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第一章 世界創造編
14.はじめての戦争
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レカエルの神殿が完成してから数日後。
頂上の神殿以外は未だになにもない。今度は山全体を整えていくことになった。
「岩や巨石をごろごろ転がしておけばよいのではないですか?」
レカエルの山のイメージは裸の山肌に切り立った崖、巨大な岩といった不毛な場所らしい。
「せっかくだから火山にしようよ火山! いっつも煙がモクモクでさ、たまに派手に火を噴き上げる感じで」
「だめです」
ツツミは提案したが、すでに神殿を創ってしまったレカエルに却下された。
「むー。エウラシアは?」
エウラシアは少し考えてから言う。
「……創らなきゃ。いけないなら。森が。いい」
木々が生い茂る深い森を創りたいそうだ。
ツツミも想像してみる。鬱蒼とした森。いかにも獣が住んでいそうな森。勇者はモンスターを倒し、奥に進むとそこには古い遺跡が……。これはいい。
「森にしよう」
こうして天界の森づくりが始まった。三人それぞれで、植物を創り植えていくことになる。
エウラシアはのんびりとしたペースで、なにやら色とりどりの花を創っていた。
「んー。うん。……あー」
一つ創るとしげしげと眺め、ポイッとその辺に投げる。
……なんだか作品を作っては割り、作っては割りを続ける陶芸家のようにも見える。もしかしたら納得がいっていないのかもしれない。
とはいえ、投げられた花は地面に根付いていった。エウラシアの周りにお花畑が広がっている。
一方ツツミが創りたいものは決まっていた。念じて地面に手をつける。
「それっ」
にょきにょきと伸びてきたのは大きな木だった。幹は太く、枝ぶりも立派だ。葉は細く枝分かれしている。
「できた。ふふん、これを『ヤクスギ』と名付けよう」
「ヤクスギ? つまりこれは杉ですか?」
「うん!」
どうだいいだろう、といった風に得意げなツツミ。しかしレカエルは鼻で笑った。
「この程度で杉を名乗るとは……おこがましいですよ、ツツミ」
レカエルもまた同じように木を創り出す。できたそれはツツミのヤクスギより少し大きかった。
「杉とはこういうものです。そうですね……『レバノンスギ』と命名しましょう」
針のような葉が密集している。もしかしたら分類的には松なのかもしれない。
何より特筆すべきは香りだった。どんな木も香りがあるものだが、レバノンスギはそれがとても強い。それでいて決して不快ではなく、むしろ高貴さを感じる。
香水の原材料とかにもなるのではないだろうか。
「元世界で、主の神殿を建てるときにも使われたものです。杉ならばこちらが天界にふさわしいでしょう」
「ぐぬぬ……。ヤクスギはすごいんだよ。人間たちだって価値を認める『世界遺産』なんだから!」
反論するツツミに対し、レカエルは余裕を崩さない。
「人間がどう価値を認めるかは些細な問題ですが……。レバノンスギもまた、『世界遺産』なのです」
バチバチと視線を戦わせるツツミとエウラシア。杉戦争が始まった。次々と木を創り出しながら競い合う。
「ほら見てこの太さ。手を繋いで幹を囲むのに十人は必要だね」
「ならこちらは高さで勝負です。見上げてごらんなさい、首が折れるほどに」
「葉を手触りよくしてみたよ。すごい、絹みたい。このまま服にできそう!」
「こちらの葉は硬くしてみました。武器にもなりそうですね!」
「次の一本はカラーで勝負! 行け、ベニマダラモンシロアオヤクスギ!」
「なんの、ゴールデンメタリックホワイトシルバーレバノンスギ!」
妙な方向に走りだす二人。
「戦争は数です。産み増えなさい、レバノンスギ!」
レカエルが創った新しいレバノンスギ。意識を持っているらしく、枝をみょんみょんと動かしている。
その枝から、次々に小さいレバノンスギの若木が産まれだした。膝くらいの高さだろうか。
産まれたレバノンスギたちは根を器用に動かして走り出した。次々と適当な場所を見つけ、土を掘って自生していく。
「こちらも負けるなヤクスギ!」
ツツミも同様に母となるヤクスギを生み出した。こちらは幹の部分に目と口のような穴が三つ空いている。口から吐き出すように子供たちを産み始めた。
「この山の覇権をとるのは」
「私の杉です!!」
数日後。少しなだらかな平地となった場所に二つの軍勢が集結していた。ヤクスギ軍とレバノンスギ軍。それぞれ数千の規模である。
激化をたどる杉戦争。戦いのうちに、ツツミとレカエルは杉により高度な自意識を与えていた。
言葉こそ発さないものの、まるで人間のように動き回る杉たち。やがてヤクスギ、レバノンスギ共に相手を邪魔し、倒すようになる。
その中で突出した強さの杉が、それぞれリーダーとして選ばれたらしい。リーダーは集団を組織し、より効率的に自生地を広げようとする。
いくつもの争いがあった。そしてついに、天下分け目の戦いがここで始まることとなったのである。
「いよいよ決戦だね、レカエル!」
「決着をつけましょう、ツツミ!」
各軍の後ろに陣取ったツツミとレカエル。
「今回私たち自身は手出し無用です。木々たちの神聖なる戦いに任せましょう」
「オッケー。さあかかれ、ヤクスギ軍!」
「行きなさいレバノンスギ軍!」
まず進軍を始めたのはレバノンスギ軍だった。隊列を組んでヤクスギ軍の中心部分に突撃していく。
間合いが詰まると、レバノンスギたちは自分の葉を相手に飛ばし始めた。恐らく分類的には松にあたるレバノンスギ。葉は針のように細く、鋭い。
攻撃によってハリネズミの様になっていくヤクスギたち。陣の中心部分が押されはじめ、後退していく。
「いい調子です、レバノンスギ!」
優勢に色めき立つレカエル。しかしツツミは慌てない。
「まだまだ甘いねレカエル。ヤクスギたちは策士だよ」
されるがままのように見えたヤクスギ軍。しかし軍の両端の部隊が、レバノンスギ軍を囲むように展開していく。
やがて包囲する形となったヤクスギ軍。枝と葉をを揺らすと、レバノンスギ軍に向かって黄色い煙が漂い始めた。
花粉攻撃である。どうやらこの花粉、レバノンスギには有害なようだ。煙に巻かれたレバノンスギが苦しむかのように震え、倒れていく。
しかしレバノンスギたちも戦士だ。勇猛果敢に針を飛ばし、ヤクスギたちを倒していく。やがて包囲は持続できなくなり、両軍入り乱れての乱戦となった。
「神の敵を打ち倒すのです!」
「負けるなヤクスギ!」
二人の応援にも熱が入る。すると、乱戦の中心に突然空間が開いた。杉たちが場所を開けるように円状に引いていく。
そこにいたのは一際おおきな二本の木。リーダー、レバノンスギ王とヤクスギ王であった。
対峙する二本。種類の違う木々同士でもコミュニケーションが取れるのだろう。枝を小刻みに揺らして会話しているようだ。
やがてぴたっと止まり、にらみ合うかのように相対する。ヤクスギ王、レバノンスギ王は同時に走り出し、一騎打ちが始まった。
と思った瞬間、レバノンスギ王はヤクスギ王の胸元(幹の部分)に飛び込んだ。枝を下ろし、しなだれかかる。
ヤクスギ王は枝を広げ、レバノンスギ王を包み込むかのように枝を巻き付けた。されるがままのレバノンスギ王。
戦っているようではない。枝を手であると考えるならこれは……。
「抱擁?」
ツツミが言った。どうみても愛情表現にしか見えない。ヤクスギ王はレバノンスギ王を抱きかかえる。お姫様の様に。
「女の子だったのですね、レバノンスギ王……」
性別があったのか。愕然とする二人をよそに、二本の王は周りの木々たちに向かって枝を振る。みるみるうちに戦いが収まった。
王に倣うように、手(枝)をとりあい、震えるヤクスギとレバノンスギたち。戦争は、終わった。
「……レカエル、これが木々たちの出した結論みたいだよ」
「……ふんっ」
鼻を鳴らすレカエルだが、それほど不満げにも見えない。完全に毒気を抜かれてしまったようだ。
ツツミも同じく戦意を失っている。レカエルのもとに行き、照れたように笑った。
「引き分け、かな」
「仕方ありませんね」
杉たちは王を祝う上に枝を伸ばし、左右に揺れている。
「木に、大事なことを教えられたね」
「どうだか……。まあ、ひとまずは私たちも祝福しましょう」
二人はヤクスギ王、レバノンスギ王(女王)のもとに降りたつ。木々たちの動きが止まった。
「ヤクスギ!」
「レバノンスギ!」
「二つの種族に、大いなる繁栄が……」
瞬間、ヤクスギ王が黄色い煙を二人にむけて放った。
「な、なにが……は、はっくしょん!」
「げほっ、目が、目が見えません!」
混乱する二人。するとざわざわと周りが騒ぎ始め、杉たちがツツミとレカエルに襲い掛かり始めた。
「やめて、お願い杉たち!」
「痛いっ!針が、針が!」
大勢の杉に針と花粉を浴びせられ、まとわりつく枝で身動きが取れなくなる。大きくてもせいぜい膝くらいの高さだが、数が多い。
「これは、反乱です!!」
レカエルが焦ったように言った。戦いを招いた創造主への恨みは深いらしい。
「どうしましょう、ツツミ!」
「どうするっていったって……!」
狐火で燃やし尽くしてしまおうか。聖槍で薙ぎ払ってしまおうか。
できないことはないが、理不尽にも思える。少し罪悪感のようなものを二人は感じていた。
「でもこのままでは……」
レカエルの言う通り、覚悟を決めるべきなのか。と、いきなり少し離れた場所から木が裂けるような大きい音がした。
擬音にするなら『メリメリメリ』といったところか。最初に杉を創った辺りからである。木々の軍勢は一瞬動きを止めた。
杉の群生地から、一際大きな木が伸びてくる。周りの杉をなぎ倒し、これでもかというくらい大きく、高くそびえたつ。
杉ではない。しかしどこかで見たことがある木だった。色や葉の形に見覚えがある。しかしあれほど大きい木は……。いや、ツツミは確信した。
「エウラシアの木だ!!」
エウラシアが元世界から持ち込んだ若木である。小さな植木鉢くらいの大きさだったそれが、巨大化していた。
やがて木は成長を止め、動き出す。ズンッ、と腹に響くかのような足音だ(根だろうが)。
そしてついにそれが戦場にやってきた。近くで見るとより大きさがわかる。最初にツツミとレカエルが創った杉の三倍くらいはあるだろうか。
一本の太い枝には誰かが座っていた。
「助けに。来た」
「エウラシア!」
エウラシアは座っていた枝をひと撫でする。巨木は止まり、大きな大きな体を揺らした。
これだけ大きいと、葉の揺れる音も騒音レベルである。戦場にそれが響き渡ると、ヤクスギ王とレバノンスギ女王は膝まずくかのように幹を曲げた。
周りの杉たちも平伏し始める。ツツミとレカエルをとらえていた杉たちも離れ、二人は自由になった。
巨木からエウラシアが飛び降りた。幹を愛おしそうに撫でる。
「行って。いいよ」
エウラシアの言葉に、巨木は来た時と同じように動き出す。ヤクスギ王、レバノンスギ女王がそれに続き、配下の杉たちも従った。
去っていく木々たち。途中途中で一部が止まり、地に根を下ろしていく。
「もう。大丈夫。あの子が。まとめてくれる」
無感情そうに言うエウラシア。呆然とする二人は、状況の変化に頭が追い付かない。
「と、とりあえずありがとうございます」
「いい」
「わ、私もありがとう。ところでエウラシア……あれ、何の木?」
ツツミの問いに、エウラシアは微笑んだが答えなかった。
こうして天界はヤクスギ、レバノンスギが生い茂る森となった。知性を持ち、必要となれば動くこともできる木々たち。彼らをまとめるのは謎の巨木である。
頂上の神殿以外は未だになにもない。今度は山全体を整えていくことになった。
「岩や巨石をごろごろ転がしておけばよいのではないですか?」
レカエルの山のイメージは裸の山肌に切り立った崖、巨大な岩といった不毛な場所らしい。
「せっかくだから火山にしようよ火山! いっつも煙がモクモクでさ、たまに派手に火を噴き上げる感じで」
「だめです」
ツツミは提案したが、すでに神殿を創ってしまったレカエルに却下された。
「むー。エウラシアは?」
エウラシアは少し考えてから言う。
「……創らなきゃ。いけないなら。森が。いい」
木々が生い茂る深い森を創りたいそうだ。
ツツミも想像してみる。鬱蒼とした森。いかにも獣が住んでいそうな森。勇者はモンスターを倒し、奥に進むとそこには古い遺跡が……。これはいい。
「森にしよう」
こうして天界の森づくりが始まった。三人それぞれで、植物を創り植えていくことになる。
エウラシアはのんびりとしたペースで、なにやら色とりどりの花を創っていた。
「んー。うん。……あー」
一つ創るとしげしげと眺め、ポイッとその辺に投げる。
……なんだか作品を作っては割り、作っては割りを続ける陶芸家のようにも見える。もしかしたら納得がいっていないのかもしれない。
とはいえ、投げられた花は地面に根付いていった。エウラシアの周りにお花畑が広がっている。
一方ツツミが創りたいものは決まっていた。念じて地面に手をつける。
「それっ」
にょきにょきと伸びてきたのは大きな木だった。幹は太く、枝ぶりも立派だ。葉は細く枝分かれしている。
「できた。ふふん、これを『ヤクスギ』と名付けよう」
「ヤクスギ? つまりこれは杉ですか?」
「うん!」
どうだいいだろう、といった風に得意げなツツミ。しかしレカエルは鼻で笑った。
「この程度で杉を名乗るとは……おこがましいですよ、ツツミ」
レカエルもまた同じように木を創り出す。できたそれはツツミのヤクスギより少し大きかった。
「杉とはこういうものです。そうですね……『レバノンスギ』と命名しましょう」
針のような葉が密集している。もしかしたら分類的には松なのかもしれない。
何より特筆すべきは香りだった。どんな木も香りがあるものだが、レバノンスギはそれがとても強い。それでいて決して不快ではなく、むしろ高貴さを感じる。
香水の原材料とかにもなるのではないだろうか。
「元世界で、主の神殿を建てるときにも使われたものです。杉ならばこちらが天界にふさわしいでしょう」
「ぐぬぬ……。ヤクスギはすごいんだよ。人間たちだって価値を認める『世界遺産』なんだから!」
反論するツツミに対し、レカエルは余裕を崩さない。
「人間がどう価値を認めるかは些細な問題ですが……。レバノンスギもまた、『世界遺産』なのです」
バチバチと視線を戦わせるツツミとエウラシア。杉戦争が始まった。次々と木を創り出しながら競い合う。
「ほら見てこの太さ。手を繋いで幹を囲むのに十人は必要だね」
「ならこちらは高さで勝負です。見上げてごらんなさい、首が折れるほどに」
「葉を手触りよくしてみたよ。すごい、絹みたい。このまま服にできそう!」
「こちらの葉は硬くしてみました。武器にもなりそうですね!」
「次の一本はカラーで勝負! 行け、ベニマダラモンシロアオヤクスギ!」
「なんの、ゴールデンメタリックホワイトシルバーレバノンスギ!」
妙な方向に走りだす二人。
「戦争は数です。産み増えなさい、レバノンスギ!」
レカエルが創った新しいレバノンスギ。意識を持っているらしく、枝をみょんみょんと動かしている。
その枝から、次々に小さいレバノンスギの若木が産まれだした。膝くらいの高さだろうか。
産まれたレバノンスギたちは根を器用に動かして走り出した。次々と適当な場所を見つけ、土を掘って自生していく。
「こちらも負けるなヤクスギ!」
ツツミも同様に母となるヤクスギを生み出した。こちらは幹の部分に目と口のような穴が三つ空いている。口から吐き出すように子供たちを産み始めた。
「この山の覇権をとるのは」
「私の杉です!!」
数日後。少しなだらかな平地となった場所に二つの軍勢が集結していた。ヤクスギ軍とレバノンスギ軍。それぞれ数千の規模である。
激化をたどる杉戦争。戦いのうちに、ツツミとレカエルは杉により高度な自意識を与えていた。
言葉こそ発さないものの、まるで人間のように動き回る杉たち。やがてヤクスギ、レバノンスギ共に相手を邪魔し、倒すようになる。
その中で突出した強さの杉が、それぞれリーダーとして選ばれたらしい。リーダーは集団を組織し、より効率的に自生地を広げようとする。
いくつもの争いがあった。そしてついに、天下分け目の戦いがここで始まることとなったのである。
「いよいよ決戦だね、レカエル!」
「決着をつけましょう、ツツミ!」
各軍の後ろに陣取ったツツミとレカエル。
「今回私たち自身は手出し無用です。木々たちの神聖なる戦いに任せましょう」
「オッケー。さあかかれ、ヤクスギ軍!」
「行きなさいレバノンスギ軍!」
まず進軍を始めたのはレバノンスギ軍だった。隊列を組んでヤクスギ軍の中心部分に突撃していく。
間合いが詰まると、レバノンスギたちは自分の葉を相手に飛ばし始めた。恐らく分類的には松にあたるレバノンスギ。葉は針のように細く、鋭い。
攻撃によってハリネズミの様になっていくヤクスギたち。陣の中心部分が押されはじめ、後退していく。
「いい調子です、レバノンスギ!」
優勢に色めき立つレカエル。しかしツツミは慌てない。
「まだまだ甘いねレカエル。ヤクスギたちは策士だよ」
されるがままのように見えたヤクスギ軍。しかし軍の両端の部隊が、レバノンスギ軍を囲むように展開していく。
やがて包囲する形となったヤクスギ軍。枝と葉をを揺らすと、レバノンスギ軍に向かって黄色い煙が漂い始めた。
花粉攻撃である。どうやらこの花粉、レバノンスギには有害なようだ。煙に巻かれたレバノンスギが苦しむかのように震え、倒れていく。
しかしレバノンスギたちも戦士だ。勇猛果敢に針を飛ばし、ヤクスギたちを倒していく。やがて包囲は持続できなくなり、両軍入り乱れての乱戦となった。
「神の敵を打ち倒すのです!」
「負けるなヤクスギ!」
二人の応援にも熱が入る。すると、乱戦の中心に突然空間が開いた。杉たちが場所を開けるように円状に引いていく。
そこにいたのは一際おおきな二本の木。リーダー、レバノンスギ王とヤクスギ王であった。
対峙する二本。種類の違う木々同士でもコミュニケーションが取れるのだろう。枝を小刻みに揺らして会話しているようだ。
やがてぴたっと止まり、にらみ合うかのように相対する。ヤクスギ王、レバノンスギ王は同時に走り出し、一騎打ちが始まった。
と思った瞬間、レバノンスギ王はヤクスギ王の胸元(幹の部分)に飛び込んだ。枝を下ろし、しなだれかかる。
ヤクスギ王は枝を広げ、レバノンスギ王を包み込むかのように枝を巻き付けた。されるがままのレバノンスギ王。
戦っているようではない。枝を手であると考えるならこれは……。
「抱擁?」
ツツミが言った。どうみても愛情表現にしか見えない。ヤクスギ王はレバノンスギ王を抱きかかえる。お姫様の様に。
「女の子だったのですね、レバノンスギ王……」
性別があったのか。愕然とする二人をよそに、二本の王は周りの木々たちに向かって枝を振る。みるみるうちに戦いが収まった。
王に倣うように、手(枝)をとりあい、震えるヤクスギとレバノンスギたち。戦争は、終わった。
「……レカエル、これが木々たちの出した結論みたいだよ」
「……ふんっ」
鼻を鳴らすレカエルだが、それほど不満げにも見えない。完全に毒気を抜かれてしまったようだ。
ツツミも同じく戦意を失っている。レカエルのもとに行き、照れたように笑った。
「引き分け、かな」
「仕方ありませんね」
杉たちは王を祝う上に枝を伸ばし、左右に揺れている。
「木に、大事なことを教えられたね」
「どうだか……。まあ、ひとまずは私たちも祝福しましょう」
二人はヤクスギ王、レバノンスギ王(女王)のもとに降りたつ。木々たちの動きが止まった。
「ヤクスギ!」
「レバノンスギ!」
「二つの種族に、大いなる繁栄が……」
瞬間、ヤクスギ王が黄色い煙を二人にむけて放った。
「な、なにが……は、はっくしょん!」
「げほっ、目が、目が見えません!」
混乱する二人。するとざわざわと周りが騒ぎ始め、杉たちがツツミとレカエルに襲い掛かり始めた。
「やめて、お願い杉たち!」
「痛いっ!針が、針が!」
大勢の杉に針と花粉を浴びせられ、まとわりつく枝で身動きが取れなくなる。大きくてもせいぜい膝くらいの高さだが、数が多い。
「これは、反乱です!!」
レカエルが焦ったように言った。戦いを招いた創造主への恨みは深いらしい。
「どうしましょう、ツツミ!」
「どうするっていったって……!」
狐火で燃やし尽くしてしまおうか。聖槍で薙ぎ払ってしまおうか。
できないことはないが、理不尽にも思える。少し罪悪感のようなものを二人は感じていた。
「でもこのままでは……」
レカエルの言う通り、覚悟を決めるべきなのか。と、いきなり少し離れた場所から木が裂けるような大きい音がした。
擬音にするなら『メリメリメリ』といったところか。最初に杉を創った辺りからである。木々の軍勢は一瞬動きを止めた。
杉の群生地から、一際大きな木が伸びてくる。周りの杉をなぎ倒し、これでもかというくらい大きく、高くそびえたつ。
杉ではない。しかしどこかで見たことがある木だった。色や葉の形に見覚えがある。しかしあれほど大きい木は……。いや、ツツミは確信した。
「エウラシアの木だ!!」
エウラシアが元世界から持ち込んだ若木である。小さな植木鉢くらいの大きさだったそれが、巨大化していた。
やがて木は成長を止め、動き出す。ズンッ、と腹に響くかのような足音だ(根だろうが)。
そしてついにそれが戦場にやってきた。近くで見るとより大きさがわかる。最初にツツミとレカエルが創った杉の三倍くらいはあるだろうか。
一本の太い枝には誰かが座っていた。
「助けに。来た」
「エウラシア!」
エウラシアは座っていた枝をひと撫でする。巨木は止まり、大きな大きな体を揺らした。
これだけ大きいと、葉の揺れる音も騒音レベルである。戦場にそれが響き渡ると、ヤクスギ王とレバノンスギ女王は膝まずくかのように幹を曲げた。
周りの杉たちも平伏し始める。ツツミとレカエルをとらえていた杉たちも離れ、二人は自由になった。
巨木からエウラシアが飛び降りた。幹を愛おしそうに撫でる。
「行って。いいよ」
エウラシアの言葉に、巨木は来た時と同じように動き出す。ヤクスギ王、レバノンスギ女王がそれに続き、配下の杉たちも従った。
去っていく木々たち。途中途中で一部が止まり、地に根を下ろしていく。
「もう。大丈夫。あの子が。まとめてくれる」
無感情そうに言うエウラシア。呆然とする二人は、状況の変化に頭が追い付かない。
「と、とりあえずありがとうございます」
「いい」
「わ、私もありがとう。ところでエウラシア……あれ、何の木?」
ツツミの問いに、エウラシアは微笑んだが答えなかった。
こうして天界はヤクスギ、レバノンスギが生い茂る森となった。知性を持ち、必要となれば動くこともできる木々たち。彼らをまとめるのは謎の巨木である。
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解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。
ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。
しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。
スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。
何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……?
「今日は野菜の苗植えをします」
「おー!」
「めぇー!!」
友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。
そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。
子育て成長、お仕事ストーリー。
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白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!
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