加護なし転生

ボロン

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episode 1 逃避

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おそらく世界で最も恵まれた国だったろう。そんな国で生まれた僕は、ごく普通の人生を送り、死んでいくと漠然と考えていた。普通の家庭、大学、それなりの就職、結婚、そして孫に囲まれた最期。

だが、誰もが「普通」と呼ぶ人生は、実は途方もなくレアな幸運の上に成り立っていると気付く。もちろん、そんな幸運には恵まれなかった。「人に歴史あり」とはよく言ったものだ。

八十歳くらいまで生きるのだろうと思っていた僕の人生は、二十八歳という若さで潰えた。何かを残せた訳でもなく、成したわけでもない。ほどほどの幸運と不運に浮き沈んだまま、終わってしまった。

僕は死んだ。



今、目の前には三つの枝分かれした光の道がある。「そういうもんだ」とすんなり受け入れてしまっているが、これは来世への別れ道。

どの道を選んだらどうなるのか、なんてわからない。強いていうなら、本音は選びたくない、そう感じていた。あれだけ平和な国でさえ、僕はそれなりに疲れてしまっていたし、次はもっと過酷な環境下かもしれない。生きることは魂の修行なんて考え方を聞いたことがある。まさに、そうなんだろう。ああ、憂鬱だ。

でも、、、、、

意を決し、僕は振り返った。そこには何もなかった。暗闇なのか、影さえない強烈な光なのかもわからない、空虚な空間。三つの道ではない「何か」がそこにあるのかもしれない。ふと、そんな考えがよぎる。

僕は目の前の選択から逃げるように一歩踏み出した。

その瞬間、崩れ落ちるような……いや、自分を構成する全てが流砂となって流れ散らばり、世界に溶け込むように消滅した。

ああ、終わった。

——————————————————

息を忘れていた。思い出したように、必死に空気を肺に送り込む。

「げほっ!はぁ、はぁ……」

激しい動悸が胸を打つ。

暗闇が少しずつ晴れるように視界が開けていく。

何度目かの深呼吸でようやく落ち着いた僕は、自らの身体を確かめるように腕を見た。

「……ここは?」

確かに死んだはずだ。あの別れ道を前に、僕は逃げ出した。そして、全てを失くした。

なのになぜ肉体があるんだ?荒い息を落ち着かせながら、掌を食い入るように見る。栄養不足なのか歳の割に荒れていたはずの手が、十代のような水々しさを感じる、滑らかな肌になっている。

若返ってる?というか、死んでないってのはどういう事なんだ?

そして、この服だ。文明というより、中世を思わせる、質もデザインもない粗末な白い布。クッション性皆無な、動物の皮を加工したらしい靴。

それに、この場所はなんだ?生い茂る草木で道なんてない。原生林ってこんな感じなのか?完全に森の中だ。普通に死ぬだろう。野生動物に会ったら、たぶん僕は餌だ。

突然の状況に理解が追いつかないが、追いつかないなりに**やばい状況**だとわかる。

それに、空に浮かぶ月には輪がある。これ、月?いや、月ってそんなことあるのか?

ここはどこなんだ?地球なのか?だとしたら、前世からどれくらい時間が流れているんだ?そもそも、死んだはずなのに。仮に生まれ変わったなら、赤ちゃんからだろ?

まさか……いや、でも……これって……

「異世界……転生?」




—————————————————
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