メデューサの旅

きーぼー

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邪神モーロックの都

その34

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 魔牛兵と反ムスカル派との間の戦闘が続く王宮内の広場に地響きと共に乱入して来た伝説の魔獣たちはそこにいた市民や兵士たちを次々に襲い始めました。
王宮の壁際の目立たない場所に避難していた戦いには参加していない市民たちも例外ではありません。
逃げ惑う市民たちの集団にサラマンダーやバジリスクそしてオルトロスなど恐ろしい外見と力を持つ魔物たちが容赦なく襲い掛かります。
逃げ惑う市民たちの大半は戦う力を持たない女子供たちでした。
悲鳴を上げ泣き叫ぶしか抵抗するすべを持たない彼らに対して異形の魔物たちはその身に備わった鋭い爪や牙を無慈悲に振るいます。
おりしも手を繋いで逃げていた老夫婦を背後から二つの頭を持つ狼の魔獣オルトロスが追いかけておりその牙で二人をバラバラに引き裂こうとしていました。
必死に逃げていた老夫婦でしたが魔獣のスピードに敵うはずもなくついに力尽き二人で地面に倒れ込んでしまいます。
双頭の魔狼オルトロスは地面に倒れた彼らの眼前に迫り死を覚悟した二人はお互いの身体に手を回しギュッと抱き合います。
そしてオルトロスが地面で抱き合いながらうずくまるその老夫婦に飛びかかろうとした瞬間でした。
空中でオルトロスの動きが何故か急に止まりズシンという音を立ててその身体が地面に落ちました。
地面でうずくまり抱き合っている老夫婦が恐る恐る見るとその倒れているオルトロスの身体は生命のない石像と化していました。
その時、彼らの背後から自分たちに話しかけてくる声が聞こえました。

「大丈夫ですか?」

老夫婦が驚いて後ろを見上げると彼らは更に驚きました。
なぜなら彼らの背後にはマントをひるがえして杖を持つ目隠しをした奇妙な少年と髪の毛が蛇で出来ている恐ろしい外見の少女か立っていたからでした。

「メ、メデューサだっ!!伝説の怪物だーっ!!!」

老夫婦は腰が抜けていたのも忘れ手を取り合って脱兎のごとく二人の前から逃げ出して行きます。
そんな風に自分たちから必死に逃げる人間たちの姿を見てメデューサはため息をつきました。
今の彼女は魔獣たちと戦う為にかむっているマントのフードを外し生きた蛇の髪で覆われた素顔をあらわにしています。
隣に立つシュナン少年はメデューサが傷ついたと思ったのか慰めの言葉を彼女に掛けます。

「気にするなよ、メデューサ」

ツンと横を向いて強がるメデューサ。

「別に気にしてないわ。だっていつもの事だし」

そうです。
シュナンとメデューサは魔獣の群れに襲われている人々を助ける為にペガサス族やボンゴ族の勇士たちに呼びかけ彼らをを引き連れてこの場所まで馳せ参じたのです。
シュナンたちの目的は広場に侵入しようとする魔物たちを何とか食い止める事でした。
シュナンたちと共にこの場に駆けつけた恐れを知らぬペガサス族とボンゴ族の勇者たちは相手の凶悪な外見にも怯まずその優れた身体能力を使って次々と魔物の群れに飛びかかります。
押し寄せるサラマンダーやバジリスクそしてオルトロスなどの魔獣たちに対抗する為ペガサス族とボンゴ族は力を合わせて戦っていました。
彼らは魔獣一匹に対してそれぞれ数人がかりで飛びかかりペガサス族はそのスピードを生かした剣撃でボンゴ族は持ち前の怪力を使って戦い魔獣たちの進撃を食い止めていたのです。
シュナン少年ももちろん後方から魔法を使い彼らを助けていました。
シュナンが杖を振るって放つ火炎魔法や雷撃魔法は魔物たちを一撃で打ち倒し戦闘不能にさせました。
そしてシュナンの隣に立つメデューサも自身の持つ唯一の武器?である石化能力を精一杯に駆使して戦い押し寄せる魔物の群れから人々を守っていました。
魔物たちの爪や牙からなすすべも無く逃げまどう人々を。
メデューサは人間たちや仲間のペガサス族やボンゴ族に被害が及ばないように襲い来る魔物たちをピンポイントで見つめその魔眼の力で彼らを次々と石像の姿に変えました。
いつしか彼女の周りには様々なポーズをとった魔獣たちの石像がいくつもゴロゴロと転がっていました。
こうしてムスカル王が野に放った魔獣軍団から人間を守ろうとしていたシュナンたちですが一匹でも大変な連中が大量に押し寄せて来たためかなりの苦戦を強いられていました。
ペガサス族の少女やボンゴ族の男たちの中にはサラマンダーの吐く炎やバジリスクの毒霧攻撃、更にはオルトロスの爪や牙によって負傷する者も何人か出ました。
そんな仲間たちが窮地に陥っている様子を見てシュナンの隣に立ち彼と共に魔獣たちの侵攻を自身の魔眼で食い止めていたメデューサはふとある呟きをもらします。

「何だかあの怪物たち誰かに操られているみたい」

その言葉を隣で聞いたシュナンは思わず彼女に聞き返します。

「どうして、そう思うんだ?メデューサ」

蛇の前髪の下からのぞく口元をへの字口にしてシュナンに答えるメデューサ。
彼女は魔の山で様々な魔物に囲まれて生活していた為、その生態には詳しかったのです。

「だって、あいつらムスカル王に従っている兵士たちは襲ってないわ。ハーピーやオルトロスはともかく知性がほとんど無いサラマンダーやバジリスクが人間相手にそんな区別をするなんてー。何か変じゃない?」

[続く]


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