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第一章 世界創造編
36.ラブコメキャンセラー
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というわけで、またまた色々やるべきことが増えたのだったが……。
「それにしても、夜しか堂々と作業ができないというのは不便ですね」
「そうだね……」
神の使いとしての権威づけのため、アツシには見つからないように細々と仕事を進めている三人である。
「わたくしたちがお三方から遣わせられたことはアツシも知っていますが、今地上にまかり越しておられることは、ご指示の通り秘密にしておりますわ」
「といっても最近怪しまれてはいるようだがな。はっはっは」
レカエルの縄の木や、泉から得た道具はアツシも目にしている。神域の存在からの賜りものだという事は説明したらしいが、三人が近くにいることをアツシは知らない。
とはいえここのところ夜ごと密会を重ねているのである。なにやら雰囲気から察せられるものもあるだろう。
「私、心配されちゃいました。最近寝不足なんじゃないか、悩みでもあるのかって。……なんだか心苦しくって……」
タンチョウが少しやりきれない表情で言う。心優しい彼女にとって、隠し事をするのはなかなか負担のようだ。
「邪魔ですね、あの人間……」
「レカエル。本末転倒なこと言わないでよ」
ツツミはレカエルをたしなめる。そもそもあの人間のための一連の作業なのだ。とはいえこのままでは捗らないこともまた事実である。
「うーん……。いっそのことばばーんと降臨しちゃう? 一度顔を合わせたことはあるわけだし」
イヴたちの話によると本人はおぼろげにしか覚えていないらしいが、三人は一度アツシと会っている。もっとも彼はすぐに気を失ってしまったのだが。
「なんかこう、神域の存在っぽい威厳あふれる感じで行けばいいんでしょ?」
「……あなた、初対面で思い切り砕けた挨拶をしていた気がしますが」
「……うっ」
元世界でも比較的フランクな態度で人間に接してきたツツミである。エウラシアに言われるまで、神域の威厳などあまり考えたことはなかった。
「ねぇエウラシア。もう別にいいんじゃないかな? 私たちが創った存在じゃないけど、こっち側に巻き込んじゃえばいいじゃん」
エウラシアがアツシとの直接の接触を避けるべきだとする理由。それは自身の眷属でもない人間に軽々しく合うことで、奇跡のハードルが下がることを危惧したからだった。
奇跡が当たり前のものとして認識され、将来的に人間がなんでもかんでも神域の者に頼ることを避けたいのである。
一言でいえば『めんどくさい』からだった。
とはいえ、ミノタリアを創って送り込むくらいには情もあるらしい。それならばもう一歩踏み込んでも構わないのではないか。ツツミはそう考えたのだが……。
「私に。考えが。ある。うー。任せて」
なにやらエウラシアに腹案があるらしい。ひとまず今夜は解散となった。
翌朝は快晴だった。太陽馬は今日もいつも通りに空を駆けている。雨を降らす龍も今は近くにいないらしい。
「……うーん! いいお天気!」
タンチョウは自分の住居から出てくると、大きく伸びをした。十分な睡眠がとれたとは言い難いが、朝日を浴びて少し気分がよくなる。
「おはよう、タンチョウ」
「アツシさん! おはようございます」
見ると、アツシも隣の住居から出てきていた。こちらはよく眠れたようだ。ツツミたちと邂逅したときより健康状態も格段に良くなっているようである。
「よく晴れてますね! 稲穂も元気いっぱいで育ってるんですよ? もうすぐ二回目の収穫が出来そうです。ごはん、いっぱい食べましょうね」
「前の収穫でちょっと食べたけどすごくおいしかったよ! ほとんど種もみに使うからあんまり残せなかったんだっけ? そっか、楽しみだなあ!」
本当に心待ちにしている様子のアツシ。農作業をメインに頑張っているタンチョウも顔をほころばせた。
「あら、おはようございます二人とも。早起きですわね」
「はっはっは! 気持ちのいい朝だな!」
イヴとミノタリアも起きてきたらしい。ミノタリアがずいっとアツシとタンチョウの間に割り込む。
「おや? ふたりとも朝早くから仲睦まじく逢瀬かい? ふふ、妬けてしまうな」
「い、いや、僕も今起きてきたところで……」
ミノタリアの距離の詰め方はパーソナルスペースを無視している。互いの吐息がかかるほどだ。一気にしどろもどろになるアツシ。
「いやなに! 仲良きことは美しきかな、だ。僕たちも仲良くしようではないか!」
「う、うん。ってミノタリア!?」
ミノタリアはほとんどなかった互いの距離をゼロにした。豊満な体でぎゅっとアツシを抱きしめる。上半身はトップスのみのミノタリアの抱擁はかなり刺激的だろう。
「ちょ、ちょっと! その、色々当たって!」
「はっはっは! 親愛を示す手っ取り早い方法だろう! アツシもほら、両手を僕の身体に回してくれ。どこでも好きなところに手をやってくれて構わないぞ!」
「どど、どこでも……? っていやいやいや!そんな……」
「ぬ、抜け駆けですわ!」
イヴも対抗心を燃やしたのか、挟み込むようにアツシの後ろから抱き着く。
「イヴまで! ちょ、ちょっと二人とも落ち着いてよ!」
「親愛ならまず真っ先にわたくしと示すべきですわ! アツシ、いつも言っているでしょう。早くわたくしと伴侶になり、契りを交わして大いに子孫を増やしましょう」
「だ、だからそういうことを女の子が軽々しく言うものじゃないって!」
「おお。図らずもいい機会が訪れたようだ。アツシ? 僕とイヴ、どちらが抱き心地がいいかい?」
そう言ってミノタリアは両手でアツシの頭を掴み、自分の胸元に押し下げた。
「むぐっ! み、ミノタリア、や、やめ……!」
「うむ? そんなにいやそうには見えないのだがな?」
アツシの抵抗は決して全力ではないように見える。というか、欲望と理性のはざまで体が思うように動いていないようだった。
「…………くっ」
アツシを完全に奪われた状態のイヴが悔しそうに見つめる。やがて先ほどまでとは打って変わった静かな声で言った。
「…………やはり、大きいほうが良いのですね」
ちょっと傷ついた表情のイヴ。それまで流れに入れなかったタンチョウも呟く。
「そ、そうですよね。ミノタリアさん、すごくスタイルいいですよね。イヴさんだって別に……。それに比べたら私なんて……」
「そ、そんなことないよ!」
ようやく理性が勝ったのかミノタリアを振りほどいたアツシ。
「三人ともすごくきれいで、魅力的だよ!! みんなが、その、僕なんかと結婚してくれるなんて信じられないくらいだ!」
アツシにとってみれば降ってわいた幸運である。戸惑うのも無理はない。
「ま、まだ本当に状況が飲み込めたわけじゃないし……。それにその、覚えてないけど、僕こういうこと慣れてないみたいなんだ」
出自が不明な彼だが、少なくとも女の子への免疫はないらしい。
「……でも、イヴも、ミノタリアも、タンチョウも、とても僕によくしてくれる。いつも言ってるけど、本当にありがとう。その、変な意味じゃなくて、だ、大好きだよ、仲間として」
支離滅裂な感じだが、アツシは三人といい関係を築けているようだ。
「わ、わかっているようでなによりですわ」
アツシと同様顔を真っ赤にしてそっぽを向くイヴ。彼女も言動ほど異性への免疫はないのだろう。
ちなみにタンチョウも恥ずかしさが限界を超えたようでうつむいてしまっている。ミノタリアは相変わらず飄々と微笑んでいたが。
「そ、そうだ! だから仲間として心配なんだよ! 最近みんな妙に疲れてる感じがするし。なんか無理してない? 僕にできる事なら何でも言ってほしいんだ」
アツシはやはり三人の様子がおかしいことを気にかけているようだ。……どうしたものだろう。動いたのは再びミノタリアだった。
「はっはっは!! なに、アツシが気にするようなことは何もないぞ! 心配なら安心できるいい方法がある。それっ」
「うわっ!」
「また抱擁ではありませんの! わたくしも!」
「え、えと、私……」
再度アツシを挟み込むミノタリアとイヴ。タンチョウは心理的にも物理的にもそこまで踏み込めず、アツシの袖をそっと掴む。乱痴気騒ぎがもう一度始まるかに思えたその時。
ヒュンッ!
収拾をつけたのは鋭い風切り音だった。次の瞬間アツシがふらっと崩れ落ちる。
「アツシさん!?」
アツシの脳天に一本の矢が突き刺さっていた。完全に意識を失っている。
「アツシさん! しっかり!」
「な、なにが起こったんですの!?」
「これは……」
慌てるタンチョウとイヴ。ミノタリアは何か察したようで明後日の方向に視線を送る。
「大丈夫。眠っている。だけだから」
そちらからエウラシアが現れた。手には一本の筒を携えている。どうやら吹き矢のようだ。遅れてツツミとレカエルも姿を見せた。
「エウラシア様! アツシさんが、アツシさんが!」
「だから。矢に。塗った。薬で。寝てる。だけ」
「……えっ?」
「では、これはエウラシア様が……」
吹き矢を構えてみせるエウラシア。タンチョウとイヴもようやく状況を理解し始めたらしい。
「……ごめんなさい、イヴ。エウラシアが言ったのです。もう一度彼を眠らせればいいのだと」
「いや、私たちも賛成はしたよ。でもさ……」
レカエルとツツミの歯切れは悪い。理由を代弁するかのようにタンチョウが叫んだ。
「も、もう少しやり方があったのではないでしょうか!?」
「弁解のしようがないね」
「全くです」
状況だけ見れば完全に暗殺の手口である。涙目のタンチョウにエウラシアは答えた。
「甘ったるい。空気への。ツッコミも。兼ねてる」
……沈黙するお嫁さん候補たち。エウラシアの言葉にもツツミとレカエルは同意らしい。
「うん。いや、お嫁さんになるよう指示したのは私たちだけど……。ごめん、想像以上だった」
「一人の男に三人も女の子を差し向けるべきではなかったかもしれませんね……」
今更ながら反省する二人。エウラシアは吹き矢を弄びながら言う。
「この。吹き矢。……神具。『恋愛劇を狩るもの』。そう。名付ける」
神域の者が使う武器の完成だった。キューピットの愛の矢と使い道は真逆だったが。
「それにしても、夜しか堂々と作業ができないというのは不便ですね」
「そうだね……」
神の使いとしての権威づけのため、アツシには見つからないように細々と仕事を進めている三人である。
「わたくしたちがお三方から遣わせられたことはアツシも知っていますが、今地上にまかり越しておられることは、ご指示の通り秘密にしておりますわ」
「といっても最近怪しまれてはいるようだがな。はっはっは」
レカエルの縄の木や、泉から得た道具はアツシも目にしている。神域の存在からの賜りものだという事は説明したらしいが、三人が近くにいることをアツシは知らない。
とはいえここのところ夜ごと密会を重ねているのである。なにやら雰囲気から察せられるものもあるだろう。
「私、心配されちゃいました。最近寝不足なんじゃないか、悩みでもあるのかって。……なんだか心苦しくって……」
タンチョウが少しやりきれない表情で言う。心優しい彼女にとって、隠し事をするのはなかなか負担のようだ。
「邪魔ですね、あの人間……」
「レカエル。本末転倒なこと言わないでよ」
ツツミはレカエルをたしなめる。そもそもあの人間のための一連の作業なのだ。とはいえこのままでは捗らないこともまた事実である。
「うーん……。いっそのことばばーんと降臨しちゃう? 一度顔を合わせたことはあるわけだし」
イヴたちの話によると本人はおぼろげにしか覚えていないらしいが、三人は一度アツシと会っている。もっとも彼はすぐに気を失ってしまったのだが。
「なんかこう、神域の存在っぽい威厳あふれる感じで行けばいいんでしょ?」
「……あなた、初対面で思い切り砕けた挨拶をしていた気がしますが」
「……うっ」
元世界でも比較的フランクな態度で人間に接してきたツツミである。エウラシアに言われるまで、神域の威厳などあまり考えたことはなかった。
「ねぇエウラシア。もう別にいいんじゃないかな? 私たちが創った存在じゃないけど、こっち側に巻き込んじゃえばいいじゃん」
エウラシアがアツシとの直接の接触を避けるべきだとする理由。それは自身の眷属でもない人間に軽々しく合うことで、奇跡のハードルが下がることを危惧したからだった。
奇跡が当たり前のものとして認識され、将来的に人間がなんでもかんでも神域の者に頼ることを避けたいのである。
一言でいえば『めんどくさい』からだった。
とはいえ、ミノタリアを創って送り込むくらいには情もあるらしい。それならばもう一歩踏み込んでも構わないのではないか。ツツミはそう考えたのだが……。
「私に。考えが。ある。うー。任せて」
なにやらエウラシアに腹案があるらしい。ひとまず今夜は解散となった。
翌朝は快晴だった。太陽馬は今日もいつも通りに空を駆けている。雨を降らす龍も今は近くにいないらしい。
「……うーん! いいお天気!」
タンチョウは自分の住居から出てくると、大きく伸びをした。十分な睡眠がとれたとは言い難いが、朝日を浴びて少し気分がよくなる。
「おはよう、タンチョウ」
「アツシさん! おはようございます」
見ると、アツシも隣の住居から出てきていた。こちらはよく眠れたようだ。ツツミたちと邂逅したときより健康状態も格段に良くなっているようである。
「よく晴れてますね! 稲穂も元気いっぱいで育ってるんですよ? もうすぐ二回目の収穫が出来そうです。ごはん、いっぱい食べましょうね」
「前の収穫でちょっと食べたけどすごくおいしかったよ! ほとんど種もみに使うからあんまり残せなかったんだっけ? そっか、楽しみだなあ!」
本当に心待ちにしている様子のアツシ。農作業をメインに頑張っているタンチョウも顔をほころばせた。
「あら、おはようございます二人とも。早起きですわね」
「はっはっは! 気持ちのいい朝だな!」
イヴとミノタリアも起きてきたらしい。ミノタリアがずいっとアツシとタンチョウの間に割り込む。
「おや? ふたりとも朝早くから仲睦まじく逢瀬かい? ふふ、妬けてしまうな」
「い、いや、僕も今起きてきたところで……」
ミノタリアの距離の詰め方はパーソナルスペースを無視している。互いの吐息がかかるほどだ。一気にしどろもどろになるアツシ。
「いやなに! 仲良きことは美しきかな、だ。僕たちも仲良くしようではないか!」
「う、うん。ってミノタリア!?」
ミノタリアはほとんどなかった互いの距離をゼロにした。豊満な体でぎゅっとアツシを抱きしめる。上半身はトップスのみのミノタリアの抱擁はかなり刺激的だろう。
「ちょ、ちょっと! その、色々当たって!」
「はっはっは! 親愛を示す手っ取り早い方法だろう! アツシもほら、両手を僕の身体に回してくれ。どこでも好きなところに手をやってくれて構わないぞ!」
「どど、どこでも……? っていやいやいや!そんな……」
「ぬ、抜け駆けですわ!」
イヴも対抗心を燃やしたのか、挟み込むようにアツシの後ろから抱き着く。
「イヴまで! ちょ、ちょっと二人とも落ち着いてよ!」
「親愛ならまず真っ先にわたくしと示すべきですわ! アツシ、いつも言っているでしょう。早くわたくしと伴侶になり、契りを交わして大いに子孫を増やしましょう」
「だ、だからそういうことを女の子が軽々しく言うものじゃないって!」
「おお。図らずもいい機会が訪れたようだ。アツシ? 僕とイヴ、どちらが抱き心地がいいかい?」
そう言ってミノタリアは両手でアツシの頭を掴み、自分の胸元に押し下げた。
「むぐっ! み、ミノタリア、や、やめ……!」
「うむ? そんなにいやそうには見えないのだがな?」
アツシの抵抗は決して全力ではないように見える。というか、欲望と理性のはざまで体が思うように動いていないようだった。
「…………くっ」
アツシを完全に奪われた状態のイヴが悔しそうに見つめる。やがて先ほどまでとは打って変わった静かな声で言った。
「…………やはり、大きいほうが良いのですね」
ちょっと傷ついた表情のイヴ。それまで流れに入れなかったタンチョウも呟く。
「そ、そうですよね。ミノタリアさん、すごくスタイルいいですよね。イヴさんだって別に……。それに比べたら私なんて……」
「そ、そんなことないよ!」
ようやく理性が勝ったのかミノタリアを振りほどいたアツシ。
「三人ともすごくきれいで、魅力的だよ!! みんなが、その、僕なんかと結婚してくれるなんて信じられないくらいだ!」
アツシにとってみれば降ってわいた幸運である。戸惑うのも無理はない。
「ま、まだ本当に状況が飲み込めたわけじゃないし……。それにその、覚えてないけど、僕こういうこと慣れてないみたいなんだ」
出自が不明な彼だが、少なくとも女の子への免疫はないらしい。
「……でも、イヴも、ミノタリアも、タンチョウも、とても僕によくしてくれる。いつも言ってるけど、本当にありがとう。その、変な意味じゃなくて、だ、大好きだよ、仲間として」
支離滅裂な感じだが、アツシは三人といい関係を築けているようだ。
「わ、わかっているようでなによりですわ」
アツシと同様顔を真っ赤にしてそっぽを向くイヴ。彼女も言動ほど異性への免疫はないのだろう。
ちなみにタンチョウも恥ずかしさが限界を超えたようでうつむいてしまっている。ミノタリアは相変わらず飄々と微笑んでいたが。
「そ、そうだ! だから仲間として心配なんだよ! 最近みんな妙に疲れてる感じがするし。なんか無理してない? 僕にできる事なら何でも言ってほしいんだ」
アツシはやはり三人の様子がおかしいことを気にかけているようだ。……どうしたものだろう。動いたのは再びミノタリアだった。
「はっはっは!! なに、アツシが気にするようなことは何もないぞ! 心配なら安心できるいい方法がある。それっ」
「うわっ!」
「また抱擁ではありませんの! わたくしも!」
「え、えと、私……」
再度アツシを挟み込むミノタリアとイヴ。タンチョウは心理的にも物理的にもそこまで踏み込めず、アツシの袖をそっと掴む。乱痴気騒ぎがもう一度始まるかに思えたその時。
ヒュンッ!
収拾をつけたのは鋭い風切り音だった。次の瞬間アツシがふらっと崩れ落ちる。
「アツシさん!?」
アツシの脳天に一本の矢が突き刺さっていた。完全に意識を失っている。
「アツシさん! しっかり!」
「な、なにが起こったんですの!?」
「これは……」
慌てるタンチョウとイヴ。ミノタリアは何か察したようで明後日の方向に視線を送る。
「大丈夫。眠っている。だけだから」
そちらからエウラシアが現れた。手には一本の筒を携えている。どうやら吹き矢のようだ。遅れてツツミとレカエルも姿を見せた。
「エウラシア様! アツシさんが、アツシさんが!」
「だから。矢に。塗った。薬で。寝てる。だけ」
「……えっ?」
「では、これはエウラシア様が……」
吹き矢を構えてみせるエウラシア。タンチョウとイヴもようやく状況を理解し始めたらしい。
「……ごめんなさい、イヴ。エウラシアが言ったのです。もう一度彼を眠らせればいいのだと」
「いや、私たちも賛成はしたよ。でもさ……」
レカエルとツツミの歯切れは悪い。理由を代弁するかのようにタンチョウが叫んだ。
「も、もう少しやり方があったのではないでしょうか!?」
「弁解のしようがないね」
「全くです」
状況だけ見れば完全に暗殺の手口である。涙目のタンチョウにエウラシアは答えた。
「甘ったるい。空気への。ツッコミも。兼ねてる」
……沈黙するお嫁さん候補たち。エウラシアの言葉にもツツミとレカエルは同意らしい。
「うん。いや、お嫁さんになるよう指示したのは私たちだけど……。ごめん、想像以上だった」
「一人の男に三人も女の子を差し向けるべきではなかったかもしれませんね……」
今更ながら反省する二人。エウラシアは吹き矢を弄びながら言う。
「この。吹き矢。……神具。『恋愛劇を狩るもの』。そう。名付ける」
神域の者が使う武器の完成だった。キューピットの愛の矢と使い道は真逆だったが。
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