わたしは人間なのですが……

七日 創

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召喚されました

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  グッモーニン、俺です。
  冴えない成人男子です。

  目が覚めたら知らん場所にシッダンしてました。

  石造りの、くそカビ臭い部屋。
  四方に炊かれた、燃え盛る篝火。


  クマさん柄のパジャマが下敷きにするのは、通称魔方陣と呼ばれるサムシング。


  ははあ、こりゃあれだな。
  俺は召喚されたな。

  いま流行りの「なろう系」というヤツだな。

  俺は話が早いのだ。
  情報検索能力は、中学校のころのクラスメイト、竹中くんより優れているのだ。

  アルファポリスで「なろう系」は禁句だろうか(さりげない独占投稿アッピル)。


  しかし異世界召喚ものとなると、最近は異種族変換ものも多いが、大抵は英雄もの、社畜家業から足を洗い、ハーレム爆誕だやったぜ!


  俺は薄暗いそこらを見渡す。
  さて、俺のハーレム第一号は誰だ。

 アイドルの誰それに似てると言われないイケメンの俺が、ベットでヒィヒィ言わせてやるぜ。

  ーーと、数メートル先に、なんか立ってるのが見える。
  おそらくは白いローブの、魔法の杖を持った、少々小柄な女である。
  こやつが拙僧を召喚しなすったな?
  風俗の面接みたいに遠慮ない目を送る。

  しめた、こいつ若い!!


  しかも、小さな身体にとびきりのダイナマイトを抱えた、素敵なわがままボディさんだ!!



  顔は……多少地味めなものの、整っていて、高校生のころの生徒会長、山下さん並の美人だ!!!



  なんという幸運。
  君に決めた!

  土砂崩れした岩肌みたいな顔だったら、払い腰ののち、横四方固めで、一発KOだったところだ、おめでとう!

「さあお嬢さん、わたしに倒されたい魔王はどこだね?」
  やおら立ち上がる。
  出で立ちがダサい?知ったことか。

  これからが俺のセクシー・ナイトだ、黙っておけ。

「……」
  ノリノリ英雄伝の俺に対し、お嬢さんの表情は微妙だ。
  はは、さては緊張しているな、かわいいヤツめ。
「遠慮することはない、お嬢さん、君のブレイブメン(勇者)だよ」
  手を広げ、歩き出す。
  お嬢さんがとびきりシャイ・ガールなら、俺から歓迎のハグをしてやろう。

「……えぇーー?」
  お嬢さんは眉を寄せ、言った。
「ーー?」
  様子がおかしい、俺は止まった。

「……人間?」

  ーーえっ?
  人間じゃアカンの?
「に、人間です」
  思わず敬語になる。
「い、一本でも人参です」
  二本でもサンダルである。
「はぁー、やっとここまでこぎつけたのに、なんでもうーー」
  お嬢さんは石畳のうえ、崩れるように座り込んだ。
「えっと、都合悪い?出直す?」
  俺も座った。
  なんかいたたまれなくなってきた。
「ええと、あなたはどこまで把握できていますか?」
  お嬢さんは気だるそうに口を開く。
  物憂げな感じも俺はイカすと思う。
「思うに、召喚されたんだろ?俺は君に」
「そうです、その通りです」
「ーーで、これから異世界の英雄として、魔王討伐に……」
「いえ、違います。魔王なんて殺伐としたものは、この世界にはいません」
「あれ、そうなの?ーーじゃあ俺はなんで?」
「この世界では、昔から大流行しているものがあります。モンスター・テイマー・バトルトーナメントというものです」
「モンスター……テイマー?」
  雲行きが怪しくなってくる。
「モンスター・テイマーとして協会に登録すると参加できる、召喚モンスターを使役して戦う、賞金大会です。莫大な賞金が期待できて、有名テイマーになるとそれこそ英雄にもなれるんですが……」
「……」
「初回登録のサービスガチャで外れガチャかよ!」
  ガチャ言いやがった!
  つーか誰が外れガチャだ!!
「ーーてことは、俺はモンスターとして召喚されたの?」
  おそるおそる聞く。
  まさか俺は、異世界では人間の範疇に入らないほどブサ太郎なのか。
「そうです。だから大体ショックです。戦力になりません」
「ええ、そこまでばっさり言う?」
  しかししゃーないか。
  俺だって期待のドラいちが終日二軍暮らしだったら不平を漏らす。
「召喚のやり直しはできないの?俺もさすがに、モンスターと戦うのは厳しいし……」
「リセマラできないんですよねー」
  リセマラ言いおった。
「あー、でも、無料ガチャは無理でも、有料ガチャはできるんだろ?それやろうぜ、俺も英雄譚でないなら帰りたいし……」
「無理なんですよ、それが」
「……どっちが?」
「どっちもです」
「どっちも!?」
  嘘だろ、ハーレム・タイムかと思いきや、地獄の片道キップだと?
「有料ガチャは、あるにはあるんですけど、通常の通貨ではできないんですよ。モンスター・テイマー・バトルの大会に参加して、専用のポイントを稼がないと回せないんです。ポイントとお金の変換はできるんですけどね」
「……つーことは、しばらくは君は、モンスターは俺だけ?」
「そういうことですね。ーーあとは、あなたを元の世界に帰すことですが、これも実はポイントが必要で……」
  不便だな、モンスター・テイマー・バトル!
「つまり俺は、帰りの運賃を出稼ぎしなきゃならんと?」
「そうなるんですよねーー」
「……」
  最悪だ!
  社畜の方がまだましだ!

  どうして俺が、なんの得にもならんのに、モンスターと戦わなくてはならんのだ!


  しかもわかってきたが、よくある「なろう系」とは違い、特になんかの力に目覚めてもなく、おまけに俺自身のスキルは日商簿記三級くらいだ!



  だからアルファポリスだっていってんだろ!!



「……帰るのにポイントはどれだけ?」
「ええと、三千ポイントですかね」
「三千……。それはどのくらい?」
「多くはないですが、初級者には結構な額です」
「ちなみに有料ガチャはいくら?」
「二千ポイントですね。十一連になると二万ポイントなんで、少しお得ですね」
  だからいちいちスマホゲーかよ。
「となると、少なくとも二千ポイントは稼がないとダメか……」
  なんという最低な話だ。
  クマさんパジャマも泣いている。
  ……石造りの部屋で、湿気で濡れてるだけだった。
「ポイントは、大会でどれだけ稼げるんだ?」
「まずわたしたちは、最下級の大会に参加することになると思いますけど、これは参加費はなしで、一勝すると十ポイントです」
「十ポイント……」
  果てしなく遠い。
「二回戦に進み、それも勝つと、五十ポイントです」
「五十ポイント……」
  やはり果てしなく遠い。 
「三回戦に勝つと百ポイントで……」
「百ポイント……」
  地道過ぎない?これ。
「優勝すると千ポイントです」

「千ポイントーー!?」


  いきなりスーパー・ひとしくんじゃねーか、がばがばかここの運営は!


「しかしなるほど、最下級大会で二回優勝すれば、とりあえず俺の危機は去るのか」
「そういうことになりますね。わたしとしても、外れガチャとおさらばできるので、それができるといいんですけど」
  だから外れガチャ言うな。
  そしてその優勝が、どれだけ困難かが問題だ。
「最下級大会は大体、どんなモンスターが出るんだ?」
  肝心なのはそこだ。
  外れガチャの、モンスターですらない人間が、どれだけ戦えるかだ。
「大抵は、サービスガチャの、低ランクモンスターがエントリーしますね。高級モンスターになると、テイマー自身のランクも上がって、下級大会は出られなくなりますから」
「ふむ……」
  いきなりドラゴンや、ゴーレムに踏み潰されることはないわけか。
「えっと、スライムとか」
  スライム、ど定番だな。
「おおうさぎとか」
  割りと聞いたことある名前だ。
  この辺りはなんとかなりそうか。
「ゴブリンとか……」
  これも定番ザコだ、人型の、小さなヤツだな。
  ーーようするに、俺たちの世界のゲームにでてくるような連中ということだな。
「あとは……まっかり虫とかでしょうか」
「ーーなんて!?」
  突然変なのがでてきたぞ!?
「二足歩行の変な虫です。しよーじきクソきもいんでマジ勘弁なんすけど」
  なんか女子高生みたくなった、
「ていうかマジ卍なんすけど」
  おまえさては、この世界の人間じゃないな?
「まあ、大体そんな、へちょいのばかりですよ」
「なんかすげーのとは、下級大会は絶対に当たらないの?」
「ごくごく稀でしょうね。ーーサービスガチャは、当たりが相当渋いので」
  だからスマホゲーかよ。
「ふむ、聞いた限りでは、そこまで危険はなさそうか……」
  スライムだとか、おおうさぎだとか、ゴブリンだとかまっかり虫だとか……。
  とりあえずは、多分だが、人間の俺でもなんとかなるだろう。

  問題は、当たりガチャを引いたラッキーマンとぶちあたることだが、これはゼロ%レベルでないはずだ。


  ガチャ爆死の達人の俺が言うので、かなりこれは信憑性が高いはずた。


「やるしかないか……」
  なにより、元の世界に帰らねばならん。
  それなら、選択肢も、はじめから無いも同然だ。

  すくなくとも、優勝は難しくとも、地道に二千ポイントは稼がなくてはならんかった。


「はい、是非ともお願いします!」
  やっとお嬢さんも笑顔になる。
  彼女も駆け出しのモンスター・テイマーとして、俺に逃げられてはかなわん訳である、


  ひとまずは、お嬢さんの笑顔が見られただけでも良かったとしてーー。





「安心してください、モンスター・テイマー・バトルには、デスペナルティはありませんから!」








  ーー今なんて言った?
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