三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第一章 世界創造編

44.べっこう飴

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「わっ、すごく甘いです!」
「なんて甘露な……。これが我らが主の恵みなのですわね!」
「はっはっは! いくらでもいけるな!」

 マナはお嫁さん候補たちに大好評だった。女子が甘いものに目がないのは、洋の東西どころか世界も問わない法則かもしれない。

「ありがとうございますレカエル様!」
「なんということはありません。ふふ、おいしいお菓子を作ってくださいね」
「はい!」

 タンチョウが力強く頷いた。どうやら頭の中でレシピが渦巻いているようだった。

「そうだ! さっそくみなさんにご馳走しますね! 簡単なお菓子ですけど、色々準備もしていたんです。ちょっと待っててくださいね!」

 そう言ってタンチョウは竈の方へマナを抱えて走っていった。うんうん、と微笑まし気に後ろ姿を見送るレカエル。一方主のツツミはなにやらエウラシアたちと遊んでいた。

「見て見てー。おじいさん」

 口元にマナでヒゲを象り、ふぉっふぉっふぉと笑うツツミ。

「おお。どうせ。なら。眉毛も」
「はっはっは。頭も白髪にしてしまうか。おや、意外と難しいな……。まあいいか、毛根が元気なおじいさんなのだ」

 エウラシアとミノタリアが悪ノリに乗っかってさらにマナをツツミにくっつける。やがて垂れ下がったヒゲと眉を持つ、アフロのおじいさんの出来上がりだ。

「レカエルさんや……昼ご飯はまだかいのう……」
「昼ご飯? もうすぐタンチョウがお菓子を持ってきてくれますが待たないのですか? というか何を遊んでいるのですか」

 レカエルの至極まじめな返答にツツミは口先をとがらせる。

「……レカエルって、お約束というものを知らないよね」
「堅物。面白く。ない」

 ひそひそと陰口を叩く二人。擁護するようにミノタリアも小声で囁く。

「お二人とも。レカエル様にだって笑いのセンスはあるぞ? あのレカエルスラッシャ―など最高だったではないか」
「た、確かに……! あれは爆笑だったね……!」
「ふふ。……ふふふ。最高の。ネーミング。……ある意味」
「いい加減にしなさい」

 忍び笑いをするツツミとエウラシア、ミノタリアの背後。殺気と共に斬撃が繰り出された。ひょいっ、と躱して逃げ出す三人。

「うわあ! レカエルスラッシャ―だ! レカエルスラッシャ―が来たぞぉ!」
「あの。伝説の。喰らえば。呼吸困難に。なるという」
「あっははは! きゃー逃げなきゃ! エウラシア、ミノタリア、死なないでね!」
「おう! レカエルスラッシャーなんかにやられてたまるか!」
「連呼するのではありません!!」

 三方に逃走するツツミたちを追いかけようとするレカエル。

「一度本気でお仕置きが必要なようですね……! イヴ、手伝いなさい! ……イヴ?」
「は、はいっ?」

 周りの騒ぎに気を止めていなかったのか、急に呼びかけられ驚きの声を上げるイヴ。……目の周りが白くマナで囲まれている。

「……その、何をしているのです?」
「……め、めがね、です」
「そ、そうですか。に、似合ってますね」
「……申し訳ありません。見ていたら、つい……」

 一人静かにマナで遊んでいたイヴに、完全に毒気を抜かれてしまったレカエルだった。




「できましたよー!」

 少し時間があって、五人の元にタンチョウが戻ってきた。手にはお菓子が入ったカゴを持っている様子である。

「わあ、かわいい!」

 ツツミが歓声をあげる。タンチョウが持ってきたのはカゴいっぱいの飴だった。色は黄金色。ここにいる六人皆の形をしている。

「まるでツツミ様の耳としっぽの様にきれいな色ですよね! 最初に作るお菓子にぴったりだと思ったんです」

 誇らしげなタンチョウ。一緒にカゴをのぞき込んでいたエウラシアが感心したように呟く。

「この。形は。……私たち?」
「はい。かわいいんじゃないかと思って型を作っておいたんです。シルエットでみなさんだとわかるかどうか不安だったんですが……どうでしょう?」
「器用なのだなタンチョウは! ほう、これが僕だな」

 ミノタリアがつまみ上げた飴は、躍動的に蹴りを放つ自身の形だった。かごの中には他にもツツミの耳やしっぽ、エウラシアの冠まで再現された飴たちがいっぱいに詰まっている。

「どうぞ食べてください。マナを水で溶かして煮詰めて固めただけですけど……。レカエル様のマナが素晴らしいので充分おいしいと思います」
「そうだね! じゃあさっそく……。うん、おいしい!」

 マナの味が凝縮された、素朴ながら上品な味の飴だった。べっこう飴という名前らしい。

「本当に、よく頑張ってくれましたねタンチョウ。イヴ、私たちもいただきましょう」
「はい。しかしこうみると、わたくしのシルエットって地味ですわね……。おや? これは……!」

 イヴが見つけたのはレカエル型の飴だった。翼を広げ、聖槍を構えたレカエル。この小さい飴でよくここまで細かく再現できたものだ。

「れ、れ、レカエル様ですわ! 飴の姿でも高貴な……!」
「こ、高貴かはわかりませんがよくできていますね。……あら、こちらは!」

 レカエルの方は二つ飴を取り出している。風車を持った子と、麦わら帽子をかぶった浴衣のシルエット。

「コ、コガネちゃんとシロガネちゃんではありませんか!」
「は、はい。二人も喜んでくれるんじゃないかと思って」

 こちらも上手に型を作ったタンチョウ。しかし主従二人にもう声は届いていないかもしれない。

「コガネちゃん、シロガネちゃん……! きゃ、きゃわいい! これを食べるなど、私には……!」
「レカエル様を……。レカエル様を、わたくしの、く、口の中に……! なんて背徳的な! だめですわ! ああでも、なんでしょうこの逆らいがたい誘惑……。いえ! やはり食べるわけには……!」
「……あ、あの。たくさんありますし、なんでしたらまた作りますから……」

 タンチョウは困ったように促すが、レカエルとイヴは手を進めようとしない。というかできずに葛藤している。

「二人とも食べないのか? なら僕が……ぐはっ!」
「だ、誰がいらないと言いました!!!」

 不躾に飴に手を伸ばしたミノタリアはレカエルに突き飛ばされた。レカエルはそのままいそいそとカゴに向かい、中身をあさりはじめる。

「ひ、ひとまず二人の飴は私が全部……」
「レカエル様のものはわたくしが……」

 数種類の飴のうち、いくつかは二人が独占することになったのだった。……結局食べることができたかどうかは誰も知らない。
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