衛生兵を呼べ! 〜異世界医療ファンタジー〜

神崎 詩乃

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白き魔女の赴く場所

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  加熱魔法陣の上に鍋を置き、下処理をした薬草を煮詰めていく。沸騰を始めた頃改造を施した蓋を閉め、待つ。すると、蓋に付けたチューブから湯気が出てくる。それを冷やして小瓶に詰め、最後に一摘みの骨粉を入れれば中級回復薬の完成である。
「ねぇ。ユリア、どうしてここで薬を作り始めたの?」
「~♪」
『無駄だぜアイリス。薬作りを始めたユリアは薬の品質しか見てねぇから』
「なんで司令所で作るのよ……。」
「まぁ、回復薬を使わせてもらってるのはこちらでもある。大目に見てやれアイリス。」
「もう……。」
 少し緩んだ時間を打ち破ったのは一本の無線連絡だった
『本部、本部!至急応答願います!こちら西部方面第九中隊!』
「司令本部だ。何があった」
『大型魔獣の襲撃を確認!死傷者が多数出ています!』
「数は何体だ!」
『数え切れません!めちゃくちゃな大群が押し寄せてきます!』
「了解した。直ぐに飛竜隊を派遣する!」

「アイリス。陸鳥隊と飛竜隊に出撃命令。俺達も出るぞ」
「はっ。承知しました。」
「ユリア、悪いが薬作りは……って居ない!?あいつまさか……。」

『良いのか?置いてきて』
 司令所を飛び出し、飛竜の駐騎場に到着するとブラッドが鞄から出てきた。
「良くないとは思うけど今回は速さが勝負でしょ。死傷者も出てるらしいし。」
『敵の罠かもしれんぜ?既にあっちは……全滅で敵が無線連絡してきたのかも。』
「それならそれで私一人の方が動きやすいと思うよ。」
『それもそうか。ただな、ユリア今回は待ってた方がいいと思うぞ?』
「それは勘?」
『あぁ。嫌な予感がする。』
「……。ブラッドの勘はあてにならないわ。でも……従ってあげる。」
『そりゃどうも。』
『ユリア!今どこにいる!?』
 暫く待っているとフィードの怒声が頭に届いた。
「飛竜の駐騎場よ。飛竜が言うことを聞かなくて困ってる。」
『今向かうからそこで待機してろ。衛生兵も二個中隊で現場に向かう!一個中隊はお前に預けるからな!』
「了解。もう一個中隊は誰が指揮をするのかしら?」
『カレン中尉だ。治癒士過程でお前ら同期だろ?各員連絡を取りあって対処しろ。』
「カレン……ね。了解。ブラッド、嫌な予感的中ね。但し、待っていたせいだと思うけど。」
『予感?なんのことだ?』
「いえ、こっちの話よ。それよりいつ到着予定かしら?」
『今だ。』
 影が私を包み、白い飛竜が私の前に降りてきた。背にはアイリスとフィードが乗っている。
「斬新な登場の仕方ね。二個中隊の人達は?」
「先に向かわせている。」
「ならさっさと行きましょう?」
「なぜ転移で向かわないんだ?」
「現地が罠だった場合、転移で移動する事ができるってわざわざ相手に教える事になるもの。」
「なるほどな。」
「じゃあ行くわよジャービス。」
私の前に大人しく座っていた翠の飛竜を撫でると心地よさそうな鳴き声をあげ、翼を広げた。
「言うことを聞かないんじゃなかったのか?」
「?この子が私の言う事を聞かなかったのはまだ子どもの頃の話だよ。エドについて行って。」
「キュルルー」
「エド、行くぞ。目的地は西部方面第九基地だ。急いでくれ。」
「ガル。」
了解したと言わんばかりに翼を広げ、白い飛竜が先に飛び立った。
「殿下、もっと速度を落としてください~~」
「アイリス、静かにしろ。舌を噛むぞ?」
 飛竜はかなりの高度を高速で飛ぶ。手綱と足を固定する騎具以外には何も無いため、実際かなり怖い。
 眼下に広がる大地は所々で黒煙を上げている。
『戦闘空域到達。飛竜隊は少し高度を落とし、絨毯爆撃準備!友軍に配慮しろ。お前らの爆撃で怪我人が出ては救援に来た意味が無いと知れ。』
『第一了解!』
『第二了解!』
『第三了解!』
『陸鳥隊は第九中隊司令部へ移動を開始しろ。』
『陸一了解』
『陸二了解』
『陸二中隊はユリア・グラフニール中尉の指揮下に入り怪我人の保護と収容を行え。陸一中隊はカレン・アバラスト中尉の指揮下で陸二の援護をしろ。命令は以上!』
「ガルル!」
「なっ。」
エドはなにかに気づき、緊急回避。それに伴い、フィード達はバランスを崩してしまった。その数瞬後、フィード達の居た場所には槍が到達し空を切り裂いて行った。
「この高さまで届くの!?」
「『探知』!えぇいクソっ槍で航空戦力を削ごうとは……なんとも剛毅な奴!……少し数を減らしても構わんだろ?」
「頼むから味方を巻き込まないでよね!なるべく遠くへ!」
「淑女の頼みとあらば応えるのが男というもの!さて、久方振りに本気を出そうか……。アイリス、全力で陣を張れ。地上にいる連中をあらかた消し炭にしてやろう。」
『総員!塹壕に潜るか何かに掴まりなさい!出来ないなら伏せて!』
「行くぞ?『燎原ノ投擲槍』!」

夕日か日の出か?眩い光の一線が遥か彼方の地平に突き刺さる。
突如として響く轟音。あまりの衝撃に大地が裂け、キノコのような煙がもくもくと立ち上っていた。
次に襲い来るは衝撃波。巨躯を持つ魔獣でさえ立っていることはおろかその場にいることも出来ずに天高く放り上げられていく。幾ばくが生えていた木々が細かな槍となって突き刺さり、熱波と合わせて生きる物を速やかに終わらせていく。

「……フィード?あんた……馬鹿でしょ?」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは。予定通りだろう?」
「……。」
もちろん上空にいた私達もただでは済まない。必死に不動盾を多重展開し守ってくれたアイリスに感謝だ。

「ポイントは収縮だな。まさかこれ程の威力になるとは……。」
「あんた……自国を焼いてどうしたいの?」
「破壊の後は創造だ。また創り直せば問題無かろう?」
「魔力量は!?」
「あれにはそこまで使っていない。どうだ?驚いただろう?」
「呆れた……。『陸鳥第二無事かしら?』」
『只今損害確認中ですが全員任務に支障はありません!』
『その辺に魔獣が落ちてきているかもしれないから……注意して。』
『了解!』
「エド、駐騎場に向かってくれ。」
「ガルゥ」
「ジャービスもエドについて行って。多分また飛んでもらうから……。騎具は着けててね。ごめん。」
「キュルルゥ。」
 駐騎場には何体かの飛竜が繋がれており、中には見覚えのある青い子がいた。
「あら、ライジン。久しぶりね。と……いうことは……。」
「グル?グラーラァ!」
「ユリアお姉様!」
「当然……貴女がいるよね……。はぁ。」
「どうしたんです?お姉様!?このカレンお姉様と同じ現場に立てて幸せです!」
「あっそ……。」
 しっぽをブンブン振っている様を幻視できそうなレベルでテンションの高い彼女の事が、私は昔から苦手だった。ことある事に私と共に行こうとする精神はフィードと通ずるものがあるだろう。

「医療用のテントの数と患者の規模は?」
「大型テント三。小型二。患者の規模は未知数ですが、配属された兵の数的に凡そ三百人程度と推定されます。」
「この拠点には何人運び込まれた?」
「大規模攻勢があったばかりです。まだ殆ど誰も運び込まれておりません。」
「了解。把握したわ。これから探しに行く。陸鳥隊第一はここで怪我人のトリアージと治療。第二は前線西区と北区の怪我人保護で。ここの指揮は任せるわ。」
「承知致しました!ご期待に添えるよう精一杯頑張ります。」
「さて、私達も行くよ。ジャービス。」
「キュルッキュルッ」

 私はジャービスに再び乗ると全速力で北区方面をめざした。
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