異世界暗殺者

神崎 詩乃

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第1章 転移と出逢い

唐突な死

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 上か下か……。
 落ちているのか沈んでいるのか。
 とても不思議な空間にいる。周囲は闇に包まれ、時間の感覚も狂っていく。

「やぁ。君が九龍真琴であってるかな?」

 闇の中で声がした。
「誰だ?どこにいる?」
「クフフ。ボクはどこにでもいるしどこにもいない。君たちの言葉で言えば神様ってやつだ。君は死んだんだよ。」
「俺が……死んだ?……。そうか。それで?ここはどこだ?」
「……予想はしていたけど。随分とドライな反応だね。」
「驚いてはいるさ。ただ何となく死ぬ瞬間を思い出しただけだ。」
「そう。」
「それで?ここはどこだ?」
「ここは冥界。地獄と天国の関所みたいな所だよ。」
「当然俺は地獄行きだろ?仕事とはいえ何人も手にかけてきた。」

 7歳の頃ダメ親の借金の担保に組織に入れられ、鉄砲玉として使われ我武者羅に働いて。暗殺者として磨かれ、何人も手にかけて……こうして18歳にして死んだわけだ。
 人によっては同情するかもしれないがここでそれは通じないだろう。

「まぁ。通常通りならそうなるね。」
「通常通りなら?」
「君は運がいい。君の人生には同情的な神が多くてね。君にとある罰を与えて別世界で第2の人生を与えようって事になってね。」
「罰……?」
「あぁ、君には不死の呪いを授ける。どんなに細切れにされても復活する。但し、心にも呪いをかけさせてもらう。絶対に壊れない精神だ。」
「何故……そんな事を?」
「何度も何度も死ぬうちに君が壊れたら面白くないだろ?」
「つまり、何度も何度も死ぬ可能性がある……ということか。」
「そうだね。まぁ、罰だからね。」
「なるほど。分かった。どうせ拒否しても無駄だろ?ならさっさと罰とやらを与えてくれ。」
「物分りがいい子はボク嫌いじゃないよ。じゃあ行ってらっしゃい。」

 暗闇の中でその声だけが響き、唐突な眠気に襲われる。しかし、抗うことは適わず、俺は意識を手放した。

 眠気に襲われた後、あの悪夢を見た。
 7歳くらいの子どもが父親らしき男に馬乗りになり、ナイフを突き立てていた。何度も、何度も。
 初めの頃は抵抗していたソレは2、3回で抵抗をやめていたが、少年は壊れたおもちゃのようにソレを刺していた。

 それは……かつて自分が犯した最初の罪であり、最初の殺人だった。

「はぁ、最悪だ。またこの夢かよ。」

 組織に売られ、生き残る為にその組織へ入る時、最初提示された条件は自分の親を殺す事だった。ナイフを一振渡され、「殺れ」と命じられる。当然殺らねば自分がバラされ、子供用の臓器として売られるかもしれない。
 生き残る為には殺るしかなかった。
 しかし、あの日からこの夢はずっと付きまとっていた。

「……はぁ。」

 足の裏に地面の感触をとらえ、風を感じる。鼻をくすぐる新緑の香りが心地よく感じる。
「最悪だな。あの神、悪趣味にも程があるな……。」

 新緑の香りだけならだ良かった。だが……そこに嗅ぎなれた臭いが混じれば途端に悪臭に早変わりだ。
 特に血の臭いが濃い場所に目を向ければそこには何発か撃たれたような傷のある死体が転がっていた。まだ体温が残っているところを見ると殺されてから間が経ってない事が知れる
「……。異世界に来たって感じがしないな。ちょっとすまんな。」

 男の死体を漁ると拳銃らしきものとマガジンを数個、レーションのようなものを数個、大型のナイフと小型のナイフを1振りずつ、少し長めの細いロープを頂き、手を合わせる。

「悪ぃな。今のお前さんが持っていても仕方ないから、貰っていく。」

 近くに戦場があるのだとしたら丸腰で行くのは躊躇われた。だが、銃のようなものの使い方があまり分からない為、ナイフを貰った。あと、お金も少々。

「さて、どうするか……。」
 右も左も木ばかり。この男を殺したであろうものは近くにいる可能性がある。宛もなく歩き続けても餓死するだけだ。いや、不死身らしいこの身体では飢えるだけかもしれない。だが、長くはもたないだろう。

 宛もなく、ぼんやりと近くにあった石に腰をかけ、遠くを見ているとうっすらと煙が見える。

「煙……か。誰かいるのかな」

 ボソボソしていて美味しくもない硬い粘土のようなレーションを食しながら木々を伝って煙の元へ急ぐ。程なくして少し開けた場所に建てられた小屋が轟々と燃えていた。恐らく今から消火活動をしても間に合わないだろう。森の木々も離れているからか燃えにくいのか知らないが今すぐに山火事になるような兆候はない。
「ふむふむ。死体がえーと?1つ、2つ……めちゃくちゃあるな。お、単眼鏡まである。」
 単眼鏡で燃え立つ小屋を見てみると中に誰かいるようだった。

「……嘘だろ……いや、もうだいぶ火が回ってる。死んでる……だろ普通」

 さらに視線を動かすと顔が見えた。こちらを見つめ、口だけが細かく動いている。
「た」「す」「け」「て」

「ふざけんな!ちくしょう!」

 昔、組織の連中が警察にマークされて隠れ家に子供数人を置いて火を放った。その子ども達は組織を裏切った子どもたちだった。組織のボスは裏切り者の末路を子ども達を使って見せつけた。

 その時のトラウマか……身体が重い。だが、今と昔は違う。昔は大人が怖かった。だが今は違う。

 窓を蹴破り、一直線で子どもの所へ向かう。身体が焼け、髪も焦げていくがそんな事より大事なものがある。

「おい、大丈夫か!?ゲホッゲホッ。」
「……。」

 中にいた子どもは鉄環と鎖で繋がれていた。火はそこまで迫り、鉄環はそう簡単に壊れそうにない。

「クソッ」

  熱気のせいか鉄環が熱を持っている。手で持つと火傷しそうだった。

 手持ちの装備で鎖を断ち切るとすれば、銃かナイフだ。銃の方は使い方を誤ればこの子にも被害が出る……クソ。時間が無い。ふと、周りを見渡せば床に刺さった杭を見つけた。鎖はそこに繋がれている。
「熱いだろうが仕方ねぇ!」

 杭は金属製で木の床を抜いて地面に刺さっている。杭本体が既に火に囲まれていた為非常に熱い。しかし、そうは言っていられず掴んで無理やり引っこ抜く。

 熱い。痛い。酸素が薄くなってきたのか頭痛もする。子どもに至ってはぐったりしている。
「うぉりゃあああぁぁぁ」

 ゆっくりと杭はぐらつき……抜けた。
「よっしゃ……おい、しっかりしろ。」
「うぅ……ゲホッゲホッ」

 火事場の馬鹿力と言うやつか子供一人を背負って焼け落ちる小屋から脱出し、近くの川にたどり着くと一気に崩れ落ちた。

「はぁ、はぁ。悪ぃな。熱くなかったか?」
「……どう……して。」
「さぁな。」

 声からして少女。その瞳は暗く絶望に満ちていた。
「取り敢えず食え。美味しくはないが栄養価と腹持ちはいいはずだ。」
「……手が……。」
「大したことは無い。だから食え。」
「……。『軽回復ライトヒール』」
「お、おう……ありがとな。」
 緑色の光が傷を覆い、逆再生のように元通りにしていく。2分くらいで傷が消えてしまった。
「どう……して?」
「あ?助けてって言ったのはお前さんだろう?」
「あ……う……。」
「まぁ、何はともあれ助かったんだしまずはそれを祝えよ。」
「私……助かっちゃ行けなかった……。ねぇ!逃げて!」
「あ?」

 銃声が1発木々を揺らした。腹部に焼き鏝を押し付けられたような熱を感じ、痛みで視界が白に染る。
「あぁ!」
「いっつつ。誰だ?」
「おやおや?外したのか。まぁ、いい。どうせ死ぬ命だ。417番…お前はあそこで囮となり、死ぬ予定だっただろ?」

 背後から現れた男は銃口をこちらに向けながら少女に問うた。

「言いつけを守らないやつには罰が必要だな。」

 男が話しているあいだに傷の具合を確かめる。弾丸は運良く脇腹を貫通している。多少痛みはあるが致命傷では無い。
「ボスはお前を探しているぞ?罰を与えるためにな。」
「……罰ねぇ。」
「な、お前生きていたのか」
「腹撃ち抜いといてそりゃないんじゃないか?」
「何もんだお前」
「流浪の民、ホームレス、旅人、異世界人、火事場の女の子救ったヒーロー、その他色々称号はありそうだけどどれがいい?」
「口の減らねぇ奴だな」

 男は持っていた拳銃を再び構えると発砲しようとトリガーに指をかけた。距離にして数メートル。この距離なら外しようがない。
「遅せぇ」

 あの時と比べれば、あの人と比べれば……。組織名だたる連中と鎬を削っていた俺にとっては欠伸が出るほどスローに見えた。一気に距離を詰め取り出したナイフで腕を切りつけた。
「グァッは、早い……。」
「お前さんが遅いだけだろ。」
「糞ガキが……まぁ、良い。俺の勝ちだ。」

 圧倒的に劣勢のはずなのに、男はニヤリと笑うと背筋に氷柱を差し込まれたかのような悪寒が走った。

「さよなら、クソガキ」
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