三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第二章 人間に崇拝される編

67.特定商取引法に基づく表記

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 レカエルは『私がいてはやりにくいでしょう』と独り天界へと戻っていった。残されたエウラシアとツツミは顔を見合わせる。

「……レカエル。計画の。妨害は。しないんだね」
「……そだね。前のこと考えたらそれだけでもすごいことかもしんないね」

 以前のレカエルを鑑みれば邪魔をしないだけでも感謝すべきことかもしれない。とはいえさすがに助力してくれるつもりは今のところないようだった。

「どどどど、どうしましょうご主人様」

 一方のタンチョウは完全に落ち着きを失っていた。無意味に腕をパタパタと動かし、おろおろと周りを見渡している。

「うー。タンチョウ。落ち着いて」
「え、エウラシア様……」

 エウラシアがタンチョウの肩をポン、とたたく。そのままゆっくりと言葉を続けた。

「私たちは。三人で。今まで。がんばって。きたから。……レカエルが。いやだって。言うのなら」

 エウラシアはにっこりと笑った。

「新しい。神話創りは。あきらめる。安心。して。絶対。やらない。から。……そんな。めんどくさそうなこと」
「主どの。本音がダダ洩れだ」

 明らかにレカエルにかこつけてさぼろうというエウラシアの意図は、ミノタリアにあっさり見破られた。

「まったく……。なんだその喜色満面といった表情は」
「えー。だって。イヴも。いや。でしょ?」

 一向に悪びれない様子でイヴに話を振るエウラシア。皆の注目がイヴへと集まる。

 それまで沈黙していたイヴ。と、堰が切れたかのようにぶわっと涙がこぼれた。

「う、ううっ……。れ、レカエル様がっ、あのように、仰るのならっ……! で、でも、このままだと怪物扱いのままっ……! うううううっ!」
「い、イヴ。ほら泣かないで。ああもう……」

 アツシが優しくイヴの背中をさすり、ハンカチを手渡す。素直に受け取りぐしぐしと顔を拭くイヴ。完全に仲直りできたようで喜ばしいことではある。とはいえ……。

「……なんとかなりませんか、ツツミ様?」

 困り果てた表情でツツミに顔を向けるアツシ。ツツミは力強く自分の胸を拳で叩いた。

「ま、まっかせて! こうなることも計算済みだからさ!」
「完全に。そこまで。考えて。なかった。くせに」
「エウラシア、正しい指摘って時に人を傷つけるんだよ? えーと、えーと……」

 ツツミは思考を巡らせる。このままレカエル抜きで計画を進める事もできなくはない。が、なんだかしっくりこない。

「んーと、レカエルは唯一神の眷属で、だから多神教がいやで……そうだ!!」

 ツツミはポンッと手を打った。

「な、何かいい方法を思いついたんですかご主人様!」
「だ、だから計算済み……いやまあそりゃ嘘だけどさ……」

 タンチョウはツツミの建前を無視してしまうほど慌てているらしい。それはさておきツツミはエウラシアに向き直った。

「エウラシア、物は相談なんだけど……」
「うー?」

 ツツミはエウラシアの耳元でごにょごにょと内緒話を始める。しばらく耳を傾けていたエウラシア。やがてコテンと首を傾けた。

「まあ。別に。いいよ?」
「いいんだ!? フリーダム過ぎないエウラシア!?」
「うー。ツツミが。言い出した。くせに」
「ま、まあそうなんだけど。まさかオッケーされるとは思ってなかったから……。よーし、イヴ!」

 ツツミは未だアツシに慰められているイヴに声をかけた。

「ぐすっ……なんですのツツミ様」
「安心してイヴ! 奥の手を思いついたから! で、ちょっと聞きたいんだけどさ……」




 翌日。レカエルは天界の神殿で独り祈りを捧げていた。いつもは主を身近に感じられる至福の時間なのだが、今日はなんだか集中できない。

「…………はぁ」

 一つため息をつき、ぼんやりと宙を見つめるレカエル。と、聖堂の扉がノックされた。

「あら? ……どうぞ入ってください」

 ツツミかエウラシアが来たのだろう、やや沈んだ気持ちで入室を促すレカエル。しかし現れたのは意外な二人組だった。

『わーーーい!! レカエルおねえちゃーん!!!』
『すっごい久しぶりだね!! 会いたかったよ!!!』
「こ、コガネちゃん、シロガネちゃんっ!!!」

 飛びついてきたのは浴衣姿の幼子ふたり。泉の精のコガネとシロガネだった。

「ど、どうしたんですかふたりとも!? どうして天界に!? 泉にいなくてよいのですか!?」
『えー。だって泉にいてもひまなんだもん』
『そうそう。タンチョウおねえちゃんたちがいなくなってからほとんどだーれも来てくれないし』
『たまにきてもなんにも落としてくれないしね』
『レカエルおねえちゃんたちもぜんぜん会いにきてくれないんだもん。さみしかったんだよ?』

 どうやら泉の存在もツツミたちと同様人間には伝わっていないらしい。

「ごめんなさいね二人とも……。いろいろ事情があったのですよ」
『うん、ツツミ様から聞いたよ! 戻ってきてくれてうれしい!』
『レカエルおねえちゃんにも会いたいって言ったら、ツツミ様とエウラシア様がここに連れてきてくれたんだ!』
「……ツツミ?」

 レカエルは扉の外に目を向ける。パタパタと手を振るツツミとエウラシアがそこにいた。

「やっほーレカエル。昨日ぶり?」
「元気。してた?」
「……ツツミ。エウラシア」

 やや身構えてツツミたちを迎えるレカエル。

「わ、私を説得しに来たのですか? 何度言われても私は……」
「説得? いやいやそんなことしないって。まあとりあえずこれ見てよ」

 ツツミの前には大きめの箱のような物があった。なにやらハンドルのようなものがついており、中に丸い玉がいくつか入っている。

「……なんですか、これは」
「ガチャポンっていう、人間が作りだした罪深い道具だよ。最近はデジタルなヤツが大流行してるんだけど、これは元になったアナログなヤツ」

 そういってツツミはレカエルにコインを何枚か手渡した。

「コイン? ……あの、なぜデザインがツツミなのです?」
「や、なんとなくノリで。さあさあレカエル、ここにコインを入れて。で、ハンドルを回すんだよ」
「は、はぁ……」

 促されるまま従うレカエル。ガチャンと音がしてカプセルが一つ出てきた。開けたレカエルの表情が瞬時に緩む。

「こ、これは! シロガネちゃん!!」

 出てきたのは手のひらサイズのシロガネの人形、フィギュアだった。

『やったー! ぼくのだ!』
「きゃ、きゃ、きゃ、きゃわいいです!! なんですかこの水色の服装は! ああ、黄色い帽子も愛らしい……!」
「お、まずはシロガネ園児服バージョンだね。かわいいでしょ」
『レカエルおねえちゃん、わたしのも出して―!』
「え、ええ……!」

 コガネにせがまれるままコインを投入しハンドルを回すレカエル。様々な服装のコガネ、シロガネフィギュアが次々と出てきた。

『きゃはは! わーいわたしのやつだー!』
「こ、これはスカート姿……! ああん、洋服姿のコガネちゃんもきゃわいい!」

 魅入られたようにガチャを回し続けるレカエル。やがて今までとは違う黒いカプセルが出てきた。

「おお! それ、SRだよレカエル!」
「す、すーぱーれあ?」
「珍しい奴ってこと! さ、開けてみよう!」
「は、はいっ! ……こ、これはっ……!!」

 レカエルの目が大きく見開かれた。

「わ、私と同じワンピース姿のコガネちゃん……!!!」
『えへへっ! おそろいだねレカエルおねえちゃんっ!』
「うふ、うふふふふ! ああもうなんでしょうこの気持ち!!」

 ……愛おし気な、といえば聞こえはいいが、とても気持ち悪い表情でフィギュアをねめつけるレカエル。

『いいなーコガネ。ねえレカエルおねえちゃん、ぼくのすーぱーれあも出してよー!』
「まかせるですよー! シロガネちゃんのもすぐ……あら?」

 レカエルは手元を見つめた。ツツミから渡されたコインを早々に使い切ってしまったのである。

「ツツミ! はやく次のコインを!」
「えー。もうなくなっちゃったの? 今のは初回お試し。次は有料だよ?」
「ゆ、有料?」

 困惑するレカエルを前に、ツツミは悪徳商人のような笑顔を見せる。

「そっ! あ、ちなみにSRはレア度でいくと上から三番目。さらにそのうえにSSRとURがあるよ!」
「う、うるとられあ、ですって!?」
「そして。今なら。こちら」

 エウラシアが後ろに合った別のガチャマシンを指す。

「こちらの。がちゃなら。10回に。1回。すーぱーれあ。以上が。絶対。当たる」
「新規ユーザー応援ガチャだよ! これでスタートダッシュを決めよう!!」
「よ、よくわかりませんがコインを!! いくら払えばいいのですか!!」
「……レカエル。わかってるでしょ?」

 黒い笑顔を深めてレカエルを見るツツミ。レカエルも我に返った。

「くっ……。コインの対価は、私の協力ですか……!」
「ふっふっふ。レカエルの国には堕天使という存在がいるらしいね……。楽になっちゃいなよ、レカエル……」
「ひ、卑劣な真似を……!」

 唇をかみしめるレカエル。追い打ちをかけるようにコガネとシロガネがレカエルを上目遣いで見つめる。

『レカエルおねえちゃん……もっと遊ぼ?』
『ぼくのすーぱーれあのやつ、すっごいんだよ?』
「う、ううっ……!!」

 もはや血涙を流さんばかりのレカエル。しかし心を決めたように大きく首を振ると、キッとツツミを睨みつけた。

「だ、ダメですっ!!! やはりそれだけはダメなのです!!!!」

 はぁはぁと肩で息をしながら決意を示すレカエル。ツツミの肩をエウラシアがポンッとたたいた。

「うー。失敗」
「ううん……。しょうがないかぁ。じゃあこれ、はいレカエル」

 ツツミはレカエルに袋を手渡した。ずっしりと重く、中からジャラジャラと音が聞こえる。

「こ、これは……コイン? い、いいのですか?」
「うん。一応思いついたからやってみただけだから。正直想像以上に揺らいでてびっくりしたけど」
「……うっ」

 反論の余地なくうなだれるレカエル。

「まっ、コガネとシロガネが寂しがってたのはホントだからさ! これで一緒に遊んであげて!」
「じゃあ。レカエル。また」

 そういって聖堂の外に出て行くツツミとエウラシア。コガネとシロガネは無邪気に袋をつついている。

『すごーい! おおがねもちだね!』
『レカエルおねえちゃん、はやく回して!』
「え、ええ……」

 再びコインを手にガチャを回し始めるレカエル。しかしなにやら取り返しのつかないことをしてしまった気分で、いまひとつ熱中することはできなかった。
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