、復讐のことで頭が一杯なんでしょ。これが普通の指令で、任務なら受けたわ。でも、あなたの独断で決めたことなら私はやらないわ」
「何故だ。ルビー、俺に反発ばかりだが、お前も復讐したいと思っているはずだ。そのチャンスをみすみす逃すというのか」
「チャンスじゃないわ。自殺よ、これは。とにかく、私と真紀はこれには関わらない」
「勝手に決めるな。この隊のリーダーは俺だ」
「私達を勝手に所有物にしないで」
「なんだと」
ヒートアップする二人に、遂にコリンズが立ち上がった。
「おい、勝手に夫婦喧嘩を始めるのはよしてくれ」
「おい、コリンズ。何が夫婦喧嘩だって?まず、お前から打ちのめそうか」
「そうよ。つまらない冗談やめて」
「冗談?冗談に見えるのか?俺達は今何をやっている。これが会議なのか?笑わせるなぁ。さっきから話の間に真紀のことを言っていたが、当人の話を聞きもしないで勝手に決めつけ、勝手に盛り上がってるのを、他の皆が付き合わされている気持ちを考えたことはあるか?お前ら二人とも自己中なんだよ」
「え、自己中?私が?」
「ルビー、それに気づけないならかなりの重症ものだぞ」
それを言われ、ルビーもアイザも黙ってしまった。
「アイザ、俺は指揮不足で仲間を失わせてしまった。俺はその責任を負い、全てをお前に任せることにした。俺はお前の下になり、お前の言うことは全て従ってきた。だが、今のお前の指示には従えない。皆そうだ。だこら、リーダーを変われ。お前にはリーダーの素質がなかったようだ」
「じゃ、コリンズがリーダーってこと?」
アッシュは聞いた。
「いや、俺は一度リーダーから降りたんだ。また、やろうなんて思ってない。リーダーは他の奴がやる。真紀、君に任せたい」
「え!?」
それには真紀は驚いた。
「正気か?」
さすがのアイザも声を出した。
「正気じゃないお前に言われたくない。あの時、真紀が初めてアンノウンに会い、ポンコツの〈戦艦〉に乗った時のことを覚えているだろう。あの時の皆はどうだった?アイザは冷静を失い、ルビーは後悔しアイザと突っかかり、アッシュは興奮状態で砲撃しまくったおかげで視界が悪くなり状況を悪化させ、雫とエラはこの場の打開策を考えずリーダーに任せっきり。唯一、あの場でまともだったのは真紀一人だけだった。とてもあれが初めてとは思えないほど冷静だった。初めてアンノウンに会った時のことをお前らは覚えてるだろ。ギャーギャー喚いていたはずだ」
真紀以外の皆が下をうつむいた。
「俺も最初に見た時はチビりそうになったよ。だが、真紀は俺達以上に戦いに馴れている。打開策も悪くなかった」
真紀は少し顔を赤め、照れた。
「この部隊を真紀に任せたい。どうだ、皆は」
「いいんじゃない」
「エラ!?」
「二人の喧嘩で話が進まないのは事実。はっきり言って、このチームのリーダーは他の奴がやるべきだとは最初っから思ってたとこだから」
「私はこの世界をよく知らない、入隊したばかりの真紀には負担が大きいと思う」
「勿論、そこは俺がカバーする」
「なら、コリンズは副リーダーやれば。ちょうどメンバーも増えたんだし」
「真紀はどうだ?やってくれるか」
「え…わ、私がこの部隊を!?」
真紀はメンバーを見渡した。
「でも、誰かを指揮したことなくて」
「確か、前の世界では一人でほとんど戦っていたんだろ。敵がどんな奴かは知らんが、いずれ強敵に出会ったら一匹狼は通じなくなる。もし、真紀が元の世界に戻れたとしたら、そいつと今度は戦うんだろ。その時、必ず仲間が必要になる」
確かにコリンズの言うことは現実だった。そして、元の世界に戻れたとしたら恐らく巫女や、死神とも戦うことになるだろう。まだ、敵のことを知らない真紀だが、『空のない世界』出現の際に協力してくれた世界構築の少女が警告したことは、今でも忘れていない。それほどまでに、世界崩壊と同じぐらいの規模が襲いかかろうとしているということだ。となれば、真紀一人で今後防いでいくのは無理がいずれ出てくるはずだ。その際、多くの犠牲者が出る。
世界構築の少女が世界から消え、少女達は能力を失い、戦えるのは自分だけだと思っていた。しかし、それで一人でやってみてどうなったかを思い出した。宇宙エレベーターでキャプラに、誘拐され殺されたさくら、他にも六大武将による被害者はいるし、次々と殺されていくかつての英雄達。
もう、最初から一人では無理だったのがよく分かった。
真紀は一呼吸してから、真剣な顔で皆を見た。そして、コリンズに再び顔を向けると
「私、やるよ」
真紀はそう言いきった。
「分かった。なら、俺はお前の援護をしよう」
真紀は頷いた。それを確認したコリンズはアイザ、ルビー、アッシュに顔を向けた。
「それで、お前達の意見は聞いていなかったがどうなんだ」
「俺は……リーダーを降りる」
「アイザ!?」
「本気か?」
ルビーとアッシュは同時に驚いた。
「あぁ、本気だ。俺にはリーダーの素質がないのは分かっていた。正直、今はほっとしてるんだ」
「アイザ……」
「最初、コリンズにリーダーをやらないかと言われた時は嬉しかったよ。正直に言うと、このメンバーの中で俺が優れているって認められた気がした。だが実際、思った以上に指揮がとれなかった。どうやって舵をきったら皆がまとまるのか分からなかった。何より策を練る程の頭脳が俺にはなかった。だから、コリンズがその話をした時、自分からリーダーを降りた人間が何を言ってやがるとは思ったが、どうしても言い返せるものが俺にはなかった。それで、気づいたんだ。俺には素質がないって。
だから、やっと解放される感じで、ほっとしてんだ」
「すまなかった」
「謝らないでくれ、コリンズ。これでも、めったに経験出来るようなものではないことをやらしてくれたんだ。それだけは感謝している。あとはぶん殴りたいだけ」
コリンズは頷き「殴れ」と、アイザに顔を差し出した。
アイザは容赦なく、彼の頬に拳を放った。
「ルビー、俺を殴れ」
「え?」
突然、アイザに言われ戸惑った。
「スッキリさせたいだけだ」
そう言われ、ルビーは少し考えてから「分かったわ」と言って、アイザの目の前に立った。
「思いっきりやってくれ」
ルビーは頷くと、彼の頬に平手を放った。
パチンッ!
アイザは驚き、ルビーを見る。
「何でビンタなんだよ」
「え?」
「普通、流れ的に拳だろ」
「あ、ごめんなさい。じゃ、やり直すわ」
「何でやり直すんだ」
「え?」
すると、コリンズが咳払いした。
「そろそろいいか」
「あ、あぁ。悪い」
アイザはルビーを見て「クソッ」と言い放ち、再び前を見た。
逆ギレされたルビーはアイザを睨み付け「何よっ」とそっぽを向いた。
コリンズはもう一度咳払いをする。
「じゃあ今後の話だ。まず、アイザが言っていた件だが、どうするかまだ決まっていない。話を整理するが、第3拠点にアンノウンの群れが向かっている。その中に赤の大型アンノウンが紛れている。分かっていることは、本部は救援する気はなく、行くのは自由だが単独行動になるということだ。そして、間違いなく本部が動かないということは第2拠点も動かない可能性がある。つまり、第3拠点にとって今大ピンチということだ。そこで、新しいリーダーに聞きたい。アイザは救援しようとした。だが、ルビーは反対した。しかし、両者の意見は違っていたが、どれも正論だ。助けに行けば、こちらが不利。助けなければ第3拠点は陥落するだろう。リーダーはどう判断する」
「助けに行く」
「即答だな。迷いがない。決断に迷いがなければ行動にも迷いはなくなる。それはいいことだが、結論を早めれば後悔があとからうまれるぞ」
「それは違うよ。どの選択肢にも後悔はある。だから、どっちの方が後悔が少ないかを考える」
「成る程。して、どうして助けに行くことが後悔が少ないと判断した?仲間が死ぬかもしれないんだぞ」
「助けに行がなければ人間として後悔すると思う。仲間は大事だし、正直他人を助ける義理はない。多分、それがここの本部の考えだと思う。
だけど、助け合わなければアンノウンは倒せないんでしょ。アイザは私に言ってくれた。この世界に国境はないって。なら、拠点という境もないはず。助け合わなければ勝てないなら、行かなきゃ。多分、本部は諦めてる。人類がアンノウンには勝てないと。だから、せめて少しでも生き延びれる選択を選んだ。
でも、私は諦めない。人類が勝たなきゃ、それ以上の後悔はないでしょ」
「……あぁ、そうだな」
「でも、これは私の意見だから、皆の意見も聞きたい」
「別にいいんじゃない。あそこまで言われたら、逆にじっとできないし」
「あぁ、そうだな」
「まぁ、皆がそれでいいなら私はそれ以上反対はしないわ」
「ルビーまで!?あんなに反対してたのに」
アッシュは驚いた。
「何でかな、アイザ以外の人間の言うことはすんなり聞けそうなんだよね」
「なんだ、それは」
アイザが思わずつっこむ。
「私は怖いけど、皆が一緒なら」
「雫、やめて。皆でいれば怖くないとか言うんじゃないんでしょうね。あなたの意見を聞いてるの」
「……正直怖い。でも、見捨てられない。私、その為に軍に入隊したの。別にお母さんの仇とかじゃなくて、真紀の言う通りアンノウンに勝ちたい。私、やるよ」
「そう。雫も知らない間に成長してたのね」
「え?」
「いえ、何でもないわ」
「あとはアッシュだけだぞ」
アッシュは予想していない出来事に、おどおどしていた。そして、意を決したのか、足を震わせながら
「当然、俺は最初からやる気だったぞ。奴等を砲撃の餌食にしてやれる」
「足が震えてるぞ」
アイザがアッシュの足を見てツッコミを入れた。
「震えてなんかないよ」
「苦しい言い訳だな。まぁ、いい。とにかく、全員の意見が一致した」
「こんなこと、珍しいわね」
「それ、大抵はお前のせいだって分かっていて言ってるのか」
「え?」
ルビーは首を傾げた。
「リーダー、それでどうする?」
真紀は顔を上げ、皆を見た。そして、
「行こう!」
「「了解」」
皆が返事をした。
ーーーーーー
その頃、第3拠点では。
「何で救援に来ないんだ!」
「知るか。せいぜい見捨てられたんだろう」
既にアンノウンの群れが拠点の目の前まであらわれていた。そして、その中で唸る赤い色をしたアンノウン・ウォーがいた。
「何だ、あれは!?」
それは他のアンノウン・ウォーと比べて一段と大きかった。
「おい、嘘だろ。こんな偶然……」
アッシュは口をおさえて、驚きを隠した。
「上官の命令で、一度共にしているから早く馴染むだろうとのことだ」
「そりゃあ、そうかも知れないが」
「私は誰が来ようと構わない」
エラは銃の整備をしながら言った。
「今更メンバーの自己紹介はいらんな。じゃあ早速、任務の話だ」
アイザが任務と口にした瞬間、皆の背筋が自然と伸びた。
「第5拠点が崩落してから、アンノウンの動きを我々は調査してきたが、奴らはこちらではなく、他の拠点に向かったとされる。本来、第5拠点の近くと言えばここになるはずだが、奴らの動きが最近よめなくなってきている。
現在、奴らは第5拠点から一番遠い第3拠点へ向かっていることが、第2拠点の調査隊によって判明された」
「第3拠点!?それって、俺達にとっても遠いだろ」
「だが、拠点は既に残り3つしかないんだ。我々は第3拠点の救援を行う。ただし、行くのは我々の隊だけだ」
「俺達だけでか!?」
「さすがの俺でも、それは無理だと言わざるおえないぞ、アイザ」
「アッシュ、コリンズ、お前らの言う事は確かだ。だが、多くの隊が出ればここは手薄になってしまう。それに、これは上官からの命令だ。これは、決定事項なんだ」
とは言え、無茶であることは確かだった。
「上層部は本当に第3拠点を救援する気はあるのか?」
「アッシュ、滅多なこと言うな」
しかし、アッシュの疑問は一理あった。
すると、今度はルビーが口を出した。
「ねぇ、アイザ。これ、上層部の決定ではないわね。上層部は最初から救援はよこさないつもりでいた。でも、あなたが救援の必要を訴え、自分達隊だけでも行かせて下さいとか言ったんじゃない?」
「本当ですか、リーダー」
アイザは腕をくみ少し黙ったあと、ため息をつきなぎら「そうだ」と頷きながら言った。
それには皆驚いた。
「理由はある。赤だ。第2調査隊の連絡によるとアンノウンの群れの中に赤いアンノウンがいたそうだ」
「赤!?」
真紀以外の皆がその瞬間、驚いた。そして、エラだけ眼帯に手を当てた。
「赤って?」
真紀は一人ついていけなかった為、隣にいた雫に聞いてみた。
「赤は、アンノウンの体の色。基本、真紀が最初に会ったアンノウンと同じく白だけど、たまに進化を遂げて他のアンノウンとは違う体型になるの」
「それが大型アンノウンだ」
雫の言ったことにアイザは付け足した。
「大型アンノウンって?」
「大型アンノウンは突然変異みたいなものだ。そして、俺達にとっては仇でもある。エラの片目を奪い、仲間を殺した奴さ」
「真紀が来る前の話だよ」
真紀はこれ以上聞かないでおいた。ただ、分かったのはアンノウンの中でも強い奴がアイザ達の仲間を襲い、その仇が久しぶりに見つかった。それだけで充分、アイザが仲間に相談しないで勝手に判断した理由が分かる。
「だけど、アイザ。真紀には関係ないことよ。あなたの勝手な判断で決めることではないわ」
「真紀はもう無関係じゃない。俺達の仲間になったんだ。過去の仲間を知らないだけで仲間外れにするつもりはない」
「そうじゃない。アイザ、知っているでしょ。あのアンノウンだけ、桁外れに強かったことを。ただの復讐だけでは奴は倒せない」
「なら、仇のアイツをほっとくのか」
「そうじゃない。何で感情ばかりで行動するの。冷静に考えて行動するのよ。もう、これ以上仲間を失いたくないの」
「そんなことぐらい分からないと思ったのか。分かっているさ。だが、これを逃せば今度いつ会える?俺達はずっと奴を探してきた。態勢を立て直し、その時が来るのを。それが今だ。前は〈戦艦〉だったが、今回は違う。〈陸潜艦〉がある。奴に気付かれないまま奴の懐まで近くことが出来る」
「確かにそうよ。前とは戦力が違う。でも、真紀にとっては実践は初めてよ。それなのにアンノウンの群れの中にいるアイツをめがけて突っ込むつもり?」
「真紀は初めてじゃない。真紀は既にあの時経験している。それに、個人で戦う訳じゃない。チームで戦うんだ。真紀の分、俺らがカバーすればいい」
アイザの必死な訴えに、しかしルビーは首を横に振った。
「ダメよ。あれを実践として考えるなんて正気じゃないわね。アイザ、復讐のことで頭が一杯なんでしょ。これが普通の指令で、任務なら受けたわ。でも、あなたの独断で決めたことなら私はやらないわ」
「何故だ。ルビー、俺に反発ばかりだが、お前も復讐したいと思っているはずだ。そのチャンスをみすみす逃すというのか」
「チャンスじゃないわ。自殺よ、これは。とにかく、私と真紀はこれには関わらない」
「勝手に決めるな。この隊のリーダーは俺だ」
「私達を勝手に所有物にしないで」
「なんだと」
ヒートアップする二人に、遂にコリンズが立ち上がった。
「おい、勝手に夫婦喧嘩を始めるのはよしてくれ」
「おい、コリンズ。何が夫婦喧嘩だって?まず、お前から打ちのめそうか」
「そうよ。つまらない冗談やめて」
「冗談?冗談に見えるのか?俺達は今何をやっている。これが会議なのか?笑わせるなぁ。さっきから話の間に真紀のことを言っていたが、当人の話を聞きもしないで勝手に決めつけ、勝手に盛り上がってるのを、他の皆が付き合わされている気持ちを考えたことはあるか?お前ら二人とも自己中なんだよ」
「え、自己中?私が?」
「ルビー、それに気づけないならかなりの重症ものだぞ」
それを言われ、ルビーもアイザも黙ってしまった。
「アイザ、俺は指揮不足で仲間を失わせてしまった。俺はその責任を負い、全てをお前に任せることにした。俺はお前の下になり、お前の言うことは全て従ってきた。だが、今のお前の指示には従えない。皆そうだ。だこら、リーダーを変われ。お前にはリーダーの素質がなかったようだ」
「じゃ、コリンズがリーダーってこと?」
アッシュは聞いた。
「いや、俺は一度リーダーから降りたんだ。また、やろうなんて思ってない。リーダーは他の奴がやる。真紀、君に任せたい」
「え!?」
それには真紀は驚いた。
「正気か?」
さすがのアイザも声を出した。
「正気じゃないお前に言われたくない。あの時、真紀が初めてアンノウンに会い、ポンコツの〈戦艦〉に乗った時のことを覚えているだろう。あの時の皆はどうだった?アイザは冷静を失い、ルビーは後悔しアイザと突っかかり、アッシュは興奮状態で砲撃しまくったおかげで視界が悪くなり状況を悪化させ、雫とエラはこの場の打開策を考えずリーダーに任せっきり。唯一、あの場でまともだったのは真紀一人だけだった。とてもあれが初めてとは思えないほど冷静だった。初めてアンノウンに会った時のことをお前らは覚えてるだろ。ギャーギャー喚いていたはずだ」
真紀以外の皆が下をうつむいた。
「俺も最初に見た時はチビりそうになったよ。だが、真紀は俺達以上に戦いに馴れている。打開策も悪くなかった」
真紀は少し顔を赤め、照れた。
「この部隊を真紀に任せたい。どうだ、皆は」
「いいんじゃない」
「エラ!?」
「二人の喧嘩で話が進まないのは事実。はっきり言って、このチームのリーダーは他の奴がやるべきだとは最初っから思ってたとこだから」
「私はこの世界をよく知らない、入隊したばかりの真紀には負担が大きいと思う」
「勿論、そこは俺がカバーする」
「なら、コリンズは副リーダーやれば。ちょうどメンバーも増えたんだし」
「真紀はどうだ?やってくれるか」
「え…わ、私がこの部隊を!?」
真紀はメンバーを見渡した。
「でも、誰かを指揮したことなくて」
「確か、前の世界では一人でほとんど戦っていたんだろ。敵がどんな奴かは知らんが、いずれ強敵に出会ったら一匹狼は通じなくなる。もし、真紀が元の世界に戻れたとしたら、そいつと今度は戦うんだろ。その時、必ず仲間が必要になる」
確かにコリンズの言うことは現実だった。そして、元の世界に戻れたとしたら恐らく巫女や、死神とも戦うことになるだろう。まだ、敵のことを知らない真紀だが、『空のない世界』出現の際に協力してくれた世界構築の少女が警告したことは、今でも忘れていない。それほどまでに、世界崩壊と同じぐらいの規模が襲いかかろうとしているということだ。となれば、真紀一人で今後防いでいくのは無理がいずれ出てくるはずだ。その際、多くの犠牲者が出る。
世界構築の少女が世界から消え、少女達は能力を失い、戦えるのは自分だけだと思っていた。しかし、それで一人でやってみてどうなったかを思い出した。宇宙エレベーターでキャプラに、誘拐され殺されたさくら、他にも六大武将による被害者はいるし、次々と殺されていくかつての英雄達。
もう、最初から一人では無理だったのがよく分かった。
真紀は一呼吸してから、真剣な顔で皆を見た。そして、コリンズに再び顔を向けると
「私、やるよ」
真紀はそう言いきった。
「分かった。なら、俺はお前の援護をしよう」
真紀は頷いた。それを確認したコリンズはアイザ、ルビー、アッシュに顔を向けた。
「それで、お前達の意見は聞いていなかったがどうなんだ」
「俺は……リーダーを降りる」
「アイザ!?」
「本気か?」
ルビーとアッシュは同時に驚いた。
「あぁ、本気だ。俺にはリーダーの素質がないのは分かっていた。正直、今はほっとしてるんだ」
「アイザ……」
「最初、コリンズにリーダーをやらないかと言われた時は嬉しかったよ。正直に言うと、このメンバーの中で俺が優れているって認められた気がした。だが実際、思った以上に指揮がとれなかった。どうやって舵をきったら皆がまとまるのか分からなかった。何より策を練る程の頭脳が俺にはなかった。だから、コリンズがその話をした時、自分からリーダーを降りた人間が何を言ってやがるとは思ったが、どうしても言い返せるものが俺にはなかった。それで、気づいたんだ。俺には素質がないって。
だから、やっと解放される感じで、ほっとしてんだ」
「すまなかった」
「謝らないでくれ、コリンズ。これでも、めったに経験出来るようなものではないことをやらしてくれたんだ。それだけは感謝している。あとはぶん殴りたいだけ」
コリンズは頷き「殴れ」と、アイザに顔を差し出した。
アイザは容赦なく、彼の頬に拳を放った。
「ルビー、俺を殴れ」
「え?」
突然、アイザに言われ戸惑った。
「スッキリさせたいだけだ」
そう言われ、ルビーは少し考えてから「分かったわ」と言って、アイザの目の前に立った。
「思いっきりやってくれ」
ルビーは頷くと、彼の頬に平手を放った。
パチンッ!
アイザは驚き、ルビーを見る。
「何でビンタなんだよ」
「え?」
「普通、流れ的に拳だろ」
「あ、ごめんなさい。じゃ、やり直すわ」
「何でやり直すんだ」
「え?」
すると、コリンズが咳払いした。
「そろそろいいか」
「あ、あぁ。悪い」
アイザはルビーを見て「クソッ」と言い放ち、再び前を見た。
逆ギレされたルビーはアイザを睨み付け「何よっ」とそっぽを向いた。
コリンズはもう一度咳払いをする。
「じゃあ今後の話だ。まず、アイザが言っていた件だが、どうするかまだ決まっていない。話を整理するが、第3拠点にアンノウンの群れが向かっている。その中に赤の大型アンノウンが紛れている。分かっていることは、本部は救援する気はなく、行くのは自由だが単独行動になるということだ。そして、間違いなく本部が動かないということは第2拠点も動かない可能性がある。つまり、第3拠点にとって今大ピンチということだ。そこで、新しいリーダーに聞きたい。アイザは救援しようとした。だが、ルビーは反対した。しかし、両者の意見は違っていたが、どれも正論だ。助けに行けば、こちらが不利。助けなければ第3拠点は陥落するだろう。リーダーはどう判断する」
「助けに行く」
「即答だな。迷いがない。決断に迷いがなければ行動にも迷いはなくなる。それはいいことだが、結論を早めれば後悔があとからうまれるぞ」
「それは違うよ。どの選択肢にも後悔はある。だから、どっちの方が後悔が少ないかを考える」
「成る程。して、どうして助けに行くことが後悔が少ないと判断した?仲間が死ぬかもしれないんだぞ」
「助けに行がなければ人間として後悔すると思う。仲間は大事だし、正直他人を助ける義理はない。多分、それがここの本部の考えだと思う。
だけど、助け合わなければアンノウンは倒せないんでしょ。アイザは私に言ってくれた。この世界に国境はないって。なら、拠点という境もないはず。助け合わなければ勝てないなら、行かなきゃ。多分、本部は諦めてる。人類がアンノウンには勝てないと。だから、せめて少しでも生き延びれる選択を選んだ。
でも、私は諦めない。人類が勝たなきゃ、それ以上の後悔はないでしょ」
「……あぁ、そうだな」
「でも、これは私の意見だから、皆の意見も聞きたい」
「別にいいんじゃない。あそこまで言われたら、逆にじっとできないし」
「あぁ、そうだな」
「まぁ、皆がそれでいいなら私はそれ以上反対はしないわ」
「ルビーまで!?あんなに反対してたのに」
アッシュは驚いた。
「何でかな、アイザ以外の人間の言うことはすんなり聞けそうなんだよね」
「なんだ、それは」
アイザが思わずつっこむ。
「私は怖いけど、皆が一緒なら」
「雫、やめて。皆でいれば怖くないとか言うんじゃないんでしょうね。あなたの意見を聞いてるの」
「……正直怖い。でも、見捨てられない。私、その為に軍に入隊したの。別にお母さんの仇とかじゃなくて、真紀の言う通りアンノウンに勝ちたい。私、やるよ」
「そう。雫も知らない間に成長してたのね」
「え?」
「いえ、何でもないわ」
「あとはアッシュだけだぞ」
アッシュは予想していない出来事に、おどおどしていた。そして、意を決したのか、足を震わせながら
「当然、俺は最初からやる気だったぞ。奴等を砲撃の餌食にしてやれる」
「足が震えてるぞ」
アイザがアッシュの足を見てツッコミを入れた。
「震えてなんかないよ」
「苦しい言い訳だな。まぁ、いい。とにかく、全員の意見が一致した」
「こんなこと、珍しいわね」
「それ、大抵はお前のせいだって分かっていて言ってるのか」
「え?」
ルビーは首を傾げた。
「リーダー、それでどうする?」
真紀は顔を上げ、皆を見た。そして、
「行こう!」
「「了解」」
皆が返事をした。
ーーーーーー
その頃、第3拠点では。
「何で救援に来ないんだ!」
「知るか。せいぜい見捨てられたんだろう」
既にアンノウンの群れが拠点の目の前まであらわれていた。そして、その中で唸る赤い色をしたアンノウン・ウォーがいた。
「何だ、あれは!?」
それは他のアンノウン・ウォーと比べて一段と大きかった。
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この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
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