三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

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第二章 人間に崇拝される編

66.新しい神話

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「ううう……頭痛い……気持ち悪い……こんな苦しい世界滅んじゃえばいい……」

 翌日。ツツミは全ての存在を呪っていた。ここはエウラシアが創った冥界のお布団スペース。床、壁、天井から何から何までが布団でできた場所である。

「ああ……。柔らかい……その柔らかさが憎い。私はこんなに苦しんでいるのに……。なんの悩みもない感じでぬくぬくしているお布団が憎い……」
「ツツミ。お布団に。罪は。ないよ?」
「……エウラシアはピンピンしてるし……。ああ、不公平なこの世界が憎たらしい……」

 どうやらイザナミさんが酔いつぶれたツツミたちを運んでくれたようである。二日酔いに苦しむツツミとは対照的に、エウラシアは既に正気を取り戻したようだった。

「まったく……だらしがないですよ、ツツミ」

 レカエルがのたうち回るツツミを見下ろしながら呆れたように言う。ツツミは恨みがましい目をしながらレカエルに答えた。

「レカエルは早めに潰れちゃったからまだ元気なんだよ……。私は結局朝まで飲み続けたんだから……」
「はっはっは! なんだかんだ最後の方はツツミ様が一番楽しそうだったのだがな!」
「はい、ツツミ様。イザナミさんがお水を用意してくれましたわ」

 高笑いをするミノタリアと、水差しを持ってきたイヴ。こちらもツツミほどのダメージは見受けられない。

「ありがと。……ミノタリアもおんなじくらい飲んでたのに。飲んだ水分全部涙にしてるんじゃないかってくらい号泣してたくせに……」
「うむ? なにやらいろいろ悲しかったことは覚えているのだがな? まあたまには思いっきり泣くのもいいことだ。今は晴れ晴れとした気分だぞ!」
「ミノタリア、泣いたのですか? ……わたくし、パーティーが始まった辺りから記憶がないのですけれど……」

 どうやらストレス発散になったらしいミノタリア。そしてイヴはエウラシアと同じく記憶が飛ぶタイプらしい。

「わたくし、もしかしてレカエル様に失礼を働いたり……」
「イヴ」

 不安そうな顔のイヴをレカエルが制する。

「酒の席の事です。そうそう気に病むことはありませんよ。覚えていないならそれでいいのです」
「は、はぁ。しかしですわね……」
「久しぶりの再会で舞い上がってしまったのは皆同じですから。……だから、タンチョウもそう気を落とさないで、ね?」

 そう言ってレカエルはタンチョウへと目をやる。……体育座りのように自身を抱き、うわごとのように呟き続けるタンチョウを。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんですどうして私あんなことをああごめんなさいごめんなさいごめんな……」

 こちらはしっかり記憶に残ってしまっているタンチョウだった。




「よーし復活! もう二度とお酒なんか飲むもんか!」

 夕方にはなんとか気力を取り戻したツツミ。タンチョウもなんとか慰め、アツシも交えて今後の事を話し合う流れになった。

「とりあえず現状を整理すると、今の人間はほとんど私たちの事を知らないんだよね。で、アツシがこの世界の神様として崇められている、と」
「はい……。本当にツツミ様たちにはどうやってお詫びをしたらいいか……」

 アツシが相変わらず申し訳なさそうに俯く。

「だからもういいってば。そうなっちゃったものは仕方ないって」
「おー。それで。うまく。回るなら。別に。いいんじゃない?」

 さほど信仰を集めたいわけではないツツミと、めんどくさくなければそれでかまわないエウラシア。

「しかしツツミ様! 皆様が、レカエル様が紫色の怪物扱いされているのは我慢がなりませんわ!」
「ま、まあそれは確かにちょっとやだけどさ……」

 気勢をあげるのはイヴである。しかしツツミの歯切れは悪い。

「正直、私はちょいちょい地上に遊びに行くつもりだから。正体がばれないならそれもありかな、なんて思ったりもするんだけど……」
「うー。私も。別に。気にしない」
「何を言っているのです二人とも……!」

 一方のレカエルの鼻息は荒い。

「私は恐れ多くも我が主が創り給うた存在です。あんな姿で語り継がれることは、私だけでなく偉大なる我が主への侮辱です……!」
「わ、私もご主人様があんな風に扱われるのは嫌ですっ!」

 タンチョウがレカエルに賛同して訴える。ツツミは悪戯っぽくニヤリと笑った。

「そっかー。私の事ずっと抱きしめたいくらいかわいいと思ってくれてたタンチョウにそう言われちゃうとなー」
「あ、あう……。ごめんなさいごめんなさいごめ……」
「ツツミ様。タンチョウがまたどこかに行ってしまうではないか。僕も主どのが怪物なのは嫌だぞ」
「うー? 怪物より。半裸の。ほうが。いい?」
「ああ! その姿なのが主どのだからな!」

 どうやら昨晩のあれは完全に酔ったうえでの戯言だったらしい。

「うーん。一応方針として思いついた事はあるよ?」

 ツツミはおほんと咳払いをした。皆の視線がツツミに集まる。

「どういうわけか地上でアツシが神様扱いされちゃったんだよね? で、色々もめてひとまずそれを受け入れることにしたんだよね?」
「はい……」

 まだうつむいたままのアツシの肩を、ツツミはポンポンと叩く。

「ま、人間が信じてるものを否定するのは難しいよね。だから、否定するんじゃなくて上書きしちゃえばいいんだよ」
「上書き……ですか?」

 顔をあげるアツシ。ツツミは言葉を続ける。

「そっ。アツシは今のまま神様やってもらうよ? で、そのアツシの神話を肯定したうえで新しく神話を創ればいいんだよ!」

 元世界でも神話の変化は多数あった。

「私の国でもむかーし仏様って人たちが来たことがあったらしくてさ。もともといたウカノミタマ様たちと色々ごたごたしたらしいんだ」

 まだツツミが存在する前の話である。

「一時期なんか険悪だったらしいよ? でも結局『神仏習合』とかなんとかで折り合いつけて、まあそれなりに仲良くやってるんだ」

 今では地上の神社のなかに仏像があったり、逆にお寺の中に神社があったりとカオスなことになっている。

「割と最近、逆に仏様を追い出せって運動もあったけど。でも結局今でも仏様もウカノミタマ様達も崇められてるからね」

 アツシが崇められているからといって、ツツミたちが入り込む余地がなくなったわけではないはずだ。

「とりあえず、アツシ信仰の大元の地上でなんか神域の存在っぽいことをやろう! それっぽいことをやって、怪物じゃない立ち位置を確立しよう!」
「なるほど……。たしかにうちの国は初詣もクリスマスもやってましたね……」

 ツツミの国で育ったアツシ。実例を見ているだけに理解が早い。

「うー。めんど。くさそう」
「……主どの。いい子だから少しはやる気をだそう。な?」

 あきらかにやる気のなさそうなエウラシアをたしなめるミノタリア。まあこちらはミノタリアがおいおいなんとかしてくれるだろう。いざとなれば伝家の宝刀もふもふもある。

「って感じの事を考えたんだけど、どうかな?」
「すごく、すごくいいと思いますご主人様!」

 タンチョウは目を輝かせながらこくこくと頷く。

「ご主人様、がんばってください!」
「うん! あ、タンチョウとかイヴとかミノタリアにも色々手伝ってもらうからね!」
「ええ! 私にできることならなんでも!」
「はっはっは。微力ながら手伝わせてもらおう!」

 ツツミの言葉に力強く答えるタンチョウとミノタリア。一方、イヴの表情は晴れなかった。

「イヴさん?」
「え、ええ。その……わたくしもお手伝いしたくはあるのですが……」

 イヴは心苦しそうに視線を逸らす。……レカエルの方へと。

「……ツツミ」
「うん?」

 それまでじっと話を聞いていたレカエル。ツツミに顔を向け、静かに語り掛ける。

「ツツミの案。それはつまり、この世界に多神教を創るということですか?」
「んー、堅苦しい言い方をすればそうなる……あっ」

 ツツミは自分の方針に大きな問題があることに気が付いた。最近ずっと一緒に世界を創っていたため忘れかけていたが、レカエルは……。

「あ、あの、レカエル……」
「私はに使える天使、レカエルです」
「そ、そうだったね……」
「おー。なんか。久しぶりに。聞いた。気がする」
「だ、黙りなさいエウラシア」

 少し頬に汗をたらしながら言うレカエル。

「た、たしかにここのところあなた方と一緒にたくさんのものを創造してきました。楽しかったですし、色々感謝もしています。異教の眷属とはいえ以前ほど忌諱する気持ちもありません」

 珍しくレカエルの口から殊勝な言葉が出た。しかし、レカエルは視線をキッと強くして続ける。

「ですが、この一線は私の存在そのものに関わる事です。……多神教を創ろうというのであれば。私はその仕事には絶対に関わりません!!!」
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