三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第一章 世界創造編

15.神社、大地に

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「ツツミ、いい加減にしてください」

 レカエルがこめかみをぴくぴくさせながら言った。

「……ほえ?」

 ツツミは言葉にならない声で答える。仕方のないことだ、ポテトチップスを頬張っているときに話しかけるレカエルが悪いのだから。

 ここはレカエルの神殿である。レカエルの『たまには遊びに来てもいい』という発言。エウラシアは元々外にいるほうが好きならしく、森にいるほうが多かったのだが……。

「確かに上殿を許したのは私です」

 その通りである。一体ツツミに何の問題があるというのか。

「あなた、完全にここに住んでいるではありませんか!」

 杉戦争の後、ツツミは神殿に入り浸っていた。最初に借りた部屋をそのまま改造し、自室として扱っていたのである。

「むぐむぐ……。ごくん。いいじゃん別に」

 ようやく口の中のものを飲み込んで答えるツツミ。

「よくありません! なんですかこの部屋は!」

 レカエルが好きに使っていいといったのだ。ツツミは自分の趣味満載のスペースにいじくっていた。

 葛籠に詰めていた漫画は本棚を作って詰めている。全部は入りきらなかったのでほんの一部だが。マルチDVDプレーヤーも設置済みだ。

 電力システムも稼働している。床に穴をあけて天界の最下部まで電線でつないだ。山の頂上から下まで通すのはちょっと手間だった。

 その先にはソーラーパネルが設置され、下界を行く太陽によって充電される。雲の上なので安定した電力供給が見込めるのだ。

 天界の空はそれ自体が光を放っているのだが、どうも光エネルギーが拡散してしまうらしく発電には不向きだったのである。

 その電力は今、壁側に置かれた65インチモニタとゲーム機に使われている。

「私の趣味ライフを叶えるにはこれくらいしなくっちゃね。……気が散るからあっち行ってよ」

 ツツミはせわしなくゲームコントローラーを動かし、モニタに集中した。ボス戦である。

「これはなんですか?」
「なにってアクションゲームだよ。この主人公の剣士を操って敵を倒すの」
「……剣士が斬りつけている相手は天使に見えますが」
「そ。創造主だと崇められていた神様が実は悪者なの。その邪悪な神様と天使をぶっ殺す爽快アクション」

 ツツミはゲーム内で必殺技を使った。ボスを倒しムービーが始まる。白い四枚の羽根を持つ天使が、血を吐きながらも神を讃え、塵となって風に流されていった。

「よし、これでオッケー」
「オッケーじゃありません!!」

 ガシャン。レカエルが聖槍でモニターを破壊する。

「あー! 何するんだよ!」
「黙りなさい! この神聖なる神殿で、よりにもよって悪魔崇拝ですか! グノーシス主義ですか!」
「ただのゲームじゃん!」

 レカエルは許してくれない。

「今すぐ出ていくか、改宗して主に仕えるか選びなさい!」
「わかった! 改宗するよ!」
「……言っておいてなんですが、本当にそれでいいんですか?」

 あきれるレカエル。流石にウカノミタマに怒られそうなので、改宗はやめておいた。

「だいたいあなたも神の使いを名乗るのであれば、自分の主の神殿を創るべきでは?」

 ウカノミタマは別に気にしないだろう。だがまあ一理ある話だ。

「しょうがない、やるか」



 という訳で、ツツミの神社建設が開始した。お手伝いはスナックで雇ったエウラシアである。

 レカエルは、いくらなんでも悪魔の神殿を創るわけにはいかないという事でお留守番だ。杉たちに少し場所を開けてもらい、スペースを確保した。

「じゃあはじめよっか!」
「おー。どういう。造り?」

 エウラシアの質問に、ツツミは答える。

「まずはウカノミタマ様のおやしろから」

 一応主に敬意を払ってご神体から創る事にした。アトム集め、大きな岩を創る。そこにウカノミタマのイメージを重ね合わせ、不要な部分をそぎ落としていく。

「完成!」

 なんだか目をキリッとさせすぎたかもしれない。必要以上に美化されてしまったかもしれないがまあ構わないだろう。

「エウラシア、木材をお願い」

 先の杉戦争でなくなった尊い杉たち。エウラシアはそれを、ツツミの指示の通り加工していく。

 その間ツツミはご神体と同じように、岩から二体のキツネ(神使ではなく動物)の像を創った。

口に何を持たせるか迷ったが、レカエルとエウラシアに敬意を表しておこう。一匹に天使の羽、もう一匹にエウラシアがつけている冠を咥えさせる。

「できた。よ」

 エウラシアが加工してくれた木材を組み立てていく。ご神体を入れる社、それに付随する鳥居や手水所などを設置する。他にもちょっとした仕掛けをした。鳥居の横にキツネ像を座らせて完成だ。

「これでウカノミタマ様への義理は果たしたよね。次は私の社かな」

 主人と同格のものを創るわけにはいかないので、境内の隅っこの方にこじんまりとした社を創る。ツツミが入れる大きさではないが、構わないのだ。

 自分のしっぽの毛を少し切り、箱に入れて社に奉納する。これで神使としてウカノミタマに仕えているという名目は立った。こちらももう少しいじっておく。

「さて、ここからが本番だ」

 実際のツツミの居住空間を創るのである。用意していた図面をエウラシアに見せる。

「……これ。全部。創るの?」
「うん!」
 
 図面は城である。神社の敷地よりは小さい。が、中には相当のこだわりがあった。

 レカエルの神殿に置いたソーラーシステムを遥かに充実させた設備。オーディオルーム、ゲームルーム、図書室。グッズ置き場。温泉っぽい浴室などなど。

「……帰るね」

 スナック菓子では割に合わなかったようだ。一気にめんどくさそうな顔になったエウラシアは森へと戻ろうとする。

「お願いエウラシア! 手伝って!」
「んー」

 引き留めようとするも止まってくれないエウラシア。仕方がない。ついでに言えば覚悟してきたことでもある。ツツミは前に回り込み、しっぽをふりふりさせた。

「い、一時間だけなら、いいよ?」



 数日後。ようやくツツミの城が完成した。

「できた……できたぁ! ありがとう、ありがとうエウラシア!」
「うー。お疲れ」

 望み通りの物が(身を犠牲にして)完成した。ふんふんと鼻歌を歌いながらエウラシアと共に中を見て回る。すべての部屋にこだわりがあり、それを全て叶えた。

「大変。だった。特に。あれが」
「ごめんね。でもどうしてもやりたかったんだ」

 エウラシアには本当に頭が上がらない。ツツミ一人では、いつ完成させられただろうか。ガシッと握手を交わす。

「せっかく。創った。から」
「うん! レカエルに!」



 レカエルは神殿の聖堂で十字架に祈りを捧げていた。彼女にとってひと時の安らぎの時間である。遠く離れても、主の存在を身近に感じることができるのだった。

 と、祭壇に置いてあった聖杯がカタカタと震えはじめた。疑問に思って顔を上げる。聖杯だけでなく、ほかのいろいろなものが震えている。

「……なんでしょう?」

 どうやら空気が振動しているようだ。それはやがて大きくなり、ゴゴゴゴという大きな音となって耳でも感じられるようになった。

「これは……」

 急いでレカエルは神殿から出る。発信源を探り、そちらを見ると空に小さな黒点があった。だんだん大きくなり、形がはっきりしてきた。

「……!?」

 人型のようだ。頭があり、手足がある。足からは炎が噴き出している。手を前にぴんと張った状態でこちらに近づいてきた。レカエルは反射的に聖槍を構える。

『レカエル!』

 突如人型は停止し、大きく揺れた声が辺りに響いた。

「ツツミ!?」



 ツツミはご神体の社コックピットからレカエルを見た。驚愕の表情で口をあんぐり開けている。隣に座っているエウラシアも少し満足そうだ。

『何の真似ですかこれは!!』

 レカエルの声が肩の伝声管二匹のキツネを通して聞こえる。ツツミは手元のマイクを通じ、頭部にあたる部分ウカノミタマ像の口から答えた。

『ロボだよ!』

 神社のご神体の社には一つのスイッチを置いていた。それを押すと、神社の二つの社とツツミの城が寄せ木細工のように変形する仕組みである。

 空中でいくつもの部品に分かれ、組み替えられて合体する。中に乗り込むことで操縦できる。搭載した燃料ツツミの尾の毛の力がある限り飛行し、腕や足の部分ツツミの城も頑丈だ。

 これが移動型木製神社要塞ロボ『明星みょうじょう』である。

『……なんで合体して飛ぶ必要があるんですか?』
『カッコいいじゃん!!』
『……そうですか』
『レカエルもおいでよ。一緒に乗ろう!』

 ツツミの言葉にレカエルは頭痛を覚えながら答えた。

『……遠慮しておきます』
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