ナロー姫の大冒険

きーぼー

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その17

内乱の行方

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 さてこうしてナロー姫はシールズと共に故郷のお城に帰還したのですが二人が城に戻った日の翌日にとうとうカクヨーミ王子の一派によるクーデター計画が決行されました。
今回はその顛末をお話ししましょう。
その日クーデター計画の謀議の場になっていた城の一室には大勢の男たちが集まっていたのです。
今日は予定されているクーデターの決行日でした。
今から彼らはカクヨーミ王子の行動開始の合図を受け城の各所にいる部下たちに命令を出して一斉に蜂起させ王宮を一気に制圧する手筈だったのです。
彼らは野望に眼をギラギラと輝かせてクーデターの盟主であるカクヨーミ王子がこの部屋に現れ彼らに号令を下す時を今や遅しと待っていました。
ところがー。
待てど暮らせどカクヨーミは部屋に現れません。
クーデター決行の約束の時刻を過ぎても結局彼は現れず部屋に集まった反逆者たちに疑惑と不信の念が広がっていきました。
しかしそんなおりついに彼らが待ち望んだカクヨーミ王子が魔女マーリンを伴ってその部屋に姿を現しました。
今日は普通の格好をしています。
たちまち部屋の中に安堵の声と歓声が響き渡りました。

「お待ちしておりました!カクヨーミ様っ!!」

「どうか我らに出撃のご命令をっ!!」

だがしかしカクヨーミは魔女マーリンと共に部屋に集まった反逆者たちを冷たい目でいちべつすると無慈悲な声で言いました。

「あなた達はもう終わりだ。逆賊ども。この部屋はすでに王宮の兵士達によって取り囲まれている。おとなしく刑に服するが良かろう」

思いもしなかった王子の言葉に部屋の中の男たちに衝撃が走ります。
そして彼らは瞬時に悟りました。
自分たちは愚かにも罠にはまったのだと。
野望と期待に紅潮していた彼らの顔色はたちまち蒼白になっていきます。
そうです今回のクーデター計画は王宮内の反乱分子を一掃する為に国王がカクヨーミ王子に内密に命じて作らせた偽の計画だったのです。
それにまんまと乗った彼らは反逆者として捕らえられすべての地位と力を失う事になるのです。
それがカクヨーミ王子の狙いだったのです。
その為に彼はあえて自分に関する悪い噂を王宮に流し普段から反抗的なふるまいをして反対派の人々を油断させあえて反逆者の汚名を着る事によって彼らの勢力を王宮から駆逐しようとしたのでした。
たちまち部屋中にカクヨーミに対する怒号と怨嗟の声が飛び交いました。

「おのれっ!!カクヨーミ!!騙したなっ!!」

「許さんっ!許さんぞっ!!」

「この、おパンツ野郎っ!!!」

そして激昂した男の一人が剣を振りかざしカクヨーミ王子に襲いかかりました。
その男は城の警備隊長を務める猛者で剣の達人として知られていました。

「死ねい!!カクヨーミ!!」

しかし彼の振り下ろした剣はカクヨーミ王子にヒョイとよけられ逆に王子の剣の柄による当て身をくらい男は一瞬で気絶し床に崩れ落ちました。
王子のあまりの強さに驚愕しうろたえる反逆者たち。
そんな彼らにさらなる悲劇が襲いました。
カクヨーミ王子の隣に立つ魔女マーリンが彼らに対して魔法を使ったのです。
マーリンが胸元から出した杖を振るって呪文を唱えると部屋の奥からゴゴゴォーッという異様な音と共に水が吹き出してきました。
水は巨大な濁流となって部屋の中の男たちを襲い彼らを溺れさせました。

「グワーッ!!溺れるーっ!!」

「助けてくれーっ!!俺は泳げないんだーっ!!!」

「アップッアップーッ!!し、死ぬーっ!!」

濁流音の合間に男たちの悲鳴が聞こえます。
しかし不思議な事に部屋の真ん中に立つカクヨーミ王子と魔女マーリンは濁流の中心にいるにも関わらずその姿は微動だにしていません。
それもその筈でした。
なんと男たちを襲っていたその凄まじい水流は大魔女マーリンが魔法で作り出した幻だったのです。
したがってその部屋には実は一滴の水も流れておらず術にかかっていない人間がはた目から見ると部屋の中にいる男たちは何もない床の上で何故か悲鳴を上げて転げ回り溺れる真似をしている狂人の様に見えました。
そうこうしてるうちに部屋の中に王宮の兵士たちが突入して来て床を狂った様にのたうち回る男たちを次々と捕らえていきます。
こうして王宮で秘密裏に進められていたクーデター計画は意外な形でその終焉を迎えたのでした。
まだ幻術にかかっているのかあらぬ事を口走りながら兵士たちに連行されて行くクーデターの参加者たちを横目で見ながらマーリンが言いました。

「お見事ですわ、カクヨーミ王子。これで現国王の政権も安定するでしょう。まったく反乱分子の存在は頭痛の種でしたからね。敵を油断させる為に変態や不良のマネまでして。大変だったでしょう?」

隣に立つカクヨーミ王子が兵士たちの動きを目で追いながら答えました。

「全ては父上の指示だ。わたしの恥などどうでもいい。それにナローの事もある。あいつが王位を継ぐ前に大掃除をした方がいいと思ったしな」

魔女マーリンが大きく目を見開きます。

「やはりあの子に王位を譲るつもりなのですね。カクヨーミ」

カクヨーミ王子が頷きます。

「わたしが王家の養子になったのは男子でなければ王位を継承出来ないという下らない不文律があったからだ。たとえ姫でも王の実子であるナローが後を継ぐのは当然の事なのにー。だが少年の頃、まだ幼いナローと初めて会った日にわたしは思った。この姫をあらゆる災いから守り立派に国を継がせる事こそが己れの果たすべき使命だとー。そしてそれはわたしを信頼してくれた義父母である国王夫妻や国の為にわたしを養子に出した実の両親たちの望みでもある」

王子の言葉を聞いたマーリンは納得した様に笑みを浮かべると言いました。

「確かにこの500年間カスニート王国で女性が王位に就いた例はありませんでしたからね。あなたはその旧来の因習に倣う振りをしながらもナロー姫に王位を継がせる為に日々力を尽くしていたのですね。彼女を陰から見守りながらー。それがあなたの役割だったのですね、カクヨーミ王子。でもー」

マーリンはカクヨーミ王子を気遣いつつも更に彼に尋ねます。

「でもそれだとあの子が王位継承者になった時点であなたがこの国にいる理由が無くなりますよ。もしかして王国を出るおつもりなのですか?」

最後の反逆者が兵士たちに連れ出され彼とマーリン以外には誰もいなくなった部屋を静かに見つめて王子はポツリと呟きました。

「・・・それは、ナロー次第かな」

ナロー姫の師、大魔女マーリンの琥珀色の神秘的な瞳がキラリと光ります。
そしてしんみりとした声で言いました。

「あの子が好きなんですね、カクヨーミ」

王子はその言葉には返事をしませんでした。
彼はガランとした部屋の石造りの壁に背中を預けると腕を組みながらただじっと佇んでいました。
どこか切なげな表情を浮かべてー。

[続く]
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