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第一章 世界創造編
11.土台作り
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天界を創る場所は、太陽や月の馬が走っている辺りより遥か上方に決まった。まずはそこまで飛んでいかねばならない。
「では、参りましょう」
レカエルを先頭に地上を離れる三人。しばらく飛んでいると周りが白くなりはじめた。雲の中に入ったようだ。ということは……。
「クルートー!」
レカエルが上の方を見て歓声をあげた。クルートー、三人で創った雨の龍がいる。そう呼んでいるのはレカエルだけなのだが。
体を波打たせ、そこかしこに白い息を吐いていた。地上はすぐに雨になるだろう。
「ああクルートー、なんて勤勉な……」
ほう、とため息をついてうっとりと仕事ぶりを眺めるレカエル。龍を忌み嫌っていた頃からは考えられない変化だった。
「今更だけど、いいの? 龍だよ?」
「金属人形に罪はありません。そういえばツツミ、借りていた書物を読み終えました。次を貸してください」
三体の金属人形を創る時に参考にした人間界の漫画である。あれからレカエルは暇を見て読み進めていたのだった。
「コーリーベイが溶岩踊る火山口に突入しなければならないなんて……。続きを読みたいのです」
「ごめん、ない」
「……なんですって?」
レカエルが意味が分からないという顔をした。
「いやだから、持ってきたのはあれが最後」
元世界にいたときにすでに出ていた分しか手元にはないのである。今貸しているものが手元の最新刊だった。
「そんな! なんとか、なんとかなりませんか!?」
「いやそういわれても……」
ツツミたちが創れるのは自分が想像できるものだけである。人間が作っている物語を書いたものを出す事は不可能だ。
そして、元世界との行き来は三人の力を合わせてもまず無理である。
ちなみにツツミは連載されている漫画雑誌を買っていたのである程度先のストーリーを知っている。
「コーリーベイがどうなったかまでの話は知っているけど……口で説明しようか?」
かなりの逡巡があったようだ。しかしレカエルは踏みとどまった。
「……我慢します」
そうこうしているうちに目的の高さまでたどり着いた。地面は遥か下である。
太陽の馬が燃えながら走っている様子が、豆粒くらいの大きさで確認できた。
「さて、始めようか」
創ろうとしている天界は、空に浮かぶ大きな山である。まずは三人で手を繋ぎ円になる。これも久しぶりだ。
ツツミたちは互いを同調させ、アトムを集め始めた。
「……だああ、もう無理!」
とても小さな小島くらいの大きさまで出来上がったところで、ツツミは音をあげた。
どうも普通の大地を創ったときとは勝手がちがう。ひょっとしたらレカエルの天界に対する意気込みがイメージの同調を返って難しくしているのかもしれない。
二人を見ると、やはり疲労していた。レカエルは肩で息をしている。エウラシアも小島の上に倒れこんでいた。
「あー疲れた。二人とも、大丈夫?」
「な、なんてことはないです」
強がるレカエル。エウラシアもごろん、と仰向けになり言った。
「……無理」
「とりあえず休憩にしよう」
小休止を挟み作業を再開しようとしたが、エウラシアが動かない。
「ほら、エウラシア。まだまだ先は長いけど頑張ろう?」
ツツミの励ましにもふるふると首を振る。膝を抱えて丸まる『何もしたくないポーズ』に入ってしまった。
「こら、エウラシア! 約束は約束ですよ」
レカエルの言葉にエウラシアはチラッと視線を上げる。
「報酬。……一部前払い。要求する」
「はぁ!?」
ふざけるな、という表情のレカエル。しかしエウラシアは駄々っ子のようになってしまった。
「ちょっとだけ。五分。んー三分」
どうも最近完全にリミッターが外れているのではないか。怒りに震えていたレカエルはツツミの方に視線を送った。
「ツツミ」
「私は嫌だよ」
ただでさえ勝手に生贄にされたのである。嫌なことは一度に一気に済ませてしまったほうがいい。
しばらく悩んでいたレカエルはため息をついた。
「……三分だけですよ。あと、手を触れることは禁止します」
「ちゅーは?」
「もってのほかです」
レカエルはエウラシアと背中合わせに座り、翼で包み込んだ。
三分後。
「終わりです、エウラシア。エウラシア?」
「すぅ。すぅ」
完全に熟睡してしまったエウラシア。よほど寝心地が良かったのだろうか。レカエルのこめかみがぴくぴくと動く。
「起きなさい!!」
叫びながら聖槍を振り下ろす。エウラシアは瞬時に覚醒しかわした。しかし勢い止まらず、聖槍は地面をえぐり取る。
「あーーっ!」
せっかく作った天界の一部が砕け、小島の端から落ちていった。
「何やってるんだよ暴力天使!」
「う、うるさいですねエウラシアが……」
「私。悪く。ない」
「どの口が言うのですか!!」
騒いで余計に体力を消耗し、時間は過ぎていくのだった。
迷走しながらも、なんとか土台作りは終わった。いと高くにあり、いと高くにそびえる天界。これが翼あるものと羽毛好きの攻防によってできたとはだれも思うまい。
天界は太陽は創らず、空自体が光を発するようにした。時間によって光が増したり消えたりするのである。これで昼と夜の経過もばっちりだ。
なお、砕けた天界のかけらはそのまま地上に衝突した。大地を創る時よりはるかに苦労した天界。できた材質そのものが変わっていたらしい。
遠い遠い未来。地上に生きる者たちがそれを発見し、伝説級の鉱物として崇められることを三人はまだ知らない。
「では、参りましょう」
レカエルを先頭に地上を離れる三人。しばらく飛んでいると周りが白くなりはじめた。雲の中に入ったようだ。ということは……。
「クルートー!」
レカエルが上の方を見て歓声をあげた。クルートー、三人で創った雨の龍がいる。そう呼んでいるのはレカエルだけなのだが。
体を波打たせ、そこかしこに白い息を吐いていた。地上はすぐに雨になるだろう。
「ああクルートー、なんて勤勉な……」
ほう、とため息をついてうっとりと仕事ぶりを眺めるレカエル。龍を忌み嫌っていた頃からは考えられない変化だった。
「今更だけど、いいの? 龍だよ?」
「金属人形に罪はありません。そういえばツツミ、借りていた書物を読み終えました。次を貸してください」
三体の金属人形を創る時に参考にした人間界の漫画である。あれからレカエルは暇を見て読み進めていたのだった。
「コーリーベイが溶岩踊る火山口に突入しなければならないなんて……。続きを読みたいのです」
「ごめん、ない」
「……なんですって?」
レカエルが意味が分からないという顔をした。
「いやだから、持ってきたのはあれが最後」
元世界にいたときにすでに出ていた分しか手元にはないのである。今貸しているものが手元の最新刊だった。
「そんな! なんとか、なんとかなりませんか!?」
「いやそういわれても……」
ツツミたちが創れるのは自分が想像できるものだけである。人間が作っている物語を書いたものを出す事は不可能だ。
そして、元世界との行き来は三人の力を合わせてもまず無理である。
ちなみにツツミは連載されている漫画雑誌を買っていたのである程度先のストーリーを知っている。
「コーリーベイがどうなったかまでの話は知っているけど……口で説明しようか?」
かなりの逡巡があったようだ。しかしレカエルは踏みとどまった。
「……我慢します」
そうこうしているうちに目的の高さまでたどり着いた。地面は遥か下である。
太陽の馬が燃えながら走っている様子が、豆粒くらいの大きさで確認できた。
「さて、始めようか」
創ろうとしている天界は、空に浮かぶ大きな山である。まずは三人で手を繋ぎ円になる。これも久しぶりだ。
ツツミたちは互いを同調させ、アトムを集め始めた。
「……だああ、もう無理!」
とても小さな小島くらいの大きさまで出来上がったところで、ツツミは音をあげた。
どうも普通の大地を創ったときとは勝手がちがう。ひょっとしたらレカエルの天界に対する意気込みがイメージの同調を返って難しくしているのかもしれない。
二人を見ると、やはり疲労していた。レカエルは肩で息をしている。エウラシアも小島の上に倒れこんでいた。
「あー疲れた。二人とも、大丈夫?」
「な、なんてことはないです」
強がるレカエル。エウラシアもごろん、と仰向けになり言った。
「……無理」
「とりあえず休憩にしよう」
小休止を挟み作業を再開しようとしたが、エウラシアが動かない。
「ほら、エウラシア。まだまだ先は長いけど頑張ろう?」
ツツミの励ましにもふるふると首を振る。膝を抱えて丸まる『何もしたくないポーズ』に入ってしまった。
「こら、エウラシア! 約束は約束ですよ」
レカエルの言葉にエウラシアはチラッと視線を上げる。
「報酬。……一部前払い。要求する」
「はぁ!?」
ふざけるな、という表情のレカエル。しかしエウラシアは駄々っ子のようになってしまった。
「ちょっとだけ。五分。んー三分」
どうも最近完全にリミッターが外れているのではないか。怒りに震えていたレカエルはツツミの方に視線を送った。
「ツツミ」
「私は嫌だよ」
ただでさえ勝手に生贄にされたのである。嫌なことは一度に一気に済ませてしまったほうがいい。
しばらく悩んでいたレカエルはため息をついた。
「……三分だけですよ。あと、手を触れることは禁止します」
「ちゅーは?」
「もってのほかです」
レカエルはエウラシアと背中合わせに座り、翼で包み込んだ。
三分後。
「終わりです、エウラシア。エウラシア?」
「すぅ。すぅ」
完全に熟睡してしまったエウラシア。よほど寝心地が良かったのだろうか。レカエルのこめかみがぴくぴくと動く。
「起きなさい!!」
叫びながら聖槍を振り下ろす。エウラシアは瞬時に覚醒しかわした。しかし勢い止まらず、聖槍は地面をえぐり取る。
「あーーっ!」
せっかく作った天界の一部が砕け、小島の端から落ちていった。
「何やってるんだよ暴力天使!」
「う、うるさいですねエウラシアが……」
「私。悪く。ない」
「どの口が言うのですか!!」
騒いで余計に体力を消耗し、時間は過ぎていくのだった。
迷走しながらも、なんとか土台作りは終わった。いと高くにあり、いと高くにそびえる天界。これが翼あるものと羽毛好きの攻防によってできたとはだれも思うまい。
天界は太陽は創らず、空自体が光を発するようにした。時間によって光が増したり消えたりするのである。これで昼と夜の経過もばっちりだ。
なお、砕けた天界のかけらはそのまま地上に衝突した。大地を創る時よりはるかに苦労した天界。できた材質そのものが変わっていたらしい。
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