強者狩り(cheat killer)

ハジメ ツカサ

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強者達

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…この世界は今、平和である。
太古の昔は魔王の支配によってモンスターによく襲われていたが、勇者と呼ばれる人が倒してくれたお陰でモンスターが現れなくなった。
ここまでは普通のファンタジーの流れである。
しかし、当時の魔王は絶大な力を誇っており、その力は他の次元にまで影響を与えていた。
そして神々はこれを危惧し別次元から多くの戦士達を召喚した。"チート級"能力を与えて…


それから約5年後…
大陸の端にある国、ホロイス。
「これで…良し。」
薄暗い部屋の中で怪我をしたカーバンクルに包帯を巻く青年。
「待たせたね。」
「ありがとう!お兄さんっ!」
少年の明るい声に彼は頬を緩める。
「3日ほど安静にしたら治るからね。」
少年は大きく頷き彼の家から出る。
「ふぅ今日はこのくらいか…」
黒髪を掻きながら呟きドアのに吊り下げられた"open "の看板をひっくり返し"close "
にする。
彼の名はエルヴァー・シーズン
街で小さな便利屋を営んでいる。
エルヴァーの名は街でよく知られており
皆からよく"エル"と呼ばれている。
「お腹空いたな…」
そう言ってキッチンへ行こうとすると
ドアをノックする音が聞こえた。
エルは不審に思いゆっくりと開けると、そこに金髪の少女がいた。
「えっと今はもうやってないよ。」
優しく少女に向かって笑う。
しかし少女はエルをキッと睨み、
季節外れの狩人アウトハンターもこんなボロい家で媚びを売っているとは。落ちぶれたものね。」
「⁇」
エルは一瞬動きが止まる。
季節外れの狩人アウトハンターそれは彼が冒険者としてギルドに勤めていた時の異名である。チートが主流となっていた5年前彼だけ能力スキルを持たないまま数多のモンスターを肉塊へと変えた事からこの名が付いた。
しかしーー彼女は見た目からして9才ほどである。そんな娘が何故、自分の黄金期の事を…
「確かに分からなくても仕方ないわね。」
そう言って少女はため息を吐く。
「私はテレシア。世界の秩序を保つ妖精。」
「…妖精が何の為に僕のところに?」
するとテレシアはまたため息を吐いた。
「貴方の事はもう全部知っているの。本性出した方が楽よ。」
「本性?何の事かな?」
そう言って彼は少女の首にナイフを突きつける。
「あまり僕の事を聞かないでほしいけど、
一体何の様で来たの?」
彼はにこりと微笑むが目には光がなかった。
テレシアは顔を強張らせか細い声で言う。
「私は世界の秩序を保つ為の存在。
最近増加して来たチート能力スキル持ち…いわゆる与えられた者チーターを貴方に殺して貰おうとしたの。」
「へぇ…」
彼女は震えながらエルの顔を見る。
どうやら嘘は憑いてないようだ。
「どうしてチーターが増えるとダメなんだ?」
テレシアは一度深呼吸して言った。
「この世界にはもう魔王がいないのは知っているよね。その後人々は何もなかったかのように生きていた。」
「それがどうした?」
「その後が問題なの。魔王がいないこの世界で最強の能力を誇る元冒険者が次にする事といえば………」
か…」
エルは低い声言った。
「そう。そしてここ最近幾つかの国でクーデターが起き、新たな国までできた。」
「成程、つまり元冒険者達がこの星をも壊しかねない戦争を起こすって事ね。」
エルはぶっきらぼうに言う。そして彼は手頃な椅子に座り
「でも、僕は君の依頼を承諾できない。」
と笑いながら言った。
「…ッ!どうして⁉︎」
「だって怨みとか無いし、そもそも一般人の僕には関係ない話だよ。」
「あなた、この星がどうなってもいいの⁉︎」
「僕には関係ないって言ったろ。星が無くなるって言われても逃げる事なんて出来ないでしょ?。何ならこの世界は"異世界転生"っていう考え方があるみたいだし。」
「だからって…」
そう言いかけるテレシアを止める様にエルは人差し指を立てた。
「さっきから世界だとか星の事とか言ってるけど本音は違うんでしょ?」
笑顔は変わってないがさっきよりずっと殺気があった。
言葉がつまり立ち尽くしているテレシア。
「図星かな?」
エルは追い打ちをかけるかの如くテレシアの目の前の床にナイフを投げつける。
テレシアは足から崩れ落ちた。
「…全員殺されたの…。」
テレシアがか細い声で言う。
「私の友達を、家族を、皆悉くチーターに殺された…」
涙が一筋、テレシアの頬を伝う。
次々と涙が溢れていく。
「…もう私しかいないの。このままじゃ秩序を、全ての理を保てなくなる…
だから…お願い。」
テレシアは地に伏せエルに懇願した。
彼女の言葉には嘘がないようだった。
しかし、それ以上にエルは驚いていた。
冒険者が秩序を超えようとしている。それは神に抗おうとしているに近しい事であり、無謀な事であった。仮にこのテレシアが本当に秩序の妖精だとして話した事が事実なら………
与えられた者チーターは、いや人々は神を超える存在になる。
エルはひとしきり考えた後、テレシアにこう言った。
「人は人を滅ぼす。
どっかの本に書いてあったものだ。今、その人間がやってる事はいずれ人間としての我を失くす行為だと知らない。」
テレシアが顔を上げるのを察知し更に言葉を続ける。
「だから、君はその"いずれ"が来る時を早めようとしている。」
エルはテレシアを見つめる。テレシアもエルの方を見ている。
「つまり僕がやるのはただの同士討ちってことだ。」
不気味に嗤いクローゼットから黒い棒の様モノを取り出す。
「僕の名前はエルヴァー・シーズン
季節外れの狩人アウトハンター…ただの変なだ。」
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