三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第一章 世界創造編

35.泉の制約

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『はいこれ! ノコギリだよ!』
「ありがとうコガネちゃん、シロガネちゃん!」

 泉を創造してから翌々日の夜。神使三人とお嫁さん候補三人は件の泉にやってきていた。

「二人ともちっちゃいのに偉いね。こんな簡単に作れちゃうなんて」

 説明を受け、まず最初にノコギリを手に入れたタンチョウが感嘆の声を漏らす。昼間は主として農作業にいそしむ彼女である。最初は農具をお願いするかと思ったのだが……。

「アツシさんにプレゼントしようと思うんです」

 現在石斧で細かい木材加工に奮闘するアツシへの配慮が先に立ったらしい。やっぱりいい子である。

『作るって?』
『僕たち作ってないよ。落とし物を持ってきてあげただけだよ』

 タンチョウの言葉に泉の精コンビがキョトンとした顔をした。

「え? えっと、でもあの……」

 先ほど石を投げ込んだタンチョウ。釈然としない顔でツツミを見る。

「あの、ご主人様?」
「タンチョウ。細かいことは気にしなくてオッケーだから!」

 創造主のツツミですら、二人がどうやってモノを用立てているのかきちんと理解はしていない。そういう存在として創っただけだ。

「またあなたはアバウトな……」
「しかし、使い勝手は悪くないですわね」

 呆れるレカエルに対し、イヴが擁護の声を上げる。イヴの手には毛刈りに使えそうなハサミが握られていた。シャキ、シャキと戯れに動かしている。気に入ってもらえたようだ。

「はっはっは。大量生産ができれば言うことなしだったのだがな!」
「ミノタリア。遠慮を。知って」

 ミノタリアは泉の説明を受けるなり、『つまりこういうことだな!』と言ってそこらじゅうの石や木切れを泉に投げ込んだのである。

「あー、差し当たって落としたのは斧とナイフと剣と鎧とトンカチと釘と食器と服と……。いやまてよ。馬だ! がっしりしていて荷物をたくさん運べそうな馬も落としたんだった。あと四人で住むのにちょうどよさそうな家も落としたな! いやぁ困った困った。ではおチビちゃんたち、よろしく頼む」

『え、えっと。斧と、ナイフと……。あとなんだっけシロガネ?』
『え。うーんと。家くらい大きい四匹のトンカチ?』
「神の裁き!」

 レカエルの一撃でミノタリアは吹き飛ばされた。

「ぐはっ! 何をするのだレカエル様」
「こんな小さな子たちにどれだけ負担を強いるつもりですか! 大人として恥ずかしくないのですか!」
「いやしかしだな。こんな便利なものは有効活用しないと」

 悪びれもせず言うミノタリアに、ツツミが釘をさす。

「あー、なんかこうなると思ったんだ。コガネとシロガネはそこまで万能じゃないよ。まず二人にお願いできるのは、ひとり一日ひとつまで!」

 今回のミノタリアの様に一気にモノを投げ込んでたくさん注文するという事はできない。二人の能力の限界……という以前の問題、かわいそうだからだ。

「それから、生きているものは出せないから馬は無理。あと、この泉より大きなものは出せないから家も無理だね。……ていうか家を落とすって何さ」

 二人に神使に匹敵するほど大きな力は与えていない。コガネとシロガネだけで地上のすべてが賄えるようになるのも問題だろう。

「だから二人とも、このおねえちゃんのわがままに付き合わなくていいからね」
「もし駄々をこねるようなら私が成敗します。イヴ、きちんと監視しておくように」
「心得ましたわ、レカエル様」

 イヴの言葉にミノタリアがやれやれと肩をすくめる。

「楽ができると思ったんだが……」
「てい。神の。裁き?」

 ポカリ、とエウラシアにもツッコミを受けたミノタリア。結局彼女が注文したのは一対の蹄鉄だった。自分の足に着けるらしい。

「これでさらに蹴りの威力が上がったぞ! どんな大岩も大木も蹴り砕いて見せよう!」

 なんやかんやでミノタリアも満足したようだった。




「まあ、必要な道具は手に入れることが出来そうなのです。自分たちの力で生活を豊かにしていけばいいのですわ!」

 泉からの帰路、イヴが決意も新たに宣言した。

「その意気です、イヴ。殊勝な心掛けですよ」
「ありがとう存じます、レカエル様。つきましてはお三方にお聞きしたいことがあるのですが」

 へりくだって頭を下げるイヴ。三人は立ち止まって顔を見合わせる。

「銅か、鉄か……。金属の加工を行えるようにしたいのです。この地に鉱脈はあるのでしょうか」
「うー。元世界に。あった。鉱石は。いちおう。あるはず」
「うん。でも最初は掘るのも大変だよね」
「そうですね……。わかりました。集落の近場に手ごろな採掘場を用意しましょう」
「重ね重ね感謝いたしますわ。……その、エウラシア様」

 今度はやや言いにくそうにイヴはエウラシアに話しかける。

「なに?」
「その、いただいたかまどを改造して、冶金ができる炉にする方法をご存じでしょうか?」
「……知らない。うん。知らないよ。いやー。知らないな」

 ……明らかにめんどくさいという理由でとぼけているに違いないエウラシア。困ったようにイヴはレカエルを見つめる。

「……はぁ。イヴ、耳を貸しなさい。幸い生贄には事欠きません」

 ごにょごにょと何事か囁くレカエル。イヴはポンッと手を打ってエウラシアに言った。

「タンチョウを好きなだけもふもふして構いませんわ」
「えっ!?」

 突然水を向けられて驚くタンチョウ。そんな彼女をエウラシアは舐めまわすように見つめた。

「やり方。教えて。あげる」
「えー!? いやあの、私……」

 おろおろと助けを求めるように辺りを見回すタンチョウ。ツツミのところで視線が止まる。

「ご、ご主人様……」
「……ごめんタンチョウ。私がもふもふに創ってしまったばっかりに……」
「いえもふもふって……。その、何をされるんでしょう」
「……もふもふされる。私も付き合ってあげるから、心を強く持とうね」

 タンチョウばかりに負担を強いるのは心苦しい。ツツミも一緒に毒牙にかかることにしよう。

「大丈夫。やさしく。するから」
「そ、そんな……。あっ、そ、その、それでしたら私からもお願いが」

 泣きそうな顔をするタンチョウ。しかしどうせならと思ったのか、自分も望みを言うことにしたようだ。

「あの、甘い食べ物を作りたいのです。お砂糖か何かが欲しいのですが……」

 タンチョウの望みは甘味だった。そういえば置いていった当座の食料にもお菓子の類はなかった気がする。

「そっかそっか。女の子はやっぱスイーツがなくっちゃね」
「私も食べたいのですが……。なによりコガネちゃんとシロガネちゃんにお礼をしたいんです。道具の代わりに渡すものがお菓子だったら、二人も喜んでくれるかなって」
「まあなんて素晴らしい!」

 反応したのはレカエルだった。ひしっとタンチョウの両手を握り、輝いた表情で語り掛ける。

「なんと気の利いた娘なのでしょう! イザナミさんといいあの二人といいあなたといい、とてもツツミの創った者とは思えませんね!」
「あ、ありがとうございます。その、ご主人様も素晴らしい方で……」
「安心しなさい。私が責任をもって甘味の伝手を創ります。代わりという訳ではありませんが、あのきゃわいい二人のことをよろしく頼みますよ!」
「は、はい。きゃ、きゃわいい?」
「あのようなちっちゃな子をほめたたえる形容詞です。それを気遣えるあなたも見どころがありますよ」
「は、はい!」

 どうやらレカエルの中でタンチョウの評価がうなぎのぼりに上がったらしい。……その後ろでイヴが口惜しそうにつぶやいていた。

「レカエル様……。どうせならわたくしもきゃわいく創ってくださったら、もっと愛でていただけましたのに……」

 ……あやうくお嫁さん候補の一人がロリっ子になっていたかもしれない。レカエルが趣味に走らなくて本当に良かったと思うツツミであった。
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