三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

文字の大きさ
37 / 67
第一章 世界創造編

37.助っ人集団

しおりを挟む
アツシの目がなくなったところで、ツツミたちは大手を振って日中に活動するようになった。アツシは自分の住居に横たわらせてある。

 タンチョウはかなり心配そうに、本当に大丈夫か何度も尋ねていた。納得させるのに少し苦労したが、静かに寝息を立てるアツシは他人事のようである。

「……むにゃ、タンチョウ……」
「あ、アツシさんたら……!」

 タイムリーな寝言も飛び出して、心配もほぼなくなったようだった。


「とりあえず、金属を使えるようにすることからはじめよっか」

 イヴのリクエスト、金属器が作れる環境創りの開始である。

「とりあえず色んな鉱脈は少し掘ればあると思うし」

 自然銅などはその辺に転がっているかもしれないが、やはり坑道が必要だろう。というかツツミが創ってみたかった。

「うんうん。ファンタジーっぽくなってきたじゃん」

 ファンタジーを描いたフィクションに鉱石が取れる採掘場は必須といってもいいかもしれない。だいたいそのような場所には……。

「……むふふ」
「なんですかツツミ? 気持ちが悪い笑い方をして」
「んーん。いいこと思いついただけ。さっそく土仕事を始めよっか!」

 気合を入れるツツミ。タンチョウがおずおずと声を上げた。

「ご主人様。何かお手伝いできることはありますか?」
「大丈夫! タンチョウは自分の仕事をしていいよ。稲の収穫も近いんでしょ? できたら私も食べさせてね」
「わかりました。楽しみにしていてくださいね」

 くすくすと笑うタンチョウ。一方イヴはレカエルに詰め寄っていた。

「レカエル様。わたくしはお供いたしますわ」
「心遣いはありがたいですが無用ですよ。あなたもヒツジたちの世話があるでしょう」

 実際のところ、神使でないタンチョウやイヴがいても大きな戦力にはなれないのだ。やんわりと断るレカエルだったが、イヴは引かなかった。

「あまりお役に立てないのは分かっております。ですが、ですが……。せっかくレカエル様が地上にいらっしゃっているのです」

 レカエルと一緒にいたいというのが本音なのだろうか。顔を至近距離に近づけて言い募る。

「わたくし、できることならなんでもやりますわ! どうか共に地を掘り、道を作りましょう。暗く狭い地底で……。レカエル様の息遣い、鼓動、衣擦れの音が感じられるなら……! ああ! レカエル様もわたくしの全てを感じ取ってください! 二人だけの空間ですわ!」
「いやあの、私も行くけど」

 ……思いのほかヘヴィな願望だった。どうやら泉の精と仲良くしているレカエルを見て、嫉妬心が暴走しつつあるらしい。レカエルが少し顔をそらしたのは気のせいだろうか。

「イヴは。私の。手伝い」

 割って入ったのはエウラシアだった。レカエルの眼前にいたイヴをむんずと引き離す。

「きゃっ、エウラシア様?」
「精錬とか。加工のための。炉。いるんでしょ」
「え? し、しかしタンチョウを捧げる条件で、エウラシア様のご助力を頂けるのでは……?」
「教えては。あげる。作るのは。イヴ。大丈夫。土が。掘りたいなら。たくさん。掘れる」

 イヴの首根っこを掴み、ずるずると連行していくエウラシア。

「ミノタリア。木を。集めて。おいて。あー。たくさん。燃やすから」
「心得たぞ、主どの!」
「お待ちくださいませ! わたくしを、わたくしをレカエル様と共にぃ……!」

 抵抗むなしくイヴは連れ去られていった。

「それでは僕も林に行ってくるよ」
「わ、私も稲仕事に行きますね。アツシさんの様子も見ておきますから」

 ミノタリアとタンチョウもそれぞれの持ち場に付くようだ。残されたのはツツミとレカエルである。

「では、とりかかりましょうか」
「う、うん。その、ほっといていいの?」
「なにか?」

 何事もなかったかのようにニコリと微笑むレカエル。若干イヴが不憫に思えたツツミであった。

「……レカエルが構わないならまあいいや。あ、助っ人は別に呼んであるんだよ」
「助っ人……ですか?」
「うん、そろそろ来る頃だと思うんだけど……お、見えてきた」

 ツツミは地平線彼方に目を向ける。レカエルもそれに倣った。……なにやら土煙が上がっている。

「……なんですか、あれは」
「レカエルも会ったことある子たちだよ。聞き覚えのある声がするでしょ」

 キュー、キュー、キュー!

 合唱の様な鳴き声が近づいてくる。土煙の主たちの姿はやがてはっきりと視認できるようになった。

「あなたが創ったリスたちですか!」

 現れたのはツツミが初めて創った陸地の生き物。穴掘りが得意なリスたちであった。そんなに多くを地に放ったわけではないのだが、目の前の集団は非常に大勢になっている。

『キュー!』

 リスたちは二人の目の前に来るとぴたっと止まった。右手(右前足)を掲げ敬礼のポーズをとる。しっぽの角度までそろっているのは壮観だ。

「……こんなに統率の取れた生き物でしたか?」
「そういう風に創った覚えはないけど……まあ結果オーライってことで。……おほん!」

 ツツミはリスの集団に話しかけた。

「諸君! 元気に繁栄しているようで何よりだよ! ネズミ算式に増えているみたいだね!」
『キュー!』
「……リスですけどね」

 レカエルが静かに訂正した。ツツミは構わず続ける。

「今回はトンネルづくりが得意な諸君の助力が必要なんだ! モグラの様に地中に大路を張り巡らせようではないかっ!」
『キューー!』
「……リスですけどね」
「いい返事だ! 諸君の馬車馬のような働きを期待する!!」
『キュー! キュー!』
「……何度でもいいますがリスですからね。ツツミ、あなたちょっと楽しくなってるでしょう」

 レカエルの指摘は正しかったが、テンションの上がったツツミは答えることなくリスたちに檄を飛ばした。

「では行こう! 上官の命令にはキューかキューで答える事! 分かったなくそ虫ども! 出発!!」
『キュー!』

 走り出すツツミ。ハードな軍隊もの映画も趣味範囲である。どんどん荒くなっていった口調の命令に忠実というわけでもないだろうが、きちんとキューと鳴き、リスたちも後を追う。

「だからリスだと……。しかし、エンゼルドッグはきちんと狩りができているでしょうか。ここまで社会性のある生物だとは……」

 自身の創った肉食獣が少し心配になったレカエル。今度様子を探ってみようと決める。

 ……懸念はもう一つあった。

「それにしても、いつか人間とリスたちの地上の覇権をかけた争いでも始まらなければよいのですが」

 独り言に答えるものはもういない。一つため息をつき、レカエルも後を追うことにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

処理中です...