罪と勇者

神崎 詩乃

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閑話 ゴリラの報告書

報告書No.1

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 報告者 クラウド・レイラス        空の月 某日

 異世界出身の勇者の護衛及びこちら側の引き込みについて。

 私が護衛の任に着いてから既に1週間以上経過した。
 彼を一言で表すなら「弱い」
 戦闘力自体は申し分無いがそれを操る術を知らないようだ。そして、精神的にも脆い。これは元勇者候補達とも共通している点だ。

 話を聞く限り家族に暴行されたらしい。
 彼はレイナ・ガードランとシャルロット・マーキュリーと仲良く暮らしている。

・シャルロット・マーキュリー(以下シャルロット)について

 シャルロットは数年前に発生した都市陥落の首謀者と出で立ちが瓜二つである。
帝都の南にあった都市『クロエ』を単身で滅ぼした。
都市の市民20万人のうち生き残ったのは100人足らず。 
生存者の聴取には『白い髪が返り血で真っ赤に染まっていた』とあり、ほかの聴取には『赤い瞳だった』というものまである。真偽の方は定かではないがもし首謀者なら何らかの行動をとると思われる。今後要注意人物として監視対象とする。

・レイナ・ガードラン(以下レイナ)について
 レイナは幼い頃から教会で育った墓守である。ただし、先日行方不明になった14番と一緒に歩いていたところを街の者が目撃している。こちらも要注意人物として監視対象とするべきだろう。

・最後にユウト・カガヤ(以下ユウト)について

 彼の戦闘力は異常である。そして索敵範囲も桁が違う。先日半径4kmを索敵範囲としていた記録がある。戦い方も歪で大体の相手は気付かぬうちに切断され殺害されている。

 1度彼を怒らせてしまえば帝都だけでなく世界の敵になってしまうと予想される。

 暴食の大罪人を討伐した際はその怒気で王国の兵士が近寄らなかったくらいである。
 大罪人を討伐した戦闘記録はシャルロットに妨害され、保存できていない。

 今後も勇者の力、性質の調査を続行する。

「おはようございます。カムイさん。」
「あぁ、クラウドさん。おはようございます。」
「実は…お願いがありまして」
「何でしょうか?」
「こちらの封書をギルド長に渡して頂きたいのですが…。」
「かしこまりました。」
「何卒よろしくお願いします」
「大変ですね。」
「えぇ、まぁ。」

 クラウドは曖昧に答えると悠叶達のいるテーブルへ向かった。
「悪いな。」
「別に。さてと、クラウドも戻ったし、買い物してちょっとクエスト受けていくか。」
「あぁ、ユウトくん。クエスト受けるならまずはこのクエストがおすすめよ?」
「…ギルド…いや、カムイさん。…ゴブリンリーダーの討伐ですか?良いですよ。それと似たようなクエストを二、三見繕ってもらえます?」
「…かしこまりました。」

 
 お昼頃悠叶達は都市ダイノーの西に広がる大森林で訓練を行いつつクエストをこなしていた。

「右前方。ゴブリンナイト4体。ゴブリンジェネラル1体。」
「ユウトとシャル、お前らは固有スキル縛りな」
「あ?あぁ。分かった。」
「…りょ…」

 悠叶とシャルロットは魔闘技を纏う。
 悠叶は更に追加で魔闘技を武器であるシャベルにも纏わせるとゴブリンナイトに一撃を与えた。

 瞬間魔闘技により底上げされた速度と腕力で殴られたゴブリンナイトは防具の中で潰れたトマトのような音をあげる。
 シャルロットは魔闘技を習ってまもないのでまだ未発達だが、持ち前の筋力にものを言わせ、ゴブリンナイトに突っ込んだ。
「うげっげ」
 シャルロットのこの行動が無謀だと思ったのかゴブリンナイトは気色悪い声を上げ嗤う。
 ゴブリンナイトが振り下ろす片手直剣がシャルロットに触れる前にはねあげられ、続いてゴブリンナイトの首が飛ぶ。
「翔べ、氷の礫よ『アイスバレット 』」
 後方より飛来した氷の塊がゴブリンナイトの急所を的確に貫く。
「ウギぃ」
仲間を立て続けにあっさり殺られたゴブリンナイトは盾を構えながら悠叶を襲う。
バチッと何かが弾けた。閃光が辺りを包みゴブリンジェネラルも視力を奪われる。

「隙だらけだな…」

 そんなゴブリンジェネラルに振り下ろされたシャベルはゴブリンジェネラルの首を吹き飛ばすと近くにあった岩にめり込んだ。

「嘘だろ…冗談だろ…。」
 本来、ゴブリンナイトもゴブリンジェネラルも高ランクの冒険者パーティが同じ数必要なくらい強い。にもかかわらず、しかもひとり一体以上を一撃で沈める。

 戦時中というこの情勢下でこれだけの実力を秘めていればどこの部隊も引く手数多だろう。

「おい、ユウト、ゴブリンナイトの討伐証明は?」
「右耳だろ?」
「お前、ほんとに分かってる?一体頭消し飛んでるんだが」
「…思った以上に柔らかかった。」
「柔らかかったっじゃねぇよ…普通は砕けねぇよ…。しかもお前の武器槌ですらねぇじゃん…。」
「砕ける方が悪い。」
「…はぁ…。シャル、お前は愚直すぎる。敵陣真っ直ぐ突っ込むやつがあるか。ゴブリンナイトすら笑ってたじゃねぇか。」
『結果的に相手の油断を誘ったボクの勝利。』
「シャル、ゴリラに念話は通じないって」
「ユウト、シャルはなんて言ってた」
「結果的に勝っただって。」
「阿呆。結果的に勝てたってそれじゃいつか死んじまう」
『……。ボクが死ぬと困る?』
『俺が困る。』
『……分かった気をつける。』

 シャルロットは少ししょんぼりと肩を落とすと普段隠してある尻尾が顔を出した。
「シャルちゃん尻尾尻尾。」
「レイナ、お前はもうちょっと魔法の精度を上げろ。俺まで被弾しちまったじゃねぇか」
「あっすみません。わざとです。」
「は?」
「冗談ですよ。もちろん。」
「そ、そうか…。」

 レイナは割と本気でクラウドを狙ったが殆ど外れてゴブリンナイトを貫いた。

「お前らの個々の力は桁違いだ。だが、今のまま戦闘していたらいつか命を落とすぞ?」
「…分かったら今日はここまで。ユウトとシャルは宿でレイナの補習な。」
「…こ…と…ば」
「ん?」
『言葉は覚えるのが大変』
『シャル、念話が通じない相手には文字でしか伝えられないだろ?だから覚えんの。』
『なるほど。』
「あーなんか分かんねぇけどまとまったならそれでいい。今日はまだ日も傾いてないしギルドまでダッシュな。」
「え!?」
「レイナは今後体力つけろ~ずっと後方に入れるとも限らねぇんだから。」
「うう…。」
『走るなら余裕』
「シャルはこれ持ってダッシュな。」

 クラウドは懐からふた振りのダガーを取り出すとシャルロットに持たせた。
「…重ッ」 

 それは地龍の鱗から切り出されたダガーだった。
 耐久性も切れ味も申し分無いのだが、その重さは並の冒険者が持てるものでは無い。

 シャルロットはベースが鬼族の為、並の冒険者以上の膂力がある。そのため口では重いと言っているが実はそれ程重みを感じていない。

「なんだクラウドはそんなもん持ってたから足遅かったのか。」
「うるせ。男ってやつは陰で努力するもんなんだよ。ユウトは引き続き魔闘技を纏い、俺が不定期で投げる石を全部回避しろ。索敵範囲は狭めるなよ?固有スキルは使用禁止のままだからな」
「わかった」
 戦争中だと言うのに和気あいあいとギルドに帰還したクラウドはその後カムイの冷たい視線に晒される事になった。
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