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第一章 世界創造編
13.パニックホラー
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夜はレカエルが神殿に泊めてくれることになった。
「部屋は幾らでもあります。主の恵みに感謝してお眠りなさい」
という訳で、この世界で初めて屋内での一夜となった。
神の使いである三人は基本野宿を苦にしない。寝ようと思えばどこでも寝られるのである。ニンフであるエウラシアに至っては、外のほうがくつろげるそうだ。
とはいえ、久しぶりの屋根と壁に囲まれた夜である。ツツミのテンションはうなぎのぼりだ。レカエルは居住スペースらしき場所へ案内した。
長い廊下が先が見えないほど長く伸びている。両壁にはポツポツと扉が広い感覚で並んでいた。
「このあたりの部屋を適当に使ってください。生憎、内装に手をかける暇はなかったのでからっぽですが」
試しに手近な扉を開けてみると、白い壁のがらんとした空間だった。家具の類は一切ない。
「まあ、好きにいじってもらって構いませんよ」
「うん。ありがとうレカエル!」
ツツミはそのまま部屋に入った。エウラシアは広いとはいえ囲まれた空間で休むのが苦手なのか、もう少し歩いて場所を探すそうだ。
扉を閉め、ツツミは笑みをこぼす。室内、夜、自由な時間。
「……やるべきことはひとつしかないじゃん」
葛籠を出し、中からDVDプレーヤーとソフトを取り出す。太陽を創ってからこまめに電気を蓄えたソーラーシステムも万全だ。
「んー、はっ!」
くつろぐためのソファーやクッション、ついでにスナック類と飲み物を出していく。モニタもいい場所に設置した。
「よし! どれを見ようかな……」
まず目についたのは異世界ものだったが、リアル異世界転移をしている今はどうもぴんと来ない。
ここは人間の学園ものだろうか。いや、あえての戦国乱世…………。
「きゃあああああ!!!」
思いのほか長く思考にふけっていたツツミ。悲鳴と、ドタバタと駆け回る音がしているのに気付く。
「なんだろう?」
部屋を出るツツミ。突然何かが猛スピードでぶつかってきた。
「痛っ!」
「きゃっ!」
レカエルだった。ぶつかった拍子に二人して倒れこむ。
「いててて…。レカエル、いったい何が」
「ツツミ、逃げましょう!」
立ち上がろうとする二人に、エウラシアが近づいてきた。……少し顔が赤い。
「エ、エウラシア?」
「聖堂にあった捧げもの用のぶどう酒を見つけたのでしょう……」
ということは、今のエウラシアは。ふふふ笑いをしながらエウラシアは言った。
「報酬の。支払いを。……ふふふ。要求する」
まだ言葉を忘れていないところを見ると、月見酒の時ほど酔ってはいないらしい。しかし飲酒モードのエウラシアはまずい。
確かに触ってもいいとはなったが、理性が飛んでいるときでは嫌な予感しかしなかった。
「……っ」
まだ立ち上がれてさえいない。エウラシアはじりじりと寄ってくる。
「レカエル。ここは協力しよう」
「是非もないです」
そう言うとレカエルは一瞬で集中し、手に杖を取り出した。すぐにエウラシアに投げつける。
「ふ」
事も無げに叩き落された杖。しかしそれは形を変え、大きな蛇になった。エウラシアは蛇に絡みつかれ動きを止める。
「こっちへ!」
立ち上がった二人はツツミの使っていた部屋に駆け込む。必死にドアノブを抑え、鍵をかける。
やがて何かがちぎれるような音がした。少しして扉がどんどんと叩かれ、ガチャガチャとドアノブが動く。
「ふふふ。開けて。開けろ。ふふふ」
「どうするんですか!?」
「ちょ、ちょっと待って!」
扉越しの存在に恐怖しながら、必死に考える。このパターンは……。
「そうだ! エウラシア、ちょっとだけ待って! その、……いろいろ、準備とかしてからがいいから……。きれいな私を触ってほしいの、お願い」
……ひとまず扉に入っていた力は消えた。この隙にツツミは念じてお札を取り出す。一枚、二枚、三枚。
そのうち一枚を扉に貼りつけレカエルに聞いた。
「レカエル、この壁に抜け道作れない?」
「急いでやります」
「お願い、私も手伝う」
急ピッチで壁に穴を作った。もう少しで外に出られる。
「ふふふ。まだ?」
「もうちょっと待って!」
返事をしたのはツツミではなくお札だった。やがて穴が完成し、二人が外に出る。後ろから同じやり取りが聞こえる。
「ふふふ。まだ?」
「もうちょっと待って!」
逃げ出した二人は全速力で神殿から離れていた。
「これで時間が稼げるといいんだけど……」
言い終わらないうちに抜け穴の方からガシャンと扉が壊れる音がした。振り返ると、エウラシアが飲酒モードの速さで追いかけてくる。
「来ます!」
「えーい、二枚目!」
地面にたたきつけると、エウラシアとの間に川ができた。どんどん深さと幅が広がり、間を隔てていく。
「これで……!」
逃げられないかと考えていると、エウラシアは川べりから宙に舞った。特に障害もなく、山を下る二人を追走する。
「しまった!相手は山姥じゃなかった!」
「というか、私たちも最初から飛べばよかったんです!」
そうこうしているうちに回り込まれてしまった。
「捕まえ。ふふふ。捕まえた」
「ツツミ、最後の一枚を!」
「でも……」
急かすレカエルだったが、ツツミは逡巡する。
「これ、ものすごい勢いで相手を燃やしちゃうやつだから……。いくら何でもそれはさすがに……」
「もうっ!」
エウラシアはが二人の眼前に迫る。
「ここまで。だね。ふふふ」
もうどうしようもない。諦めたツツミだったが、レカエルはキッ、と顔を上げた。
「観念しました、エウラシア。……ところで、絶対に振り向いてはいけませんよ」
なにを脈絡もなく言い出すのかと訝しむツツミ。エウラシアも分からなかったようで咄嗟に後ろを振り向いてしまう。
その瞬間、エウラシアの足元の地面が白く盛り上がった。
「なっ」
包み込むように地面はエウラシアをどんどん覆い隠していく。抵抗しようとした彼女だったが抗えない。
地面はエウラシアにまとわりつくと石膏のように固まっていく。全身が白くからめとられていった。
やがてエウラシアの輪郭が見えなくなり、崩れた円錐のような形になったところで異常は終わった。二人は崩れ落ちるように倒れる。
「はぁ、はぁ…。……これは?」
「『塩の柱』です。主が人間に与えた罰の一つですよ」
石膏に見えるのは塩らしい。『振り向いてはいけない』と命じた相手がそれに反すると使える技だそうだ。
「……どこの神様も似たようなことやってるんだね」
同じような振り向き禁止の話はツツミも聞いたことがあった。
「ともかくこれで一安心……」
ピシッ。言い終わらないうちに塩の柱にひびが入った。ひびはどんどん大きくなり、やがて耐えかねたように柱が砕ける。
「そんな!出られるはずがないのに!?」
完全に砕けた柱の中からエウラシアが現れ、二人をむんずとつかんだ。
「ふふふふふふ」
「は、はははっ」
「いや、いやぁ!」
エウラシアの執念は神の天罰をも凌駕した。こうして生贄は二人とも捕らえられ、エウラシアの宴は彼女が酔いつぶれるまで盛大に行われたのである。
翌日。エウラシアはやはり覚えていなかった。
「覚えて。ないから。んー。報酬は。まだ。受け取ったとは……」
「ダメに決まってるじゃん!」
「わ、私だって忘れたいです……」
全員のどよんとした気持ちの中、エウラシアへの報酬支払は終わった。
「部屋は幾らでもあります。主の恵みに感謝してお眠りなさい」
という訳で、この世界で初めて屋内での一夜となった。
神の使いである三人は基本野宿を苦にしない。寝ようと思えばどこでも寝られるのである。ニンフであるエウラシアに至っては、外のほうがくつろげるそうだ。
とはいえ、久しぶりの屋根と壁に囲まれた夜である。ツツミのテンションはうなぎのぼりだ。レカエルは居住スペースらしき場所へ案内した。
長い廊下が先が見えないほど長く伸びている。両壁にはポツポツと扉が広い感覚で並んでいた。
「このあたりの部屋を適当に使ってください。生憎、内装に手をかける暇はなかったのでからっぽですが」
試しに手近な扉を開けてみると、白い壁のがらんとした空間だった。家具の類は一切ない。
「まあ、好きにいじってもらって構いませんよ」
「うん。ありがとうレカエル!」
ツツミはそのまま部屋に入った。エウラシアは広いとはいえ囲まれた空間で休むのが苦手なのか、もう少し歩いて場所を探すそうだ。
扉を閉め、ツツミは笑みをこぼす。室内、夜、自由な時間。
「……やるべきことはひとつしかないじゃん」
葛籠を出し、中からDVDプレーヤーとソフトを取り出す。太陽を創ってからこまめに電気を蓄えたソーラーシステムも万全だ。
「んー、はっ!」
くつろぐためのソファーやクッション、ついでにスナック類と飲み物を出していく。モニタもいい場所に設置した。
「よし! どれを見ようかな……」
まず目についたのは異世界ものだったが、リアル異世界転移をしている今はどうもぴんと来ない。
ここは人間の学園ものだろうか。いや、あえての戦国乱世…………。
「きゃあああああ!!!」
思いのほか長く思考にふけっていたツツミ。悲鳴と、ドタバタと駆け回る音がしているのに気付く。
「なんだろう?」
部屋を出るツツミ。突然何かが猛スピードでぶつかってきた。
「痛っ!」
「きゃっ!」
レカエルだった。ぶつかった拍子に二人して倒れこむ。
「いててて…。レカエル、いったい何が」
「ツツミ、逃げましょう!」
立ち上がろうとする二人に、エウラシアが近づいてきた。……少し顔が赤い。
「エ、エウラシア?」
「聖堂にあった捧げもの用のぶどう酒を見つけたのでしょう……」
ということは、今のエウラシアは。ふふふ笑いをしながらエウラシアは言った。
「報酬の。支払いを。……ふふふ。要求する」
まだ言葉を忘れていないところを見ると、月見酒の時ほど酔ってはいないらしい。しかし飲酒モードのエウラシアはまずい。
確かに触ってもいいとはなったが、理性が飛んでいるときでは嫌な予感しかしなかった。
「……っ」
まだ立ち上がれてさえいない。エウラシアはじりじりと寄ってくる。
「レカエル。ここは協力しよう」
「是非もないです」
そう言うとレカエルは一瞬で集中し、手に杖を取り出した。すぐにエウラシアに投げつける。
「ふ」
事も無げに叩き落された杖。しかしそれは形を変え、大きな蛇になった。エウラシアは蛇に絡みつかれ動きを止める。
「こっちへ!」
立ち上がった二人はツツミの使っていた部屋に駆け込む。必死にドアノブを抑え、鍵をかける。
やがて何かがちぎれるような音がした。少しして扉がどんどんと叩かれ、ガチャガチャとドアノブが動く。
「ふふふ。開けて。開けろ。ふふふ」
「どうするんですか!?」
「ちょ、ちょっと待って!」
扉越しの存在に恐怖しながら、必死に考える。このパターンは……。
「そうだ! エウラシア、ちょっとだけ待って! その、……いろいろ、準備とかしてからがいいから……。きれいな私を触ってほしいの、お願い」
……ひとまず扉に入っていた力は消えた。この隙にツツミは念じてお札を取り出す。一枚、二枚、三枚。
そのうち一枚を扉に貼りつけレカエルに聞いた。
「レカエル、この壁に抜け道作れない?」
「急いでやります」
「お願い、私も手伝う」
急ピッチで壁に穴を作った。もう少しで外に出られる。
「ふふふ。まだ?」
「もうちょっと待って!」
返事をしたのはツツミではなくお札だった。やがて穴が完成し、二人が外に出る。後ろから同じやり取りが聞こえる。
「ふふふ。まだ?」
「もうちょっと待って!」
逃げ出した二人は全速力で神殿から離れていた。
「これで時間が稼げるといいんだけど……」
言い終わらないうちに抜け穴の方からガシャンと扉が壊れる音がした。振り返ると、エウラシアが飲酒モードの速さで追いかけてくる。
「来ます!」
「えーい、二枚目!」
地面にたたきつけると、エウラシアとの間に川ができた。どんどん深さと幅が広がり、間を隔てていく。
「これで……!」
逃げられないかと考えていると、エウラシアは川べりから宙に舞った。特に障害もなく、山を下る二人を追走する。
「しまった!相手は山姥じゃなかった!」
「というか、私たちも最初から飛べばよかったんです!」
そうこうしているうちに回り込まれてしまった。
「捕まえ。ふふふ。捕まえた」
「ツツミ、最後の一枚を!」
「でも……」
急かすレカエルだったが、ツツミは逡巡する。
「これ、ものすごい勢いで相手を燃やしちゃうやつだから……。いくら何でもそれはさすがに……」
「もうっ!」
エウラシアはが二人の眼前に迫る。
「ここまで。だね。ふふふ」
もうどうしようもない。諦めたツツミだったが、レカエルはキッ、と顔を上げた。
「観念しました、エウラシア。……ところで、絶対に振り向いてはいけませんよ」
なにを脈絡もなく言い出すのかと訝しむツツミ。エウラシアも分からなかったようで咄嗟に後ろを振り向いてしまう。
その瞬間、エウラシアの足元の地面が白く盛り上がった。
「なっ」
包み込むように地面はエウラシアをどんどん覆い隠していく。抵抗しようとした彼女だったが抗えない。
地面はエウラシアにまとわりつくと石膏のように固まっていく。全身が白くからめとられていった。
やがてエウラシアの輪郭が見えなくなり、崩れた円錐のような形になったところで異常は終わった。二人は崩れ落ちるように倒れる。
「はぁ、はぁ…。……これは?」
「『塩の柱』です。主が人間に与えた罰の一つですよ」
石膏に見えるのは塩らしい。『振り向いてはいけない』と命じた相手がそれに反すると使える技だそうだ。
「……どこの神様も似たようなことやってるんだね」
同じような振り向き禁止の話はツツミも聞いたことがあった。
「ともかくこれで一安心……」
ピシッ。言い終わらないうちに塩の柱にひびが入った。ひびはどんどん大きくなり、やがて耐えかねたように柱が砕ける。
「そんな!出られるはずがないのに!?」
完全に砕けた柱の中からエウラシアが現れ、二人をむんずとつかんだ。
「ふふふふふふ」
「は、はははっ」
「いや、いやぁ!」
エウラシアの執念は神の天罰をも凌駕した。こうして生贄は二人とも捕らえられ、エウラシアの宴は彼女が酔いつぶれるまで盛大に行われたのである。
翌日。エウラシアはやはり覚えていなかった。
「覚えて。ないから。んー。報酬は。まだ。受け取ったとは……」
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