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事件
その4
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野原伸太とその妻、なな子が夜の港を船で出立し新婚旅行へと意気揚々と出かけた翌日の昼の事である。
ここは彼らが出立した名古屋港からは数十キロ離れた市内にある某ビジネスホテル。
そして今現在そのホテルの一室には一人の女性がいて部屋の隅に置かれたベッドの上にポツンと座っていた。
部屋の隅に置かれたベッドの縁に腰掛けたその女性の表情は硬く何やら思い詰めた様子であった。
実は彼女は今日、このホテルである人物と会う予定であった。
その人物は少し前に彼女を捨てた男でありかつては将来を誓い合った仲であった。
学生時代に彼と出会った彼女は小説家を目指す男の生活をずっと支え陰日向なく尽くして来たのだ。
だが、そんな彼女の努力もむなしく男との仲は破局を迎えつい先日、男は彼女と一緒に暮らしていたアパートを出て他所のマンションで一人暮らしを始めたのだ。
そして、最近の彼には彼女とは別の女の影が見え隠れしていた。
その女と彼とはどごぞのコンパで知り合ったらしくどうやらその女はかなりの資産家の娘であるらしかった。
男が今、住んでいるマンションも実はその女の身内の所有物なのだという。
男が自分と別れその資産家の娘と一緒になろうとしているのを知った彼女は最初はもちろん怒った。
彼女は怒りのあまりかしばらくの間、男に付きまといストーカーまがいの行為を何度も繰り返した。
その所有する携帯電話には際限無く連絡を入れ、またそれと同時に何百件もメールを送り付けた。
そして今は一人暮らしをしているという彼が住むマンションを幾度か訪ねしつこく復縁を迫った。
その執念深さは危うく男がノイローゼになりかけた程であった。
けれども男女の仲は一度亀裂が入るとやはり中々修復は難しく徐々にあきらめの気持ちが胸に広がっていった。
そして最近では男の事は忘れ心機一転して新たな人生を歩もうと考える様になっていたのだがそんな矢先彼女の住むマンションのポストに一通の手紙が届いたのだ。
それは彼女を捨てた件の男から送られたものでありそこにはワードで打たれた文章で彼女を捨てた事への謝罪と後悔がとつとつとつづられておりその内容は彼女との復縁を強く乞い願うものであった。
女は今更何をと男の態度に怒りを覚えた。
しかし、一方で心を強く動かされたのもまた事実であった。
女はしばらく思い悩んだ末に一度話だけでも聞いてみようと思い男が出した手紙に指定された場所へと行き彼と直接会う決心をした。
そして、本日、彼女は男と会う為に待ち合わせ場所として指定されたこのホテルにまでわざわざやって来たのであった。
女は指定された時刻よりかなり早めに到着した為、指定されたホテルの一室でしばらくの間男がやって来るのを待つ事となった。
ホテルの部屋の中で隅に置かれたベットの縁に座りまんじりともせずに男が部屋にやって来るのを待つ女。
やがてそんな彼女の耳に部屋の出入り口であるドアの外に誰かが立ちそのドアを外側からコツコツとノックする音が聞こえて来た。
「伸太さん‥‥‥」
女は座っていたベッドから跳ね起きるみたいに立ち上がると部屋のドアに向かって足早に歩きそのドアのノブに手をかけた。
そしてその洋式のドアを手前に引いて開くとそのドアの隙間から外の通路に立っている訪問者の姿を覗き見る。
するとー。
「あ、あなたーっ!!」
女が部屋の出入り口である扉へと近づきドアノブを手前に引いてその半開きになった隙間越しに扉のすぐ外に立つ訪問者の正体を確認すると彼女は大きく目を見開いて思わず悲鳴交じりの声を上げた。
すると部屋の外の通路に立つその訪問者は開けたドアの隙間から腕を差し入れると手先に持ったナイフを女の胸にグサリと突き立てた。
「ああーっ!!!」
胸にナイフを突き立てられた彼女はすぐに意識を失いその息絶えた身体は下半身を部屋の中に残したままの状態で半開きのドアから室外に飛び出すとそのまま外の廊下の通路上にバタリとうつ伏せに倒れ込んだ。
その姿は「犯人」が立つ扉の外の通路側から見るとまるで半分閉まったドアから地べたを這いずる人の身体が生えているかの様であった。
彼女を刺した「犯人」は足元に横たわる上半身が室外に飛び出した状態で息絶えたその扉に挟まっている死体を冷徹な表情で見下ろすと口元にニヤリと笑みを浮かべた。
そしてくるりと踵を返すとその場を慌てもせずゆっくりとした歩みで去ってゆく。
やがてその姿は人気の無いビジネスホテルの廊下の奥の暗がりへと溶け込む様に消えていった。
[続く]
ここは彼らが出立した名古屋港からは数十キロ離れた市内にある某ビジネスホテル。
そして今現在そのホテルの一室には一人の女性がいて部屋の隅に置かれたベッドの上にポツンと座っていた。
部屋の隅に置かれたベッドの縁に腰掛けたその女性の表情は硬く何やら思い詰めた様子であった。
実は彼女は今日、このホテルである人物と会う予定であった。
その人物は少し前に彼女を捨てた男でありかつては将来を誓い合った仲であった。
学生時代に彼と出会った彼女は小説家を目指す男の生活をずっと支え陰日向なく尽くして来たのだ。
だが、そんな彼女の努力もむなしく男との仲は破局を迎えつい先日、男は彼女と一緒に暮らしていたアパートを出て他所のマンションで一人暮らしを始めたのだ。
そして、最近の彼には彼女とは別の女の影が見え隠れしていた。
その女と彼とはどごぞのコンパで知り合ったらしくどうやらその女はかなりの資産家の娘であるらしかった。
男が今、住んでいるマンションも実はその女の身内の所有物なのだという。
男が自分と別れその資産家の娘と一緒になろうとしているのを知った彼女は最初はもちろん怒った。
彼女は怒りのあまりかしばらくの間、男に付きまといストーカーまがいの行為を何度も繰り返した。
その所有する携帯電話には際限無く連絡を入れ、またそれと同時に何百件もメールを送り付けた。
そして今は一人暮らしをしているという彼が住むマンションを幾度か訪ねしつこく復縁を迫った。
その執念深さは危うく男がノイローゼになりかけた程であった。
けれども男女の仲は一度亀裂が入るとやはり中々修復は難しく徐々にあきらめの気持ちが胸に広がっていった。
そして最近では男の事は忘れ心機一転して新たな人生を歩もうと考える様になっていたのだがそんな矢先彼女の住むマンションのポストに一通の手紙が届いたのだ。
それは彼女を捨てた件の男から送られたものでありそこにはワードで打たれた文章で彼女を捨てた事への謝罪と後悔がとつとつとつづられておりその内容は彼女との復縁を強く乞い願うものであった。
女は今更何をと男の態度に怒りを覚えた。
しかし、一方で心を強く動かされたのもまた事実であった。
女はしばらく思い悩んだ末に一度話だけでも聞いてみようと思い男が出した手紙に指定された場所へと行き彼と直接会う決心をした。
そして、本日、彼女は男と会う為に待ち合わせ場所として指定されたこのホテルにまでわざわざやって来たのであった。
女は指定された時刻よりかなり早めに到着した為、指定されたホテルの一室でしばらくの間男がやって来るのを待つ事となった。
ホテルの部屋の中で隅に置かれたベットの縁に座りまんじりともせずに男が部屋にやって来るのを待つ女。
やがてそんな彼女の耳に部屋の出入り口であるドアの外に誰かが立ちそのドアを外側からコツコツとノックする音が聞こえて来た。
「伸太さん‥‥‥」
女は座っていたベッドから跳ね起きるみたいに立ち上がると部屋のドアに向かって足早に歩きそのドアのノブに手をかけた。
そしてその洋式のドアを手前に引いて開くとそのドアの隙間から外の通路に立っている訪問者の姿を覗き見る。
するとー。
「あ、あなたーっ!!」
女が部屋の出入り口である扉へと近づきドアノブを手前に引いてその半開きになった隙間越しに扉のすぐ外に立つ訪問者の正体を確認すると彼女は大きく目を見開いて思わず悲鳴交じりの声を上げた。
すると部屋の外の通路に立つその訪問者は開けたドアの隙間から腕を差し入れると手先に持ったナイフを女の胸にグサリと突き立てた。
「ああーっ!!!」
胸にナイフを突き立てられた彼女はすぐに意識を失いその息絶えた身体は下半身を部屋の中に残したままの状態で半開きのドアから室外に飛び出すとそのまま外の廊下の通路上にバタリとうつ伏せに倒れ込んだ。
その姿は「犯人」が立つ扉の外の通路側から見るとまるで半分閉まったドアから地べたを這いずる人の身体が生えているかの様であった。
彼女を刺した「犯人」は足元に横たわる上半身が室外に飛び出した状態で息絶えたその扉に挟まっている死体を冷徹な表情で見下ろすと口元にニヤリと笑みを浮かべた。
そしてくるりと踵を返すとその場を慌てもせずゆっくりとした歩みで去ってゆく。
やがてその姿は人気の無いビジネスホテルの廊下の奥の暗がりへと溶け込む様に消えていった。
[続く]
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