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救済の旅
24.これからに繋がる決断
しおりを挟む豊達は、事の発端であるゲッゲーロを縄でぐるぐる巻きに拘束して
リレイン村へと連れて帰った。
水害の原因が、ゲッゲーロによる水魔術だと知った村人は怒りを露わにし
報復のためにゲッゲーロの身柄を渡すよう、豊に進言した。
「今回ゲッゲーロを連れてきたのは、村の皆に報復をさせる為ではありません」
豊の放った言葉に、家屋と畑を失った村人は声を荒げて抗議をした。
「ふざけるな!」「俺らの家が無くなったんだ!」「亡くなった人も居るんだぞ!」「報復だ! 許せるものか!」「吊るせ! 殺せ!」
中でも混乱が大きかったのは、激流に飲まれ亡くなった男性の妻だった。
「返して! 夫を返してぇ! 雨が降らなければ夫は死なずに済んだのに!」
「奥さん、お気持ち痛い程お察しします。どうか、この場は一度、落ち着いてください。この話は村。ひいてはあなたの未来にも通じる話です」
「ユタカ様にはわからない! 夫を亡くした私の気持ちが! 家族を失った人たちの気持ちが! 分からない! だからそんなに冷静でいられるんだ!」
「やめるんだ! 奥さん! ユタカ様がこの村に! 俺たちにどれだけの恩義をかけてくださったと思ってるんだ!」
「離して! そのカエルを殺させて! 誰か殺して! あいつを殺してっ!」
今にも食って掛かりそうな女性を村人たちで押さえつける。それでも彼女は止まらない。正論で人は止まらない。人間は感情で生きる生き物なのだから。
「どうか、私の話をお聞きください……!」
豊は静かだが、重みのある言葉で村人を一旦黙らせた。この村のために私財を投じ、命までかけて戦ってくれた痣だらけの恩人に対して、強く当たる村人はいなかった。それを超えてしまえば、人間としての尊厳を失う浅ましい行為となるからだ。
「夫を返して……! 返してよ……!」
女性はその場で崩れ落ち、村人たちによって運び出された。
「私が彼をこの村に連れてきたのは、自分のした事を理解させ、未来に繋がる補償をさせる為です」
豊の言葉に、村人の一人が訴える。
「自然の所為なら、仕方ないと諦めもつく。だが、今回の水害は魔術を以てして、意図的に行われた事だ。財産と家族を失った人の怒りは、どうしたらいいんだ……!」
「もし彼に報復をすれば、気は多少晴れるやもしれません。しかし、後に残るのものは何もありません」
村人達は拳を握りしめ、口を噤む。この小さなカエルを殺したところで失ったものは帰ってくる訳でもない。ましてや死人が生き返るわけでもない。
「ならば、彼の魔術師としての力を最大限に発揮し、この村の復旧に役立てるべきであると、私は考えています。彼の水魔術があれば、ある程度の天候の操作、水不足の解消、自然災害の対策、水質の改善など、様々な利益が望めます。本来、魔術師は各国々が多額の資金を積む事で雇用する人材です。失われた資産等を貨幣に換算し、その金額分、彼に働いてもらうつもりです」
人は理によって本能を抑えることが出来る。実利があれば尚更、ゲッゲーロを生かして利用した方が復興は早まり、村の財政は豊かになるのは目に見えている。
「確かに良い考えだ。魔術師の力があれば、村の修復も早く手が付けられる。損害が補填されるなら殺すよりもいいに決まっている。俺たちが手を汚す事もない」
豊の言葉に、納得を示す村人も現れる。
「家屋や畑の損害や家族の死、その失ったものは決して返ってきません、しかし、補償という形ならば、それらを失った方々に対して、未来の不安を取り除いてあげる事ができます。私も、この村が安定するまで力を尽くします。どうか、村の皆には私の提案を受け入れていただきたいです……」
豊は村人達に深く、頭を下げた。
『……えっ⁉』
「頭を上げてくれユタカ様! 俺たちをろくでなしにしないでくれ!」
「恩人にそこまでされたら、俺たちの立場がなくなっちまう!」
ゲッゲーロは、それを見て、呆然と立ち尽くしている。
自分の為に、豊が頭を下げたという事実に驚きを隠せなかった。
先程の戦闘で傷ついた体は完全に癒えておらず、痛々しい痣が全身に残っている。そんな人物が加害者の為に頭を下げている。この場では誰もが口を噤んだ。
決断は水害で家族を失った村人に委ねられた。
その村人は時間が欲しいと言い、今日の話し合いは終わった。
『ゲロ……』
拘束され、村人の敵意に晒されたゲッゲーロは
村の空き家に閉じ込められ、肩を落とし、ぐったりとしていた。
「きっと村人達は良い決断をしてくれるはずだ、納得はいかないだろうがな」
『ダメゲロ……。きっと、オレ様は殺されるゲロ……。ユタカに負けたから仕方ないゲロ……。この世は弱肉強食……親父殿も、お爺様も、そう言って死んだゲロ』
豊は、ゲッゲーロの前に一皿のスープを置いた
「お前のぶんの飯だ、僕が拵えた。口に合うかは分からないがね」
拘束を解かれたゲッゲーロは、
最後の食事と覚悟し、野菜のスープを啜った。
『ッッ⁉』
ゲッゲーロは、スープを貪る様に、勢いよく食べ始めた。
生まれて初めて食べた料理の味は、筆舌に尽くし難く
彼の舌と頬を、旨味の濁流で麻痺させた。
良く煮込まれた野菜のエキスが、喉を通過して、胃に優しく染みわたる。
スープの適度な熱が身体を温め、食欲を際限なく増進させてゆく。
『美味いゲロ! なんだこれは? これはなんなんだゲロ⁉』
「この村で採れたアマイモをベースに作った野菜のスープだ、美味いだろう?」
『おかわりゲロ!』
「あぁ、腹いっぱい食え」
ゲッゲーロはその後、四杯の山盛りスープを平らげた。
『美味かったゲロ……生まれて初めて、お腹が張り裂けそうゲロ……』
「それは、お前が村人に失わせたもののひとつだ。家屋、畑、人、その野菜スープはそれらが存在したおかげで生まれた、大切な財産なんだ」
『ゲロ……!』
「野菜を生み出す畑、畑を作った人、受け継がれてきたレシピ、人を住まわす為の家。これらがあって、初めてこの村のスープは成立するんだ」
『オレ様……大変な事をしたゲロ……。いっぱい水で流れたゲロ……!』
「理解したかゲッゲーロ。自分のしでかした罪を……」
『オレ様……ニンゲンなんて、同種族で争いを起こし、自分勝手に自然を壊すだけで、価値のない存在だと教えられたゲロ……。でも、実際に会った奴等は全然違ったゲロ……オレ様……。もし、許してもらえるなら……。精いっぱい償うゲロ……』
「……そうか……」
『そんで、またスープ食べたいゲロ』
「大丈夫さ、きっとまた食べられる」
豊はゲッゲーロと会話し、関りを持つことで印象に変化があった。
彼の精神は、実に幼かった。
魔術で大雨を降らせ、多くの人を苦しめ、死に追いやった事実に
殺意を向けられるまで、まるで自覚が無かった事。
自分の行いで、他人が死ぬという想像力の欠落。
幼い頃に家族を亡くした事で失った、思いやる心。
他者に咎められる事で、初めて己を顧み、得られる、善悪の判断。
雨の森にひとり生き続けた、閉鎖的な彼の生き方。
豊は、打算的な気持ちから彼を救おうとしたが、
今では別の意味合いでも、彼を救いたいと思える様になった。
次の日の朝、豊の下に村の皆がやってきた。
ゲッゲーロを許し、償いが終わるその日まで
村の一員として、責任を持つとの事。
皆の前で、魔術師の契りを交わす。
【村の補償が済むまで精いっぱい魔術師としての責務を果たす】
補償額は家屋、畑
ギルダム銀貨、千二百枚
農作物
ギルダム銀貨、千五百枚
亡くなった家族への補償
ギルダム銀貨、千五百枚
優秀な魔術師ならば、三、四年で返せる額だ
ゲッゲーロは決意も新たに、村への補償を始める――
――豊達も村の復興の為に、二ヶ月間滞在した。
その間、豊の指示で、ゲッゲーロによる川の幅と深さ調整。
村に水路を作り、生活用水の安定した供給
排水をろ過する魔術装置の開発などが行われた。
滞在中は豊が食事を仕切り、皆が復興に全力を尽くせるようにした。
その甲斐あって、畑も村も見事に蘇った。
【時を駆ける創造】により物資の補充がされ、高床式の家屋が作られ
川の前には、切り出した石造りの新しい堤防も完成した。
以前よりも立派な村へと生まれ変わり
畑での収穫も、比べ物にならない程に成果が出ている。
豊は時間をかけて、残された遺族のケアをし
復興が落ち着いてから改めて葬儀を行って
気持ちの整理をつける様に手助けをしたのである。
【アンデッド化を防ぐ目的で催される】実害を回避する目的のせいで、本来あるべき死者を敬う、弔うという気持ちは薄れつつあった。特に人が複数同時に亡くなった場合、形式も簡略化され、同時に焼かれることも多々ある。
「今回は私がひとりひとりの棺桶を用意しました。これで骨が分からなくなることはありません。ご遺体にも出来る限りの化粧を施しました。皆さん、最後にお別れの言葉をかけてあげてください」
「お父ちゃん~!」「爺さん……!」
今回の水害で亡くなったのは十三人。その大半が家族を守る為、死の間際まで水害を食い止めようと戦った男衆。その家族が祈りを捧げている。
この地には神を信仰するという教えはない。代わりに土地の精霊に祈りを捧げるのが通例となっており、その後、棺桶の下に用意された燃料に火が投下される。
泥炭を混ぜた燃料に勢いよく炎が纏わりつく。
村長が燃え盛る炎の前で祈りの言葉を唱えた。
「精霊よ……死へと旅立つ者へ光の道をお示しください……」
村長に続き、人々も唱える。
ある程度時間は掛かったが、死者すべてに棺桶を行き渡らせたことで体裁が保てた。
アンデッド化を防ぐ為という目的だけでは人々の心に整理はつかない。
豊は【葬式】という催しを死者との別れの儀として、改めて人々に認識させた。
「人が亡くなった時に後悔が生まれるのは、志半ばで亡くなったことが一番にある。まだ出来ることはあった。無限に未来があったはずだ。その後悔が人の心を深く傷つける。それを乗り越えるには自分に折り合いをつける儀式をするしかない。それが人間の葬式なんだと僕は思う。時間は掛かると思うけど残された人はいつか気持ちに整理がついて、前を向くことが出来る。そう考えたいんだ」
「ごしゅじんさま……」
ロシィは黙って主人の袖を掴んだ。
豊は父の葬式を思い出していた。飛行機事故で遺体は発見されていない。
彼は未だ、正式な形で父との別れを成してはいない。だからこそ、リレイン村の人々には愛した人たちとの別れに妥協をしてほしくなかった。
葬式を終え、人々は村の復興を喜び、ひとつの区切りとして盛大な宴が開かれた。
復興作業を通して、いつしかゲッゲーロは人々との理解を深め、少し村に馴染むことができた。互いにまだ、溝は深いが打ち解け始めている。
この様子ならばと豊は安堵し、人々の為に料理を作るのであった。
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