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邪神モーロックの都
その26
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その日、晴れ渡ったモーロックの都の市街地では、ある小さなトラブルが起こっていました。
それは、ムスカル王の拠点である王宮にも近い、商業施設が集中している地域で、大勢の買い物客でにぎあう場所で起きた出来事でした。
そのあたりには、買い物客を目当てにして多くの露店商が出店を出しており、そこでは色々な装飾品や様々な食べ物などが売られていました。
そして、ズラリと並んでいるそれらの露店の出店の中の一つで、肉まんを売っている老婆とそれを買おうとしているあるグループの間で、激しい言い合いが発生していたのです。
「ちゃんと、金を払うって言ってるだろっ!さっさと肉まんを売ってくれよ!!」
「そーだ、そーだっ!!こちとら、腹が減ってるんだ!!」
その露店商の老婆から肉まんを買おうとしている男たちは、ムスカル王の配下である「魔牛兵」と呼ばれる兵士たちでした。
昼休み中に王宮から街中に出てきた彼らは、小腹を満たすために、たまたま通りかかった露店の列の中から、肉まんを売っている店を選び、その露店のテーブルの奥で椅子に座り商売をしている老婆から、卓上に載っている美味しそうな肉まんを買おうとしたのです。
しかしー。
「あんたらに売るものはないよ。さっさとあっちに行きな」
しかし、何故か露店のテーブルの前にして椅子に座り、道行く人に肉まんを売っていた老婆は、魔牛兵だと一目で分かる彼らが近づいて来るのを見ると、その老いた顔に嫌悪の表情をあらわにし、その上、肉まんを買おうとした兵士たちの申し出をキッパリと断ったのです。
老婆がその前に座る、ピロードがかけられたテーブルの上ではいくつものセイロが並べられ、その中では山積みにされた肉まんが美味しそうに湯気を立てています。
食べ物の恨みは怖いとは言いますが、かたくなに自分たちに肉まんを売ろうとしない老婆の態度に、露店の前に立つ魔牛兵たちの怒りは徐々にヒートアップして行きます。
「おい、いい加減しろよ、婆さん。こっちがおとなしくしてるうちに、さっさと売れよっ!!」
「こちとら、腹が減ってるんだ!あんまり調子に乗ると、牢屋にしょっぴくぞっ!!」
「そーだ!!そーだ!!!」
しかし、露店のテーブル台の奥で椅子に座った老婆は、店の前に立つ兵士たちを睨みつけ、相変わらず肉まんを売るのを拒否しています。
件の出店の周りにいる他の露店商や道行く人々もテーブルを挟んで睨み合うその奥に座った老婆とその前に立つ兵士たちの険悪な様子を固唾を呑んで見守っています。
老婆の露店商仲間やたまたま通りかかった買い物客など周囲にいる人々はいたいけな老女が、魔牛兵に因縁をつけられているのを見て、何とか彼女を助けたいと思いました。
けれど、さすがに凶悪をもって知られる魔牛兵が相手では、うかつに手出しは出来ず、遠巻きになって心配そうに見ている事しか出来ません。
やがて、露店商の老婆にからんでいる魔牛兵たちは、空腹感が頂点に達したのか、乱暴な口調と共に老婆を肉まんを売っているテーブルから引き立て、彼女をそこから連行しようとします。
「このババアめっ!!王宮まで連れて行って、牢屋にぶち込んでやるっ!ここにある肉まんは、全部没収だ!!」
その乱暴なセリフと共に肉まん売りの老婆を連行しようと、魔牛兵の男が手を伸ばします。
肉まんが山積みされたセイロがズラリと居並ぶ、テーブル近くに置かれた椅子にその身を固くして座る老婆は、自分に向かって伸びてくる兵士の手に反応し、思わずビクリと肩を震わせます。
すると、その時でした。
そんな風に、多数の肉まんが載ったテーブルの前で椅子に座る老婆を、王宮の牢屋に強引に連行しようとした、魔牛兵の男たちの背後から鋭い声が飛びます。
「おいっ!!お前ら何してるっ!?」
腹いせに老婆を連行しようとした魔牛兵の男たちが、声のした背後を振り向くと、何とそこには自分たちの上司であるクズタフ隊長の姿がありました。
街を巡視していた彼は、たまたま通りかかった市街地で、老人に乱暴狼藉を働いている部下の姿を見つけ、怒り心頭で彼らを背後から怒鳴りつけたのです。
「た、隊長・・・」
「うう~っ。や、やばい」
「ち、違うんです。この婆さんが・・・」
クズタフ隊長が自分たちに対して怒っている事を察した魔牛兵たちは、老婆を連行しようとしていたその行動をやめ、おどおどと言い訳を始めました。
しかしそんな彼らに対してクズタフ隊長は、更に怒声を浴びせます。
「私情で市民に狼藉を働くとは何事だっ!!後で罰を与えるから王宮に戻っていろ!!さっさと行けっ!!!」
その言葉を聞いた魔牛兵たちは、気まずそうにうなずいた後で、その場をそそくさと去って行きます。
周囲にいた大勢の市民たちは老婆に因縁をつけていた魔牛兵たちが、クズタフ隊長の一喝で逃げ出す様を見て、ホッと胸を撫で下ろします。
そして遠巻きに事態の推移を眺めていた彼らは、止めていた足を再び動かしてそれぞれ思い思いの方向へと歩み去り、市場の雑踏の流れは、まるで何事も無かったかの様に動き始めます。
一方、クズタフ隊長は部下たちが去った方向をしばらくの間、苦々しげに睨んでいました。
しかしやがて後ろを振り向くと、販売用のテーブルの奥に座る、魔牛兵の男たちに絡まれていた老婆に向かって、ペコリと頭を下げます。
「すまなかったな、ご婦人。部下の非礼をお詫びする。悪く思わんでくれ」
しかし、肉まんを露店販売していた老婆は、販売用のテーブルの奥で椅子に座りながらプイと横を向き、隊長と目を合わせようともしません。
それを見たクズタフ隊長は、悲しげに肩をすくめると、露店商の老婆がその前に座る、ピロードがかかった販売用のテーブルに背を向け、その場を静かに去って行きます。
彼の寂しげな後ろ姿は、やがて市街地の人混みの中に、静かに消えて行きました。
[続く]
それは、ムスカル王の拠点である王宮にも近い、商業施設が集中している地域で、大勢の買い物客でにぎあう場所で起きた出来事でした。
そのあたりには、買い物客を目当てにして多くの露店商が出店を出しており、そこでは色々な装飾品や様々な食べ物などが売られていました。
そして、ズラリと並んでいるそれらの露店の出店の中の一つで、肉まんを売っている老婆とそれを買おうとしているあるグループの間で、激しい言い合いが発生していたのです。
「ちゃんと、金を払うって言ってるだろっ!さっさと肉まんを売ってくれよ!!」
「そーだ、そーだっ!!こちとら、腹が減ってるんだ!!」
その露店商の老婆から肉まんを買おうとしている男たちは、ムスカル王の配下である「魔牛兵」と呼ばれる兵士たちでした。
昼休み中に王宮から街中に出てきた彼らは、小腹を満たすために、たまたま通りかかった露店の列の中から、肉まんを売っている店を選び、その露店のテーブルの奥で椅子に座り商売をしている老婆から、卓上に載っている美味しそうな肉まんを買おうとしたのです。
しかしー。
「あんたらに売るものはないよ。さっさとあっちに行きな」
しかし、何故か露店のテーブルの前にして椅子に座り、道行く人に肉まんを売っていた老婆は、魔牛兵だと一目で分かる彼らが近づいて来るのを見ると、その老いた顔に嫌悪の表情をあらわにし、その上、肉まんを買おうとした兵士たちの申し出をキッパリと断ったのです。
老婆がその前に座る、ピロードがかけられたテーブルの上ではいくつものセイロが並べられ、その中では山積みにされた肉まんが美味しそうに湯気を立てています。
食べ物の恨みは怖いとは言いますが、かたくなに自分たちに肉まんを売ろうとしない老婆の態度に、露店の前に立つ魔牛兵たちの怒りは徐々にヒートアップして行きます。
「おい、いい加減しろよ、婆さん。こっちがおとなしくしてるうちに、さっさと売れよっ!!」
「こちとら、腹が減ってるんだ!あんまり調子に乗ると、牢屋にしょっぴくぞっ!!」
「そーだ!!そーだ!!!」
しかし、露店のテーブル台の奥で椅子に座った老婆は、店の前に立つ兵士たちを睨みつけ、相変わらず肉まんを売るのを拒否しています。
件の出店の周りにいる他の露店商や道行く人々もテーブルを挟んで睨み合うその奥に座った老婆とその前に立つ兵士たちの険悪な様子を固唾を呑んで見守っています。
老婆の露店商仲間やたまたま通りかかった買い物客など周囲にいる人々はいたいけな老女が、魔牛兵に因縁をつけられているのを見て、何とか彼女を助けたいと思いました。
けれど、さすがに凶悪をもって知られる魔牛兵が相手では、うかつに手出しは出来ず、遠巻きになって心配そうに見ている事しか出来ません。
やがて、露店商の老婆にからんでいる魔牛兵たちは、空腹感が頂点に達したのか、乱暴な口調と共に老婆を肉まんを売っているテーブルから引き立て、彼女をそこから連行しようとします。
「このババアめっ!!王宮まで連れて行って、牢屋にぶち込んでやるっ!ここにある肉まんは、全部没収だ!!」
その乱暴なセリフと共に肉まん売りの老婆を連行しようと、魔牛兵の男が手を伸ばします。
肉まんが山積みされたセイロがズラリと居並ぶ、テーブル近くに置かれた椅子にその身を固くして座る老婆は、自分に向かって伸びてくる兵士の手に反応し、思わずビクリと肩を震わせます。
すると、その時でした。
そんな風に、多数の肉まんが載ったテーブルの前で椅子に座る老婆を、王宮の牢屋に強引に連行しようとした、魔牛兵の男たちの背後から鋭い声が飛びます。
「おいっ!!お前ら何してるっ!?」
腹いせに老婆を連行しようとした魔牛兵の男たちが、声のした背後を振り向くと、何とそこには自分たちの上司であるクズタフ隊長の姿がありました。
街を巡視していた彼は、たまたま通りかかった市街地で、老人に乱暴狼藉を働いている部下の姿を見つけ、怒り心頭で彼らを背後から怒鳴りつけたのです。
「た、隊長・・・」
「うう~っ。や、やばい」
「ち、違うんです。この婆さんが・・・」
クズタフ隊長が自分たちに対して怒っている事を察した魔牛兵たちは、老婆を連行しようとしていたその行動をやめ、おどおどと言い訳を始めました。
しかしそんな彼らに対してクズタフ隊長は、更に怒声を浴びせます。
「私情で市民に狼藉を働くとは何事だっ!!後で罰を与えるから王宮に戻っていろ!!さっさと行けっ!!!」
その言葉を聞いた魔牛兵たちは、気まずそうにうなずいた後で、その場をそそくさと去って行きます。
周囲にいた大勢の市民たちは老婆に因縁をつけていた魔牛兵たちが、クズタフ隊長の一喝で逃げ出す様を見て、ホッと胸を撫で下ろします。
そして遠巻きに事態の推移を眺めていた彼らは、止めていた足を再び動かしてそれぞれ思い思いの方向へと歩み去り、市場の雑踏の流れは、まるで何事も無かったかの様に動き始めます。
一方、クズタフ隊長は部下たちが去った方向をしばらくの間、苦々しげに睨んでいました。
しかしやがて後ろを振り向くと、販売用のテーブルの奥に座る、魔牛兵の男たちに絡まれていた老婆に向かって、ペコリと頭を下げます。
「すまなかったな、ご婦人。部下の非礼をお詫びする。悪く思わんでくれ」
しかし、肉まんを露店販売していた老婆は、販売用のテーブルの奥で椅子に座りながらプイと横を向き、隊長と目を合わせようともしません。
それを見たクズタフ隊長は、悲しげに肩をすくめると、露店商の老婆がその前に座る、ピロードがかかった販売用のテーブルに背を向け、その場を静かに去って行きます。
彼の寂しげな後ろ姿は、やがて市街地の人混みの中に、静かに消えて行きました。
[続く]
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