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事件
その2
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くそっ、腹が立つ。
俺は新妻のなな子と共にサンフェスタ号に乗り組んだ直後にあるトラブルに巻き込まれた。
それはサンフェスタ号が港を出港し夜の海の上を滑るように進み始めたその直後の事であった。
俺となな子は乗船後に予約した自分たちの船室に向かう為に、他の大勢の乗客たちと共に移動する船の甲板上を歩いていた。
その時に側で歩いていた他のカップル客と下らない事でトラブルになってしまったのだ。
前述した様にサンフェスタ号に乗り組んだ俺たち乗船客は船が港を出立し夜の海を航海し始めると早速、甲板上からこれから泊まるそれぞれの客室へと移動を開始した。
サンフェスタ号はその上部構造が大きく分けて二つに分かれており、船の前部には客室等の居住区があり反対の後部には乗務員の待機室や船長らが運行の指示を出す操縦室など主に船の運行に関する施設や部屋が集中して配置されていた。
そしてその為か船の後部は立ち入り禁止の区域に指定されており甲板上に一般乗客が入れない様に柵が設けられており船の後部には甲板からは行けない仕様になっていた。
そんな訳で俺となな子は他の大勢の乗客と共に甲板を二つに仕切るみたいに立てられた立ち入り禁止の柵を横目で見ながら客室が集中する船の前部を目指してゾロゾロと歩いて行った。
そしてしばらく甲板の上を歩いた後で俺となな子が自分たちの居室として予約されているはずのズラリと並んだ客室の中の一室に入りようやく腰を落ち着けようとしているその時であった。
ドアを開けて客室の中に入ろうとしている俺となな子の背後から何やら野太い声が響いて来たのだ。
「おいっ!そこは俺たちの部屋だぞっ!!」
俺となな子が驚いて後ろを振り返るとそこには甲板の上に仁王立ちとなった男の姿があった。
男の傍らには恐らく彼の妻であろうきつい目をした髪の長い女の姿もあった。
俺となな子が驚きで身動きがとれず部屋に入ろうとしているポーズのまま甲板上で固まっているとその男は俺たちの眼前に手に持った部屋のキーを突き出して来た。
「これ、見ろや!!お前たちが入ろうとしているのは俺たちの部屋だっ!」
怒り心頭のその男の言葉を聞いて俺となな子は自分たちが彼の言う通り入る部屋を間違えたのかと思い彼の持つキーと今から入ろうとした部屋のドアに掲げられた部屋ナンバーのプレートを思わず見比べる。
しかしー。
「よく見ろっ!!間違えてるのはそっちだろうがっ!!」
男が持っている部屋キーに付けられているタグに記された番号は101。
それに対して部屋のドアに掲げられた部屋番号は110。
俺は入船時に渡された部屋のキーをポケットから取り出し文句を言ってきた男の鼻先に逆に突きつけた。
文句を言ってきた男は自分の持っているキーと俺が鼻先に突きつけたキーそして俺たちがその前に立つ船室のドアに掲げられたナンバープレートを交互に見比べ自分が間違っている事に気付くと一瞬気まずそうな表情をその顔に浮かべた。
「チッ!!」
そして、悔しげに舌打ちをするとくるりと背を向け隣にいた女性と共にそそくさと手に持つキーによって示された自分たちが入るべき正しい船室の方へと去って行く。
俺はそんな彼らの後ろ姿を隣に立つなな子と共にしばらくの間睨みつけていた。
俺たちと一緒に甲板上を歩いていた他の乗客たちは俺と件の男との怒鳴り合いに気付いてびっくりしたのかしばしの間足を止めて遠巻きとなりこちらの様子を心配そうに見ていた。
しかしやがて騒ぎが収まるとまるで何事も無かったかの様にその歩みを再開する。
その各々の船室へと向かう人の流れが再び始まると隣に立つなな子が甲板の上で怒りに震える俺に向かって言った。
「わたしたちも部屋に入りましょう、伸太さん。ここは寒いわ」
指定された客室に入っても俺の怒りは中々収まらなかった。
洋間造りになっているその客室の中でベッドの縁に腰掛けたなな子が見つめる中、客室の真ん中に立つ俺はブツブツと文句を言い続ける。
「何なんだ!あの男はー。まったく無礼な奴だっ!」
なな子は室内の端の方に置かれたベッドの縁に腰掛けながらそんな俺の姿を見てその顏に心配げな表情を浮かべている。
その時だった。
室内の壁につけられたスピーカーから船内放送が流れた。
[間も無く本船は電波の届かない海域へと入ります。国内と電話できる最後の機会となりますのでご家族等と交信をしたい方は今のうちに連絡をお取り下さい。なお、本船は交信時間の確保の為、現地点の海上で約30分間程度停止いたします」
[続く]
俺は新妻のなな子と共にサンフェスタ号に乗り組んだ直後にあるトラブルに巻き込まれた。
それはサンフェスタ号が港を出港し夜の海の上を滑るように進み始めたその直後の事であった。
俺となな子は乗船後に予約した自分たちの船室に向かう為に、他の大勢の乗客たちと共に移動する船の甲板上を歩いていた。
その時に側で歩いていた他のカップル客と下らない事でトラブルになってしまったのだ。
前述した様にサンフェスタ号に乗り組んだ俺たち乗船客は船が港を出立し夜の海を航海し始めると早速、甲板上からこれから泊まるそれぞれの客室へと移動を開始した。
サンフェスタ号はその上部構造が大きく分けて二つに分かれており、船の前部には客室等の居住区があり反対の後部には乗務員の待機室や船長らが運行の指示を出す操縦室など主に船の運行に関する施設や部屋が集中して配置されていた。
そしてその為か船の後部は立ち入り禁止の区域に指定されており甲板上に一般乗客が入れない様に柵が設けられており船の後部には甲板からは行けない仕様になっていた。
そんな訳で俺となな子は他の大勢の乗客と共に甲板を二つに仕切るみたいに立てられた立ち入り禁止の柵を横目で見ながら客室が集中する船の前部を目指してゾロゾロと歩いて行った。
そしてしばらく甲板の上を歩いた後で俺となな子が自分たちの居室として予約されているはずのズラリと並んだ客室の中の一室に入りようやく腰を落ち着けようとしているその時であった。
ドアを開けて客室の中に入ろうとしている俺となな子の背後から何やら野太い声が響いて来たのだ。
「おいっ!そこは俺たちの部屋だぞっ!!」
俺となな子が驚いて後ろを振り返るとそこには甲板の上に仁王立ちとなった男の姿があった。
男の傍らには恐らく彼の妻であろうきつい目をした髪の長い女の姿もあった。
俺となな子が驚きで身動きがとれず部屋に入ろうとしているポーズのまま甲板上で固まっているとその男は俺たちの眼前に手に持った部屋のキーを突き出して来た。
「これ、見ろや!!お前たちが入ろうとしているのは俺たちの部屋だっ!」
怒り心頭のその男の言葉を聞いて俺となな子は自分たちが彼の言う通り入る部屋を間違えたのかと思い彼の持つキーと今から入ろうとした部屋のドアに掲げられた部屋ナンバーのプレートを思わず見比べる。
しかしー。
「よく見ろっ!!間違えてるのはそっちだろうがっ!!」
男が持っている部屋キーに付けられているタグに記された番号は101。
それに対して部屋のドアに掲げられた部屋番号は110。
俺は入船時に渡された部屋のキーをポケットから取り出し文句を言ってきた男の鼻先に逆に突きつけた。
文句を言ってきた男は自分の持っているキーと俺が鼻先に突きつけたキーそして俺たちがその前に立つ船室のドアに掲げられたナンバープレートを交互に見比べ自分が間違っている事に気付くと一瞬気まずそうな表情をその顔に浮かべた。
「チッ!!」
そして、悔しげに舌打ちをするとくるりと背を向け隣にいた女性と共にそそくさと手に持つキーによって示された自分たちが入るべき正しい船室の方へと去って行く。
俺はそんな彼らの後ろ姿を隣に立つなな子と共にしばらくの間睨みつけていた。
俺たちと一緒に甲板上を歩いていた他の乗客たちは俺と件の男との怒鳴り合いに気付いてびっくりしたのかしばしの間足を止めて遠巻きとなりこちらの様子を心配そうに見ていた。
しかしやがて騒ぎが収まるとまるで何事も無かったかの様にその歩みを再開する。
その各々の船室へと向かう人の流れが再び始まると隣に立つなな子が甲板の上で怒りに震える俺に向かって言った。
「わたしたちも部屋に入りましょう、伸太さん。ここは寒いわ」
指定された客室に入っても俺の怒りは中々収まらなかった。
洋間造りになっているその客室の中でベッドの縁に腰掛けたなな子が見つめる中、客室の真ん中に立つ俺はブツブツと文句を言い続ける。
「何なんだ!あの男はー。まったく無礼な奴だっ!」
なな子は室内の端の方に置かれたベッドの縁に腰掛けながらそんな俺の姿を見てその顏に心配げな表情を浮かべている。
その時だった。
室内の壁につけられたスピーカーから船内放送が流れた。
[間も無く本船は電波の届かない海域へと入ります。国内と電話できる最後の機会となりますのでご家族等と交信をしたい方は今のうちに連絡をお取り下さい。なお、本船は交信時間の確保の為、現地点の海上で約30分間程度停止いたします」
[続く]
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