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その4
最初の試練
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さて意気揚々と冒険の旅を始めたナロー王女と騎士シールズですが1日目でさっそく困った事態に見舞われます。
馬に乗る二人がのどかな田園地帯を抜けて村はずれの森に差し掛かった時の事です。
いきなりナロー王女が叫び始めました。
「ぎゃあああーっ!!シールズ!虫っ!虫ですわーっ!!」
なんと森の轍に群れて飛ぶ羽虫に彼女は驚いてしまったのです。
ちなみに彼女は子供の頃から虫が嫌いでした。
隣で馬に乗るシールズが呆れて肩をすくめます。
「そりゃ、森なんだから虫なんていくらでもいますよ。ムシして進むしかないです」
ナロー王女はなおも叫び続けます。
「つっまんない洒落を言うなですわーっ!!ぎゃーっ!!あんな大きな蜘蛛見たことないですわーっ!!うぎゃああーっ!!!背中になんか入りましたわーっ!シールズ!取って!!とってぇーっ!!!」
シールズは泣き叫ぶナロー王女を前にさすがに困ってしまいます。
このままでは旅を続けることなどとてもできません。
彼はしょうがなく叫び続けるナロー王女に向かってため息混じりの声で言いました。
「しょうがないですね。とりあえず一旦お城まで引き返しましょう。今から戻れば夕方には城に着けるはずです」
なんとも情けない事にナロー王女は旅立った初日にお城に引き返す羽目になってしまいました。
こちらに来る時とは打って変わって泣きベソをかきながらうなだれて仔馬に乗りシールズと共にお城への道を引き返すナロー王女。
彼女は傍らで軍馬に乗って付き従うお供のシールズに思わず愚痴をこぼします。
「まったく何であんな気持ち悪い生き物がいるんですの?!全部いなくなってしまえばいいのに!!」
王女の隣で軍馬にまたがるシールズは彼女の言葉を聞くと銀製のフェイスガードに覆われた頭を左右に振って言いました。
「彼らにだって自然界の中で重要な役割があるのですよ。気持ちが悪いなどというのはあくまで姫の主観です。たとえ殺す必要があってもその生命に対する畏敬の念を忘れてはいけません。わたしは昔、山奥で迷った時に蜘蛛や芋虫を食べてなんとか生き延びた事があります」
「ううーっ、そ、そんな話聞きたくないですわーっ!」
情け無い悲鳴を上げるナロー王女。
彼女とシールズは馬上で身体を揺られながら今来た道をトボトボと引き返して行きました。
やがて二人の眼に朝にそこを出立したばかりのお城の城門が見えてきました。
城壁の見張り番の兵士は今朝、長い旅に出たはずの二人がその日のうちに戻って来たのを見て首を傾げました。
「おお、ナローよすぐに戻って来るとは情け無い」
国王陛下はすぐに引き返して来たナロー王女が謁見の間で騎士シールズと共にしょんぼりと立つ姿を玉座の上から見下ろして言いました。
その隣には妃殿下が立っており何やら物言いたげな様子でナロー王女を見つめています。
そして宮殿の壁ぎわにズラリと並んでいる大臣や高官たちも呆れたような顔をしながら何かヒソヒソと陰口を言い合っていました。
周囲の好奇と哀れみの視線に耐えられずナロー王女が叫びます。
「虫のせいですわ!お父様!!虫っ!虫さえっ!虫さえいなければっ!!!」
怒りに任せて魔法の杖をブンブンと振り回すナロー王女。
杖の先が隣に立つシールズの兜にガンガンと当たりました。
「ちょと!痛いですよ、姫!」
玉座の上で国王陛下が頬杖をつきながら首を振ります。
「やはり、お前には冒険者は無理だ。ナロー。たかが羽虫を恐れる人間が魔物や竜と渡り合えるものか。そうであろうマーリン」
「おっしゃる通りです。陛下」
国王の声に呼応するかのように群臣の列の中から一人の女性が一歩前に進み出ました。
黒いドレスを着た神秘的な雰囲気の女性です。
「し、師匠・・・」
ナロー王女の声が緊張で裏返ります。
その女性こそナロー王女の子供の頃からの家庭教師であり宮廷魔術師である大魔女マーリンでした。
ナロー王女は師の言葉に反発します。
「貴女までそんな事を。わたくしの味方だと思っていたのに」
マーリンはあくまで冷静な口調でナロー王女に答えました。
「私はもちろんあなたの味方ですよ。ナロー姫。だから余計に無茶な事をして欲しくないのです。あなたに冒険者になれる程の魔法の資質があるとはとても思えません。大陸屈指の魔法使いである私に師事しさらに魔法学校に6年間も通ったのにあなたの魔法のレベルは初級以下ではないですか。勇者の手助けをして世界を救うなど夢のまた夢です」
手厳しい師の言葉にナロー王女はとうとう怒り出してしまいます。
「わたくしは実戦向きなのです!!やれば出来る子なのです!!」
マーリンは哀しげに首を振ります。
「そんなセリフを言っている事自体が自分の本当の姿がわかっていない証拠です。まったくこの業炎のマーリンの一番弟子が貴女だとは。どうやら私には人を育てる才能は無いようです」
「師匠ーっ」
マーリンの言葉を聞いてナロー姫は思わず涙ぐみます。
しかしマーリンはやがて軽く肩をすくめると少し声の調子を変えて姫に言いました。
「しかしこのままでは確かに貴女も諦めがつかないでしょう。性格的にね。わかりました。もう一度自分の力を試して見なさい。後で虫除けの魔術をかけてあげます。少なくとも身体に虫が寄って来る事はなくなるでしょう」
ナロー姫の顔がパアッと明るくなります。
「本当ですかーっ!師匠!」
隣に立つシールズがボソッと呟きました。
「やれやれ余計な事を」
こうしてナロー姫は王の許可を受けてマーリンに虫除けの魔術を施してもらい改めて明後日に再び冒険の旅に出立する事になりした。
つまりは仕切り直しという事です。
はてさて今度はうまくいくのでしょうか?
[続く]
馬に乗る二人がのどかな田園地帯を抜けて村はずれの森に差し掛かった時の事です。
いきなりナロー王女が叫び始めました。
「ぎゃあああーっ!!シールズ!虫っ!虫ですわーっ!!」
なんと森の轍に群れて飛ぶ羽虫に彼女は驚いてしまったのです。
ちなみに彼女は子供の頃から虫が嫌いでした。
隣で馬に乗るシールズが呆れて肩をすくめます。
「そりゃ、森なんだから虫なんていくらでもいますよ。ムシして進むしかないです」
ナロー王女はなおも叫び続けます。
「つっまんない洒落を言うなですわーっ!!ぎゃーっ!!あんな大きな蜘蛛見たことないですわーっ!!うぎゃああーっ!!!背中になんか入りましたわーっ!シールズ!取って!!とってぇーっ!!!」
シールズは泣き叫ぶナロー王女を前にさすがに困ってしまいます。
このままでは旅を続けることなどとてもできません。
彼はしょうがなく叫び続けるナロー王女に向かってため息混じりの声で言いました。
「しょうがないですね。とりあえず一旦お城まで引き返しましょう。今から戻れば夕方には城に着けるはずです」
なんとも情けない事にナロー王女は旅立った初日にお城に引き返す羽目になってしまいました。
こちらに来る時とは打って変わって泣きベソをかきながらうなだれて仔馬に乗りシールズと共にお城への道を引き返すナロー王女。
彼女は傍らで軍馬に乗って付き従うお供のシールズに思わず愚痴をこぼします。
「まったく何であんな気持ち悪い生き物がいるんですの?!全部いなくなってしまえばいいのに!!」
王女の隣で軍馬にまたがるシールズは彼女の言葉を聞くと銀製のフェイスガードに覆われた頭を左右に振って言いました。
「彼らにだって自然界の中で重要な役割があるのですよ。気持ちが悪いなどというのはあくまで姫の主観です。たとえ殺す必要があってもその生命に対する畏敬の念を忘れてはいけません。わたしは昔、山奥で迷った時に蜘蛛や芋虫を食べてなんとか生き延びた事があります」
「ううーっ、そ、そんな話聞きたくないですわーっ!」
情け無い悲鳴を上げるナロー王女。
彼女とシールズは馬上で身体を揺られながら今来た道をトボトボと引き返して行きました。
やがて二人の眼に朝にそこを出立したばかりのお城の城門が見えてきました。
城壁の見張り番の兵士は今朝、長い旅に出たはずの二人がその日のうちに戻って来たのを見て首を傾げました。
「おお、ナローよすぐに戻って来るとは情け無い」
国王陛下はすぐに引き返して来たナロー王女が謁見の間で騎士シールズと共にしょんぼりと立つ姿を玉座の上から見下ろして言いました。
その隣には妃殿下が立っており何やら物言いたげな様子でナロー王女を見つめています。
そして宮殿の壁ぎわにズラリと並んでいる大臣や高官たちも呆れたような顔をしながら何かヒソヒソと陰口を言い合っていました。
周囲の好奇と哀れみの視線に耐えられずナロー王女が叫びます。
「虫のせいですわ!お父様!!虫っ!虫さえっ!虫さえいなければっ!!!」
怒りに任せて魔法の杖をブンブンと振り回すナロー王女。
杖の先が隣に立つシールズの兜にガンガンと当たりました。
「ちょと!痛いですよ、姫!」
玉座の上で国王陛下が頬杖をつきながら首を振ります。
「やはり、お前には冒険者は無理だ。ナロー。たかが羽虫を恐れる人間が魔物や竜と渡り合えるものか。そうであろうマーリン」
「おっしゃる通りです。陛下」
国王の声に呼応するかのように群臣の列の中から一人の女性が一歩前に進み出ました。
黒いドレスを着た神秘的な雰囲気の女性です。
「し、師匠・・・」
ナロー王女の声が緊張で裏返ります。
その女性こそナロー王女の子供の頃からの家庭教師であり宮廷魔術師である大魔女マーリンでした。
ナロー王女は師の言葉に反発します。
「貴女までそんな事を。わたくしの味方だと思っていたのに」
マーリンはあくまで冷静な口調でナロー王女に答えました。
「私はもちろんあなたの味方ですよ。ナロー姫。だから余計に無茶な事をして欲しくないのです。あなたに冒険者になれる程の魔法の資質があるとはとても思えません。大陸屈指の魔法使いである私に師事しさらに魔法学校に6年間も通ったのにあなたの魔法のレベルは初級以下ではないですか。勇者の手助けをして世界を救うなど夢のまた夢です」
手厳しい師の言葉にナロー王女はとうとう怒り出してしまいます。
「わたくしは実戦向きなのです!!やれば出来る子なのです!!」
マーリンは哀しげに首を振ります。
「そんなセリフを言っている事自体が自分の本当の姿がわかっていない証拠です。まったくこの業炎のマーリンの一番弟子が貴女だとは。どうやら私には人を育てる才能は無いようです」
「師匠ーっ」
マーリンの言葉を聞いてナロー姫は思わず涙ぐみます。
しかしマーリンはやがて軽く肩をすくめると少し声の調子を変えて姫に言いました。
「しかしこのままでは確かに貴女も諦めがつかないでしょう。性格的にね。わかりました。もう一度自分の力を試して見なさい。後で虫除けの魔術をかけてあげます。少なくとも身体に虫が寄って来る事はなくなるでしょう」
ナロー姫の顔がパアッと明るくなります。
「本当ですかーっ!師匠!」
隣に立つシールズがボソッと呟きました。
「やれやれ余計な事を」
こうしてナロー姫は王の許可を受けてマーリンに虫除けの魔術を施してもらい改めて明後日に再び冒険の旅に出立する事になりした。
つまりは仕切り直しという事です。
はてさて今度はうまくいくのでしょうか?
[続く]
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