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初期ダンジョン

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「みなさん、依頼を受けてくださり、ありがとうございます!少ない報酬で、、申し訳ないです。」

「いいってことさ。丁度、拠点に帰るのに方向も同じだしな。逆に片道しか護衛できないが、本当に大丈夫か?」

「はい、帰りはアカーシャ様とご一緒に村へ帰りますので大丈夫です。」

「アカーシャ様って、、もしかして幻獣殺しのアカーシャか?」

「えっ、、幻獣殺し、、ですか?」

「ああ、確か冒険者を引退してこの辺りの森で隠居してるって噂だ。銀髪で黄金の瞳を持つハイエルフじゃないか?」

「確かにアカーシャ様は銀髪でとても綺麗な金色の瞳をしていらっしゃいますね、、ハイエルフかはわからないです。。」

「そうか、、もし本人なら顔繋ぎになるだけでも儲けもんさ。なにせ、俺らの憧れのぼうけんしゃだ。」

「そうなのですね。アカーシャ様はとてもお優しい方ですよ。でも、、確か昔は冒険者をしていた事もあるって仰っていました。」

「おっ、なら本人なんじゃないか?こりゃ、気を引きして締めて無事に送り届けなくちゃな。それに癒し手がアカーシャなら、きっとおとっさんの病気もすぐよくなるさ。」


村娘のアイシャは父親の病を癒すために村の近くの森に住むアカーシャを訪ねる為に冒険者を運良く雇うことができた。

片田舎で冒険者など滅多にこない村だ。普段、アカーシャに用事がある時は村の大人達が武装し、複数名で森へ分け入る事になる。この辺りの森には強い魔物はでないが、それでも用心に越した事はない。

今回も村の自警団を頼ったが残念ながら領主からの命令で半分が徴収されていた為、村の警護を差し引いての人員確保ができなかったのだ。

そこに運良く依頼帰りで村に立ち寄った冒険者が現れたのだ。

彼らは男3人の冒険者パーティで以前にも村に立ち寄ったことがあり、人柄も良く信用できるのはわかっていた。だから、ダメもとで、、と言っても帰る方向は地方都市エルクだとわかっていたので半日一緒に歩けばよいだけだから引き受けてくれるかも?という甘い期待は持っていた。

そして、彼らは期待通り安く請け負ってくれたのだ。

「あっ、この脇道を進むともうすぐつきます。」

「へぇ、意外と近いんだな。こりゃ、、安くしたとはいえそれでも高かったかもな。」

パーティのリーダーで戦士のルークは豪快に笑いながらも辺りを警戒している。

彼は30手前のベテラン冒険者で、引退が頭をよぎる年齢でもある。誠実な性格で面倒見も良くギルドがらの信頼も厚い。

ギルドは適性有りと評価した彼のような冒険者に後任育成の仕事を斡旋している。そんな訳で、新人2人とパーティを組んで教練の最中という訳だ。

残り2人は成人したての戦士と魔道士だ。
よくある話だ。
同じ村で育った才能ある若者が成人を機に冒険者を目指す。

戦士のアルベルトは自警団の団長を父に持ち剣術の手ほどきを受けており、基本に忠実で何度か魔物討伐にも参加している。

魔道士のロッソは父親が錬金術をかじった薬師をしており、彼の所蔵する魔道書を独学で読み解き初級魔法を扱えるようになったという、俗に言う天才というやつだ。

2人とも正しく自信を持っている賢明な若者だ。奢る事なく、経験不足を補う為に自らギルドに依頼して教練を願い出たのだ。

「アルベルト!ロッソ!」

ルークは鋭く2人の名を呼び警戒を指示。その雰囲気に圧倒される形でアイシャも立ち止まる。

前衛にルーク、背後にロッソがアイシャを庇うように立ち警戒する。その後ろを守るのがアルベルトだ。

「、、、魔物、、、じゃねーな。だが、油断するなよ。」

「「はい!」」

道があるとはいえ、森は木々が生い茂り視界は決して良くはない。薮から突然何が飛び出すかんからないのだ。

微かな音も聞き逃すまいと静かに警戒する。

バキッ

枝の折れる音、、、

「アルベルト!左後方を警戒しろ!」

ルークの警告と同時に薮から勢いよく飛び出した巨大な影はアルベルトに襲い掛かると強烈な体当たりで吹き飛ばす!

「くそっ」

ルークは鋭い踏み込みで影、、森の熊フォレストベアへ向け一気に距離を詰めると鋭い突きで的確に頸動脈を切断する。

「ロッソ!お嬢ちゃんから離れるな!」

「はい!」

反撃を警戒して距離をとり、視界の隅でアルベルトを確認する。フォレストベアの強烈な一撃に防御体勢を取ったのは確認したが、、そらでも左手は折れているようだ。意識をも失っている。

致命傷だが、、動きを止めるまでの数秒、フォレストベアはその場でデタラメに動く、運悪くアルベルトの足を踏み抜く。

「ちっ」

ルークは舌打ちすると再び鋭い突きを放つ。魔物ではないが野生の動物は手強い。体毛は太く切り付けても皮膚を切り裂くのも難しいだろう。だからこその刺突だ。

身体強化魔法との併用で生み出されるその威力は容易く肉を穿ち骨を切断、更に踏み込み心臓を的確に貫く事に成功する。

さすがのフォレストベアもその一撃には絶えることができず絶命しくずれおちる。

「ロッソ!アルベルトの治療を!」

対応しきれず固まっていたロッソはその一言でアルベルトへかけるよると傷を確認し

「命に別状はありません。ただ、、複雑骨折しているので、、」

「そうか、、お嬢ちゃん、怖い思いをささてしまってすまねぇ、、が、骨を綺麗に繋ぐ必要があるから少し待ってくれ。」


「は、はい!、、、その、、アルベルトさんは大丈夫でしょうか?」

突然の事態に恐怖を隠せないアイシャを安心させるように努めて穏やかにルークは答える。

「あぁ、心配ねぇさ。ただ、少し治療は怖いかもしれねぇから、、アカーシャの家はすぐ近くかい?運んでから治療をしたいんだが、、、」

「はい、あと歩いて半刻でつきます。」

「わかった。ロッソ!添え木をしてくれ。俺がアルベルトを担ぐから周囲の警戒とお嬢ちゃんをしっかり頼むぞ。」

アルベルトをおぶっての移動だとすぐに対処できない可能性があり危険だが、、フォレストベアはこの森では頂点の捕食者だ。近くに猛獣がいるとは考えられないし、縄張りを考えると他のフォレストベアに出くわす確率は低い。

それに、、将来有望な若者がこんな事で使えなくなるのはさけたいところだ。

だが、ルークのこの決断は最悪な運命の分岐点になってしまう。

「よっと。アルベルトすまねぇな。」

アルベルトを背負ったルークは小さく謝罪する。気絶したのは、、、運が良かったかもな。でなきゃ、今頃痛みで、、、

シュッ!

風を切る音が聴こえた。その瞬間、右足に激痛が走る。見ると粗悪な矢が深々と膝を貫通していた。

ヤバイ!

激痛を無視して周囲を警戒しようとするがバランスを崩してアルベルトと共に倒れ込む。
それと同時に周囲から大量のゴブリンが飛び出してくる。

「くっ、、ルーク!お嬢ちゃんを連れて逃げろ!!」

何とか体勢を整えてルークのいた方を見ると2人にゴブリンが飛び掛かかり既に地面に抑えつけている。

最悪だ、なんたる失態だろう?

「くそ!今助け、、」

ゴンっ!直後、強烈な衝撃を後頭部に受け、、


ロッソは必死に抗いながら頼りのルークに向けて無数の刃が繰り返し突き立てられるのを見てしまった。

あぁ、、終わりだ。

絶望と共に強い衝撃を受け意識はそこで途絶えてしまった。


アイシャはこの世のものとは思えない悲鳴とおぞましい存在の笑い声の中で目を覚ました。

薄暗い洞窟、眼前で繰り広げられるのは拷問の為の拷問。ただ、命を弄び、苦痛と絶望を煮詰めたようなその光景。何が起きているのか理解する前に身体が嘔吐し、、、失禁してしまった事さえ気付かなかった。

絶え間ない悲鳴と、、咀嚼音。
闇の住人たるゴブリンの笑い声。

血と臓物の蒸せ返るような濃い匂いが、、これが悪夢ではない事を物語っている。

嫌だ

嫌だ

嫌だよぉ

やだ

助けて

誰か

父さん

アカーシャ様

誰でもいい

助けて

あんな、、

あんなのは嫌!!!


心の叫びは誰にも聴こえないし届かない。
目を閉じても、聞きたくもないおぞましい音が襲ってくる。
都合よく誰かが助けてくれる、そんな、、希望は持つなと目の前の地獄が嘲笑うのだ。

だが、、善なる神はアイシャを見捨てなかった。

「アイシャ!」

••••ダレ?

洞窟に踏み込んできたその人物は惨状を確認すると素早く魔法を発動する。

「光の奔流よ魔を払え!光爆撃!ライトインフェルノ

掲げた手から強力な光の球が出現すると同時に部屋全体に光が溢れ、、、清浄なそのエネルギーに当てられたゴブリン達は崩れるように弾け飛ぶ。

次の瞬間には再び闇が支配するが、そこに既にゴブリンはいない。

「なんて、、こと、、、。」

夜目が効くのかその人物は洞窟を見回し惨劇を確認する。

「そこにいるのは、、アイシャ?」

自分の名を呼ばれ、、状況に追いつけないアイシャは次は自分の番なのかと恐怖さる。

「あぁ、、ごめんなさい。アイシャ、もう大丈夫よ。」

アイシャの手足を拘束する縄を解くと、その声の持ち主は優しく抱きしめる。

「とても、、とても怖かったわね。もう大丈夫。」

優しい温もりに誘われるように瞼を開ける。
そこには悠久の時を生きる半妖精、美しい銀髪と神々しさを讃える黄金の瞳を持つハイエルフ。

「アカ、、、アカーシャさま。わたし、、あぁ、、あああ」

アカーシャの慈愛に満ちた瞳を見た瞬間、助かったのだと、、あの地獄から救われてのだと、、小さな赤子が母親に縋るように泣き続けた。
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