語られない物語

神崎 詩乃

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第1章 都会抗争

第4話 聖父登場

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 初の襲撃から一週間。悠史たちはカフェ&バー「乙女の泉」で翔子の調査報告を聞いていた。

「敵の名前はイルシアファミリーって言う組織。」
「……。金さえ払われれば何だってやる組織」
「目的は?」
「表向きは暴徒鎮圧用の有志派遣。」
「裏は大処分に向けてハーフ組織の弱体化。」
「要するに俺達は襲ってくる奴らをぶっ殺して回ればいいわけだ。」
「おい鉄男バカ何もわかってねぇなら黙ってろ。」
「なんだと?」
「いいか?その垂れ耳をかっぽじってよく聞け。そして理解しろ。俺達、この間暴れたよな?」
「主にお前がな?」
「そしていま、世間的な風潮は『ハーフは危険』となりつつある」
「実際危険なやつが暴れたからな。間違ってない。」
「じゃあそのまま暴れてみろ。ハーフは危険の認識からハーフそのものが迫害される。国や名だたる組織ではない。にだ。」

「なるほど。」

「でも、殺らなきゃ殺られる。」
「そうだな。戦闘が激化すればタダの戦争になるな」
「正確には内紛かしら?」

「たかだかハーフかそうじゃないかの違いだけで…な」

「……そんなことより。俺の家、どうしてくれんだよ」
「なっ…悪かったよ」
「……。それで?これからどうする?」
「俺の家はおそらく見張られている。最悪家は荒らされてるな。」
「家なきテロリスト達におねぇさんから提案があるんだけど?」
「……。嫌な予感がする。」
「あぁ、嫌な予感しかし無いな。」
「あらあら。予想は話を聞いてからにしてもらえるかしら?」
「……話してもらえる?」
「実はね。最近この界隈で純血種と混血種達が殺されまくってるの。」
「誰の仕業だ?この地域は日本にいくつかある異種族の自治区だろ?」
「どうも『教会』が関わってるみたいよ。」
「なるほど。それで?俺達に何を望む?」
「そうね。この件の実行犯の特定かしら。」
「『特定』だけでいいんだな?」
「えぇ。仮に教会が首謀者であったとしてその手先を殺しても新しい奴が送り込まれるだけだからね」
「霧がない…と?」
「そういう事。」
「で報酬は?」
「隠れ家を提供してあげる。どっかの鬼が暴れたりどっかのドワーフが爆発させても大丈夫な隠れ家をね。」
「そいつはいいや。おい、悠史。さっさと特定してこようぜ。」
「シオン、このあたりで起きてる殺しをリストアップしてくれるか?そんで同じ手口のものをグループ分けしてくれ。」
「3分貰う」
「あぁ、もちろん俺がやった分は抜かしておいてくれよ」
「なら1分で済む。」
「鉄男?あんたどんだけ依頼したのよ…。」
「?この所政権交代とかで恨みつらみが増えてるみたいでな。」
「……。あまり面倒を起こさないでね……。」
「……。分かった。」

「出来た。」
「お疲れさん。」
「ちなみに…何件あったの…?」
「1692件。」
「その内同様の手口でやってる奴らは?」
「グループ総数4。」
「一人頭423件ってこったな。対象が人間以外で探すぞ」
「なら、1192件。」
「なんだ。そんなもんか。」
「遺体に十字が刻まれてる案件はいくつあるの?」
「…39件。ここから2本先の『亀池通り』に集中してる事件発生日は必ず奇数日。発生時間は午前2時頃」
「じゃあ犯行日は明日だな。凶器は?」
「バラバラ。でも、種類は刃物、鈍器。」
「……情報屋顔負けね…。」
「まぁ、機凱種だし…人間よりそのへんは優れてるだろ……。」
「本当にそんな感じね…。」
「なぁ、翔子さん。明日の月は何?」
「私の記憶が正しければ明日は新月よ」
「OK。なら明日は鈍器だな。」
「なっなんで今のでわかるの?」
「内緒。」
「何でもいいがよ…本当に明日出るんだな?」
「あぁ、勿論。」
  そして、翌日。
  月が本来の夜道を照らす仕事を休む新月の夜。午前2時頃に二つの影があった。一つは小柄で軽く宙に浮き、1人は薄い街灯の明かりの下で鈍く反射する角を持っていた。

「鉄男は?」
 沈黙に耐えかねたのか小柄な影が声を上げた。
「『俺は夜中まで起きてる勤労なやつじゃないんでな。明日の朝刊を楽しみししてるぜ』だとよ」

「そう。悠史は大丈夫なの?」
「何故そんなことを聞く?」
「鬼は自己生成魔力が少ない種族。ましてハーフなら尚更。日中は大気の魔力で補えるけど夜は月の光がないと魔力が枯渇してしまう。」
「なるほどな。でも、大丈夫だ。すぐに終わる。」

「そこのお二人さんこんな夜更けにそんな人気のない道で。どうしたんだい?」
「やっとお出ましか。取り敢えずそのトンファーしまえよおっさん」
「おおっと。なかなか鋭いガキだな。早くその角を折ってしまいたいよ。」
「そいつは困る。こんな不出来な角でも一応俺の生命線何でな。」
「じゃあ死ね」
 男は薄ら笑みを浮かべトンファーを振り下ろす。悠史はそれを紙一重で回避すると振り下ろされたトンファーを引っ掴み飴細工のようにクシャクシャにする。
「こんな危ねぇもん振り回すんじゃねぇよ人間ヒューマン
「人間!?」
「おっと?そちらのお嬢さんは機凱種か。なるほどだから私が来ると分かっていたと。でも、どうして人間である事に驚く?」
「そりや簡単な話だ。」
「何だと?」
「人間なんて魔力を練ることも生成することも出来ないんだからな。そっちの適正ならハーフにすら劣る」
「だから殺すことなんて出来ないと?」
「異種族に対し寛容で純血種には早々に人権すら与えた人間が何故異種族を殺す?」
「それは…」
「神に選ばれた種族の人間以外の種族が地上を歩いている事が許されない罪って事だろ?」
「……。」
「俺達異種族に神という存在は割と身近だが、宗教ってのには疎くてな。特に意識なんざしない。」
「……。」
「だが、世の中にゃテメェらしか認めねぇ排他的な教えが蔓延っててよ。特に熱心なのがだろ?」
 男はわざわざ街灯の下に経つと名乗りを上げた。
「ご明察。私は公理教会第13課聖父アルベルト・デ・バラン!断罪の使徒さ。」
「断罪?この国の法律としてはお前の方が罪人だろ?」
「いいや?私のこの行動は政府公認だ。貴様ら邪魔な異種族を巣に返してやる。」

「……。本当に罪もない一般の者を殺したの?」
「あぁ。我々公理教会にはハーフも純血種も関係ない。全て殺す。それこそ真の平等という奴さ。」
「……。武器もないのに……。」
「武器ならあるさ。ここにな!」
 いつの間にか移動していたアルベルトはスピードと体重を乗せたストレートを放つ。
防御装甲65番!

 64枚の特殊合金で出来た装甲板が瞬時に展開されるがゴゥンと鈍い音を立てシオンの体が後退した。そして、その身を守るため配置された装甲板は大きく凹み、その役目を全うした。
「っどういうこと?」

 戦艦級の装甲板をひしゃげさせて人体が無事に済むはずも無くアルベルトの右腕は半ばから本来曲がらない方向に曲がってしまっている。しかし、本人は痛がる様子もなくぶらりと右腕をぶら下げ、一旦距離をとった。

「くっくっく。案外硬い装甲を持ってるじゃねぇか。」
「おたくこそ。良いのか?片腕がそんなんで。」
「何を言っている?」

 かざされた右腕はみるみるうちに元の姿へと戻っていき、気がつけば完全に元通りになっていた。

「へぇ。高速回復術リジェネレーションか」
「教会の神秘さを理解出来たか?鬼。」
「確かにすげぇが…その勾玉のお陰だろ?森司教ドルイドお手製回復の勾玉だったか?」
「っち。細かいところまでよく気づく鬼だな。」
「それが俺の悪い癖。」

 睨み合う両者。長い沈黙を破ったのはシオンの一言だった。
「悠史、10時の方向から何か来る!」
「あぁ、ありゃ鋼鉄製の槍だな。」
「いや、そんな悠長なことを言っている場合じゃ…」 
「まぁ見てなって」

  飛来した凄まじい量の鋼鉄製の槍は夜闇を切り裂き、両者の中間程に降り注いだ。
 槍が地を抉り後続の槍が抉り取られた地面を砕き砂へ変える。爆音と砂塵が宙を舞い煙幕の役割を果たす。
「そら、さっさと逃げるぞ。」
「え……?あ…了解。」

 「くっ…取り逃したか…。まぁ…いい。後でゆっくり殺してやる…。」

 アルベルトは槍に貫かれ、地面に縫い付けられた体を起こしながら獰猛な笑みを浮かべた。

翌朝。悠史達は自然と「乙女の泉」に集まっていた。

「昨日の夜は助かったぜ鉄男。流石にあのままじゃ魔力がもたなかった」
「へっこれだから欠陥種族は。苦労かけさせんじゃねぇよ。」
「欠陥種族はお互い様だろ。どんだけ準備に時間かけてんだよ。あれ、鋼素術式第1位階投槍ジャベリンだろ?それになんだよあの量。また魔力操作ミスったろ?」
「うるせぇ。あの物量だったから生き残れたんだろうが。」
「まぁ、どうでもいいけど。取り敢えず犯人は特定できたのね?」
「……犯人は公理教会第13課聖父アルベルト・デ・バラン。人間族。出身地、生年月日共に不明。家族無し。」
「不明だらけじゃねぇか」
「……データベースから抹消された形跡があった」
「なるほどな。」
「じゃあお姉さんからはこれをあげちゃう」

 3人の目の前に新品の鍵が転がされる。
「んじゃ遠慮なく。」
「場所はアキハバラよ。うってつけでしょ?」
「そりゃいいや。実験素体が安く手に入る。」

 一行は嬉嬉として新たな新居に向けて荷造りを開始した。
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