がんばれキモオタ異世界道中~ボクが救世主になったワケ~アルファポリス版

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初めての異世界転移~チュートリアル編

2.異世界にはロマンしかない

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「前略、母上様」
 遠い田舎を離れた僕は、今現在


 異世界にいます。


 詳細は省きますが、僕は【ハガンカ】という
わりと賑わいを見せる大きな街で、貴族のお子様を相手に算術を教えています。
こちらの世界で算術は四則計算が出来ると商売が出来るという教育レベルです。

 生活は出来ていますし充実した生活をしています。また手紙書きます。

息子より


 豊は、届く筈もない母への手紙に封をして、寝床へと潜った。
肉体と精神の疲労から訪れる程よい微睡は、突然の大声により阻害される。

『ちょーっとまったぁぁぁ!!』
 豊が母への手紙を認めた後にその声は響いた。

 煌びやかな黄金の受話器を手に取り、豊は深くため息をつく

「はぁ~~~~~っ……なんですか女神様、明日も朝早いので僕は寝ます。睡眠不足はお肌の天敵♡ 眠れない夜は恋煩いの時だけで充分ですぞ」

『何をグズグズやってるのよユタカ青年! キミの行動はちっとも我が目的に沿ってないわよ! 早いところこの街を出て、世界を幸せにして私も幸せにしてよ!』

 女神の召喚により、現代日本から異世界へと赴いた豊は
本来の目的を果たすことなく、一ヶ月家庭教師をしていた。

 女神から与えられたは、【言語理解】のみであり、
それ以外の力は、全て豊由来の能力である。

「何を仰います女神様! 女神様が初めにお金を渡してくれなかったから、生活に困って、稼がないとならないハメになったのではないですか! この黄金の受話器だって全然金で出来ない偽物だし‼」

「だって! お金なんて、そこいらのモンスターを倒せばラクラク稼げると思ったんだもの! それと、神器である受話器を質屋に売ろうとしないでくれる⁉」

「見知らぬ土地で! チート能力もなく! 着の身着のままで! 何とかなる訳ないでしょ!!!!!!(ガチギレ)」

 女神に出会って一ヶ月、豊は気がついたことがあった。
この女神はいわゆるポンコツであり、
短絡的でワガママでおっちょこちょいだった。

「しかしですな、女神様の仰る『世界幸福大作戦』は余りにも短絡的ですぞ」

「ユタカ青年がもっと攻撃技能スキルの才能さえあれば! ホイホイと旅は出来たのよ! 野生のスライムくらい自慢のボディで押しつぶしなさいよ!」

「無茶こくでねぇ! 僕だからギリ死ななかった様なものを! あの個体は体当たりで木をへし折ったんですぞ! 徒手空拳で倒せる範囲を超えておりますぞ! 」

「しっかりしてよぉ! 日本ではとんでもないポテンシャルで人助けしてたじゃない! 子犬助けるために車道に飛び出したり、子供を助けるために火事に突っ込んだりしてたじゃない! 人を助けた数だけ反応が強くなる【救世主測定レーダー】も、ビンビンだしさ! だから救世主として召喚したのよぉ⁉」

「だから! 人の幸福なんていう曖昧な尺度では、どんな活動をしたらいいのか皆目見当がつかないんですぞ! 幸福度が上昇する明確な方法を示して!」

「だって! だって! 今まで自分の力で幸福度上がったことないんだもん!」

「それは余りにも……ポンのコツですぞ……! 何も言えん……!」

 この無駄な会話は省くとして、北条豊《ほうじょうゆたか》は現代日本人である。

 公衆トイレで紙を切らした際、突如現れた女神によって窮地を救われ、
その代価として、女神が創造した世界を再生するべく、旅に出る事となった。

 旅の目的である再生とは
【人類の幸福度を上げる事】

 世界創造初心者であった女神は、初手で規模の大きな世界を創り出した。

 最初は楽しかったが、人類が生まれて活動をすると管理が途端に難しくなった。

 女神は剣と魔法のファンタジー世界が作りたくて、現状の世界観を設定したが、
自然災害、飢饉、疫病などの様々な要素が重なる事により、思った様に事が運ばず、人類の幸福度は年を重ねるごとに減少。

 今では人類全体幸福度は【2%】まで下がっていた。

 この【人類全体幸福度】は神の世界での評価に直結し、創造世界を放棄すれば、女神は神の座を降ろされ、長い長い下働きに逆戻りするという。

 そんな女神を救済するべく施された特別な処置とは、
【世界に直接干渉できる存在の派遣】であった。

 神は本来、【神託】という形で
人々に知恵などを与える事が許されている。
が、毎回それが事あるごとに失敗。

 それ以外、創造神が世界に物理的な干渉をする事は出来ない。
何故なら女神たち神界機構の手は大き過ぎるからだ。
詳しく言えば、世界に対して微調整が出来ないという話であり
惑星の自転、表面温度、生命体の配置、惑星近辺の環境整備と
大まかな調整しかできないのである。

 その結果、今回の処置に至った。
神託とは違い、受肉した存在が直接世界に干渉することで
より良い効率が望めるはずだった。

『ユタカ青年! まだ話は終わってない! ……わわっ! 何をするリアーラ副神! まだユタカ青年との通信が……! ブラック過ぎるわよこの部署ぉ!』

『何を言ってるんですかフォルトゥナ様! 貴女がやらなきゃいけない仕事は、まだこんなにあるんですよ! 明日提出のレポートもまだ終わってないじゃないですか! ……プツン! ……ツーツー……』

「寝る……スヤスヤスヤスヤ……」

 異世界には、ロマンしかない。

 ここで突然だが、異世界初体験の方に向けたフォルトゥナ世界を解説していく。
 宇宙における上位生存体によって構成されている機関、【神界機構】に所属する女神フォルトゥナが作り出した世界は彼女が管理し易い環境を整えるため、生命体の能力値が【ステータス】という形で視覚化され、【レベル】や【スキル】といった形で明文化、数値化が成されている。

 ※豊は世界を渡った際に女神の眷属としてレベル1が進呈されているが、スキルなどに関しては彼自身の人生経験に基づき取得したものである。

 女神自身が管理し易く、正しく管理活動を行うために細分化されたデータを確認することが可能であり、その世界に住む住人たちも手順を踏めば自分の能力値を閲覧することが可能となっている。

 詳しい説明はその都度行うとして、認識としてはロールプレイングゲームの様な感覚で認識してくれたら理解が早まるだろう。

 それでは物語を楽しんで頂きたい。

――――――――――――――――

 時は少し遡り――


 女神の召喚に応じたことで、豊は光の道を通り抜けることとなった。

 チュートリアルも済ませぬ間に、豊は賑わいを見せる街、ハガンカへと到着した。
「普通、人目のつかない森とか、街道沿いから始まったりしませんか?」

 突如として現れた豊の姿に、行き交う人々は不信感を抱いたまなざしを向けるが
 それらはハガンカの街を守る門番の声によって、払拭される。

 「これより開門を執り行う! 街へと入るものは順番に並び、身分確認を受けてくれ!」

 人々はその声と同時に我先にと並び始めた。
 豊は呆気にとられ、その場で呆然と立ち尽くしてしまうが、ある団体の割り込みと同時に、列へと巻き込まれてしまう。

 多くの人込みは流れを生み出していた、これに逆らえば
最悪の場合、圧死するかもしれない。


「順番守れよ! 横入りするんじゃねぇ!」
「うるせえ! お前こそ横入りじゃねぇか!」

 血気盛んな商人や、冒険者の様な装いをした集団が口論をしている。
それはやがて、熱を帯び、殴り合いの乱闘へと発展した。
この混乱に乗じ、豊は雑多に積まれた荷車の隙間へと入り込み、姿を隠した。

「(聞き慣れない言語が次々と、脳の中に入り込んでくる……! 記憶にない文章が濁流の様に押し寄せてくる……! 僕は世界の言葉を理解させられているんだ!)」

 女神が豊に与えた唯一の能力は、【言語理解】。脳に負荷を掛けることで
本来であれば数年かかる言語の習得を読み書きまで
一瞬で成立させてしまう恐ろしい能力である。

 豊は初めて聞く言語を理解する度、今後この激痛に悩まされる事となる。

「(喧噪が脳を焼く様だ……! 人々の会話が呪言の如く響き渡る!)」
 身を隠しながらも、あらゆる雑音に豊は苦しみ始める。
そして、やがてそれに限界が来た。

「お、お母さーんっ!」

(プツン…………!)

 意識が限界を迎えて叫び声をあげたあと、豊の目の前は真っ暗になった。

 一連の騒動が収まり、豊はボロ雑巾の様に放置されていた。それをみかねた門番がふたり掛かりでその巨体を運び出す。

「可哀そうに……恐らく開門の際に、揉みくちゃにされたんだな。見た目はタフそうだが、まぁ【ハガンカ名物おしくら開門】の前には無力だったな」

「おーい! 誰か! このハンサムに水をぶっかけてやれ‼」

「うーい‼ よいしょーっ‼」
 門番によってバケツいっぱいの冷水が用意される。

「はっ‼ 僕っ‼ 生きてるっっ‼」
 豊が気が付いた次の瞬間、気付けに浴びせられたバケツの水が体温を奪う。

「おぎゃああああああ!!!!」

「お、起きたみたいだな。大丈夫だ。生きてる生きてる」

 豪快に生まれた赤ん坊の様な悲鳴が詰め所に響き渡る。

「うぶっ……! ガクッ……‼」

「また気絶したぞ‼ もう一杯だ‼」

――――――――――――――――

 しばらくした後、豊は門前にある取調室で尋問を受けていた。

「――それで、開門でもみくちゃにされた際に、通行証や身分証が入った荷物がすべて引っぺがされたって訳だな?」

「はい、そういうことになりますな……。荷車と接触したので、その時かと」

 正直に異世界から来たと言っても頭のおかしい奴と思われるのが関の山であるため、豊はその場に則したそれらしい嘘を並べ立て、身分証が無い事を説明した。

「手持ちはその、よくわからない絵が描かれたハンカチひとつか?」

「えぇ……これはポケットに入っていたものですから……」
 突然召喚されたため、彼の手持ちは思い出のハンカチーフ一枚であった。
浴びた冷水を何度も搾り拭き取りながら、尋問は続く。

「……自身の身分も証明できないとなると、この街に留まるのが難しくなる。とりあえずは、身に着けているものを質屋にでも掛けて金を作り、労働者ギルドで労働パスを発行してもらうしか方法はないだろうな」

「質屋に、労働者ギルドですか、地図とかってありますかな?」

 門番は大きな木版に描かれた地図を取り出して豊に見せた。その地図にはこの門を含めたハガンカの東側一部が記されている。

「地図がわかるとなると……。お前さん、文字の読み書きができるのか。なら仕事先はある程度確保出来るだろうな。少なくともこの街に流れ着く底辺労働者よりは遥かにマシだろう。質屋は労働者ギルドに併設されている。受付で対応もしてくれるだろう」

「なるほど、ありがとうございます。それで、この町に入る為の手続きなのですが……」

「これを首から下げておけ。三日間限定の入門手形だ。魔術が込められているからこちらで管理が出来る様になっている。出来るだけ肌身離さず持ってろ。これは即席の証明書としての役割も担っているからな」

「わかりました」

「お前さんは運がいいぞ。このハガンカは領主様が有能でな。他と比べれば治安も良いし仕事もある。飯も美味いし物流もある。無いのは庶民向けの娼館くらいなもんだ。ガハハハッ!」

「動労者ギルド……地図によると……。大通りから少し外れたこの場所ですね」

「おう。その通りだ。この地図は労働ギルドに着いたら受付に返却してくれ。数が少ないからな」

――――――――――――――――

 こうして門番から送り出された豊は、労働者ギルドへと向かっていた。街中には所狭しと露店が立ち並び、多くの人々が行き交っている。雑貨、飲食料、武具、装飾品など様々な商品が並んでいる。

 豊は改めてこの場所が異世界であるという実感を得ていた。石造りの街並みに四階建ての建築物。これらの情報である程度は文明の進み具合が判断できる。

「井戸もたくさんあるし、側溝の感じからして地下に排水と下水も備えている……。文明レベルは中世から近世辺りの印象だな……。それと、魔術という概念が生活の中にある程度溶け込んでいる……」

「先日出来たばかりの銀細工だ! 見ていってくれ~!」

「世界一固くて甘い、バリナップルはいかがかな~ジュースにすると美味いよ~!」

「さぁ、見てみて寄ってって~! 美味しい美味しいアイスミルクだよ~! 純正氷結魔術で拵えた冷たい食べ物だよ~!」

 食材の保存や料理の過程において、魔術は人々によって有効的に利用されている。

「へぇ……魔術を商売に活用しているのか……。お金が確保出来たらぜひ食べてみよう」

 街中を散策し、情報を得た豊はその足で労働者ギルドへと向かった。酒場と宿屋を兼用しているのか、人の行き来が多い。ひっきりなしに出入りがある。

 豊は両開閉の扉を潜り抜け、受付と思わしきカウンターへと向かうが、業務処理を行うものの手続き量に対して事務員の数が足りず業務が滞っていることが判明した。

「何をそんなに梃子摺っているんだろう……」

 こうしている間にも、徐々に列は長さを増している。豊は列を離れ、受付カウンターで何が起こっているのかを確認した。

 労働者ギルドにおける仕事の受注。それらに必要な手続きは【業務内容の詳細】【業務従事者の身元確認】【業務依頼元の身元確認】【業務完了の証明】となっている。どうやら事務員が足りず、【業務受理】と【業務完了確認】が一人で行われている様子であった。

 数多くファイリングされた確認書類の中から、ひとつひとつ事務員が確認を取らなければならないというのは非常に効率が悪い。仕事の種類には個人依頼も含まれているため、その数は膨大となっていた。

「うわ~ん! 先輩たち~! 早く戻ってきてください~!」

 完全にパニックになっている受付嬢が資料のファイルをひっくり返している。

「嬢ちゃん! 泣いても仕事は終わらねぇんだから気張ってくれ!」

「シェルジュちゃん、頼むぜ! 今日の稼ぎが無いとかーちゃんにドヤされちまう! 飯を作ってくれなくなっちまうよぉ!」

「なんでこの忙しい時期にシェルジュ嬢しかいねぇんだよ! 人員はどうなってんだよ人員は!」

 長い事確認作業に待たされているのであろう。並んでいる従事者たちは礼儀正しく待っている。誰か手伝ってあげれば良いのにと豊が考えていると、門番の言葉が頭を過る。この世界は識字率が高くなかった。読み書きの有無が仕事の範囲を大幅に変化させる。並んでいる労働者たちは手伝ってあげたいのにそれが出来ないのだった。

「おい代筆屋! お前も字が読めるなら嬢ちゃんを手伝ってやれよ!」

「勘弁してくれよ! 俺は俺で仕事があるんだぜ⁉ 労働者全員分の名前を書くのがどれだけ大変だと思ってんだよ!」

 受付の片隅で仕事をしていた男はどうやら代筆稼業の様であるが、既に彼も手がいっぱいの様である。豊はそんな状況を見て、受付を手伝うことにした。

「ちょっと失礼しますぞ……。えっと……この輸送会社ハコベールはこのファイルですな……。名前順にファイルを整理していきますので、シェルジュ殿はそのままの業務を続けてくだされ、僭越ならがこのわたくしがお手伝いいたしますぞ」

「おぉ! 兄ちゃん! そのタフな図体で字が読めるのか! この際なんでもいい! 早いところ仕事を処理してくれ! もうシェルジュちゃんが限界だ!」

「お昼ご飯も抜きで働くのは無理です~! お腹空きました~!」

「そればっかりは僕にもどうにも……」

 ――その瞬間、豊の脳内で無機質な声が響いた。

『――こちら、神界機構所属、天の声システムです。条件開放により、北条豊氏の能力【過剰なる糧】が覚醒しました。魔術を使用し、飢えた民を救済してください』

「それでは早速……。発動せよ!【過剰なる糧】!」

 豊の足元から魔法陣の様なものが形成され、集約した七色の光が柱となって彼を包み込み施設内が大きく振動し始めた。そして少しの疲労感が訪れる。

「こ、これが魔力の消費……! 身体で感じますぞ……魔術を! うおおおぉおっ! よくわからんけど、いっけえええっ‼」

 バチバチという轟音が訪れ、射幸心を煽りそうな効果音まで飛び出す。
夜空に瞬く星の様に美しい光が降り注ぎ、手には純白に輝くおにぎりが顕現した――

「――いや! おにぎり出すだけなんかい!」

【魔術・過剰なる糧】――――――――――――――――
 使用すると自身の魔力を消費しておにぎりを顕現させる。
父を事故で亡くし、仕事が忙しい母に代わって妹の朝食であるおにぎりを
何年にも渡って作り続けた経験が基となり、魔術として覚醒。
使用回数に応じておかずも追加される。
 ※発現の条件 お腹を空かせた人を助ける。
【――――――――説明終了】

「この迫力……! 魔術に違いない! こいつ魔術師だ!」

「しかしよぉ! 飯を出す魔術なんて聞いたことないぜ!」

「あぁ、俺も聞いたことがねぇ! かの有名な大魔術師【ビックハット】ですら、食い物を魔術で生み出したことはないと聞き及んでいる……! この魔術があれば各地で起こっている食糧不足が解決するかもしれない……! お前たち……! 俺たちはこのタフな救世主の誕生という歴史的瞬間に立ち会ったのかもしれないぜ……!」

「ハガンカいちの魔術好きであるお前が言うのであれば、間違いないな……!」

 先程から【タフ】という言葉が頻繁に見られるが、この世界において太っている事は、【裕福の象徴】として認識されており、アドバンテージとして考えられている。

 豊は受付嬢シェルジュにおにぎりを差し出した。
「人の握ったおにぎりがダメとかでないのであれば、どうぞ……」

「えぇ⁉ いいんですか⁉ こんな真っ白に輝いたおにぎりを⁉ 後で高額請求とかされませんよね⁉」

「大丈夫ですぞ! お金取ったりとかしないですぞ!」

 その言葉で安心したのか、受付嬢は豊のおにぎりを一気に頬張った。

「うんめぇなぁ~……!」

 おにぎり食べてすぐ、シェルジュの顔色がみるみるうちに改善されていく。

「こ、これは! 身体の底から力が漲ってくる……! お、お兄さん! このおにぎりは一体……⁉」

「(えっ……⁉ 何それ、知らん……怖……!)」

 その後、覚醒したシェルジュ嬢と豊によって事務処理が行われ、蓄積していた書類は一先ずの終息を迎えた。

「タフのお兄さん、助かりました。読み書きと計算が出来て魔術も使えるなんて、さぞかし名のある方であると存じます。お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 お茶を飲んで一息ついた受付嬢のシェルジュは、豊に名前を尋ねた。
豊は少し考えてから口を開く。

「えっと、この土地では名乗る際に名前、苗字の順番になるんでしたっけ……?」

「そうですね。一般的には名前から家名の順で名乗ります。改めまして、私は受付嬢のシェルジュ・カーティと申します。お察しの通り、カーティ家は読み書き計算を生業とした一族であり、私はその三女にあたります!」

「そういう事であれば、僕の名はユタカ・ホウジョウ。門前での争いに巻き込まれ、身に着けるもの以外の全てを失いし者です。この度は労働組合に登録し、身分証明書の発行を目的としてこの場を訪れました」

 シェルジュは豊の首から下げられた手形を確認する。おおよその察しがついたのか、彼女は受付嬢としての仕事に戻る。

「ユタカさん! そういう事であれば早速診断を行いましょう! ステータス診断の水晶を使えば即座に適した職種を調べることが可能ですよ!」

「そんな便利な装置があるんですね……。もしかして、ステータスって自分で確認したり出来るんですかな?」

「名前や健康状態、獲得している技能などの簡易的なものであれば、心の中で【ステータス確認】と認識するだけで自分や任意の相手に見せる事が出来ますよ。詳しい能力値に関しては、専用のスキルやこの診断水晶を使わないと確認できません。早速ですが、この水晶玉に手をかざしてください」

「心得ましたぞ」

 豊は言われた通り水晶玉に手をかざした。すると柔らかな発光とともに、豊の正確なステータスが目の前に表示される。それはまるでSFなどで表現される、空中投影ディスプレイだった。

ステータス展開――
【ユタカ・ホウジョウ】 LV1
HP.120/120    MP.30/35
筋力 STR(strength)15
頑強 VIT(vitality)12
瞬発 AGI(agility)9
器用 DEX(dexterity)7
知能 INT(intelligence)21
幸運 LUK(luck)4
――――――――――――――――
技能スキル 【常識・統括】【模倣モノマネ】【料理】
魔術 【過剰なる糧・おにぎり】
地形技能エリアスキル【火事場】
※以下、情報量が多過ぎるため省略
――――――――――――――――

「火事場……か……笑わせてくれる……」
 豊が自分の能力値を確認し、表情に僅かな影を落とす。

「なんというタフネス……! レベル1で常人の五倍以上HPがあるなんて……! えっ……♡ すごぉい……♡ えっと……ユタカさんは何処のお貴族様ですか?」
シェルジュの言葉で我に返った豊は素早く表情を切り替えた。

「そんな言われる様な内容なのですかな?(なんで一瞬言葉に艶が……?)」

「レベル持ちである時点で、出生と身分が高いことを示していますね。生まれつきの加護である場合もありますが、大抵の人々は各ギルドに代価を支払って申請を行い、レベルを獲得するので……。相当高度な教育環境で育まれた様ですが……。この能力値に見合うお仕事となると、特別斡旋を受けてもらう他ないかもしれません……」

「というと?」

「ギルダム王国では、その人の能力値に合わせて的確なお仕事を斡旋する。という明確な法律があるんです。有能な人材を外国に逃さないためと言われています。現在、特別斡旋として残っているのは、この土地の領主であるルーティーン家ご子息ご令嬢の家庭教師兼、身の回りの世話を行う執事の募集ですね」

「ほほう、幼き頃から妹の面倒を見ていたので、お子様のお相手ならば心得がありますぞ! 現在無一文故、限定期間の住み込みで働けると最&高ですな!」

「それでは紹介状を用意するので、それを持って直接お屋敷へと向かってもらいます。時間もまだ早いので問題ないかと!」

「承知致しましたぞ!」
 豊はシェルジュから紹介状を作ってもらい、発行を待っている間、たまたま座ったイスを自重で破壊し、異世界生活初日から借金を作る羽目になってしまった。

「おうふっ……! 先が思いやられますぞ……」
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