ナロー姫の大冒険

きーぼー

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その11

鬼岩城攻略戦Ⅰ

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 「あ、あのー」

会議に夢中になっていた勇者アルファポリスはいきなり見知らぬ女の子に声を掛けられてちょっとびっくりしました。
テーブルに座るほかのメンバーも同様でした。
見ると可愛らしいドレスとフレアスカートの上に旅人風の緑色のローブをまとったまだ若い女の子でした。
隣には全身をチェーンメタルで覆った屈強な騎士の姿もありました。
彼らは確か隣のテーブルに座っていたはずですが何を思ったのかわざわざ席を離れてこちらのテーブルまでやって来たのです。
訝しげに二人を見る勇者一行。
アルファポリスが代表して彼らに聞きました。

「どうしました?お嬢さん。僕に何か御用ですか?」

伝説の勇者を前にして彼女はかなり緊張している様でしたがそれでもやがて意を決してハッキリとした口調で言いました。

「鬼岩城の攻略についてお話がー」

その話の奇抜な内容を聞いた勇者一行は一人残らず押し黙ってしまいました。
勇者アルファポリスその人でさえ腕を組んで考え込んでいます。
知略において右に出る者はない大賢者サルマーも虚を突かれた様な表情で視線を宙に彷徨わせています。
銀髪のエルフのジーナ姫は何やら品定めする様にナロー姫とシールズの二人を見つめていました。
やがて勇者の向かい側の席に座る傭兵剣士オグマがポツリと呟きました。

「頭がおかしい」


それから約二週間後、鬼岩城城主である黒騎士バーンは部下の魔族から奇妙な報告を受けました。
黒騎士バーンは魔王の信頼厚い腹心の一人で卓越した剣技と魔法の力を誇る魔法剣士でした。
魔王から直々に下賜された漆黒の鎧とマントを身につけていました。
彼は勇者アルファポリス率いる連合軍とは何度も死闘を繰り広げておりその動向には常に注意を払っていました。
しかし今回、彼が部下から聞いた報告はとても奇妙なものでした。
勇者アルファポリス率いる連合軍の一部が森林地帯で大規模な木の伐採を行なっているというのです。
鋼鉄の座椅子に座りながら彼は首を傾げます。

「はて?どういう事だ?薪を調達するには時期が早いようだが・・・」

彼が感じた違和感は彼の指揮官としての優秀さを示すものでした。
しかしー。

「大変ですっ!!バーン様!!人間どもの連合軍がこの城に進軍して来ますっ!!!」

その時突如、見張り部隊から万を超える人間の軍団が大挙してこの鬼岩城に迫っているという急報が届いたのでした。

「おのれっ、人間どもっ!!目に物見せてくれるわ!!皆の者っ!迎撃の準備だ!!火砲の点検も怠るなよ!」

鉄の椅子からマントを翻しながら立ち上がって部下たちに次々と指示を飛ばす黒騎士バーン。
その時、彼の頭からは直前に知らされた森林地帯に関する奇妙な報告の件はすっかりとかき消えていました。
そして彼はすぐにその致命的な見落としを後悔する事になるのでした。


その頃、鬼岩城のはるか西方のルーンの森に近い砂漠地帯では異様な光景が展開していました、
何百人もの屈強な兵士達が森林から切り出した大きな丸太を砂漠地帯まで運んで次々と地面に並べていたのです。
その横向きにされた何本もの長い丸太は真っ直ぐ平行に等間隔で並べられており鳥の目から見るとそれはまるで砂漠の中に出来た大きな一本の線路の様でした。
兵士達が切り出して地上に並べたその数多くの大きな丸太で出来た道は南北に直線的に走っておりその長さは約数十キールにも及びその道を作るのに延べ1万本もの丸太が使用されていました。
そしてその砂漠を走る丸太の道の北側の部分は鬼岩城の背後を流れる大きな川、ザワザワ川の上流へと繋がっておりもう片方の南側に延びた部分はナロー姫のいるベカンの港町へと一直線に向かっていました。
一方そのベカンの港町では護岸の改修工事が行われ屈強な水夫や人夫たちの手で数多くの軍船が海から逆に陸上へと引き揚げられていました。
すでに砂漠地帯を横断しベカン港の先端部にまで達した丸太の道にそれらの軍船は次々と運び上げられていきます。
そしてそれらの大きな軍船にはそれぞれ数十本もの丈夫なロープが結わえ付けられておりそれを大勢の兵士や人夫達が力を合わせて引っ張り丸太で出来たレールの上を転がしながら運んでいきました。
そうこれがナロー姫たちが勇者に提案した作戦だったのでした。
それは海路を使わず地上に丸太を平行に並べて線路の様な道を作りそれによって鬼岩城付近のザワザワ川の上流まで軍船を運ぶという奇策でした。
それから軍船を川に入れ兵士達を乗り込ませそのまま川の流れに沿って船を走らせて鬼岩城の背後を奇襲するのです。
通常ではとても重くて運べない軍船も丸太の上を転がして運ぶ為、地面との摩擦が少なくロープを用いた人力によりなんとか運ぶ事ができたのです。
これにより陸上の直線距離を移動するだけで鬼岩城の裏側にあるザワザワ川の上流に軍船を到達させる事が可能な為、海を半島沿いに迂回して河口から侵入するルートより遥かに作戦にかかる時間を短縮する事ができました。
本来なら海に浮かぶ巨大な軍船が丸太で出来たレールに乗せられて地上を粛々と移動するその姿はにわかには信じがたい夢の中の出来事の様でした。
しかしこれはあくまで現実であり船に結ばれたロープを力の限り引く男たちは川に着いた時点で自分達が運んで来た軍船に乗り込み川を下って魔王軍に決戦を挑むのです。
愛する故郷をそしてそこに住む人々を守るために。
兵士達が懸命に引っ張るロープの付いた数十隻の軍船は殺風景な砂漠の上に作られた丸太で出来た道の上を一列となって静かに進んでいきます。
砂漠地帯の上空を飛ぶ渡り鳥の一群が恐らく有史以来初めてであろうその奇妙な光景を旋回しながら見下ろしていました。

[続く]
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