真理の声

1章

静かな炎上

翌朝、目が覚めてスマホを開いた真理は、何かがおかしいとすぐに気づいた。
通知の数がいつもより多い。DMも、リプライも。

「白音まりあって、前からこんな声だったっけ？」
「黒音みりあと声が似すぎてない？」
「どっちがパクリ？」

スクロールしても、同じような言葉がいくつも並んでいる。
ハッシュタグ検索をかけると、比較動画やコラ画像まで投稿され始めていた。

（うそでしょ……？）

配信者にとって「炎上」とまではいかなくても、“比較される”ということは時に大きなストレスになる。
特に、それが“中の人”にまで踏み込んでくるような話題ならなおさらだ。

まりあの声が黒音みりあの真似だとする意見。
逆に、まりあの方が先だという擁護。
どちらの意見も、当人の耳に入れば十分に傷になる。

（私がなにかした……？）

昨日の配信ログを再生する。
たしかに、自分は普段通りだった。
でも、みりあの存在を意識していたからか、どこか気負いすぎていたようにも聞こえる。

まりあの配信を取り上げた切り抜き動画も増えていた。
「これ完全に黒音みりあと同じ声じゃん」
「後追い感すごい」
その中には、配信冒頭の挨拶や語尾のニュアンス、笑い方までも比較するような投稿まであった。

（私は……、真似なんかしてないのに）

けれど、“似ている”という印象は、見る者にとって事実のように扱われる。
訂正することも、否定することも、余計に騒ぎを大きくするだけかもしれない。

まりあの活動期間は、黒音みりあよりも長い。
それでも、「新しいほうに似ている」と言われることが、こんなにも苦しいなんて。

SNSを閉じ、スマホを伏せる。
手が微かに震えていた。

「……落ち着いて」

深呼吸をしても、胸のざわつきは消えなかった。
自分の声が、自分ではない誰かのものとして語られていく。
それが、静かに、けれど確実に真理を蝕んでいった。