わたしは人間なのですが……

七日 創

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勝てるわけねーだろ

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  やあ、みんな!
  唐突だけど、明日死ぬなら、最後の晩餐にはなに食べたい?
  僕は唐揚げ☆
  おいしいよね、唐揚げって!ジューシーで!!
  もしくはハンバーグかなっ☆
  ミンチ肉には、塊にない素敵な魅力がつまっていると思うんだ。

  ナイフを突き刺したときの、あふれでる肉汁は、塊肉のステーキにはありえないもんね!


  まあ今は、僕がミンチになりそうなんどけどね!



  急募!ちび人間がでかドラゴンに勝つ方法!当方大ピンチ!!!!



  マジでこれは、洒落になってない。
  なんだ、なんメートルだ、貴様は。

  ゴジラ換算で、十体分はありそうなでかさだ。


  でかすぎる?何を言っている、18メートルはあると俺は言うんだ。



  ゴジラ松井を十人重ねれば、だいたいそのくらいだろ!



  怪獣王ゴジラ?
  知らない子ですね。

「ーー」
  とりあえずどうする。
  さあどうする。

  チャッピーという、ヤングドラゴンだそうだが、なんだその新日本プロレスの若手みたいな種族名は(あれはヤングライオンだけど)。




  非常口の説明を、開始前に受けなかったが、なんかの手違いか?




  会場は沸き上がっている。
  なんだ、打席に清宮でも立ったか。

  清宮は日ハムが交渉権を獲得したが、みなさんはドラフト会議はご覧になりましたか?


  パ・リーグばっかりスター選手ずるくねーか!?


「ギャオオオオオアン!!」
  チャッピーは吠える。
  そんな可愛らしい名前なんだ、チワワかマルチーズあたりであって欲しかった。

  もしくは俺が、山田という名前の、範馬勇次郎ならよかった。


  山田範馬勇次郎、かっこいい、ミドルネームだ。


「行きなさい、チャッピー!」
  女王様系チャンネーがヤンドラに命令をする。
「ギャオオオオオアン!!」
  意思疎通がとれてないのか、チャッピーはまた、大仰に吠えるだけである。
  彼女たちもまた、出会ったばかりだ。
  きちんと自己紹介から始めないからこうなるんだ。

  敵が戸惑っている、今のうちがチャンスだ。


  誘導灯はないが、すいません係員さん、避難経路を教えて下さい。


「山田さん、頑張って!!」
  安全圏からビビアンが応援する。
  モンスター・テイマーとしてどうなんだそれは、もっと建設的に、攻略方法を教えてくれたりはしないのか。

  てめーを守っている、半球状のそいつと、お股のバリアーをぶち抜いてやろうか。

「ええい、くそったれ!」
  逃げ道はない。
  テイマーは役立たず。
  こうなりゃ頼れるのは自分だけだ、俺がやらなきゃ誰がやるんだ。

  鉄の悪魔を叩いて砕けと、かの有名なタツノコヒーロー、キャシャーンさんも言っているじゃないか。

「ぬおおおお!!」
  チャッピーに向かい、俺は走る。
  なにがゴジラ(松井)十体分だ、ガンダム換算でたった一体だ。

  生身でガンダムに敵うなんて、そんなわけがあるか馬鹿!

「くらえっ!!」
  思い切りテークバックをとり、ウロコだらけのばかでかい脚をぶん殴る。
  ゴビィィィイインーーと、反動が身体を駆け抜け、ギャグマンガみたいに俺はぐにょぐにょになる。
  か、かてぇ!
  なんだ貴様は、まるで電柱じゃねーか、送電でもしてろ。
「ぐ、ぐぬぬ……」
  攻撃どころか、こちらが拳を痛めた。
  ナチュラル・ボーン・物理反射とは恐れ入った。

  だが、俺の攻撃がパンチだけとは思うな。


  打撃の基本はローキックだ、足元から攻めれば、いずれはダメージが蓄積し、立っていられなくなるのだ。


「おらぁ!」
  空手の神、大山倍達先生よ、俺に宿れ!
  もしくはアンディ・フグかニコラス・ペタス!!

  鋭いローが、鞭のようにしなった!


  ごきんと、鈍い音がして、立っていられなくなったのは俺の方だ!!


「ぬおおおおおお!!」
  足をおさえ、のたうち回る。
  は、鋼だ!電柱どころじゃなかった!

  ドラコンは、鋼でできているんだ!!


  ラピュタは本当にあったんだ、父さんは嘘つきじゃなかった!


「山田さん、頑張って!!」
  お嬢さん、お嬢さん、あんたそればっかりか。
  なんか助けてくんないのか。
  壊れかけのレディオなのか。

  よし、ぶっ殺す。


  明日とは言わずにぶっ殺す。



  可及的速やかにぶっ殺す。



「今よチャッピー、踏み潰せ!!」
  チャンネーは言った。
  地味だが、これほど的確な命令があったか。

  テイマーとしても女王様としても、うちのよりよほど良くできていて、だから交換してもらえないでしょうか。


  いつの間に自己紹介を終えたのか、チャッピーはのそりとだが動き出した。


「ごるるるる……」
  低い唸り声も、またデカい。
  大きな足を持ち上げ、のたうつ俺をミンチにしようとする。
「うおおおっ!」
  だがまだミンチは勘弁だ。
  だいいち俺はローストされた方がましだ。

  なんとか立ち上がり、難を逃れた。

  チャッピーはでかいが、でかいからこそ動きが緩慢だ。
  そのおかげで、なんとか助かった。

  二秒前にいた場所が、もれなくクレーターになった。


「山田さん、頑張って!」



  壊れかけのレディオが、また同じことを言った。


  そればっかりかおまえは。
  チャッピーが稼働を始め、俺は必死に逃げるだけだ。
  二秒間隔で、クレーターが増え続けた。

  息も絶え絶えに、俺はビビアンを睨み付けた。

「ーー」
  知ってるか、ビビアン。
  未来予想図Ⅱという、ドリカムの名曲を。
  ブレーキランプを五回、ア・イ・シ・テ・ルのサインだ。
  今こそ俺は、同じことをしよう。
  ブレーキランプはないから、金魚みたいに口をパクパクしてやろう。

 ブ・チ・コ・ロ・ス。

「そんな、山田さん。ーーきゃっ」
  照れ恥ずかしがってんじゃねーよ!
  愛してるじゃねーよ、都合のいい脳みそだな!

  つーかなんで未来予想図Ⅱが通じるんだよ、てめーこの世界の人間じゃないな!?

「チャッピー、火炎放射よ!」
  おめーはおめーでポケモンマスターかよ!
  せめてデジモンテイマーにしろ!
  つーかこれ以上はやめろください!!
「ギャオオオオオアン!!」
  ごばぁーーと、チャッピーの口から火炎が吐き出される。
  おまえらずいぶん仲良くなったな、こちらの関係は最悪です。
「うっそだろ!?」
  踏んづけ攻撃はまだましだった。
  でかいがまだ点の攻撃なので、まだ避けられた。
  ーーが、火炎はだめだ。
  そいつは面だ。
  投網から逃げられる魚がいないのと一緒で、なんとしたことか、御希望通りのローストだ!

「び、ビビアン、たすけろ!!」
  かろうじて俺は、ポンコツテイマーに助けを求める。
「まだそういうのはー、早いですよわたしたちぃー」
  ビビアンのやつ、くねくねとまだ照れている。
  あほめ、誰がおまえに愛を捧げるか。
  いいか、アイシテルではなくブチコロスだ。
  未来予想図Ⅱではなく、殺人野放図Ⅱだ。

  生きて戻れたら、おまえエロ同人みたいにしてやるからな!!

「安全なところは……」
  瞬間にあたりを探る。
  チャッピーの火炎は、一帯をすべからく(誤用)支配する。

  では、火炎が届かないところといったら……。


  あった、チャッピーの足元ではないか!


  いくらなんでも、チャッピーだって自分の足元を焼き尽くすほどアホではないはずだ!




  勝った、第三部完!!




「ーー!」
  俺はチャッピーの足元に滑り込む。
  頭上を火炎が過ぎていく。

  完璧な回避に、俺は頬を緩める。

  ふはははは、なにがチャッピーだ、ヤンドラだ!


  なにが鞭の似合いそうな女王様だ、結局は急造コンビ、俺の知力に敵うもんか!!



  俺はこう見えて、難関国立大学に合格した男ーーが、友達にいるんだぞ!!!



  恐ろしい、末恐ろしいぞ俺!
  このまままさかの、人間がドラゴンに勝つという、史上最大の下克上がーー。


  ーーん?急に暗くなったけど、雨が降るのかしら?





  とか思ってるうちに、どすんとーー。
  チャッピーの踏んづけ作戦は、継続していてーー。

  俺はそして、彼の足元に飛び込んだわけでーー。




  間抜けか俺は。
  友達の知力で、どうして勝てるんだ。





  安全圏を探して、一番危険な場所にぶっこんでいくあほが、一体全体どこにいるんだ。





  最終的にはぺちゃんこで、ミンチよりひでえや。
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