三人娘が異世界を創る ゆるく まったり いとをかし!

市上 未来

文字の大きさ
65 / 67
第二章 人間に崇拝される編

65.お酒は楽しく飲みましょう

しおりを挟む
「おほん! では改めて再会を祝してってことで……かんぱーいっ!」

 ツツミの音頭から、皆がグラスを合わせる。様々な問題が一段落したころには夜になっており、なにはともあれ宴会という運びとなったのだった。

『…………! ……!』

 テーブルの上には所狭しと料理や飲み物が並べられ、イザナミさんが嬉々として皆に取り分けている。

「ありがとうございますイザナミさん。それにしても……料理までこなされるとは……」

 レカエルがピザを手に取り感嘆の息を漏らす。冥界はレストラン施設も充実していた。調理を担当するのはもちろんイザナミさんである。ファーストフード、洋食、和食、中華。メニューも豊富だ。

「冥界にきてからは厳密には食事の必要はないのだが……。死してもうまい食事というのは心を豊かにしてくれるな!」

 そう言ってハンバーガーにかぶりつくミノタリア。口元についたケチャップが艶めかしい。

「うんうん! 現世で頑張った人たちにはご褒美がなくっちゃね! おいしいご飯は基本だよ!」

 ツツミは食卓を眺めご満悦だ。冥界創りの折、神使パワーをフル活用して食料供給システムを創った甲斐があったというものである。

 地上とは比べ物にならない生活環境の充実っぷりだったが、既に一生を終えた者たちがたどり着く場所なのだ。少々甘くしても問題はあるまい。

「あ、ご主人様。グラスが空ですね。お注ぎします、さあどうぞ」

 タンチョウがにこやかにツツミに近寄る。

「うん! ありがとタンチョウ! お願い……する……んん?」

 ツツミはタンチョウが手に持つピッチャーを目に止め固まった。シュワシュワと泡を立てる琥珀色の液体。ちなみに最初にツツミが飲んでいたのはコーラだったのだが……。

「えっと……これ、ビール?」
「ええそうですよ? あれ、ご主人様はお酒はダメでしたか?」
「い、いや飲めるけど。……そっか、そういえばそういうのも創ったっけ……」

 見るからに喉越しがよさそうなビールを見つめ考え込むツツミ。なにか忘れている気がする。お酒。酔う。……酒乱。

「……はっ! そうだ! エウラシアにお酒はっ!!」

 もふもふ大好きニンフのリミッターが外れる危険があるではないか。飲みすぎないよう監視しなければ。慌ててエウラシアの方を確認すると、ミノタリアと歓談の真っ最中だった。

「はっはっは! 主どの、まあ飲もうではないか!」
「うー。ビール。久しぶり」

 タンチョウと同様にビールを注ぐミノタリア。エウラシアは杯を受け、軽く口をつける。どうやらまだエンジンはかかっていないらしい。

 ほっと胸をなでおろすツツミをよそに、エウラシアがミノタリアのグラスを目に止めた。

「ミノタリアも。お酌。してあげる」
「おお! 光栄だ主どの! ではありがたく……」
「み、ミノタリア! 君はお酒は……」

 近くにいたアツシが慌てたように制した。

「なんなのだアツシ。本当に久しぶりの再会なのだぞ? 飲むべきではないか!」
「い、いやでも君は……。あっ!」

 アツシを振り切り、グラスを一気に傾けるミノタリア。大きく上を向いた体勢になり飲み干した。と、そのままバタンと仰向けに倒れる。

「ちょ、ちょっと!? 大丈夫ミノタリア!?」

 慌てて駆け寄るツツミ。アツシはため息をついてかぶりを振る。

「ああ……。だから言ったのに……」
「え。いやこれって急性アルコール中毒とかじゃ……!」
「いえ。とてつもなくお酒には弱いみたいですがそんなに心配はいりません。ただ……」

 アツシの言葉通りミノタリアはすぐに立ち上がった。すこしふらついてはいるようだが大丈夫そうだ。そのままエウラシアの元に近づく。

「……はっはっは。主どの。うむ……」
「……うー?」

 ガシッとエウラシアの両肩を掴むミノタリア。その瞳からポロリと涙がこぼれた。

「はっはっは……。よくぞ……よくぞ戻ってきてくれた……! うむ……、うむっ! はっはっは!」

 笑いながら涙をこぼし感極まったように言葉を漏らすミノタリア。

「わあ……。ミノタリア、結構主思いだったんだね……」

 飄々としているように見えて実はかなり心配してくれていたのか。少し感動してツツミが様子を見ていると、アツシが言いにくそうに説明した。

「いえその……。ミノタリア、お酒が入ると絶対泣くんです。すっごい些細な理由でも」
「……えっ?」

 きょとんとするツツミをよそにミノタリアの言葉は続いた。

「戻ってきてくれたというのに……! 主どのが変わらず半裸だなんて……っ!」
「おー。今更。なにを」

 会った時から変わらぬ恰好のエウラシア。しかしミノタリアの涙は止まらない。

「元世界に戻ったのならまともな服を着てくればよかったのだ……! 相変わらずそんな恰好で……!」
「うー? 私。元世界の。ころから。この。格好。だけど」
「ああ! そんなことだからゼウス様に……! 僕の主はなんと不憫なのだろう!」

 笑い泣きは号泣へと変わり、ひしっとエウラシアを抱きしめるミノタリア。

「……ねっ?」
「……うん。とりあえず私の感動を返してほしいかな」

 意味不明なミノタリアの言い分にずっこけそうになるツツミ。アツシは続けて言う。

「というか……ミノタリアに限らず僕の奥さんたちは酒癖が……その……」
「えっ。ミノタリアだけじゃ……」
「い、イヴ!? いったい何を……!?」

 レカエルの声がツツミの言葉を遮った。見ると真っ赤な顔のイヴがレカエルにしなだれかかっている。

「……えへへっ。レカエル……おねえちゃんっ!」
「イヴ!? あなた、正気に戻ったのでは……っ!?」
「もう! 何言ってるのレカエルおねえちゃん! イヴ、プンプンだよ?」

 再び幼児の仮面をかぶって振舞うイヴ。

「イヴって……元々そういう素養があったんじゃない……?」
「……ノーコメントです」

 冷や汗をたらし目をそらすアツシ。と、朗らかな笑い声が割って入った。

「うふふっ。まあいいじゃないですか。お祝いなんですから」

 タンチョウがイヴやミノタリアの様子を眺めながらにっこりする。微笑ましさとはまた違う状況な気もするのだが、タンチョウの目は優しい。

「そ、そうだね! まあちょっとくらい羽目を外しても……あれ? アツシ? どこいくの?」

 なぜかアツシがさりげなくタンチョウから距離をとっている。ふとアツシの言葉が思い出された。僕の奥さんは……。

「た、タンチョウ? どうしてピッチャーが空になってるのかなぁーなんて……」

 ……返ってきたのは返事ではなく抱擁だった。背後に回り込んだタンチョウがツツミを抱きすくめ、頭をわしわしと撫でつける。

「た、タンチョウ? ……タンチョウ!?」
「うふふっ。捕まえましたよご主人様。もうどこにも行かないでくださいねっ」
「タンチョウ!? もしかしなくてもすっごい酔ってる!?」

 ミノタリアやイヴと違い顔色に変化はないタンチョウ。しかし摩擦熱で焦げるのではないかという勢いで頭が撫でまわされている。

「ふふ。実は前からこうしたかったんです。ご主人様、かわいいなぁって」
「あ、ありがと? でもちょっと力が強いかなーって」
「あ! そういえば忘れてましたね!」

 タンチョウは急に撫でるのをやめ、ポンッと手を打った。

「エウラシア様に報酬をお支払いしなくては! ご主人様も付き合ってくださるんでしたよね!」
「い、いや私はもう散々もふもふされたから……!」

 ツツミの言葉も聞かず、抱きすくめたままエウラシアの元に近づくタンチョウ。

「せっかくですからイヴさんも一緒に!」
「タンチョウ!? 何を言っているのです!?」

 おろおろとイヴをあやしていたレカエルが驚愕の声をあげる。当のイヴは上目遣いでタンチョウを見つめた。

「……レカエルおねえちゃんもいっしょ?」
「もちろんです!!」
「……やったぁ!!」
「な、なぜ私まで!?」

 タンチョウの例に倣いレカエルを引きずりはじめるイヴ。向かう先のエウラシアはミノタリアにハグされながらグラスを煽っていた。

「……ふふふふふふふふふふふ」
「やばいよレカエル! エウラシアも出来上がってる!」
「は、離すのですイヴ! ……そ、そうですアツシ! 助けなさい!」

 少し離れて成り行きを見守っていたアツシ。レカエルの言葉に申し訳なさそうに頭を下げる。

「……レカエル様、ツツミ様。僕にできるのは経験からくるアドバイスくらいです」
「アツシ?」

 救助は期待できなさそうなアツシ。助言は簡単だった。

「酒の力を借りてください。酔った彼女たちと同じ土俵に立てば傷は浅くて済みます。……見てるのも失礼ですから僕はお暇しますね」
「アツシ!?」

 引き留めの言葉には答えずその場を後にするアツシ。ツツミは腹をくくった。

「……イザナミさん! 一番強いお酒、ありったけ持ってきて!!」

 ……主従たちの乱痴気騒ぎは、全員が意識を失うまで続いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

元王城お抱えスキル研究家の、モフモフ子育てスローライフ 〜スキル:沼?!『前代未聞なスキル持ち』の成長、見守り生活〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「エレンはね、スレイがたくさん褒めてくれるから、ここに居ていいんだって思えたの」 ***  魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。  王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。  しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。  解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。  ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。  しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。  スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。  何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……? 「今日は野菜の苗植えをします」 「おー!」 「めぇー!!」  友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。  そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。  子育て成長、お仕事ストーリー。  ここに爆誕!

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

処理中です...