空のない世界(狂)

石田氏

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1章 強者と狂者

強者と狂者 Ⅰ

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 『空のない世界』




序章


今日の天気は快晴。雲ひとつない空に、小型飛空挺ガンシップが1機飛んでいた。
 空に、エンジン音を靡かせながらスピードを出し、向かい風を気持ちよく受ける一人の操縦士、レム。
 小型なだけに、1人乗りのガンシップは天井が筒抜け。小回りのきくガンシップには、世では珍しいハイブリッド型v12エンジンを搭載してある。ハイブリッド型シリーズは珍しく、通常のV12エンジンとは大きく違う。別物といってもいい。ハイブリッド型のエンジンは、燃料の消費が極端に少ないため、永久的に空を飛行できる。そもそも、長距離を想定されたハイブリッドだが、それとは別に戦場でも活躍できた。が、増産されなかった。問題は技術的に時間と完成に成功するにいたるまで、エンジン400のうち1つ完成するか、しないか。つまり、手作業を必要とされる細かい部品にどれだけ廃棄が出るかだ。つまり、コストがかかるのだ。
 そのため、ハイブリッド型のエンジンは世界に8つしかない。エンジンを100作った所で、製造が中止になった。戦場の期待も試験的におこなった1機のみで、それ以降戦場に出されることはなかった。
 ハイブリッド型エンジン。エンジンをかける時と、上空に上がる時しか燃料を消費しない画期的なものは夢で終わった。
 今やハイブリッド型エンジンを知る者は少ない。




 時は20XX年。人は空に憧れ「自分も鳥のように飛べたら」と夢を見てからのこと幾年、ライト兄弟が最初に空を飛んでから数年ごとに技術が進み、今では誰でも空を行き来できる飛行機ができ、そして現代。車のように個人で行ける乗り物、ガンシップができた。
 ただ、ガンシップは未だに高価で市民の手に届くことはまだ先のようで、それでも、空に憧れる人は少なくなかった。あの青い空に、風にのって飛を飛ぶことに誰もが憧れていた。
 

 しかし、東京都の上空にはその空がなかった。突如として、あの青い空は黒く染まり、東京都上空だけぽっかりと穴があいたように、日が出ていようと関係なしに宇宙のかなたの空が見えていた。
 学者達は、数多くの説を唱えた。一説はオゾン層の穴。ある一説は東京上空だけ何らかの理由で太陽の光を受けていない説。色々あるが原因不明のまま現在にいたる。今もなお、東京の空は黒い。

 ただ、その中である老いぼれの学者が言った。
「その空は偽物だ」
 宇宙に直接繋がっているわけではない……と。その真相は謎のままだが、謎である以上空を飛ぶ少女の胸は常に躍らされていた。いつか、偽物の空を探求する日を試みて。


1話   強者と狂者

 青空。雲一つない空をとある屋上で悠々と眺めていた。椅子に腰掛け、長い髪を下ろしながら上空を見上げていた。
 「変わっていますね。廃校の屋上を待ち合わせにするなんて」
チャイナ系の小太りの男が突然現すなり、声をかけてきた。
「仕事の依頼はいつもここで引き受けているのよ、浩然(ハオラン)さん」
「それはまた、どうして?」
「私、空が好きなのよ。こうして屋上から見る空を毎日眺めるのが日課なのよ」
「空ですか?……よく見飽きませんね。どこでも見れるというのに」
「あら、可哀想ですわ浩然さん。空の魅力が分からないとは。空は夢であり、無限。謎も多い。未知なる世界なのですよ。あそこだけ、現実とは違うファンタジーな世界なんです」
「未知と言うのは同意できますね。日本都市の壊滅の原因である、あの空が現れてからは」
「あら、分かっているじゃないですか。まぁ、冒険するかは人それぞれですが」
「まさか、あの空に行こうと考えているんですか?」
その質問には答えず、ただ、笑みをこぼすだけだった。


                                    

 「あっ、レムが帰ってきたよ」
窓越しに見て話すソフィーナに、「わざわざ伝えなくても分かるわよ」と、部屋の遠くから返事が返る。
 レムの乗るガンシップのエンジン音は部屋中に響きわたり、窓はガタガタと鳴り響く。
 ガンシップはそのまま屋上に停まる。独特な3階建のビルは、屋上はガンシップの言わばヘリポート場で、色鮮やかな明るい壁の中は1階が事務所、2階から3階は生活スペースになっている。
 当然、事務所を持つからには自営業で生活を遣り繰りしているわけだが、生活スペース内は高級家具が沢山置かれていた。
 それもそのはず、事務所の看板は『巓蕀・探偵事務所』と書かれてあった。今の時代、警察組織が解体されてからは探偵事務所がその代わりを務めている。
そうなった原因は『 冬の五感』と呼ばれる大不況により、国連が機能しなくなり、各国も又政府の機能をなくし、国としての境界を無くした。日本もアメリカも、イタリア、中国、韓国、ロシア、ドイツ、オーストラリア、全て国を失った。残ったのは唯一、旧朝鮮民主主義人民共和国(現、朝鮮大国と呼ぶ)のみである。政府の機能を失った以上は、国営は全て民営化された。警察もその一つで、代わりに探偵が捜査をおこなうようになる。そして、アメリカはのちに朝鮮大国の配下にくだる。我が国ではラジオ放送の終了や図書館等公共サービスの終了している。
 そこであらわれたのが、公共サービスに変わって起業する存在だ。探偵もその一つ。大不況で機能しなくなった警察の代わりに探偵は、一つの事件に平均、殺人なら120万~、放火なら40万~、窃盗は12万~依頼を引き受け推理をおこなう。例えば、窃盗被害額が100万をこえるようなものは、探偵に依頼をし、犯人を特定させ賠償を求めるケースが多い。その為、依頼料を下回る窃盗被害額なら、大抵は諦めて泣くしかない。
 これを、警察の民営化ととらえるなら分かりやすいだろうか。
 


                                       



 「お帰り~」
「ただいま」
屋上から戻って来たレムは、洗面所に向かう。短い金髪をもつその少女は、自分の顔を鏡で見るなり笑い出した。
「どっしたの?」
「いや、別に・・・・」
「ふぅーん。あっ、レム。午後1時からお客さん予約入ったよ。なんでも変わった話しだったからレムも引き受けるよね?」
「それ、殺人?」


【依頼】

 1人の中年、チャイナ系で小太りの男性客が来店された。
 その男の話しによると、夜0時に放送が数年前から終了されているラジオから、音楽が突然流れてくるとのこと。その音楽を聴いた者は自殺衝動にかられ、自殺をしてしまうらしい。
 その曲は『暗い日曜日』。1993年の古い曲だった。その当時も自殺の聖歌と恐れられ、当時存在した各国はその音楽を流すことを禁じた。
 しかし、今になってその音楽が流れてることから、『忘れられた過去の亡霊曲』として、今ちまたで噂になっている。その原因究明をおこなって欲しいというのが今回の依頼となる。

                                          [殺人事件・依頼料180万]




「ねぇ、ソフィーナ。これ、殺人かな?だって相手はただ単に音楽流しただけじゃん」
「うちはこの件を殺人として取り扱うし、相手はこれに納得しているからいいんじゃない?実際死人がでてるし」
二人は今現存するラジオ放送局の場所を探すため、外に出ていた。二人の物騒な話しに、すれ違う人々は目を大きくして異様な目で見ていたが、彼女らは機に留めることはなく、・・・・いや、気づいていなかった。
「うちらは、犯人がどっから放送しているかを探して捕まえるんだっけ?」
「そう」
「それで180万の報酬か。姉さんも随分ぼったくったな」
「いや、妥当だと思うよ。どの同業者にも断られてたって言ってたから、逆に引き受けてくれたことに驚いてたぐらいだし」
「私だったら金額に驚くけどなぁ」
「やっぱり、自殺ソングという危険なリスクがあるからかな?」
「聴かなきゃいいんだろ?それに、聴いただけで本当に死ぬのか?」
「実際そうじゃないみたい。人それぞれで、曲が単にあまりにも悲しいってだけで、オカルトとはまた違うから」
 「そうかな、1990年代の曲が夜中に流れて自殺者が増えてるだけでも、十分オカルトだけとなぁ」
「乗り気じゃない?殺人、人殺しだとワクワクして飛び出す癖、いい加減直して欲しいな。犯人と格闘したいだけなんでしょ」
「バレたか」
「知ってるんだよ、最近依頼で殺人事件の捜査がないからって、ガンシップで暴れ回ってカラスがわーわー鳴いてるの」
「そんなことしてないよー・・・、多分」
「ムッ!」
「嗚呼、ほら着いたよ、あれだよあれ」
そう、誤魔化すレムにため息を隠せないソフィーナは目の前の建物を直視する。


 その建物は今は使われてない不気味な放送局だった。
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