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第94話 炎となって落ち行く
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山田トメの一番上の兄は高卒後、すぐに働きに出た。
地元の建設会社に勤め、いまも働いている。
二番目の優しかった姉は介護士になってやはり地元で働いている。
三番目の姉は少し意地悪なところもあるけれど、とても綺麗な見た目をしていた。モデルにでもなればいいと思っていたのに、結局地元の会社の事務員をやっている。
四番目の兄は働きに出ずにずっと家で戦車のゲームやってるけど、トメが一番好きな兄だ。
五番目と六番目の姉は双子で、二人とも一緒にグレて今は二人で入れ墨の彫師をやっている。
そしてトメがいて、妹の末子。
末子はとても頭がいい。
女山伏の妹と同い年の16歳だ。
東京にある私立大学の医学部を狙っているらしい。
トメにはよくわからないが、なんとかという研究をやっているなんとかという教授に憧れているとか言っていた。
東京か、静岡からは通えないな。
いや、新幹線ならいけるか?
……どう考えても現実的じゃない。
となると一人暮らしか。
オートロックのマンションに住まわせないと。
けっこうお金いるよな?
末子のために学費を作らないと。
ああ、でも末子、ごめん、お姉ちゃんもうここで死んじゃうから……。
ごめんな。
ごめん。
泣かないでくれ。
お姉ちゃんは、死んだら……きっと幽霊になって、末子のところに飛んでいくから……。
そして、ずっとそばにいてやるんだ……。
家族に思いを馳せるトメ。
もはやニンジャ装束はパチパチと燃えていて、トメの全身も火に包まれていた。
熱いとか痛いとか感じることすらない。
ふと、山伏女の顔を思い出した。
あいつも、妹の学費のために、とか言ってたな……。
手段がウービーイーツとパチンコ、というのがイカれている。
ほんとにアホなんだな。
しかし、妹を思う気持ちは真実なんだろう。
あいつがここまで助けに来てくれる……わけがない。
トメの居場所もわからないだろうし、分かったとしてもここまで来るのにどのくらいの時間がかかるというんだ?
実際、零那はトメのいる場所に向かっているのだったが、最低でもあと一時間はかかる場所にいた。
トメにはもうほとんど魔力も残っていなかった。
天井に貼り付いていられなかった。
ああ、もう少しで終わる、とトメは思った。
『家に帰るまで修学旅行』なんて言ったが、無様な最後だな。
腰のダストカプセルがもう一つ弾けた。
それは空だったので、なにも起こらなかった。
終わりか。
終わりだ。
末子、待ってろよ、お姉ちゃんは幽霊になってもすぐに会いにいくからな。
待てよ、末子は霊が見えるかな?
とすると一度山伏のところに行ってから、末子と話ができるように頼まないとな。
ついに、トメの魔力が尽きた。
天井から手の平が離れる。
終わった。
トメの人生が終わる瞬間だった。
腰にぶら下げていた、最後の一つのダストカプセル――『注意』と書かれている――が熱でひしゃげ、留め金が壊れる。
そしてその蓋が開いた。
トメの身体は落ちていく。
真下では巨大なワニが口を開けて待っている。
燃えさかる溶岩の海。
あちこちで爆ぜる炎。
立ち昇る黒煙。
その中を、いっそう明るい炎に包まれて落ち行くトメの身体は、幻想的で美しくも見えた。
巨大ワニはトメの身体を優しく受け止めるだろう。
その牙で骨と肉と内臓を切り刻むに違いない。
飲み込んだ後は胃袋の中で消化するのだ。
食いでがない身体で悪かったな。
私の身体はワニの巨体の一部になるんだ、とトメは思った。
そして。
そして。
そして、終わった。
――はずだった。
『注意』と書かれた最後のカプセルから、何かが飛び出した。
それは人の形をしていた。
それも、10歳くらいにしか見えない、少女だった。
真っ白な髪の毛。
白い肌。
白い着物。
ひんやりとした冷気をまとった彼女は、燃えさかりながら落ち行くトメの身体を空中で受け止めた。
彼女に触れられた瞬間、トメを焼き尽くそうとしていた炎が瞬時に消え去った。
少女の白い髪の毛がぐんぐんと伸びていってトメと少女自身を包み込み、白い氷の球体となって熱からトメを守る。
「ひさしぶり……だけど、お姉さん、死ぬところなの? あのねあのね、つらら、お姉さんとまだ話すことあるよ。だから、もうちょっとだけ死なないで」
地元の建設会社に勤め、いまも働いている。
二番目の優しかった姉は介護士になってやはり地元で働いている。
三番目の姉は少し意地悪なところもあるけれど、とても綺麗な見た目をしていた。モデルにでもなればいいと思っていたのに、結局地元の会社の事務員をやっている。
四番目の兄は働きに出ずにずっと家で戦車のゲームやってるけど、トメが一番好きな兄だ。
五番目と六番目の姉は双子で、二人とも一緒にグレて今は二人で入れ墨の彫師をやっている。
そしてトメがいて、妹の末子。
末子はとても頭がいい。
女山伏の妹と同い年の16歳だ。
東京にある私立大学の医学部を狙っているらしい。
トメにはよくわからないが、なんとかという研究をやっているなんとかという教授に憧れているとか言っていた。
東京か、静岡からは通えないな。
いや、新幹線ならいけるか?
……どう考えても現実的じゃない。
となると一人暮らしか。
オートロックのマンションに住まわせないと。
けっこうお金いるよな?
末子のために学費を作らないと。
ああ、でも末子、ごめん、お姉ちゃんもうここで死んじゃうから……。
ごめんな。
ごめん。
泣かないでくれ。
お姉ちゃんは、死んだら……きっと幽霊になって、末子のところに飛んでいくから……。
そして、ずっとそばにいてやるんだ……。
家族に思いを馳せるトメ。
もはやニンジャ装束はパチパチと燃えていて、トメの全身も火に包まれていた。
熱いとか痛いとか感じることすらない。
ふと、山伏女の顔を思い出した。
あいつも、妹の学費のために、とか言ってたな……。
手段がウービーイーツとパチンコ、というのがイカれている。
ほんとにアホなんだな。
しかし、妹を思う気持ちは真実なんだろう。
あいつがここまで助けに来てくれる……わけがない。
トメの居場所もわからないだろうし、分かったとしてもここまで来るのにどのくらいの時間がかかるというんだ?
実際、零那はトメのいる場所に向かっているのだったが、最低でもあと一時間はかかる場所にいた。
トメにはもうほとんど魔力も残っていなかった。
天井に貼り付いていられなかった。
ああ、もう少しで終わる、とトメは思った。
『家に帰るまで修学旅行』なんて言ったが、無様な最後だな。
腰のダストカプセルがもう一つ弾けた。
それは空だったので、なにも起こらなかった。
終わりか。
終わりだ。
末子、待ってろよ、お姉ちゃんは幽霊になってもすぐに会いにいくからな。
待てよ、末子は霊が見えるかな?
とすると一度山伏のところに行ってから、末子と話ができるように頼まないとな。
ついに、トメの魔力が尽きた。
天井から手の平が離れる。
終わった。
トメの人生が終わる瞬間だった。
腰にぶら下げていた、最後の一つのダストカプセル――『注意』と書かれている――が熱でひしゃげ、留め金が壊れる。
そしてその蓋が開いた。
トメの身体は落ちていく。
真下では巨大なワニが口を開けて待っている。
燃えさかる溶岩の海。
あちこちで爆ぜる炎。
立ち昇る黒煙。
その中を、いっそう明るい炎に包まれて落ち行くトメの身体は、幻想的で美しくも見えた。
巨大ワニはトメの身体を優しく受け止めるだろう。
その牙で骨と肉と内臓を切り刻むに違いない。
飲み込んだ後は胃袋の中で消化するのだ。
食いでがない身体で悪かったな。
私の身体はワニの巨体の一部になるんだ、とトメは思った。
そして。
そして。
そして、終わった。
――はずだった。
『注意』と書かれた最後のカプセルから、何かが飛び出した。
それは人の形をしていた。
それも、10歳くらいにしか見えない、少女だった。
真っ白な髪の毛。
白い肌。
白い着物。
ひんやりとした冷気をまとった彼女は、燃えさかりながら落ち行くトメの身体を空中で受け止めた。
彼女に触れられた瞬間、トメを焼き尽くそうとしていた炎が瞬時に消え去った。
少女の白い髪の毛がぐんぐんと伸びていってトメと少女自身を包み込み、白い氷の球体となって熱からトメを守る。
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