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文車妖妃(ふぐるまようひ)の涙
過去・下
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2人は集めた情報を確認するため、箕面の阪急駅前にバスで戻ってきた。そして駅前にあるカフェに入る。純喫茶風の居心地よさそうな店内のテーブルに着くと、珈琲とパンケーキを頼んだ。櫻子がボースレコーダーを確認している間、篠原は笹部が送ってきてくれただろうメールを確認していた。
「いいわね、篠原君良い情報を手に入れたわ」
櫻子は確認したボイスレコーダーを彼に返しながら、小さく頷いた。
「それと、笹部さんに確認してメール送って貰いました。美晴さんは、22歳の時――7年前ですね、聖マリアンヌ学園女子高等部に教育実習に行っています。彼女も、この学校出身との事です」
運ばれてきた珈琲を櫻子に渡しながら、篠原は言葉を続ける。
「そうね、大体地元の学校に進めば、母校に行くと聞いた気がするわ」
「そして、璃子さんは当時高校1年生でここに通っていました」
璃子と美晴の繋がりが、確実に確認できた。
「篠原君、写真は見た?」
それは、写真立てを起こそうとした篠原に美晴が声を上げた時の事だろう。
「勿論。ご存じかと思いますが、視力は両眼とも1.8です――結婚式の写真と、制服姿の璃子さんでした」
「――興味ない、は嘘だったのね…作品が璃子さんの面影になる程、美晴さんは璃子さんを意識しているわ。あ、鈴木君からメールが来てるわね」
梶の恋人が自殺した時に巻き添えになった少女の両親の、羽場が殺された時のアリバイの報告だろう。スマホを見た櫻子は、珈琲カップを片手に画面を確認する。
「経営している古民家カフェに、2組予約が入ってたみたいね。宿泊した2組から確認取ったけど、間違いなく横浜にいたわ。彼らは除外して大丈夫でしょうね」
「そう言えば、また一条課長宛てに花が届いたそうです」
「紅葉天ぷら買わなきゃ…」と思い出しながら呟いた篠原の言葉に、櫻子は片方の眉を上げた。
「笹部君に、花とメッセージカードを写真に撮って送って貰って」
続いて運ばれてきたパンケーキにフォークとナイフを刺して、櫻子はため息混じりに篠原に頼んだ。
「あの…桐生って…何者なんですか?」
篠原は笹部にメールを送りながら、兵庫県の赤穂市の水耕栽培工場地下で出会った、公安に監視されている男を思い出して背筋が寒くなった。
「多分、日本で最悪で最高のサイコパスよ。あんなにも知性の高い殺人鬼を、私は他に知らないわ――感情があるようで、でも共感能力がない。著しく自分勝手で、全て彼なりのストーリーで動いているの。私が警察官になったのも、彼が指示したから」
ナイフとフォークを動かす手を止め、櫻子の視線はどこか遠くを見ていた。
「一条課長と桐生は、どういう関係なんですか…?」
篠原の疑問は、尤もだろう。櫻子は、穏やかな笑みを浮かべる桐生を思い出して瞳を伏せた。
「私の母に執着していて、父を殺した男よ。他に、何人も殺しているし、少年院や刑務所からも何度も逃亡したわ。私が警察官になってから、あの地下に収監されているわ…大人しく、何年も」
「少年院!?未成年の頃から、犯罪を犯していたんですか?」
警察と公安が、最も危険な人物として監視している『桐生蒼馬』。他人に興味がない筈のサイコパスが、何故櫻子の母――菫に執着するのか。
「最初は、ウサギや猫、犬を殺して幼児を手にかけた――そして、実の父も刺した。現参議院議員の桐生斗真の息子よ。母親は自殺、妹の繭は、精神を病んで病院にいるわ」
桐生の素性に、篠原は息を飲んだ。そしてさらに詳しく聞こうとした時、篠原のスマホにメールが届く音が聞こえた。
「一条課長…これです」
篠原はスマホを確認して、櫻子に渡した。
「紫のクロッカス…メッセージカードは…『人物は多いけど、「肝心の考察」を忘れずに!』…?」
「手書きですね」
メッセージカードは、桐生のものだろう機械的な文字だった。特徴のない、素っ気ない文字だ。だからこそ、書き方を変えれば筆跡鑑定は難しいだろう。
「篠原君、珈琲が冷めるわよ」
櫻子が促すと、篠原は携帯を返して貰いポケットに直して、珈琲を一口飲んだ。そして、忘れていたことを口にした。
「そうだ、笹部さんが『貴婦人倶楽部』をハッキングして、『黒い未亡人』のIPアドレスを確認したそうです」
「どこからだったの?」
「書き込み全て、豊中のファストフード店のフリーWi-Fiだそうです」
そう言ってから、篠原はパンケーキを口に頬張った。美味しかったのか、笑みを浮かべている。
「これを食べ終わったら、羽場さんが亡くなったラブホテルのフロントにいた、アルバイトの人に話を聞かないと」
櫻子はそう呟いて、同じようにパンケーキを口にした。
「花言葉は、――『愛したことを後悔』ね…」
「いいわね、篠原君良い情報を手に入れたわ」
櫻子は確認したボイスレコーダーを彼に返しながら、小さく頷いた。
「それと、笹部さんに確認してメール送って貰いました。美晴さんは、22歳の時――7年前ですね、聖マリアンヌ学園女子高等部に教育実習に行っています。彼女も、この学校出身との事です」
運ばれてきた珈琲を櫻子に渡しながら、篠原は言葉を続ける。
「そうね、大体地元の学校に進めば、母校に行くと聞いた気がするわ」
「そして、璃子さんは当時高校1年生でここに通っていました」
璃子と美晴の繋がりが、確実に確認できた。
「篠原君、写真は見た?」
それは、写真立てを起こそうとした篠原に美晴が声を上げた時の事だろう。
「勿論。ご存じかと思いますが、視力は両眼とも1.8です――結婚式の写真と、制服姿の璃子さんでした」
「――興味ない、は嘘だったのね…作品が璃子さんの面影になる程、美晴さんは璃子さんを意識しているわ。あ、鈴木君からメールが来てるわね」
梶の恋人が自殺した時に巻き添えになった少女の両親の、羽場が殺された時のアリバイの報告だろう。スマホを見た櫻子は、珈琲カップを片手に画面を確認する。
「経営している古民家カフェに、2組予約が入ってたみたいね。宿泊した2組から確認取ったけど、間違いなく横浜にいたわ。彼らは除外して大丈夫でしょうね」
「そう言えば、また一条課長宛てに花が届いたそうです」
「紅葉天ぷら買わなきゃ…」と思い出しながら呟いた篠原の言葉に、櫻子は片方の眉を上げた。
「笹部君に、花とメッセージカードを写真に撮って送って貰って」
続いて運ばれてきたパンケーキにフォークとナイフを刺して、櫻子はため息混じりに篠原に頼んだ。
「あの…桐生って…何者なんですか?」
篠原は笹部にメールを送りながら、兵庫県の赤穂市の水耕栽培工場地下で出会った、公安に監視されている男を思い出して背筋が寒くなった。
「多分、日本で最悪で最高のサイコパスよ。あんなにも知性の高い殺人鬼を、私は他に知らないわ――感情があるようで、でも共感能力がない。著しく自分勝手で、全て彼なりのストーリーで動いているの。私が警察官になったのも、彼が指示したから」
ナイフとフォークを動かす手を止め、櫻子の視線はどこか遠くを見ていた。
「一条課長と桐生は、どういう関係なんですか…?」
篠原の疑問は、尤もだろう。櫻子は、穏やかな笑みを浮かべる桐生を思い出して瞳を伏せた。
「私の母に執着していて、父を殺した男よ。他に、何人も殺しているし、少年院や刑務所からも何度も逃亡したわ。私が警察官になってから、あの地下に収監されているわ…大人しく、何年も」
「少年院!?未成年の頃から、犯罪を犯していたんですか?」
警察と公安が、最も危険な人物として監視している『桐生蒼馬』。他人に興味がない筈のサイコパスが、何故櫻子の母――菫に執着するのか。
「最初は、ウサギや猫、犬を殺して幼児を手にかけた――そして、実の父も刺した。現参議院議員の桐生斗真の息子よ。母親は自殺、妹の繭は、精神を病んで病院にいるわ」
桐生の素性に、篠原は息を飲んだ。そしてさらに詳しく聞こうとした時、篠原のスマホにメールが届く音が聞こえた。
「一条課長…これです」
篠原はスマホを確認して、櫻子に渡した。
「紫のクロッカス…メッセージカードは…『人物は多いけど、「肝心の考察」を忘れずに!』…?」
「手書きですね」
メッセージカードは、桐生のものだろう機械的な文字だった。特徴のない、素っ気ない文字だ。だからこそ、書き方を変えれば筆跡鑑定は難しいだろう。
「篠原君、珈琲が冷めるわよ」
櫻子が促すと、篠原は携帯を返して貰いポケットに直して、珈琲を一口飲んだ。そして、忘れていたことを口にした。
「そうだ、笹部さんが『貴婦人倶楽部』をハッキングして、『黒い未亡人』のIPアドレスを確認したそうです」
「どこからだったの?」
「書き込み全て、豊中のファストフード店のフリーWi-Fiだそうです」
そう言ってから、篠原はパンケーキを口に頬張った。美味しかったのか、笑みを浮かべている。
「これを食べ終わったら、羽場さんが亡くなったラブホテルのフロントにいた、アルバイトの人に話を聞かないと」
櫻子はそう呟いて、同じようにパンケーキを口にした。
「花言葉は、――『愛したことを後悔』ね…」
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