信濃川左岸の恋

日立かぐ市

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「どうせ堀は毎日寝てたんでしょ?」

 冬休み明けの初日。二週間ぶりの再会に教室はいつもの朝よりも五月蝿いけど、自分の席で机につっぷす蒼のテンションはいつもの朝と変わらない。
 落ち着いているというか達観しているというか。体育で走った後も、教科書を忘れてもプリンを食べていても。小学校の時からそれは変わっていない。

「そう、毎日ゴロゴロしてた」

 冬休み、毎日ゴロゴロとして過ごすのは私も小学校から変わらない。だから蒼もよく知っている。

「やっぱり」
「でもナンパされた」
「はぁ!?」

 私の一言でテンションがあがったことが嬉しい。報告すべき冬休みの出来事ナンバーワンはやはりこれで間違いなかった。

「昨日なんだけどさ」
「え?ちょっと待って、ナンパ?堀がナンパされたってこと?」
「そう、万代橋の上で」
「ほんとうにナンパなの?宗教の勧誘とかじゃないの?」

 猫背の蒼の背筋が伸びて前のめりになっているし、早口になっている。

「ナンパされてコーヒー飲んだよ、おごってくれたから美味しいやつ。なんか古そうな喫茶店。あとケーキも。チーズケーキ美味しかったし今度行こうよ?」
「いやいやいやケーキとかどうでもいいからナンパの話し聞かせろよ」
「なに?嫉妬?もしかして嫉妬してる?それとも私だけ前に進んでしまって置いてかれた、みたいな?」

 蒼のこんなテンションは後にも先にもないかもしれないと思い、つい煽ってしまった。

「脳みそがツルツルだから心配しただけだし。だって、変な男とかいるでしょ。堀って突然ナゾの行動力発揮するから、チャラい男とか変な勧誘に連れて行かれちゃったんじゃないかって。それでどんな男なの?」
「男じゃないよ、女の子」
「え?ちょっと待って、女?女の子ってそれナンパじゃないじゃん」

 蒼の声のトーンも、伸びた背筋も目の輝きも一気に元に戻ってしまった。

「声かけたらナンパでしょ?ナンパじゃないの?ナンパって言ってたよ、望実ちゃんが」
「はあぁ」
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