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漆
それから5日ほど過ぎた。
千代女は相変わらず、手足を縛められたまま牢屋の中に転がされている。
木馬責めを受けてからしばらくは、這う事さえままならなかった。
しかし昨日あたりからは、下腿にも感覚が戻っている。
(だいぶ体力が戻って来た。という事は、そろそろ次の拷問か)
千代女は大きくため息をつく。
この休息が二階堂の慈悲などではなく、次の拷問のための準備であることは、わかっている。
次はどんな責めを受けるのかと思うと、背筋に冷たい汗が流れた。
(何を考えている、千代女、気をしっかり持て! お前は最後まで耐え抜くと、神君家康公に誓ったではないか)
暗い拷問蔵の牢の中で、千代女は己を叱咤する。
そして唇を噛み締めると、まだ股間の痛みと全身の笞跡が残る体をくねらせ、粗末な食事に口をつけた。
千代女への拷問が再開されたのは、翌日のことであった。
拷問蔵に引き出された千代女に対して、二階堂は何一つ詰問せず、ただ責めの用意だけを始める。
(もはや私の自白に興味はない、という事か)
二階堂や侍たちにとって、もはや拷問は手段ではなく目的になっているのだろう。
千代女はそう思った。
(ならば私はいったい、何のために拷問に耐えているのだ?)
美貌を悲痛で曇らせた千代女の上体が縛められ、両腕を背中で括られる。
両足首も縄で括られ、背中で手首と共に縛られた。
「よし、上げよ!」
滑車により千代女の身体が逆海老に反った状態で高々と吊り上げられる。
腕に肩に、そして足首に縄が食い込む。
一本の縄で吊られた千代女の身体がゆるやかに回り、周りを囲む二階堂と侍たちの姿が見えた。
「石を乗せい」
二階堂が命じると、侍が一抱えもある重石を持ってきた。
それが千代女の背中に乗せられ、縄で身体に縛り付けられる。
「ぐ、ぐうっ!」
背骨が折れるほどの痛みを感じた。
同時に、縛められた縄がさらに身体に食い込んだ。
四肢の関節も悲鳴をあげる。
二階堂が箒尻を手にし、千代女の胸を小突いた。
「や、やめっ、きゃぁぁぁっ!」
身体を少し揺すられるだけで、四肢がバラバラにされるような激痛が走る。
脂汗がじっとりと吹き出してきた。
胸に掛けられた縄が食い込み、やけに息苦しい。
そんな千代女の反応を面白がるように、侍たちは千代女の胸や太腿を小突き回す。
「どうじゃ、駿河問いの味は、ぶらぶらと揺らされる所が面白かろう?」
そう言うと二階堂は侍たちに目配せした。
吊るされた千代女の体が、ぐるぐると時計回りに回される。
(いったい、どうする気)
五回転、十回転と千代女を吊るす縄がよじれ、身体の位置も高くなる。
やがて縄の限界まで捻られ、侍が手を止めた。
これから自分の身に何が起きるのか、千代女はようやく悟ることができた。
「回せっ!」
二階堂の声とともに、侍が手を離す。
捻られた縄がゆるりと逆に回り始め、徐々に速さを増していく。
「きゃっ、きゃぁぁぁぁぁっ!」
若い女の悲声が拷問蔵に響き渡る。
千代女の身体は独楽のように回っていた。
長い髪が振り乱され、汗が飛び散り、涙と涎が顔を汚す。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
回転が止まっても、千代女は激しく息をついていた。
縄をきつく戒める縄、そして海老反りにされた関節、全ての苦痛が容赦なく全身を責め立てる。
中でもきついのは、頭の中をぐわんぐわんと揺さぶる激しい眩暈だ。
あまりの不快感に、思考さえできない。
「よし、今度は逆方向へ回せ」
二階堂の命令に、千代女は美貌を蒼に染める。。
再び縄が限界まで捻られ、千代女の体が勢いよく回される。
「い、いやぁぁぁっ!」
回転が終わる頃には、千代女の忍び装束はぐっしょりと濡れていた。
決して暑くは無いのに、全身から噴き出す汗が止まらない。
頭が重く、割れるように痛む。
「強情な娘よ、まだ吐く気にならんか?」
本日初めての尋問が二階堂から投げかけられる。
千代女が首を振ると同時に、激しく肩を打たれた。
「うあッ!」
さらにもう一発、二発。
数え切れぬほど受けてきた笞であったが、逆海老反りの姿勢で受けるものは格別であった。
身体が粉砕されるような苦痛が千代女を襲う。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
激しく息をつくたびに身体が揺れ、縄が体に食い込んでいく。
その苦痛で視界がゆるりと回り、眩暈を感じた。
「ほれっ、吐けっ、吐けっ!」
二階堂は千代女の乳房を責め立てた。
情け容赦無い打擲が、続けざまに襲い来る。
「きゃぁっ! ぐうっ! ひぎっ! ああっ!」
肩を、胸を、そして下腿をも笞打たれた。
口から泡を吹きながら、千代女は悶え苦しむ。
何十回、身体に笞を受けただろう。
悲声はやがて呻きに変わり、最後には何の反応もみせなくなった。
この日も千代女は拷問に耐えきった。
拷問は半年ほど続いたが、美しいくの一はどんな激しい責めにも屈服しなかった。
千代女は神君への誓いを守り、徳川への忠義を死ぬまで貫き通した。
千代女は相変わらず、手足を縛められたまま牢屋の中に転がされている。
木馬責めを受けてからしばらくは、這う事さえままならなかった。
しかし昨日あたりからは、下腿にも感覚が戻っている。
(だいぶ体力が戻って来た。という事は、そろそろ次の拷問か)
千代女は大きくため息をつく。
この休息が二階堂の慈悲などではなく、次の拷問のための準備であることは、わかっている。
次はどんな責めを受けるのかと思うと、背筋に冷たい汗が流れた。
(何を考えている、千代女、気をしっかり持て! お前は最後まで耐え抜くと、神君家康公に誓ったではないか)
暗い拷問蔵の牢の中で、千代女は己を叱咤する。
そして唇を噛み締めると、まだ股間の痛みと全身の笞跡が残る体をくねらせ、粗末な食事に口をつけた。
千代女への拷問が再開されたのは、翌日のことであった。
拷問蔵に引き出された千代女に対して、二階堂は何一つ詰問せず、ただ責めの用意だけを始める。
(もはや私の自白に興味はない、という事か)
二階堂や侍たちにとって、もはや拷問は手段ではなく目的になっているのだろう。
千代女はそう思った。
(ならば私はいったい、何のために拷問に耐えているのだ?)
美貌を悲痛で曇らせた千代女の上体が縛められ、両腕を背中で括られる。
両足首も縄で括られ、背中で手首と共に縛られた。
「よし、上げよ!」
滑車により千代女の身体が逆海老に反った状態で高々と吊り上げられる。
腕に肩に、そして足首に縄が食い込む。
一本の縄で吊られた千代女の身体がゆるやかに回り、周りを囲む二階堂と侍たちの姿が見えた。
「石を乗せい」
二階堂が命じると、侍が一抱えもある重石を持ってきた。
それが千代女の背中に乗せられ、縄で身体に縛り付けられる。
「ぐ、ぐうっ!」
背骨が折れるほどの痛みを感じた。
同時に、縛められた縄がさらに身体に食い込んだ。
四肢の関節も悲鳴をあげる。
二階堂が箒尻を手にし、千代女の胸を小突いた。
「や、やめっ、きゃぁぁぁっ!」
身体を少し揺すられるだけで、四肢がバラバラにされるような激痛が走る。
脂汗がじっとりと吹き出してきた。
胸に掛けられた縄が食い込み、やけに息苦しい。
そんな千代女の反応を面白がるように、侍たちは千代女の胸や太腿を小突き回す。
「どうじゃ、駿河問いの味は、ぶらぶらと揺らされる所が面白かろう?」
そう言うと二階堂は侍たちに目配せした。
吊るされた千代女の体が、ぐるぐると時計回りに回される。
(いったい、どうする気)
五回転、十回転と千代女を吊るす縄がよじれ、身体の位置も高くなる。
やがて縄の限界まで捻られ、侍が手を止めた。
これから自分の身に何が起きるのか、千代女はようやく悟ることができた。
「回せっ!」
二階堂の声とともに、侍が手を離す。
捻られた縄がゆるりと逆に回り始め、徐々に速さを増していく。
「きゃっ、きゃぁぁぁぁぁっ!」
若い女の悲声が拷問蔵に響き渡る。
千代女の身体は独楽のように回っていた。
長い髪が振り乱され、汗が飛び散り、涙と涎が顔を汚す。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」
回転が止まっても、千代女は激しく息をついていた。
縄をきつく戒める縄、そして海老反りにされた関節、全ての苦痛が容赦なく全身を責め立てる。
中でもきついのは、頭の中をぐわんぐわんと揺さぶる激しい眩暈だ。
あまりの不快感に、思考さえできない。
「よし、今度は逆方向へ回せ」
二階堂の命令に、千代女は美貌を蒼に染める。。
再び縄が限界まで捻られ、千代女の体が勢いよく回される。
「い、いやぁぁぁっ!」
回転が終わる頃には、千代女の忍び装束はぐっしょりと濡れていた。
決して暑くは無いのに、全身から噴き出す汗が止まらない。
頭が重く、割れるように痛む。
「強情な娘よ、まだ吐く気にならんか?」
本日初めての尋問が二階堂から投げかけられる。
千代女が首を振ると同時に、激しく肩を打たれた。
「うあッ!」
さらにもう一発、二発。
数え切れぬほど受けてきた笞であったが、逆海老反りの姿勢で受けるものは格別であった。
身体が粉砕されるような苦痛が千代女を襲う。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
激しく息をつくたびに身体が揺れ、縄が体に食い込んでいく。
その苦痛で視界がゆるりと回り、眩暈を感じた。
「ほれっ、吐けっ、吐けっ!」
二階堂は千代女の乳房を責め立てた。
情け容赦無い打擲が、続けざまに襲い来る。
「きゃぁっ! ぐうっ! ひぎっ! ああっ!」
肩を、胸を、そして下腿をも笞打たれた。
口から泡を吹きながら、千代女は悶え苦しむ。
何十回、身体に笞を受けただろう。
悲声はやがて呻きに変わり、最後には何の反応もみせなくなった。
この日も千代女は拷問に耐えきった。
拷問は半年ほど続いたが、美しいくの一はどんな激しい責めにも屈服しなかった。
千代女は神君への誓いを守り、徳川への忠義を死ぬまで貫き通した。
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