いじめられっ子の異世界転移

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怨嗟

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阿佐美は森の中に走って消えていった。

よかった。

阿佐美と壮太だけでも守ることができて。

「ドラゴンが動かないのも先生の力ですか?」

「よくわかりましたね」

隠してる様子もないのだから何となくわかるだろう。

「大技を放った後の硬直を狙ったから決まったような術ですがもうすぐ限界が来ますよ」

そう言っている間にも赤黒かった肌から生気までもが失われていっている。

相当無理をしているのだろう。

「私たちのためにありがとうございます。」

「先生ありがとうございます。」

私たち夫婦は先生に心から感謝した。

先生は確かに王様から監視や粛清の指示を受けているだろう。

だがそれにも無理に従っているのがわかる。

なにか従わなくてはならない理由があったのだろう。

それを聞くのは野暮なことだが。

先生は私たちにできるだけ自由をくれようとしていた。

おそらくだが先生は何回か私たちのために王様の意に背いてくれていた気がする。

「いいのですよ。王室に勤めた私の半生よりも楽しい1年間を過ごさせてもらいました」

先生は満足げな顔をしていた。

もう先生は動かなくなっていた。

ドラゴンが動き出す音が聞こえる。

だがもうそちらを向くことさえできない。

いや俺が最後に見る相手は決まっているのだ。

「母さん、いや久美、俺はお前をといれて幸せだった。今までありがとう」

「私の方こそ、私に愛を家族をくれてありがとう。本当に幸せだったわ。ずっと愛してるわ進さん」

二人は炎の海に飲み込まれてた。







私は走り力尽きたところで意識を失った。

どれくらい意識を失っていたのだろうか。

辺りは暗くなっていた。

手に伝わる感触は土と石だ。

上を見ると天井もある。

ここは洞窟の中みたいだ。

森の中で倒れたはずだから壮太が運んでくれたのだろう。

近くに壮太の姿はない。

どこにいるのだろう。

そう心配していると私の気配に気づいたのだろう。

洞窟の入り口から壮太こちらに向かってきた。

よかった無事で。

きっと魔物がいないか見張りをしてくれてたのだろう。

「ねぇーちゃーん!よかった。目が覚めなかったらどうしようかと……」

泣きながら私に抱き着いてきた。

そっと私も抱きかえす。

「壮太ぁよかった。」

涙があふれる。

壮太を見ると安心とともにパパもママもいないんだと実感がわいてくる。

そして先生も。

それは壮太も同じなのだろう。

そのまま二人はずっと泣いていた。




気が付くと朝になって目が覚める。

あのまま寝てしまっていたようだ。

だか私にはまだ壮太に伝えないといけないことがある。

私が起きた気配で壮太も目が覚めたのだろう。

上体を起こしている。

「壮太に伝えないといけないことがある。三人の最後を」

私は壮太に伝えた。

先生のことをパパとママの最後を。

壮太は涙をこらえながら話を聞いていた。

「そっか。先生が……僕もねぇちゃんに言わないといけないことがあるんだ。」

何を言おうとしているのかは何となくわかる。

あの時私の身に起きたことだろう。

あれは明らかに壮太のスキルであるからだ。

スキルを使い、私と私の後ろにいたママの位置を入れ替えたのだろう。

だがその前に私は謝らなくてはならない。

たとえこれから先壮太に軽蔑されようとも。

「壮太、先にお姉ちゃん謝らなきゃいけないことがあるんだ。」

壮太は真剣な面持ちでこちらを見ている。

「パパやママ、壮太がこの世界に来ちゃったのは私のせいなんだ。」

「王様が私たちを召喚した日こう言ってたんだ本来は一人の予定だったって。私召喚されるときに怖くなってとっさにパパとママ、壮太のこと呼んじゃったの。きっと私のスキルで皆もこっち世界連れて来ちゃったの。謝って済むことではないけど本当にごめんなさい」

ずっと言えなかったことを告白した。

皆から非難されることが怖かった軽蔑されることが怖かった。

だから言えなかった。

だけどもうちゃんと言わなくちゃダメなんだ。

たとえ壮太が私の元離れても壮太だけでも元の世界に返すんだ。

壮太が重い口を開いた。

「知ってたよパパもママもそれから僕も姉ちゃんのスキルを聞いた時から。それに僕たちの気持ちは一緒だったよ。姉ちゃん一人でこんな世界に行かせなくてよかったって」

涙が出そうになる。

でも耐えないとみんなの優しさに甘えちゃだめだから。

「ねぇちゃんいつも責任感じて一番危険な役ばっか買っていつか危険になるじゃないかって話してたんだ。でも母さんがねぇちゃんが自分から言ってくれるのを持とうって私たちがいくら許しても姉ちゃんはそれを受け取らないからって。だからもしねぇちゃんが危険になったら母さんとねぇちゃんを入れ替えろって。ごめんなさい。」

壮太が申し訳なさそうにしている。

壮太も間接的にママを死なせてしまったと罪悪感を感じているのだろう。

私は馬鹿だ。

もっと早く皆に話していれば。

壮太にこんなことをさせないで済んだかもしれないのに。

「壮太ごめんね、辛かったね。助けてくれてありがとう。」

罪悪感に押しつぶされ、限界が近かったのだろう。

壮太は泣いていた。

私はそっと壮太を抱き寄せた。

壮太が落ち着くまで。




私は王国に戻った。

壮太を宿に預け私は王様のいる屋敷へ向かった。

私たちを元の世界に返してもらうために。

私が王様に差しだせるものは魔王の城の正確な位置そして、門番の情報だ。

それでもダメなら王様以外に召喚が行えるものを探すしかない。

幸い今はあの時とは違う言葉も少しはわかるし魔物に怯える必要もないしお金もまだある。

何とかなるはずだ。

王様のいる部屋の前までついた。

扉に手を掛け、手に力を込める。

王座あの王様が座っている。

その周りには数人が居る。

私は王様の前まで行き膝をつく。

「この度は魔王討伐の旅について報告に参りました。」

私は王族に対する礼儀も言葉もしらない。

私ができる最大限の礼節で話すしかない。

そこでは私は王様に話した。

今まで相対してきた魔族のことを。

そして先生と私の両親の死を。

ただ魔王の城の正確な位置と門番の情報を伏せて。

「王様。誠に恐縮ながら申し上げさせていただきます。魔王の城と門番の情報と交換で私たち姉弟を元の世界に返してもらえないでしょうか」

お願い。

どうか認めて。

私たちが帰ることを。

この情報だけでも膨大な価値があるはず。

「それには及ばん。その情報は当の昔から持っておる。そなたら姉弟にはまた魔王討伐にむかってもらう。」

こいつは何を言っているのだあの情報を持っていただって。

その情報さえあればあんなことにはならなかったかもしれないのに。

「な…なぜその情報私たちに教えてくださらなかったのですか?そうすればあなたも大切な臣下を失わなかったかもしれないのですよ?」

「そんなもの自分で見つければよいであろう。それに私に臣下はたくさんいる。問題なかろう」

こいつは先生を替えのきくおもちゃぐらいにしか思っていなのか。

人の命を私たちの命を何だと思っているんだ。

怒りで頭がはちきれそうだ。

こいつはもう殺さなくてはダメだ。

もしここで逃げたところでこいつは地の果てまで追いかけ私たちをまた戦場へ引き戻すだろう。

それこそ私たちが死ぬまで。

だが理屈以上に今、私はこいつを許容することができない。

私はそっと短剣に手を掛けた。

この技は本来魔王に使う予定だった。

しかし王様にも使える。

いつの間にか私の中にあったパパとママの力を使えば。

――スキル 『誠心誠意』『開口一番』――

「「一歩もうごくな」」

私が思い描いた言葉を王様の口から放たれた。

王様の言葉を信じ誰も動くことをしない。

その一瞬で王様まで距離を詰め首を切り落とした。

首から血が吹き出し返り血を浴びる。

当然の報いだ。

これが初見殺しの技だ。

『開口一番』でしゃべらされると一瞬意識が飛ぶ。

それを知っている私たちですら0.5秒は意識が飛んでしまう。

知らない者からしたら我に返るのに1秒はかかるだろう。

戦闘に長けていないものなら2秒は期待できる。

その間、相手は完全に無防備なのだ。

ただ私たちの言葉を知っていなければいけないわけだが王様は問題ない。

そして魔王も日本語を話したことがあるという情報があったのだ。

今はそんなんことはどうでもいい。

早く逃げて壮太とここから発たなくては。

逃げようとしたその時、目を疑う光景が繰り広げられた。

落としたはずの頭が宙を浮き王様の首とつながったのだ。

何だこれは。

最上級の回復魔術でもこんなことはできない死者をよみがえらせることはできないはずだ。

何が起きているんだ。

飛び散ったはずの血も王様に戻っていく。

私にかかった血も短剣についていた血も。

さっき落ちていた王冠までもが……

これではまるで王様のまわりだけ時間が巻き戻っているようではないか。

もしそうなら王様を殺すことなど不可能……。

「気は済んだか?」

また怒りが噴き出す。

だが私が王様に刃を切りつける前に衛兵達に取り押さえられる。

クソっ!暴れてもびくともしない大人数人に押さえつけられたら動くこともままならない。

私もここまでか…ごめんねパパ、ママ、壮太。

私が時間内に戻らなかったら壮太は隣町まで行き助けを呼ぶてはずになっている。

隣町にいってる頃には私は処刑されそれは壮太の耳にもはいるだろう。

そのまま逃げて壮太は生きて。

「安心しろ。そなたは殺さん。召喚の儀を行いそなたにはより多くの者をこちらに呼んでもらわなくてはならんからな。」

「誰があんたのいうことなんか聞くか」

地面に押さえつけれながらも王様をにらみつける。

せめてもの抵抗だ。

壮太さえ生きていてくれたらそれでいい。

死ぬ前に少しでもこいつに思い知らせてやる。

なんでも思い通りに行くと思うなよ。

「連れてこい。」

王様がドアに向かって手招きをした。

衛兵に連れてこられた人物をみて背筋が凍った。

「壮太……」

この男はどこまでクズなんだ。

人の弱みに付け込み思い通りにしようとする。

この男に対しては怒りと殺意しか湧いてこない。

「そなたには元の世界に戻り新たなる転移者を20名以上連れてきてもらう。もし少なすぎたら。弟の命はないと思え」

王様の前に魔法陣が浮かび上がる。

私はその上に連れていかれた。

まばゆい光が私の体を包んでいく。

「壮太…必ず帰ってくるからまっててね」

壮太の顔も光で見えなくなった。






周りを見渡すとそこは私たち住んでいた家のリビングだった。

とうとう家に帰ってこれたのだ。

しかしここにはパパもママも壮太もいない。

胸が苦しく目頭が熱くなる。

泣いている場合じゃない。

まずは今がいつなのかを確認しなくては。

テレビをつけ日時を確認する。

私が転移してから一週間しかたっていないようだ。

そして今は7時ちょうど。

学校が8時半からだからまだ時間がある。

私のスキル『無理心中』自分が認識している相手を自分と同じ状況にする能力だ。

二十人以上も同時に認識するには知ってる人でないと難しいだろう。

確実性も上げようとしたら全員が私の視界に入っている状態にしないと。

そうなると条件に当てはまるのは私のクラスしかない。

それにあのクラスは碌な人間がいない。

いじめをするもの。

そのいじめに同調するもの。

それを見て自分はまだ上だと安心するもの。

そんな彼らと壮太じゃ比べるまでもない。

私は早々にクラスの全員を転移させることを決意した。

もし学校がない日に転移が始まったら申し訳ないが人通りが多いところで無作為に選ばしてもらうことになる。

たとえ恨まれても壮太の命には代えることはできない。

私は身支度を急いで済ませた。

いつ転移が始まるかわからないのだから。

今すぐ始まるかもしれないしはたまた一ヶ月後かもしれない。

常に人がいる状態にしなくては。

家から学校までは一時間近くかかる。

なかなかの距離だ。

急いで家を出て電車まで走った。

昔はこの道を憂鬱な気持ちで歩いていたのを思い出す。

毎日のいじめがつらかった。

でも今は何も怖いものはない。

地球に戻ってきて身体能力はなくなってしまったようだが問題ない。

私は壮太を守らなくていけないんだ。

それに高校生に負ける気がしない。

私の中には家族とともに戦ってきた経験があるんだから。

電車に乗り学校についた。

もう8時半だ急がなくては。

急いで向かうと同じく教室の入り口に向かう人影があった。

確かあの人は小田環だ。

私と同じくいじめられっ子の人だ。

そうだ私はクラスではいじめられっ子なのだ。

内気でおどおどした子にしないと。

昔思い出しながら下を俯いていると。

小田君がずっとこっちを見つめている。

なんだろう何かいいたいのだろうか。

そういえば戦闘に邪魔だったから髪の毛を切っていた。

それで髪についてなにかいいたいのかな。

私がしようとしていることが髪の毛の変化でバレることはないだろうけど少し警戒してしまう。

しかしずっともじもじして何も言わない。

ちょっと腹が立ってくる。

言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。

いや。私も昔は同じだったか。

思いにふけっていると小田君が口を開いた。

「柴崎さんあ……おはよう」

「……おはようございます。」

びっくりして言葉がすぐにでなかった。

ただ挨拶をしたかっただけだったのか。

何を言われるのか警戒していた分予想外で少し言葉が遅れた。

いや、むしろ好都合だったかもしれない。

学校ではこんな感じだったしこの方が自然だろう。

教室に入り席に着いた幸い私は一番後ろの端の席だ。

クラス全体が見渡せる位置である。

そのあとすぐに担任の先生も来て点呼が始まった。

私は考えていた。

またあの世界に戻った後のことだ。

壮太の無事を確認したら逃げよう。

この人数の人が転移するんだ。

対応に追われきっと隙ができるはずだ。

できなかったら軽く噂でもながして混乱させよう。

皆何かしらの能力を手に入れるわけだから王様もクラスメイトを無視できないだろう。

そしたら、逃げてどこかの田舎町で暮らそう流石にあの王様を説得するのは無理だろう。

言葉を覚えてあの世界ので暮らしていこうそれに暮らしているうちに王様以外に召喚ができる人もいるかも知れない。

よしそうしよう!

気付いたら点呼も終わっていた。

その瞬間目の前に強烈な光が現れた。

本当にこんなに早く来るなんて。

私は急いでスキルを発動しクラス全員を思い浮かべた。




目を開けるとそこはまたあの世界だ。

目の前にはあの王様もいる。

あの顔見るとどうしても怒りがおさまらない。

だがここで暴れたところで何の意味もない。

今は耐えるんだ。

そうしていると王様の話は終わり私たちは部屋に案内された。

こっそり抜け出し王様の元へ向かう。

そしてまた私はあの玉座の前にいる。

「転移者を連れてきた。早く壮太にあわせて」

暴言を吐きそうになる気持ちを抑えて王様に言った。

「ああ、そうだったな。忘れておった。」

いちいち感に触るやつだ。

忘れるほど時間もたっていないだろう。

違うのかこちらとあっちでは時間の流れが違うみたいだしそこそこ経っているのかもしれない。

それでも私との約束を忘れるとはどういうことだ。

「ほれ、これが鍵だ。すきなようにせい。」

ふんっ

言われなくてもそうするわ。

鍵を受け取りすぐに部屋を出た。

早く壮太を急いで迎えにいかなくちゃ。こっちではどれくらい時間がたっていたのかわからない。

壮太は待ちくたびれているかもしれない。

これは地下室の鍵だったはずだ。

壮太を地下室なんか閉じ込めていたのかあの男は。

また怒りがわいてくる。

だが今は壮太だ。

早く壮太に会いたい。

地下室の扉の前まできて鍵をあけ地下に降りて行く。

明かりはついているようだ。

それでもまだ暗い。

前に来た時と変わった様子はない石畳でできた無駄に広い部屋だ。

奥に小さな光が見えた。

あれは壮太にあげたペンダントが反射しているのだろう。

よく見ると人影が壁に寄り掛かるようにして座っているのが見えた。

「壮太!お姉ちゃん戻ってきたよ!」

私はすぐさま駆け寄った。

「これからはずっと一緒だよ。私が守るからね。」

そう言い壮太を抱きしめる。

なぜだか軽い。

肌もカサカサしている。

体も冷たい。

どうしたのだろうか。

だんだんと薄暗さに慣れ壮太の姿も見えてきた。

体中が骨ばってやせこけそこに生気はなかった。

腕を触ろうとも首を触ろうとも脈が感じられない。

「うそだ!壮太!壮太!いや…いやあああ」

どんなに泣き叫ぼうと壮太は返事をしてくれなかった。

あいつは本当に壮太を忘れて放置して殺したんだ。



――殺してやる――



壮太は大事そうにペンダントを握りしめていた。

死んでもなおずっと。

私を待っていたんだ。

私が助けに来てくれると信じて。

壮太を横に寝かせペンダントを胸の上に置いた。

待っててね壮太一緒に地球に帰ろう。

でもその前に……

「あいつは、私が絶対に殺す。」

胸の上に置かれたペンダントが赤色に輝いてた。
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