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この世界は奴隷制度が普通に存在する。
敗戦国の兵士や市民は勿論、少数部族に魔族だ。
ただ、魔族に関しては、人族への殺意が凄まじく何より強力にすぎる為、かなり限定された種族が対象になる。

彼らは神代の折り、善神の眷属を縦横無尽に狩まくった最も恐れられた魔族である。
普通の魔族は、憎悪を体現したような獰猛な見た目をしている者がほとんどだ。対して尖兵は天使もかくやという程に美しく優雅な殺戮者であった。

黄金を思わせる美しい瞳。
10代中頃の子どもから大人へ至る命の輝く肢体は無垢と円熟を併せ持つような不思議な魅力を讃えていた。
光の眷属のように美しく優雅な銀翼を腰から左右に3本、計6つ生やしている。
見た目は最も愛された神の眷属【天使】そのもの、その上位種を連想するだろう。

驚異的な身体能力を有し、高い魔法適正と膨大な魔力を操るのだが、その扱う魔法は残忍極まる。

肉体を過剰暴走させ生きたまま醜く歪ませる。或いは肉体のみ操り自らの手で親兄弟、恋人、或いは物言わぬ赤子をくびり殺させる、、など、好んで尊厳を踏み躙り精神を殺す事に執着したような邪法を扱うと伝わっている。

他にも残酷な伝承には事欠かず善神の眷属からその残虐性で最も恐れられ忌み嫌われている。

まぁ、つめるところ悪目立ちしまくっていた。
善神は自ら生み出した眷属を愛でている。その愛しい子らの魂を弄ぶ彼らを嫌悪し真底憎んだのだろう。

命を育み育てる事を喜びとした大地の神が自ら討伐に乗り出した。
神々が争った神代戦争でも、それは異例の事だった。
神々は眷属を使い殺し合ったが、自らが率先して動いた記録は、実はほとんどない。

それだけに、この異例の対応になった銀翼の魔族の運命は決まったも同然だった。呪いにより翼をもがれ地に叩き落とされる。驚異的な身体能力、魔力は常に大地に吸収され、緑豊かな大地を支える生ける肥料となる神々の呪詛をその身に受けた。

残忍な遊びが好きだった彼等を、それ故に他者の命を育む歯車の一つとなる事を強要する呪いは実に皮肉的な罰だと言えるだろう。

かつて防ぐ事が出来ない程に強力だった魔法は何一つ発現出来ない。素手で臓物を引き摺り出し四肢を引き裂いた強力な力は自らを支えるだけでも精一杯な程弱く、常に大地に力を奪われ虐げられる者として最弱の魔族に成り果てていた。

千数百年の時の流れの中で、多くの同胞は死に絶え、生き残っている数少ない個体も、かつて空を我が物顔で飛び回り、死を振り撒いた誇りを失って久しい。

虫ケラだと思っていた人間からさえ逃げねばならなかった。逃げるだけで精一杯だった彼女は救いを与えない主神を恨みもした。

彼女の一族は今どこにどれ程生き残っているだろうか?
貧相に薄汚れた姿はとても神に近しい力を持つ眷属には、、見えないだろう。

いつしか、彼女は死なない奴隷として人間達に重宝された。過酷な労働を強いられ、見世物小屋に売られたこともある。

彼女は同胞の中でも取り分け血が濃く神々の呪いでも死ぬ事がない不死身の存在だった。どんなに殴り傷付けようとも、、傷は癒えてしまう。
記憶の中にある一番きつかったのは毒物や呪い、魔法の実験体としてあらゆる苦痛を受けた時だろう。

善神が最後に作った人族は、彼女から見てさえ残虐で悪神の眷属ではないのかと何度疑った事だろう?

数百年続く奴隷としての生をはんば受け入れていた。
そして、今も彼女は奴隷オークションの会場で自らの順番を待っていた。

「皆様!お待たせいたしました!本日の目玉商品、、かつて神代の戦争で我々を恐怖のどん底に落とした銀翼の魔人はご存知ですね?」

会場からどよめきが聞こえる。

「魔族がでるのか?」
「銀翼の魔人?!」
「不死の罪人がでるのか?」

「お静まり下さい。もがれた翼を見れないのが残念でなりません。しかし、善なる神が自ら罰したこの罪人は何があろうと死にません!永遠に使える奴隷として考えればいくら出しても元がとれること間違いなしす!では、、ご紹介しましょう!」

その言葉が合図だった。繋がれた鎖で強引に引きずられるように晒される。

「・・あれが?痩せっこけた汚らしい子供じゃないのか?」
「ははは、なんだあれは?子犬のようにガタガタと震えているじゃないか。あれがかつての魔族なのか?」

嘲笑の言葉。
それもそうだろう。
かつて天使と間違われた美しい容姿はそこにはなかった。
悠久の時の中で虐げられ続け、常に呪いを受け続けた為に、かつのての絶対強者は、、やせ細り骸骨に辛うじて皮膚がはりついているのかと疑いたくなるほどに貧弱な姿をしていた。
髪や皮膚は汚れのせいだろうか?灰かぶりのようだし、体中に生傷が残り、今にも蛆がはい出てきそうな、、一言でいって不潔でスラムにいる餓死寸前の子供の方がよほどなくらいだ。

魔族であることに違いはないが、、会場中から落胆の声が響く。

予想していたとはいえ、、客寄せの為の宣伝用としては役に立っているのだが、買い手のつかないのはいつものことだ。まぁ、もう充分に設けてもいるし今回も売れないだろう。
司会の男にとって慣れた空気だし、今更気にしてはいない。

「では紳士淑女の皆様。この貴重な魔人であり始原の魔族とも言われる銀翼は、、金貨500枚からです!」

誰がそんな小汚いものに金貨500枚も出すのか?
そんな空気がありありと伝わってくる。

「さぁさぁ、皆様!悪神の眷属です!かつて死を運ぶ天使と揶揄された貴重な商品ですよ?!この機会を逃せば、、、もう二度と手に入らないかもしれない。」

司会はもったいぶって、、会場を見渡す。
普段ならここで誰一人入札などせず、、続いて本当の目玉商品のエルフへと繋がるのだが、、、もうこれ以上引っ張ってもしょうがないだろう。

「皆様大丈夫ですか?こんな機会は本当にもう二度とないかもしれませんよ?・・・非常に残ね」

まさか?自分でも信じられなかったが、なんと、、600ゴールドのコールがかかる。
余りにも予想していなかった為に言葉に詰まったが、そこはプロだ。コールされた以上は応じねばならぬ。

「ありがとうございます!素晴らしいですね!600ゴールド!皆様いかがですか?こんな貴重な奴隷はほかにおりませんぞ?!」

「650ゴールドはいませんか?」

「650で競り勝てるかもしれません!参加するならいまですぞ!?」

会場から呆れた苦笑が聞こえてくる。さすがに、、、こんなゴミに650もだす変人はいないだろう。
600ゴールドといえば、平民がその生涯で稼ぐ全財産より多いかもしれない。貨幣経済に組み込まれた商人でそれだけの金を簡単にだせるような人物はそうそういないだろう。ある程度の地位にある貴族なら気の迷いでだすかもしれないが、、。

もったいぶって会場を見渡す、、が、はやくしろという雰囲気以外感じ取れない。

「おめでとうございます!600ゴールドで成立致しました!」



ーー引き渡し場。

「確かに600ゴールドお預かりいたします。」

「うむ、手早くすませてくれ。」

「承知いたしました。おい!」

係が合図すると、鎖に繋がれたその魔族は引きずられるように、、いや文字通り引きずられながら移動させられる。
奴隷と主人の主従関係を示す若しくは縛るような魔法は存在しない。その為、どれにには固有の刺青が施されている。魔力を込めた墨でれられた刺青に反応する羊皮紙がペアで存在するのだが、その羊皮紙に所有者は魔力の込められた墨でサインを行う。
これにより、このサインの主が奴隷の主人として公的に証明されるのだ。羊皮紙を破る事で奴隷契約は破棄されるのだが、その工程をへなければ新たな奴隷紋を入れる事ができないのだ。
主人への忠誠を強制させるといった縛る機能はないが、奴隷紋を刻まれると精神のありようが奴隷のそれとして誘導される効果があるので、長く奴隷でいるものほど、より奴隷在り様になる。

「では、旦那様。こちらにサインをお願い致します。」

言葉は丁寧だが、嫌らしい表情が染みついた事務方が指示すると、購入者はスラスラとサインする。

「グレン様でいらっしゃいますね。確かに。それではこちらはそのままお納めください。今この瞬間よりあなた様が正式が所有者でございます。また当商館をご贔屓ください。」

グレンは指示された通り、魔族の奴隷を購入する事ができてホッとしていた。
我らが主様は、なぜこのような薄汚れた魔族を欲したのかはわからない。ただ、非常に重要な買い物との事で、金に糸目は付けぬよう強く支持されていた。

「お前の主人になったグレンだ。ついてこい。」

そういうと、歩く事も覚束ない奴隷を伴って夜の街へ消えてしまった。


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